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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


花見に行きましょう 2007

 3月末、ポカポカ陽気の洗濯日和。が、様々な温度の変化で、桜前線は4月あたりかそれより早くか分からない。
 あやかし荘管理人因幡恵美は、洗濯物を干している。嬉璃はぬくぬく縁側でひなたぼっこ。
 いつの間にか居る猫の草間焔。
 そろそろ本当の春も近い。
 あやかし荘にある桜が、桜前線の予想より早くか遅くか分からないが、少しずつ綺麗な花を咲かせている。
「そろそろあの時期ぢゃな」
「ええ、そうね、嬉璃ちゃん」
 ふたりはにっこりと微笑む。
「花見をするべく皆を呼ぼうぢゃないか」
「はい、場所は大所帯を考えて近くの桜並木公園が良いでしょう」
「うむ。今から楽しみぢゃ」
 桜は数日もすれば満開になるだろう。心躍る良い天気である。



〈あやかし荘では〉
 嬉璃と因幡恵美は、この春の暖かさと、急に吹く風を心配している。
「満開の時風がきつくなければいいけど……。」
「早く散ってしまうのは、つまらないからのう。」
 縁側で寝ころんでいる草間焔が、耳を動かし、顔だけ起こす。
「にゃあ。」
「なんぢゃ?」
「にゃぁ。にゃあ。」
 焔は、玄関先まで走っていく。
「……あ、焔ちゃん?」
 恵美は焔がどこに行くか気になった。
 猫が向かう先は、正門前。そこで、ころりと転がる。その手前には、桜色の春コートにスカート、革の靴を履いている、銀髪ポニーテールの少女が立っていた。
「……猫……どうしたの?」
「にゃあ。」
 と、少女に答えるかのように、泣く焔。
「お帰りなさい、ミリーシャさん。」
「……ただいま。この……猫……?」
「お帰りなさいと言っているのですよ。」
「そう……。」
 ミリーシャと呼ばれた少女は、猫を抱きかかえる。焔は嫌がることもなく、彼女の腕に収まった。
「かわいい……。」
 ミリーシャ・ゾルレグスキーは無口だ。彼女は近くの空き地を借りて開催しているサーカス団の一員である。キャンプカーに住むことはなく、近くのアパートを借りて生活するスタイルのようだ。立地条件が良いあやかし荘を選んだと思われる。さすがにショウの服装でうろつくことはない。
「桜…いっぱい、咲くかな?」
 ふと、ミリーシャは桜の木を見上げ、呟く。
「咲きますよ。いつもあやかし荘ではお花見大会をします。そうだ、ミリーシャさん、ご一緒しません?」
 恵美が微笑みながらミリーシャに言った。
「私……?」
 彼女が恵美の誘いを断ることはない。家主の言うことは先ず絶対と言うことではないが、同僚がお祭り好きと言うことを知っている。
「できれば……仲間、……呼びたい。」
「ええ、沢山居た方が楽しいです。」
 ミリーシャの返答に快く答える恵美に、相変わらず無表情のミリーシャだった。

 その後数分後に、また同じ山道から女性が歩いてきた。
「あら、恵美様、こんにちは。」
「はい、デルフェスさん、今日は。」
 欧州特有の少女を連想させる、美しい女性である。鹿沼デルフェスだ。
「こんにちは、ですわ。恵美様、嬉璃様……えっと。」
「はい、こんにちは。こちらは、ミリーシャさん。」
 恵美が、デルフェスにミリーシャを紹介する。
「……よろしく。」
「はじめまして。デルフェスと申しますわ。」
 握手を交わした。

 管理人室の居間には、玄関先に居た4人と1匹と、エヴァが混じって雑談する。恵美は奥の台所でお茶を沸かしているようだ。
「お待たせしました。お茶と羊羹をどうぞ。」
 恵美が台所から戻ってくる。
 花見を催すので、一緒に参加しないかと改めていうと、
「カスミ様達もおよびしたいですわ♪」
 と、目をキラキラさせてデルフェスは答えた。瞳の奥にはなにやら不届きなる策謀があるらしい感情が渦巻いている様に思えた。
「何か企んでそう。」
 と、エヴァが言うと、
「そ、そんなこと有りませんわ! 皆で楽しむのが、は、花見という物ですわ……!」
 と、若干おたおたして答える、デルフェスであった。


