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オペレーション:ロンギヌス
「その昔、竹槍を投げて戦闘機を撃墜した兵士がいた」
この手の噂……正確にはただの笑い話や酒の席の余興にすぎないこの話題は、誰もが一度は耳にしたことがある定番のネタである。現在も高度成長を続ける日本において、誰がそんなことをできると思うだろうか。
しかしながら、今の今までこの噂が大手を振って闊歩しているのはなぜか。それは日本人の『本当に起こったら面白いんじゃね?』という無意味な好奇心をいつの時代も煽り続けているからだ。今も世界のどこかで必ず誰かが意味もわからないくせに『航空力学』などと呼ばれるたいそうご立派な定義を持ち出して考えているに違いない。該当者は課題に対してかなり不真面目な姿勢ではあるが、とにもかくにも不可能を可能にするために有意義に過ごすべき人生のわずかな時間でその方法を考え抜く。その輝きはダイヤモンドに等しく、またすがすがしい汗と涙に等しい。その惜しみない努力がわずかな時間に凝縮されている。ただ元の話題の程度がすさまじく低いので、その成果は人様に発表するほどのものでもない。かくして夢は夢のままとなってしまい、最後は墓に持っていくという結末を迎えるのが世の常だ。
ところが、それを真剣に考えているバカがいた。いや、バカたちがいた。
しかも彼らは話の通じそうな草間興信所に依頼として持ちかけている最中である。所長の目の前には何枚ものプリントが広がっており、主武器となる竹槍の構造計算書から撃ち落とすべきステルス戦闘機の仮称と飛行写真などが刻銘に描かれていた。普段ならお客様へのお茶汲みをしたら台所で洗い物をする妹の零も今回ばかりはじっくりとこの話に聞き入っている。そのマジメさといったら兄の武彦が呆然とした表情をするほどだ。もちろん提示された作戦『オペレーション:ロンギヌス』にも乗り気なわけがない。乗り気になれるはずもない。
そこを依頼人である青い瞳のナイスガイは必死に食い下がる。彼は交渉のテーブルにつく前に宣言した。『私は所長が首を縦に振るまでは帰らない』と。武彦はすかさず「じゃあ不法侵入で警察呼びますから」と切り返したが、相手の方が何枚も上手……というより身分が違いすぎた。彼はすでに警視庁に圧力をかけ、草間興信所からの電話および悲鳴には一切応じないように手配したという。現段階で興信所からの電話はシャットアウト、交番勤務の警察官によるパトロールの範囲からも除外されているそうだ。
彼の名はとある大国で国務次官補を務めるレオナルド・パニー。彼の周囲には5人ものシークレットサービスが控えているが、今はお茶を飲んで陽気に談笑している。ここに入った時は毅然とした態度でいたのに、零が出てくるなりお国柄全開の明るさで場を無駄に暖めていた。
「しかし、おたくも大変だね。被害者に大きな怪我がなくってよかったよ。ま、億単位の空飛ぶ金属が叩き落されたのは問題だろうけどさ。そんなのうちじゃなくって、国家間で話し合えばいいじゃないか」
「いや、国家間の問題ならミスターの厄介にはなりませんよ。ただ敵が『虚無の境界』の心霊兵器となれば話は別なのです。残念なことにこの組織の対応は両国間でも未だに調整がつかない状況でして……そこでミスターのお力を拝借しようと思っているわけでございます」
「事情はわかるよ。うちにはそういう連中はいくらも来るからな。でも、なんでそんな兵器を竹槍で落とそうとか考えるわけ? そこが理解できないんだよな……」
これが世に名高いジョークというものか。武彦は計画書に目が行くたびにあきれ返っていたが、零はわき目も振らず真剣に飛ばす方法を考えている。所内がすごい勢いでバカバカしい雰囲気に包まれていくのを肌で感じた所長は、この際だから自分もバカになっちゃうことをあっさりと決めた。
