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<東京怪談ノベル(シングル)>


ガール×ガール

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チャイムを何度鳴らしても、反応がない。
留守なのか…。草間が外出している事は多々あるが、
いつも零が留守番をしている為、興信所が空という事はないはずなのに。
何とも珍しい状況が理解出来ずに、おもむろに扉に手をかけて驚いた。
鍵が、開いている。
脳裏に過ぎったのは、不安。
前職柄か否か、私は慌てて所内に入り、一目散にリビングへ向かう。


何か、妙な事件に巻き込まれたのではないか。
リビングに着くまでの数秒、縁起でもない事ばかりを考える。
バタンッ―
激しい運動をした後かのような動悸に眉を寄せつつ、
リビングの扉を勢い良く開いて、視界に飛び込んできた光景に。
「…はぁ」
安堵の溜息が漏れる。
「あっ。冥月さん。こんにちはぁ」
ソファに座り、何やら雑誌を見つつ言った零が放つ、
いつもどおりの、のんびりとした空気に、私は苦笑して。
「鍵、掛け忘れてるぞ。あと、チャイム…何度も鳴らしたんだがな」
「えっ。嘘ぉ。鍵は、お兄さんだ。チャイムは…電池切れかな?」
微笑んで言う零。やれやれ。また、あいつ鍵かけわすれてったのか。
何度言ってもコロッと忘れる。痴呆症の疑い有り、だな。本気で。
呆れ笑いを浮かべつつ、扉を閉めて私は零に歩み寄り、
読んでいる雑誌を見やって言う。
「何だ。ファッションカタログ…?」
私の言葉に零はニコッと微笑み。
「冥月さんの服を選んでたんです。何か、素敵なのないかな〜と思って」
「私の?何故だ?」
「お兄さんとドライブ行く時の…んーと。勝負服です」
「…勝負って」
「冥月さんって、いつも黒一色じゃないですか。似合ってますけど」
「ん。まぁ、黒が好きだからな…」
「折角のデートなんだし、やっぱりオシャレしないとっ」
「デ、デートじゃない!貢物だ。言うなれば、あれだ。アッシーだ」
予想外の零の言葉に慌てて、私が、死後混じりに そう返すと。
零は、少し俯いてカタログをジッと見やりながら、
「私の所為で、ご迷惑おかけしましたから。何か、したいんです」
呟くように言うと、続けて、
「迷惑でしたか?ごめんなさい」
顔を上げて、私を見やり申し訳なさそうな表情を浮かべる。
その表情にチクリと胸が痛んだ私は、零の頭を撫でて言う。
「…わかった。なら零が良いと思う服、見繕ってくれ」
私の言葉に、零は嬉しそうに微笑み、気合いを入れてカタログを食い入るように見やるが、
どうも、イメージが掴み難いのか、ウンウンと唸っている。
そんな零の姿が微笑ましくて、私はクスクスと笑い、
「とっておきの空間がある」
そう告げた。




「…うわぁ〜。すご〜〜〜い……」
空間の中心で、クルクルと回りつつ感動する零。
「選ぶのに苦労するかもしれないな」
苦笑して言い放つと、零は、そんな事ない、と自信満々に微笑んだ。
ここは、影内の異空間。
前職…暗殺者時代に"変装"の為、大いに活用した、いわば"衣裳部屋"だ。
一世代前から最新ファッションまで、数多くの衣服、小物が揃っている。
「足元、気をつけろよ」
「は〜い。あっ!あれ、可愛い〜!」
空間と言えど、影内。人や物は鮮明に見えるが、それ以外は黒一色。
下ばかりみていると、妙な酔いを覚える場所だ。
…まぁ、はしゃぎまわっている零には、不要な心配だな。