〈前日のあやかし荘〉
「さーて! わたくしは、お泊まり致しますわ!」
 と、鼻息荒い、鹿沼デルフェス。ネグリジェ姿で体をくねらせている。
「楽しそうだね。」
 エヴァは笑いながら聞いた。彼女は可愛いパジャマで布団に潜り込んでいた。
「もちろんですわ! こうして、エヴァ様と一緒にお花見ができて、そして一緒に布団の中で……。」
|Д゚) ゴーレムが鼻血
「きゃああ! 恥ずかしい!」
 と、半分壊れ気味のゴーレムに、苦笑混じりのエヴァが居ました。
「や、疚しいことなんて、皆無ですわ!」
|Д゚) ダウト
|Д゚) 入浴ちゅう、エヴァを嫌らしい目、見ていた
 小麦色は、その後デルフェスの怒りのビンタで星になる。
「ほーほっほっほ! そんなことしていませんわ! 本当ですわ!」
「顔引きつってるよ、デルフェス。」
「はう!」


〈集合〉
 幸い当日は晴れて、風もそれほどきつくなかった。もっとも、この霊山に影響及ぼすほどの風が来るのか不明だが。あやかし荘に通じる山道と一般道がつながる場所に、大仰な檻のトラック二台が止まっていた。柴樹・紗枝とアレーヌ・ルシフェルがその周りで立っている。サーカスの衣装ではなく、普段来ても違和感のない春を感じさせるジャケットにパンツルックである。
「ミリーが私たちを誘うなんて、珍しいわね。」
「ですわねぇ。無口であまり人と関わりないのに。」
 同僚の2人はミリーシャの誘いに驚いた。
 電話越しで、嬉璃から「柴樹は動物使いぢゃろ? なら、敷地内で猛獣ショーでもしてくれないか」とかも言われ、今の檻付きトラックがあるわけである。
「中の2人、出たがっているね?」
 折から猛獣の咆吼が聞こえる。
 白虎・轟牙というホワイトタイガーと、百獣・レオンというライオンが入っている。柴樹が「出かける」と聞いたので、わくわくしているのだ。あと、獣の本能で、このあやかし荘の立つ霊山に何かを感じるらしい。
「はいはい、落ち着いて。」
「がるるるる(檻から出たいー)」
 そう言うやりとりをしていると、あやかし荘の道から、ミリーシャがやってきた。
「……おはよう……。」
「おはよう! お招きありがとね!」
 同僚とのやりとり。
 そして、続々参加者がやってくるのだが、まずはこの大仰なトラックに驚いてしまう。無理はない。
「な? 何が居るんだ? トラ?」
「ライオンもいる!」
「移動動物園? それなら、ウサギや山羊やら、フェレットじゃないのか?」
 蓮也と狂華、天空剣門下生数名は目を丸くしている。狂華は檻に近づいて、まじまじと見ている。零も此処まで間近に純粋な動物を視ていないので、驚きを隠していない。
「面白い参加者ね。居間まで小動物は居たけど、此処まで大きな動物はいなかったわ。」
 シュラインも驚いていた。
「いや、しかしどうする? 噛み付かないか? 大事になるぞ?」
 草間は安全性に不安を覚えた。
 柴樹は胸を張って、
「安全、この子達は、しっかりしつけているから!」
 と、自信満々に答えた。
 猛獣使いの言うことであるが……。イレギュラーは居る。イレギュラーの代表は言わずともお察しだろうが。
「大丈夫、噛み付かないから撫でて良いよ。」
「ほんと?!」
 お、檻越しだが、狂華は白虎を撫でる。白虎は猫特有の“喉撫で声”で鳴いた。
「かわいいなぁ。」
 影斬は渋い顔をしているのだが、撫子が笑って。
「大丈夫とおもいますから、義明くん。」
「む、いや、別にあやかし荘にはいるのは良いのだけど。このままだと、別の意味で人だかりができる。はやく彼らをあやかし荘に入れよう。」
「あ、そうだ! 野次馬来たら大変だものね!」
「新聞のネタになったら大変だ。」
 2頭の猛獣をトラックから降ろすと、その2頭は行儀良く“お座り”してから、柴樹の指示通りに山道を歩くのであった。非常によく訓練されている。
 しかし、白虎がいきなり止まる。
「どうしたの?」
 柴樹が不安そうになる。白虎が苦しんでいるのだ。
「うががが……。っぺ(何か喉に!)」
 と、吠えると、なかから小麦色の丸い毛玉が転がり落ちた。その物体は、不気味に動き出し、手足が生え、しっぽが飛び出てある形の生物になる。
|Д゚) うはよー
 かわうそ?だった。
「また妙な出方して! 初めての人が驚くじゃないか!」
 蓮也と狂華が小麦色を小突いた。
|Д゚) 気分
|Д゚) いよー、かわうそ? の かわうそ? なのだ
「気分でもしゃれにならない!」
 蓮也の脳天チョップ。
|Д゚) 痛い
 気を取り直し、お互い挨拶と世間話をしながら、目的地に向かって行った。 小柄の狂華は、白虎に乗せられて進んでいた。