「そのステルスってのは、絶対に東京の新開発埋立地上空まで追い込めるんだな?」
「ミスター、それはお任せ下さい。わが国の軍事力のすべてを注ぎ、必ず目的の場所へ追い込んでみせましょう」
「ステルスで監視してるということは……奴さん、いずれドンパチやらかそうって魂胆か。困るなぁ、そういうの」
「竹槍は霊的なパワーが充実しておりまして、すでに切った角度なみに鋭くなってます。命中はしなくともかすっただけでも敵のステルスを落とすことができると思います。ただ3本しかありませんのでミスは許されません」
「兄さん……奇跡を起こしましょう! 悲願を達成しましょう!」
考え方はかなりズレているが、確かに零の言う通り。奇跡は起きるのを待つものではない。奇跡は自分で起こしてナンボ。しかし『虚無の境界』がステルスを撃ち落とされる様を黙って見ているとは思えない……これは長年の探偵としての勘だ。武彦は『こっちの面子次第ではパニーにいろいろと協力してもらう必要があるな』と考えを張り巡らす。
草間興信所に集められた面々はバラエティとユーモアにあふれていた。巨躯の男から華奢な美人、サングラスに黒スーツの子どもに説明も十分でない状態なのにすっかりやる気の青年……とここまで簡単に説明してしまっているが、落ち着いて風景を語れるまでにはいくつかのドラマがあった。
興信所でおなじみの事務員・シュライン。彼女は連中のまとめ役として大車輪の活躍をした。零はすっかり作戦の虜になっているし、武彦もパニーのジョークに付き合わされる始末。そこへたまに依頼を手伝う冥月がすごい剣幕でやってきた。どうやら依頼の内容には納得したようだが、依頼者の素性が気に入らないらしい。相手が日本茶ティータイムを楽しんでいる隙に、武彦の耳元で『草間、ひとつ提案がある。こいつらを始末して話をなかったことにしよう』などと口走ったのだからたまらない。その口調は無理をすればなんとなく冗談に聞こえなくもないが『大丈夫、証拠は一切残さない』と続けて喋るその口元と目尻はまったく笑っていなかった。思わぬ反対派の登場に戦慄し青ざめたシュラインは、やむを得ず零が乗り気なのを足がかりになんとか説得を試みた。
「虚無の境界を倒すのになぜ竹槍を使うんだ?」
「あちらさんが美術館に保管してたらしいのよ。私もね、『日本はこうやって誤解されてくんだ』って思ったわ。確かにいろんな面で違和感はあるでしょう。でも相手の虚を突くのも……」
「戦いにおいては重要、か。だが、こんなことが裏社会に知れたらいい恥さらしだ。草間、私は自分の名誉のために他人よりも5倍の報酬を要求する!」
「へぇ、5倍ねぇ。わかった、伝えておく」
彼女の無茶をやけに素直に聞き、さらになぜか戸惑いの表情を見せる武彦。冥月の行動から察するに、彼女は苛立つ心をそのまま言葉にしたのは明白である。ところが結果的には肩透かしに近いようなこの対応……ぽかーんと立ち尽くす彼女に事務員が耳元で囁いた。そう、さっきの冥月と同じように。
「あらあら、相手の財布は財務省よ。そこで無茶を言うならもうちょっと高くてもぜんぜん問題になら」
「20倍だ、20倍! 草間っ、訂正だ!」
思わずシュラインが笑った。どうやら名うての用心棒もややこしい数字には弱いらしい。ここでは要求額の倍数を変えるよりも、むしろ無茶な金額を突きつけた方が効果的なのだ。現時点で相手の財布と支払われるギャラにはかなりの開きがある。少しでも民間人の感覚が混じってしまうと、その時点で交渉に負けてしまうという仕組みに彼女は気づいていないのだ……