意気揚々と開始した、零のコーディネイト。
次から次へと、零は服を見繕っては私に試着を勧める。
もう 何十着、試着した事か…。
短時間に猛威を振るう零のコーディネイトに、一旦休憩を申し出る。
疲れた、というのもあるが、それよりも。気付いた事が一つ。
零のコーディネイトが、古めかしい事に問題あり、だ。
私は苦笑して、悟られ傷付けぬように、やんわりと自分で選んでみる事を告げ、
空間内を歩き、物色を始める。
デート…いやいや。もとい、ドライブなら、普段とは違う感じが良いだろうか。
滅多に車になんて乗らないしな。そもそも、あいつが運転しないしな。
情報は"足"で得るもんだ!とか、妙なポリシーを持ってるから。
まぁ、そこは否定しないし、できないけど…。
…何か、そう考えると、ドライブという事に不安が否めないけれど。
まぁ、いいか。そうだな…どうせなら、普段とは真逆…とまではいかなくても、
明らかに違うイメージでいってみた方が、色々と楽しそうだな。
あいつの反応とか…。いや、それだけだけど。
「キャミソールは、まだ早いかな。時期的に」
春用の物とはいえ、かなり薄手のキャミソールを手に取り首を傾げる私。
「いや。大丈夫です。可愛いです」
ウンウンと頷きながら即答する零。
"可愛いか否か"に完全に偏っている零の選び方が、
私の目に、凄く必死に映って、クスクスと笑い、了承の意味を込めて頷き返す。
「下は…そうだな。これ、とかかな」
次に手に取ったのは、これもまた春用のロングスカート。
とはいえ、丈は膝下 五センチ程で、裾の作りから、フレアスカートに近い類だが、
甘い…というか、そういう感じはしない。エレガント…でもない。
何て言うのかな。こういうの…。
「わぁ。可愛いんだけど、オシャレですね。スタイリッシュだぁ〜」
スタイリッシュ…。何だか、それは、ちょっと…。
大袈裟過ぎる表現のような気がしないでもないが。まぁ、いいか。
「靴と上着は、色を合わせた方が良いな」
次から次へと手に取り、上着と靴を選ぶ。
妙に真剣になって自身をコーディネイトする私の様を、
ただジッと見やっては、時折意味深に微笑む零。
私は零の額を指でつついて問う。
「何笑ってるんだ」
「冥月さん、楽しそうだなぁ、と思って」
「…別に、楽しくなんか…」
「何だか、すっごく可愛いんです。冥月さん」
「…煩い。鞄。鞄だ。零。この服に合う鞄を選んで来てくれ」
「ふふ。は〜い。わかりましたぁっ」
…何がフフッだ。鞄のある方へ走っていく零の後姿を見つつ、呆れる私。
まったく…。えーと、あとは…メイクか。
服装に併せて…そうだな、ナチュラルメイクで。
それでいて、所々にガーリーな雰囲気を出して…。
…ほんのりと、桃色のチークでも入れてみようか。
鏡の前でメイク道具を広げ、色々と悩む私。
ハッと我に返り、ブツブツと呟く。
「なぜ私が あの馬鹿の為に お洒落なんぞ…」
漏れる文句とは裏腹に、メイクが進む。
正直に、素直に認めたくはないが。
でも、確かに…楽しんでいる自分がいる。それは、理解る。
それもまた、仕方のない事なんだ。
こんな風に、お洒落に夢中になるなんて。
もう、何年ぶりか…な。




「ふ、ふわぁぁ〜〜〜………」
今にも腰を抜かしそうな、気の抜ける声で私を見やる零。
「ど、どうだ?」
自身を見やりながら、私は問う。
胸元に軽くレースがあしらわれた白のキャミソールに、
濃灰と薄灰の横ボーダーのスカート。上着は黒いスプリングコート。
靴はスカートとのバランスを考えて、短めの黒いブーツを。
何だかんだで、落ち着いた色合いにあってしまうのは、これはもう、どうしようもない。
そして、零の選んでくれた上品なトートバッグを持って…。
「すごいです!いつもと全然違う…!可愛いです〜〜…!」
落ち着きない様子でパタパタと腕を振り回す零を見て、
私はクスクスと笑い、仕上げに入る。
「あとは、こんな感じで…」
長く艶やかな髪を、少々ワザとらしく かき上げて、
直感で良い、と思ったブラックストーンのピアスを耳に吊るす。
「わぁ……」
頬を染めて私を見やる零。
「なぜ頬を染める」
笑って問うと、零は少し恥ずかしそうに返す。
「な、何ていうか。オトナ〜って感じがしました。色っぽいっていうか…?」
「はは。ありがとう」
素直に褒め言葉を受け取り、感謝を告げた私は、
手招きして零を呼び寄せる。
「ん?何ですか?」
トコトコと私に歩み寄ってきた零を、しゃがんでギュッと抱きしめ、私は言う。
「礼をさせてくれ」
「え。そんな…」
「とても嬉しいんだ。気遣ってくれた事が」



空間内に足を踏み入れた二時間前とは、全く別人と化した互いに、私達はクスクス笑う。
普段はクールに、寧ろ冷たく近寄りがたい雰囲気を放つ私は、どこぞのモデルのように。
普段はラフに、動きやすく お洒落に無頓着な雰囲気を放つ零は、まるで人形のように。
一目瞭然で大成功ととれる変貌。
あいつの為に お洒落をする事に抵抗はあったけれど。
たまには、こんなのも悪くない。うん。
「ありがとう」
頭を撫でつつ感謝を告げれば、
零は、いえいえ、と首を振って嬉しそうに微笑んだ。
らしくないかもしれないが。
零の所為…いや。御陰で…?
楽しみになったよ。ドライブ。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

納品が遅れてしまい、大変申し訳御座いません。
初のシチュノベで、システムや納期で少し戸惑ってしまいましたが、
作品自体は、非常に楽しく紡がせて頂きました。
二人の可愛らしい遣り取りが、うまく表現できていれば…と思います^^

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ 宜しく御願い致します。

2007/03/12 椎葉 あずま