 少し遅れて、榊船亜真知と黒榊魅月姫がやってくる。もちろんトラックがあるので首をかしげる。
「何か居るのでしょうか?」
「かなり大きな動物みたいね。」
 と、先を進む。
 少し楽しそうなことが起こりそうで、でわくわくする。
 反対方向からは響カスミがやってきた。
「これはおはようございます。先生。」
 亜真知は深々とお辞儀をして、挨拶をする。
「はい、おはよう。榊船さん。そちらは?」
「黒榊魅月姫です。従妹になります。」
「はじめまして。」
「はい、初めまして。」
 顔見知りであるので、雑談をしながら、あやかし荘に向かった先で、猛獣がまったり寝そべっているところを、亜真知達が驚く事に無理はなく、カスミは気絶してしまうハプニングが起こったのは言うまでもない。
柴樹「さすがに無理があったのかなぁ?」
|Д゚) さぁ?

 田中裕介と星月麗花が歩いて来た。
「気持ちが良い日ですね。私はまた麗花さんと一緒に花見ができることが嬉しいです。」
 裕介は微笑みながら麗花に言う。
「べ、べつにわ、わたしは暇じゃないんですけど! えっと、猊下が珍しくまじめにお仕事してくれたおかげで、私、休暇が取れて、だから、あやかし荘のお花見はいつもの事だから、行くだけです! 田中さん、其れをお忘れ無く!」
 と、何に緊張しているのか、どもりながら麗花は食ってかかっていた。
 フンとそっぽを向く麗花の耳は赤くなっていた。
 その照れ具合が裕介にはたまらないらしい。
 当然、麗花も裕介も、目の前のトラックを不思議に思いながら、あやかし荘に進んで、あとはご想像の通りのパニックになるわけである。
嬉璃「サプライズ、楽しいぢゃろ?」
裕介「心臓に悪いですよ。」


 デルフェスと樟葉、翁(鎌の状態)はすでにあやかし荘にいたので、こういった被害はなかった。
 ミリーシャから
「レオン……と……白虎……。あ、ライオン……とトラの……名前。彼ら……くる」と聞かされていたのだ。
「何か楽しい、お花見になりそうですねわ。」
「大問題が怒る前触れじゃない?」
 そうそう驚くこともない。
 現れた猛獣に、興味が湧くぐらいだった。
 樟葉煮だけ聞こえる声で、翁は囁く。
「では、儂は静香と……。」
「はい、ごゆっくり♪」
 と、翁はどこかに去っていった。
 もちろん翁の存在に気づいているのは、樟葉以外誰もいない。


〈開始〉
 ある程度、そろったところで、綺麗になっている桜林にたどり着いた。かなり広くてゆったりできる。既に、レジャーシートも敷いてあり、その場で三下と、歌姫が座って、皿などを確認していた。
「おお、未開の地のオアシスって感じで良いかも!」
 と、誰かが言う。
「遭難するとか無いことが幸いだ。」
 草間が苦笑した。
「じつは三下さんが一度遭難を……。」
 恵美が、隅っこの方で苦笑している三下に目を向けた。
「さすが三下さんだ。」
 若い衆が頷く。
「もう、三下ってトコトンついてないですわねぇ!」
 アレーヌが呆れていた。
 さて、小麦色はカメラを手に取る。
|Д゚) はい、試し撮り。ちーず
「ちーず!」
 と、ノリノリな人は乗って写真に納められていた。