後の連中は特に問題ない。何の違和感もなく作戦に協力する意思を表明した。彼瀬 蔵人はダイエットを兼ねて。里見 勇介は勇者だから。藁科・ウィリアムことウィルは冥月とは逆の感性をお持ちらしく、作戦名と内容のギャップが最高にナンセンスで燃えちゃったらしい。まぁ、彼の姿がすでにナンセンスなのだが……シュラインは無駄な競りを続けている冥月を武彦とともに諌め、具体的な作戦を提案を始める。団欒の雰囲気が漂う某国の連中にも緊張が走った。言葉の壁はあっても、さすがに空気は読めるらしい。
「さてと。虚無の境界とはいやいやながら何度かお相手してるから、その辺のノウハウは把握してるつもり。最初にお聞きしておきたいんですけど、イニシアティブはどっちが握ればいいの?」
「もちろん、ミスターが」
「武彦さん、今の言葉ちゃんと覚えといてね。じゃあ作戦成功が最優先事項ね。予算も考えずに無茶言うけど、それもオッケー?」
「HAHAHA! ノープロブレム! 泥舟に乗った気でいてくださ」
「沈む……汚泥のように……」
パニーの天然ボケにウィルがツッコんだのかと思いきや、ただただボケにボケを重ねただけ。しかし被害は最小限に食い止められた。ボケを返すような空気ではないところで武彦がマジメにツッコむのはおかしいし、彼らも彼らで自分から笑い出して一連のネタをまとめるわけでもない。非常に迷惑、非常に迷惑だ。そろそろ頭痛が襲いそうだったので、シュラインは自らの案をまとめたプリントを国務次官補に渡す。
「これはただのイメージ図なんだけど、竹槍を飛ばすならやっぱりボウガンの形が強そうな気がするのよ。ただ完成品をどーんと持っていくと、ご自慢の心霊ステルスが察知しちゃう可能性もあるから……」
「オー、部品を最後にジョイントね! ナイスアイディア!」
「いい発音でお褒めいただき光栄です。まず最速でそれを用意してほしいの」
「シュ、シュライン、ちょっと待て。あのな、相手は動きまくる上に場所も把握できないんだ。そんな急場凌ぎの武器で戦えるはずがない」
武彦の心配もごもっとも。打ち落とすための槍の数も限られている。いくら予算があるからといって、こんなバクチな作戦でいいのだろうか……と心配が膨らみ始めたその時、のほほんとありがたそ〜うに茶をすする音に彼の思考は阻まれた。蔵人だ。
ズズズズズズズ…………………
「あー、おいしいけどお茶の温かさがすきっ腹に効きますねぇ……お母さんの厳しさが身に染みます」
「落ち着いてないで、早く喋れ!」
「ああ、そりゃすみません。草間さん、もう一度シュラインさんのお聞きになってはいかがです?」
「俺も同感です。ま、彼女もすべてを話していないから、その真意に気づかないのも無理はないですけどね」
どうやら勇介も蔵人と同意見のようだ。ちなみにウィルは槍投げの選手のようにその辺をとことこ走っている。その姿でようやくピンと来た。
「あ! 打つのはダミー、か……!」
「その通り。まだ竹槍の割り振りも決めてないうちから『ボウガンで打つのは本物』と考えるのは安易でしたね」
「本命を打つのはあくまでうちが集めた面子にお願いするから。パニーさん、その時はすみやかに渡してくださいね?」
「レディ、我々がここまで言いながら進行の妨げをするとでも?」
ここでもシュラインの話術が勝った。これで必要なものはすべてこちらの私物として扱える。平日の昼下がりに2カ国間の話題をワイドショーやニュースで見ていると、口約束で通用しそうな案件ひとつに対していちいち会議を開き、関係省庁から承認を得るという民間人からすれば途方もなく長い作業を平気でやっている。今回の件はまさにワンチャンス。横槍が入ればそれまでだ。表現も皮肉なら、背景も皮肉に満ちている。
交渉の結果、ボウガンから発射する竹槍は零の力を付与した怨霊べったりのダミーをほぼ無制限に射出。本命の3本は勇介、ウィル、蔵人で使用し確実に打ち落とす。
