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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


絵に棲む少女



1.
 その日、男が店に持ってきたのは一枚の絵だった。
「どうしたんだい、この絵は」
「知り合いに絵描きがいてね。それが描いたものなんだ」
 意味ありげな笑みを浮かべてそう言った男が持っている絵は、一見する限りそれほど奇妙なものには見えなかった。
 小さめのカンバスに描かれているそれは、何処かうら寂しそうな家。そしてその窓にはひとりの少女の姿がある。
「あんたが持ってきたからには、何かあるんだろう?」
「そうだね。とりあえず、描いた本人は見えたものを描いただけだと主張していたんだが、その男が言う場所にはこんな家は存在していなかった。空き地だったよ」
 その程度のことはそれほど奇妙なことでもない。
 この男が興味を示したのだから、まだ何かこの絵に関して起こったに違いない。
「そして、物好きな人間というのがいて、この絵の何が気に入ったのかそれとも憑かれたのか少し前にこれを購入したんだ」
「購入されたものをなんであんたが持ってるんだい?」
「持ち主が消えてしまったからね」
 あっさりとそう言った男に蓮は慣れているので呆れた顔もしなかった。
「誰かにしばらくこれを預かってもらえば真相がわかるんじゃないかと思ったもので持ってきた次第さ」
 とんとんと男は絵に描かれている少女を指差した。
「どうやら『これ』に連れて行かれたことは間違いなさそうだ。しばらく手元に置いておけばあちらから呼んでくれるだろう」
 そう言って、男は愉快そうにくつりと笑った。
「興味を持った者がいたら、貸してやってみてくれ」
 それだけを言うと、男は店から立ち去った。


2.
「おや、将太郎じゃないか」
 名前を呼ばれたので振り返れば、いまちょうど通りかかった店の主からだったので、門屋は歩いていた足を止めて振り返った。
「何の用だい? 蓮姉さん」
「あんた、いま少し時間はあるかい」
 問われてから門屋はつい時計を見たが急ぎの用はない。
「少しだけならなくもないぜ」
「そうかい。じゃあ、ちょっと付き合っておくれ。あんたに見せたいものがあるのさ」
「また人形なら勘弁するぜ」
 以前、人形の世話を押し付けられたことがあったためついそんなことを言ったが、それに対して蓮はおかしそうに笑ってから「そんなんじゃないよ」と答えた。
「ちょっとね、絵を見てもらいたいのさ」
「俺は絵心なんてねぇぞ」
 一応そう言っておきながら、それでも見ろと言うのならば見ると答えると、蓮は店の中に門屋を招き入れた。
「あれだよ」
 相変わらず、価値があるのかそもそも何に使うのかも不明なものが整頓されているのかも怪しい状態で置かれている中、その絵はあった。
 ゆっくりと門屋は絵に近付いた。
「随分と寂しい絵だねぇ、家も人物も」
 絵をじっと見ながら門屋はそう言ってから「けれど」と付け加えた。
「この女の子が一番寂しそうに見えるな。いつもひとりぼっちでいる…そんなカンジ? 話ができるんだったら相手になってやりたいもんだ。」
「じゃあ、相手になっておやりよ」
 門屋の絵に対する評価を聞きながら、その言葉が出た途端、蓮は笑みを浮かべて口を開いた。
「どういう意味だ?」
「この絵を持って来た男に頼まれていてね、興味を持った人間がいたら渡してみてくれって。どうやら普通の絵じゃないってことだけは確かのようだからね。良ければ、あんたの手元にしばらく置いてみちゃくれないかい?」
 何かを企んでいそうな笑みを浮かべてはいたが、多分今回のものには害はないのだろう。
 そして何より少女の寂しげな様子が門屋には気にかかり結局絵はしばらく預かることにした。
「……まぁ、相談所に飾る程度なら問題ないがな」
 そう嘯いた門屋に蓮は愉快そうに笑ってから、「頼んだよ」と門屋に告げ、その言葉を聞いてから門屋は店を出た。
 店を出てからは、それ以上の寄り道もせずに帰宅し、自宅の邪魔にならないがぞんざいに扱わないように気を配って絵を置いた。
 絵の少女は、相変わらず寂しそうに門屋の目には映ったが、いったい何が原因でこんな寂しい表情をしているのだろう。
 そんなことを考えながら、門屋はベッドに横になると眠りに落ちた。