「さて、お弁当拡げて準備しましょう!」
 恵美が一声あげると、おー! と喝采が上がり準備が始まった。
 撫子と狂華、恵美は一度あやかし荘の台所に戻って仕上げに取りかかるという。シュラインとデルフェス達はてきぱきとパックを皆がとりやすいように並べていった。
 こういうときに力がある男衆と猛獣は役に立つ。重たい備品などを軽々持つのは影斬と蓮也にビール瓶などを箱にいれてから、台車につなげたレオンと白虎に引っ張らせる。
「がう?(俺たち雑用?)」
|Д゚) ふふふ。(パシャ)
「がるる(なあ、白虎、このカワウソ美味かった?)」
「ぐる……。(不味い)」
|Д゚) がくがくぶるぶる
「がう(なら、口から出て来るな)。」
 撫子と狂華は台所で料理の仕上げをしているとき、
「茜姉(あかねえ)、遅いね?」
「待っているのでしょうね。皇騎ちゃんを。」
「あ、そうか♪」
 狂華も撫子に懐いていた。
「おーい、向こうはだいぶそろったぞ〜? 撫子さんお願いします。」
 蓮也が声をかけた。
「はい、わかりました。行きます。荷物がなければ運ぶのを手伝って頂けませんか?」
「私もしよう。」
 そして、重箱に入った豪華な撫子の重箱が持ち込まれたときには、全員から喝采が上がった。

 誰かが走ってくる。2人分の足音。
「遅れてしまいました! 済みません!」
 宮小路・皇騎だ。その後ろから長谷茜も来る。
「もう、何してたの! 待ち合わせから1時間遅れるなんて!」
「えっと、捲くのに手間取りまして! 済みません!」
 と、喧嘩しながら走ってきている。
「また仕事さぼってるのか……。」
 草間は苦笑していた。
「さて、これでそろいましたね。では、コップに飲み物を注いでください〜。」
 恵美が全員に言う。
|Д゚) 未成年、のんじゃだめ
「お前が飲ませるだろう。」
 と、顔見知りが全員これに突っ込んだ。
|Д゚) かわうそ? そんなことしないもん
 目を潤ませて、言うが……説得力がない。
 全員のコップに飲み物が注がれる。
「では、お花見を始めます! 乾杯!」
「かんぱ〜い!」


〈珍事の前の説明〉
 幸い風は強くなく(あっても蓮也の“傘”が何とかするので問題なく)、暖かい日差しの中での花見。シュラインや撫子、茜、そして蓮也の弁当が並べられており、飲み物も様々にある。日本酒の類が多いのは、持ってくる人間の性格や背景からと思われる。シュラインも草間も酒全般好きのようす(草間は個人的にはウィスキーが良いらしいが、風情という物を大事にしている感がある)だ。もちろん撫子、影斬は日本酒党なのだ。桜の木の下でワインなども良いが(デルフェスが持ってきた)、何となく、日本酒が情緒有って良いだろうと、思う人も多いかもしれない。其れとは話は変わるが、かわうそ?に酒瓶を待たせないようにしっかり固めている。しかし、流石にアレに目を光らせるほど気を張れるわけはなく、結局小麦色の手によって、酔わされ、飛んでもないことになるだろう。あと、ミリーシャが人の3倍は食べたかもしれない。残ることは先ず無いだろう。
 シュラインの作った弁当は、小降りの色々なおにぎりだ。具が、雑魚と紫蘇、青菜など入っている、健康によさそうだ。王道の白ご飯のみもあり、其れを海苔で来るんで食べるわけである。色鮮やかに、卵焼きにブロッコリーなどを添えている。デザートは桜の花びらを塩漬けにしたチーズスフレらしく、これは一寸、能力者に頼み、冷蔵してもらっている。コーヒーとジュースも彼女が持ってきている。
 撫子の弁当はもう豪勢かつ大量なので、色々入っている。一般の門下生が数名いるので、参加者数は、30名以上なのだ。弁当屋に頼んだ方が良いほどの量なので、前日までに仕込んでいた。もちろんそこで蓮也達道場の常連が手伝っているわけである。茜と蓮也の協力がなければ此処までできない。 対大所帯のデザートは亜真知担当だ。和洋折衷にあり、後々楽しみである。

|Д゚) つーか、まあ……
|Д゚) 団子より花!
|Д゚) おにゃーのこよん!