ちなみにエージェントたちが期待を寄せたのが蔵人だ。彼らの期待度は単純に3人の体格そのものである。しかしとんでもない展開が当日に待ち受けているとは夢にも思わなかっただろう。すでにヒートアップして落ち着きを取り戻した冥月でさえ驚くような戦いの幕がゆっくりと開こうとしていた。
作戦当日までに幌をかぶったトラックがだだっ広い新開発埋立地に点在していた。ただ個々の車から出てくるのは何のひねりもない電気工らしき労働者。地味な作業に地味な色彩、そして中から仮設置に使うであろう中途半端な長さの電柱を引っ張り出してせっせと働いている。労働の汗は尊い。彼らがいて僕らがいる。子どもの社会見学にはもってこいのシチュエーションだ。
ところがどっこい、これは虚無の境界を欺くための大胆な罠。中では巨大ボウガンの部品を鋭意製作中である。これはシュラインの指示書にあったものを軍がそのまま形にした。しかも電柱までもがダミーで、これを触っているのは心霊特殊部隊の面々である。この中には無数の竹槍が入っていた。零や蔵人が不浄の霊を付着させた特製のダミーが、今まさに混沌と渦巻いている。本物の竹槍はボウガンの組み立てに関与しない……というよりも、草間興信所の面々を輸送するために用意された客車の中に保管されていた。作戦は夕暮れ時がいいだろうと判断した武彦だったが、思ったよりも早くショーが始まってしまったらしい。マナーモードに設定された携帯電話が静かに震えたのに気づき、武彦はさっと通話ボタンを押して会話を始める。
「よぉ、ジョニー。今日もハッピーだなぁ?」
『オー、マンセル! ユー、バースデー! ミーが送ったバースデーピザパイは届いたかぁい?』
「あと30分しても来なかったら受け取り拒否だ、ジョニー」
『じゃあもう一度注文しとくよ、HAHAHA!』
なぜかご陽気に某国口調で喋る武彦を見て、シュラインは頭を抱えた。いくらなんでも作戦の暗号がこれでは脱力してしまう。あんなバカバカしい会話のパターンがプリントにして10枚ほどあるのだからさらに悲しくなるというもの。彼女は思い出したくもない会話をつぶやきながら暗号の解読を行う。
やはりそうだ。今の会話は赤字で書かれた最重要事項を示す暗号である。
「私には聞こえるわ。パニーさんご自慢の戦闘機ご一行様の音がね。それと同時に不審な特殊車両がこっちに向かってる。こっちの情報はさっきの暗号から知ったものだけど」
「心霊兵器ということは異能力を持つ皆さんなら場所は把握できるかもしれませんね。零さんや冥月さんなら正確な位置がわかるかも」
「いくら探知が難しいステルスでも影のない物体はこの世に存在しない。竹槍をふいにするようなら私に渡せ。ただし報酬の倍率がどーんと上がるが……」
まだ言うか、冥月……誰もがそれを思った時、車が勝手に動き出した。どうやら高速組み立てのお時間がやってきたらしい。車が止まると同時に、我先にと外へ出る興信所の面々。外は計画通り夕暮れに染まっている。チャンスまでしっかりセッティングするとは、さすがは国務次官補。自分とは違う意味の『ビッグマウス』でなくてよかったと蔵人が思った瞬間、はるか彼方の頭上で空中戦が繰り広げられる!
轟音に次ぐ轟音……これに対する苦情も全部握りつぶすというのだから、本当に国家とは恐ろしいものだ。しかしいきなり自軍の戦闘機が落とされることまでは予想していただろうか。ステルスから放たれた気味の悪い色をした銃弾が囲い込み部隊の一機を捕らえた。操作系統をやられた機体はそのまま埋立地に向かって一直線……!
「ちっ、パニーの野郎しくじったか……っ!」
「ま、まずい! このままだとここは戦闘もなしで火の海だ! 誰か、なんとかしろっ!」
「本当はちゃんと一台お借りする予定だったんですけど、あれでいいです。融合合体、ブレイブセット!」
奥からふらりと現れたのは三本槍のひとり・勇介。彼は浮遊術を使い、叫んだ通り向かってくる戦闘機と融合するとみるみるうちに人型ロボットへと進化を遂げた!