3.
 門屋の耳に入ってきたのは泣き声だった。
 ベッドから起き上がり、時計を見る。
 時刻は夜中だ。そもそも、ここには門屋以外はいない。
 そう思ってから、門屋はふと気配を感じてベッド脇を見た。
 少女がひとり、そこにいた。
 見覚えのある少女だ。
「お前、あの絵の子か」
 寂しげに泣いているその顔は、間違いなくあの絵に描かれていた少女のものだった。
「何で泣いてるんだ? 話してみな」
 できるだけ優しくそう声をかけ、門屋は少女から話を聞きだした。
 泣きながら、少女は自分のことを話した。
「あたし、病気なんだって。だから、治るまでお外に出ちゃいけないって言われてたの」
「そうか、お前、病気で……」
 門屋の言葉に、少女はこくんと首を動かした。
 病気が治れば外に出れる。そう思いながらずっとベッドに横になり、外の景色を眺めていた。
 自分と同じくらいの歳の子が遊んでいる姿を見てとても羨ましかったが、ずっと家にいる彼女には尋ねてきてくれる友達もいなかった。
 そして、結局少女は一度も外に出ることなく、息を引き取った。
 最後はそう少女が言ったわけではないが、門屋はそれを感じ取った。
 いまの話も正確にはいま門屋の目の前にいる少女のことではなく、絵のモデルとなった少女の話なのだろう。
 寂しい思いをこめられて描かれた少女の絵に、門屋は優しく声をかけた。
「これ、おまえが生きていた頃に描いてもらったのか?」
 門屋の問いに、少女はこくりと頷いた。
「良い絵だけど、どこか寂しいな。おまえが楽しい、嬉しいって感情を抱けば、もっと見栄えが良くなるぜ?」
「楽しい、嬉しい……?」
 不思議な言葉を聞いたような少女に、門屋は優しい笑みを浮かべてぽんと頭を撫でてやった。
「にっこり笑ってみな。病気のときだって楽しいことや嬉しいことはあっただろう? そのときのことも思い出してみな。寂しい顔をしてるままじゃ、心は楽しくならねぇぞ?」
 門屋の言葉をじっと聞いていた少女はしばらく黙り、その後「ありがとう」と礼を言うとくるりと背を向けた。
「おうち、帰るね」
 そう言った声は先程よりも明るいものになったと思えたので、門屋は安心してベッドに入って寝なおすことにした。


4.
 翌朝、門屋はベッドから抜け出すと絵のほうへと近付いた。
 家は相変わらず何処か寂しい雰囲気があるような気はしたが、それが気にならない。
 何故なら、家の中の少女が微笑んでいる姿がそこにはあったからだ。
 それを確認し、門屋は絵を蓮の店へと持っていった。
「いらっしゃい。あの絵はどうだった?」
 蓮の問いに、門屋は口で説明はせず絵を見せた。
「へぇ、いい笑顔じゃないか」
「楽しいってことがどんなのかわかったからじゃねぇか? これを描いてもらったときもこいつは寂しかったんだろうよ」
「それは、この子が言ったのかい?」
「そうだけど、それがどうかしたかい?」
 門屋の言葉に、蓮は少し考え込んでから「おかしいねぇ」と呟いた。
「持って来た男の話だと、これが描かれたのは何もない空き地だったそうだよ」
「なんだって?」
 それではあの少女の話を食い違ってしまう。
 少し考えてから蓮は口を開いた。
「描いた当人は知らないけど、他の連中には空き地に見えても、この子はずっとそこで暮らしていたんだろうね。これを描いた当人以外には誰にも見えない家でひとり寂しく……死んでからもずっと」
 きっとその想いを汲み取ってもらえたのさと蓮は話を締めくくり、門屋はもう一度絵を見た。
 少女はやはり微笑んでいる。
 それなら構わないかと門屋は思った。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)       ■
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1522 / 門屋・将太郎 / 28歳 / 男性 / 臨床心理士
NPC / 碧摩・蓮

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■         ライター通信                    ■
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門屋・将太郎様

この度は、当依頼にご参加いただき誠にありがとうございます。
2度目のご依頼嬉しく思います。
病気で死んだ少女、ということでしたがOP部分の解説と少々食い違うところがあったため、ラストをそれに補う形でああいう話を付け加えさせていただきましたがお気に召していただけましたでしょうか。
またご縁がありましたときはよろしくお願いいたします。

蒼井敬 拝