 そこの小麦色が、騒がしいので、説明しよう(かわうそ?「なんと!」)。
 たいていは気ままで、普段着慣れて(町中を恥じることなく歩け、警察にもとがめられる事もない、服装である事を強調しておく)服を着ている人々は多い中、おめかししている女性陣がいる。天薙撫子おとなしめの肝を好んでいるが、更に大人びた着物を着ている。それは、藤色無地の着物にて参加だ、綺麗だが縁の下に居ることを示しているのであろう。逆に亜真知は桜の花弁模様が印象的な着物で、魅月姫は漆黒に白のゴスロリワンピースである。狂華は少しピンクっぽいブラウスに、赤いジャケットにミニスカート、可愛い帽子だった。目を引くことは明らかである。

 各々が、他の人の世話をしたり、一緒にいたい友人と会話していたりと、花見を楽しんでいる。猛獣が居ても其れは全く気にもしなかった(三下は怖がって隅に隠れている)。


〈共通珍事:手品〉
 ある程度、飲んで食べたころ、サーカス集団は嬉璃から言われたことを実行することになった。
「そろそろ始めますか。」
「……うん。」
「まいりますわよー。」
 テントの中ではかなり露出の激しい衣装でやっているのだが、普段着でもできる。
「えでぃーすあんどじぇんとるめん! 本日は我々サーカス団をお招きして頂きありがとう!」
 柴樹紗枝がいつの間にか設置されているステージに上がった。
 様々に話をしている人々が柴樹の方を向いた。柴樹の隣におとなしく白虎とレオンが座っている。
|Д゚) ←設置謎生物
|Д゚) ←これが彼らにマンガ肉もどきを渡している。賄賂らしい。
「ありがとう、かわうそ?」
|Д゚)b
「では、まずは私が彼を使ってショーをごらんあれ!」
|Д゚) 聞いてねぇ!
 と、有無を言わさず大きなマジックボックスに小麦色を詰め込んだ。箱の上から、顔だけ出している状態になる。
|Д゚) きゃー
「大丈夫だ。お前なら。」
「ええ、かわうそ?様、怪我なされませんわ。ええ、それはもう。わたくしが保証しますわ。」
「楽しそうですね。」
 草間や、デルフェスなど、小麦色にからかわれた経験のある者達は、笑いながら言った。
 どういう意味で大丈夫なのかはさておき、
|Д゚) 動物虐待!?
「都合の良い時だけか弱い動物扱いされても困るわ。」
|Д゚) ?!
 そして、柴樹は細剣を数本持ち(そのアシスタントは無口なミリーシャ)、箱に突き立てる。
|Д゚) おう!?
|Д゚) ツボにきくー
「(命中してる?!)」
 柴樹蒼白、しかし、
|Д゚) うそっぷ
 にたりと笑う小麦色を見ると、鞭の音が響いたので、ナマモノは押し黙った。柴樹の顔が一瞬般若に見えたのは気のせいですましておく。
「はい、次参ります!」
 アレーヌと柴樹が交互に何本も突き刺さる中、ナマモノは動じない。
|Д゚) おおお
|Д゚) どどどどどどど
 これは、最終的に“箱”を貫通しているところを見せて、全てを抜いて、箱から対象を出せばなんと無傷、という手品。しかし、この小麦色が“それだけで”済ますわけはない。十数名は、この結果がどうなるか“普通の結果”ではなく、もっと“違う結果”になるのだと確信していた。予想できないとすれば、ナマモノを初めて見たサーカス団の少女達と、魅月姫ぐらいである。
 そして、残り5本のところ……柴樹が剣を箱に刺すと……。
|Д゚) びよーん! 脱出――!
 小麦色は、そのまま大樽に詰められた海賊をナイフで刺して飛び出したら負け、と言うあのゲームと同じ演出をしたのである! しかし飛び方は尋常ではない。かなりの早さで飛んでいった模様だ。
 それは、流石のサーカス団も(ある程度予想はしているが)驚く。ミリーシャも目を丸くしていた。
「えええええ!?」
「おとなしくしてなさいよー! ナマモノ!」
 柴樹とアレーヌは、大声で天高く飛んでいった小麦色を怒鳴っていた。
「流石ナマモノ、唐突さは相変わらずだ。」
|Д゚) ふははは!
|Д゚) あとで柴樹、×ゲーム(ドップラー効果)