『大空の勇者、フェニックスセイバーーーッ! パイロットさんを今そっちに避難させますね』
「竹槍の準備も完了。まるで竹林です。私は竹の精霊ウィルちゃんです。グッジョブです、この風景」
「親指立てて喜ぶな、ウィル。お前も某国向きの人間か?」
無数の細い竹を髪の毛のように編んだかつらに、大きめの竹筒をいくつも首から提げている竹の精霊。すでにウィルは小さな竹林の中で喜んでいる。せっかくの舞台を特殊部隊の皆さんがあれよあれよと崩していく。巨大ボウガンが完成したのだ。それに肝心の武器をセットするため、人海戦術を駆使しリレーのように槍を渡していくのだ。
さらに展開はめまぐるしく変わる。上はフェニックスセイバーとなった勇介に任せればいいが、今度は下に虚無の境界に雇われた雑魚がわらわらと現れた。しかし彼らも湧いて出てくるわけにはいかないので大掛かりな装備はまったく用意していない。マシンガンに防弾チョッキ……おそらく頭上からの援護を期待しての準備だったのだろうが、制空権はステルスではなくこちら側にあった。もちろんここまでは作戦通り。ここからも作戦通り。シュラインはボウガンとは別に用意してもらった『秘密兵器』の準備をお願いし、冥月もわずかに表情を引き締める。凛として立つふたりの女性を、いや埋立地を煙幕が包んでいく……
「みんな、パニーさんからもらった特殊インカムをつけて! 防音効果と通信を兼ね備えてるスグレモノよ! 私の言うこと聞かないと具合悪くなっちゃうわよ!」
「お約束通りの濃度で抑えた煙幕か。役に立たないよりかはいくらかマシだな。影がある以上、ここに来ることはできない!」
まずはシュラインの攻撃が炸裂。視覚ではなく聴覚からダメージを与える発想が彼女らしさを醸し出している。秘密兵器の正体は巨大スピーカー数台。人の不可聴音域を駆使して、三半規管を狂わせたり脳震盪を起こさせる!
その威力は冥月がちゃんと把握していた。戦闘技術に傾倒する末端の構成員はこの手の変化球には圧倒的な弱さを露呈するものだ。これだけで半数以上の敵がばたばたと倒れる。彼女は「見事だな」と武彦とともに手放しに喜んだ。それでもにじり寄ってくる敵もわずかながら存在する。今度は冥月の罠が力を発揮した。視界の利かない場所に立ち尽くす影の壁……これに触れたものは次々と黒の中へと吸い込まれていく。武彦から「後でいろいろ聞きたいこともあるから絶対に殺すなよ」と指示されていたので、ちゃんと生きたまま影の牢獄に叩き落している。地上部隊の殲滅は彼女たちのおかげであっという間に完了してしまった。もし増援部隊が来ても、結果は同じことだ。
煙幕が張られた時点で上空への攻撃も同時に開始された。戦闘機がすばらしい連携を見せ、ステルスを埋立地の上空から逃がそうとしない。三次元の攻防が続く中、地上からは無数の竹槍が信じられない速さで飛んでくる! 射出しているのはもちろんボウガン……だけではない。自らの身体をゴムのように使って竹槍のダミーを飛ばす蔵人、そしてどんな原理かわからないが天まで届くほどの威力で投げ続ける竹の精霊。フェニックスセイバーは時が熟すまでは戦闘機に命中しそうな竹槍を砕くことに専念した。
「あ、あの……私も人のこと言えませんけどね。ウィルさんはなんで竹槍を上まで投げれるんですか??」
「お互いにグッジョブです」
「まぁ、原理がわかんないわけじゃないんです。ただ聞かれると困るのかなーって思っただけなんで。んしょっと」
これが花火ならどれだけ風情があるだろうか。しかし飛んでいるのは緑の閃光。複数の戦闘機と無数の竹槍を避けるのが精一杯でいよいよ身動きが取れなくなったステルスの行動範囲は圧倒的に縮まった。煙幕はステルスが竹槍を投げる相手を攻撃しないように仕向ける意図も含まれている。夕日が沈みかけてきたその時を合図に、3人の勇者が伝説を現実にする!