〈正しい桜の見方?〉
 シュラインと草間、デルフェスと零、エヴァに響カスミは、周りの騒動を笑いながら、そして桜を眺めてゆっくりしていた。ミリーシャも手品(?)が終わった後に戻ってきて、赤い猫・焔を撫でている。
「手品というより、びっくりショーだったかしら?」
「アレを手品の題材にすると、前もって打ち合わせしない限り、無理だろ。あれは、パターンを裏切る。」
 苦笑する。
 遠くの方で、猛獣の綱引きが行われて、結果にやんやと歓声が上がっている。其れを見ているよりも、桜の美しさを眺めている気分になった。
「こうしてゆったりできるのは良いわね。」
「シュライン様、零様、草間様、カスミ様、エヴァ様、ワインはいかがですか?」
 デルフェスがワインをグラスと一緒に持ってきた。
「戴こうか。」
「あたしも戴くわ。ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「私も戴く〜。」
 デルフェスは、5人にワインを注ぐ。
「う〜ん、良い香り。」
「此は上物じゃないか?」
 ラベルを見て、それとなく“有名どころ”だとわかる。
「どこで手に入れたの? 此ってなかなか手に入らない物じゃない?」
「マスター・蓮の秘蔵のワインセラーから。もちろん承諾して頂いたものですわ。」
 デルフェスはニコリと答える。
 一応アンティークショップを経営しているし、輸入業をすれば、なんらしらのルートを知っているのだろう。
「ほほう。」
 その上物に見合うだけの、味であった。
 デルフェスにすれば日本酒より、ワインの方が口にあうらしい。
「お前も、ワインだけでなくこの大吟醸飲んでみればいいぞ? 日本でははやり日本酒だ。」
 草間がデルフェスに日本酒を勧めてみた。
「え? は、はい。」
 お猪口をもらい、酒をついでもらう。
「あ、此はおいしいですわね。」
「デルフェス。おいしいよー。
 できあがっているのはエヴァ。美味すぎて飲み過ぎたらしい。
「ああ、エヴァ様。しっかり〜!」
 零も少しぼうっとしている。酔いが回った様子だ。
 其れをじっと見ているのはミリーシャで、焔が頭に乗っている。その猫は欠伸をして眺めている。
「……。」
「にゃあ。」
「なんて、……いっているか……分かる? かわうそ? ……。」
|Д゚) 平和。だって
|Д゚) あと、眠いって
「そ、……う。」
 彼女は焔の顎を撫でている。
 デルフェスはエヴァの介抱で尽きっきりになるが、暫くすると、エヴァは眠ってしまう。風邪を引くのいう事かどうかは定かではないが、デルフェスはエヴァを石像にしてみた。本来の目的は……。
「ああああ! 可愛い寝顔ですわー!」
 である。
|Д゚) 萌えてどーすんよ
「分かっていませんわね! かわうそ?様! この瞬間を彫刻にしておく事は難しい、ひっく! んだので、エヴァ様の寝顔を一度こうしてみたかったのですわ!」
 呂律が回ってない。
 まあ、このはっちゃけ具合のデルフェスを写真に納めるナマモノの行動など知る由もなく。デルフェスは萌え続けている。
「慣れない、酒を飲んだからか? デルフェス、落ち着け。」
「霊鬼兵が風邪を引くのはどうかともうけど……。」
 草間はしまったと思い、シュラインは苦笑していた。
「私は風邪引いたことはないですね。確かに一度は“故障”しましたが。」
 零はまじめに答えていた。
|Д゚) んだの。アンデッドつーか、ゴーレムなんだし。風邪ってないとおもう。
「すごい手品ですねー! ところで、本物のエヴァさんはどこに?」
 換石の術を手品と思いこむ、響カスミだけだった。
「どうでしょうか。わたくしのマジック。」
「すごいですねぇ。」
 カスミもワインで上機嫌だった。
 前回のような、暴走ほどにはないので、カスミとデルフェスはお互い色々話し込んでいる。元からよくお茶友達なので変わりがないが、カスミが学校のことを愚痴り出す。デルフェスはカスミの世話にも忙しくなりそうだった。
 風がきつくなった。
 桜が舞い散る。それが日本酒の入ったお猪口やコップに入るし、また遊んでいる人の悲鳴が聞こえる。
「おっと。」
 すぐに、シュラインは手元に置いていたお重の蓋をお重にかぶせた。
「いきなり吹いたわね。危ない、危ない。」
 乱れか髪をかき上げるシュライン。
 零もシュラインに倣って弁当に蓋をかぶせていた。
「ナイスだな。」
「もちろん。風がきついと、困る物ね。でも、桜吹雪が綺麗ね。」
「ああ。」
 3人は、じっと、花びらのダンスを眺めていた。


〈宴が終わって〉
 夕暮れ時。できあがった人の介抱や、片づけに追われながらも、一段落がつく。しっかりゴミの分別と、掃除をする。酒に酔って石化した人も開放され、酔いは残るも、気分は良いらしい。
 そして既に月夜。それぞれ、思い思い、帰宅するのであった。

 デルフェスは、カスミとエヴァの介抱をしたあと、カスミを送り届け、あやかし荘に戻ってきた。まだ、酔いが覚めないのか桜の木の下で夜桜を眺める金髪の零鬼兵がいる。
「あ、お帰り。」
 エヴァはデルフェスの駆け寄って抱きついてきた。
「大丈夫ですか?」
「まだ、ぼうっとしているけど。悪酔いはないよ。私何かおかしいことし始めた?」
「うーん、ちょっと。殿方がうれしがるようで困りそうなことを……。」
 とか、嘘をついてみる。
 眠った顔が可愛いのでその一瞬を石像にしてみたかったとか言えない。流石に。
「そっか、なら助かったのかな?」
 にこにこ笑っているエヴァ。
「今日は楽しかったでしょうか?」
「うん。」
「わたくしも、ですわ。」
「また、お祭りの時は一緒にいたいね。」
「ええ。」
「まだ、あのワイン残っているならチーズをおつまみで夜桜観賞しようよ。」
「それは良い考えですわ。エヴァ様。でも、ほどほどにですわ。」
「はぁい♪」
 簡単なコップにワインを注いで、チーズや桜を肴に、ふたりはあやかし荘に咲き乱れる桜を眺めていた。
 見た目は仲の良い友人だ。しかし、心はそれ以上の存在なのである。


 また春が来れば、こうして花見をしたい。そう願いながら、また、明日を迎えるのである。


END


■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生・財閥御曹司】
【1098 田中・裕介 18 男 孤児院手伝い+なんでも屋】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体…神さま!?】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】
【2213 御柳・狂華 12 女 中学生&禍】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】
【4682 黒榊・魅月姫 999 女 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】
【6040 静修院・樟葉 19 女 妖魔(上級妖魔合体)】
【6788 柴樹・紗枝 17 女 猛獣使い】
【6811 白虎・轟牙 7 ♂ 猛獣使いのパートナー】
【6813 アレーヌ・ルシフェル 17 女 サーカスの団員】
【6814 ミリーシャ・ゾルレグスキー 17 女 サーカスの団員】
【6877 大鎌の・翁 999 男 世界樹の意識】
【6940 百獣・レオン 8 ♂ 猛獣使いのパートナー】


■|Д゚) 通信
|Д゚) おつかれなりよ
|Д゚) いや、結構まったりだったり、騒がしかったり
|Д゚) 久々の大人数
|Д゚) 結構苦労したとか滝照直樹、言ってる
|Д゚) 猛獣いたので、急遽桜並木公園ではなく、あやかし荘敷地内に変更
|Д゚) その方が安全。とおもった。
|Д゚) また、よろしくなり


かわうそ? & 滝照直樹
20070328