「ここにある縁を最大限にまで……うーん、ゴムの強度はこれが限界かぁ。草間さん、一撃目行きます!」
『オペレーション:ロンギヌス、ファイアーーーーーッ!』
上空でそれを聞いた戦闘機が『イエッサー!』で返す。確実に命中させるための作戦名、それが「オペレーション:ロンギヌス」。最大限まで引き伸ばした身体から放たれる伝説の竹槍は天高く舞い上がり、エースパイロットが操る戦闘機がその軌道にまでおびき寄せる! そしてステルスに初めてダメージを与えることに成功! 左翼にしっかりと穴を開けた。こうなると後は行け行けである。この頃、零がその様子を空中でつぶさに眺めて悦に浸っていた。
「勇介さん、これはあなたの分です! うおおぉぉぉりゃあぁぁぁぁっ!!」
『ふっ……はあっ! 確かに受け取りました! まずはこの一撃……フェニックススパイラルキーーーック!』
ガシャーーーーーーーン!!
明らかに動きが鈍くなったステルスに対し、容赦なく体をドリルのように回転させて急降下キックをお見舞いする勇介。派手なクラッシュで機体はただ落下していくのみ。徐々に煙幕も晴れ、鮮やかな夕日が地上にも降り注ぐ。その光を背に、フェニックスセイバーは最後の攻撃を見舞う!
『ガトリングに伝説の竹槍をセット! 行け、セイバーキャノンッ!!』
「便乗ー。十万馬力でえんやこら♪」
ウィルがそうつぶやいたかと思うと、急にステルスの動きがおかしくなった。動かない。まったく動かない。もちろんこれはウィルの能力だが、このまま空中と地上から挟撃されるとなるとその威力は蔵人の一撃をはるかに凌駕する。これを食らえば、間違いなく大爆発だ。しかし、動けないものは動けない。伝説は伝説を生み、そして新たなる伝説を生んだ。ここにいる皆が歴史の生き証人となる。
『竹槍で戦闘機どころかステルスを挟撃で撃ち落とす』
チュドーーーーーーーン!!
やっぱり爆発した。軍人からは雄叫びが、シュラインや武彦からは安堵のため息が、そしてウィルと零からは恍惚の笑顔が出た。今さらながら蔵人は思った。『なんだろう、このバカバカしさは……』と。
冥月は地上部隊の連中だけでなく車まで影の牢獄に叩き込んで一切の不安を排除した。本来なら何もかもスクラップにしてしまうところだが、なんでも今から祝勝会が始まるらしいから面倒なことは止めた。今回はシュラインと零で用意したおにぎりにおしんこ、そしてお味噌汁。純和風なメニューにパニー一同も大喜び。しかしこの画はどこから見てもおかしい。自分たちを戦闘機とボウガン、スピーカーが囲んでいるのだから。シュールもここまで来るとフォローのしようがない。ウィルの竹の精霊さん姿はパイロットの間で大人気。カランカランと音を鳴らして歩くだけでフィーバーする。蔵人は「ダイエット中ですんで」とか言いながらも「ご厚意を無駄にはできません」と食べちゃった。
勇介は戦闘の終わった空を眺める。この戦いは心霊テロ組織との戦いの一幕に過ぎないのかもしれない。しかし、ここで何かが形になった。そんな実感があった。それは嬉しそうに笑って給仕をする零の気持ちと似ているだろう。夕暮れ迫る中、戦闘機の明かりに照らされた勇者たちの晩餐はまだまだこれからである。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】
2352/里見・勇介 /男性/20歳/幽者
0086/シュライン・エマ /女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2778/黒・冥月 /女性/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
6961/藁科・ウィリアム /男性/18歳/迷子センターのお兄さん
4321/彼瀬・蔵人 /男性/28歳/合気道家 死神
(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)
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■ ライター通信 ■
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皆さんこんばんわ、市川 智彦です。復帰第一作、お待たせいたしました。
今回の内容は過去に類を見ないほどのナンセンスで自分でも驚きました(笑)。
これも皆様のプレイングのおかげでございます。今回も楽しませていただきました!
今回は本当にありがとうございます。またいろいろな依頼を出していきますね。
また通常依頼やシチュノベ、特撮ヒーロー系やご近所異界などでお会いしましょう!
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