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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 不幸→幸運

 (オープニング)

 草間興信所の出来事である。
 「草間さん、先日はありがとうございました…」
 巫女のような姿をした少女が草間に礼を述べている。
 「…建物に入る時は、ノックをしてから入った方がいいぞ」
 「ああ、そ、そうですね。すいません…」
 草間が少女に注意をすると、少女は、すーっと足音も無く、玄関から外へと出て行った。
 「すいません、草間さん、入ってもいいですか?」
 トントン。と、ドアを叩きながら少女は言った。
 「いや…まあ…」
 草間が答えると、少女は興信所の中に再度入ってきた。
 「建物に入る時は、ドアを開けて入った方がいいぞ」
 「そ、それもそうですね。すいません…建物に入ったりするのって、久しぶりで…」
 草間が少女に注意をすると、少女は、すーっと浮いて、草間の側までやってきた。
 少女は、浜栗こよみと生前は呼ばれていた幽霊で、百年程前から、死んだ場所である神社の階段にそのまま留まっていた事を草間は知っている。多少、一般常識を忘れていても仕方ないか。と、思った。 
 「いや…まあ…
  で、どうしたんだ?地縛霊はやめたのか?」
 草間が少女に尋ねる。確か、彼女が地縛霊をやっていたのは、名義上は東京都に属するものの、遥か南の島だったはずだ。 
 「はい、地縛霊をやめたわけじゃないんですけども、その後色々とありまして…あの神社の方には私は居なくても良くなったみたいなのです。
  なので、今は守護霊になる為に修行をしてまして…」
 守護霊とは、人にとりついて、その人に色々な幸運を与えたりする霊である。と草間は認識している。
 「そうなのか…まあ、がんばれ。いつまでも、一人で神社をさ迷っているよりは良いだろう」
  そもそも成仏した方が良いんじゃないかとも思うが、地縛霊よりはマシだろう。と、草間は浜栗こよみに言った。
 「あの、それで相談なのですが、とりつかせてもらえませんか?
  守護霊の仮免許はもらったんですけども、実技試験として、何人かにとりつかないと、本免許はもらえないんです…」
 「仮免許って…わかった、とりついてみろよ」
 「それじゃあ、失礼しますねー」
 と、浜栗こよみは草間の背後に回った。草間は耳元で彼女の声を感じる。背筋が何となく寒くなった気がした。
 …待てよ、こういう時は?
 草間が天井の方を見上げると、壁にかけてあった時計が外れて、草間の頭に落ちてくる所だった。何となく、時計を受け止める。
 …こんな事だろうと、思った。
 「わ!ナイスキャッチ!ですね!」
 すごいなー。浜栗こよみは、ぱちぱち。と手を叩いた。
 「…わかった。とりあえず、人は探してみる」
 まあ、死ぬ事は無いだろう。と、草間は思った。

(依頼内容)
・地縛霊の少女が修行の為にとりつく相手を探しています。誰か何とかして下さい。
・とりつかれると、しばらく不幸になるようです。


 1.シュラインの提案と冥月の拳

 草間興信所に地縛霊がやってきた。
 それは、草間によって、それなりに各地に伝えられ、何人かの奇特な者…いや、心ある者が、地縛霊の浜栗に憑かれてもいい。と、言ってくれた。
 「下らない用で呼ぶな!」
 と、草間からの電話に不機嫌な口調で即答したのは、元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒の黒・冥月だ。
 彼女の言葉を通常の日本語に直すと、「わかった行ってやる」という意味になる。冥月は、ひとまず興信所へと向かう。
 興信所には、すでに草間武彦本人や、零といった居住者が居る。そこに、事務員のシュライン・エマがやってきた。
 「あら、お久しぶりね。
  元気そう…なのかしら?」
 地縛霊に元気というのはあるんだろうか?
 少し疑問に思いつつ、シュラインが浜栗に言った。以前、彼女とは、少しだけ面識がある。
 「あ、シュラインさん。その節はお世話になりました」
 地縛霊といえど記憶力を有している浜栗は、シュラインに礼を言った。
 「なんだか、よくわからないけど、あの神社に一人で居なくても良くなったのね?」
 「はい、私が一緒に居た階段さんが成仏しましたので…」
 浜栗はシュラインに答える。彼女は神社の階段で転んで死んだ後、その場に留まり、死亡原因となった階段の悪霊を鎮めていた。それが、もう終わったらしい。
 「でも、浜栗さん、地縛霊なんでしょ。
  こんな遠くまで来て平気なの??」
 浜栗が居たのは、遥か南の島だ。草間興信所からは数百キロは離れている。
 「うーん、東京都内だから平気なんじゃないでしょうか?」
 私もよくわかりません。と、浜栗は言った。
 世の中、わからない事だらけだ。一同は頷いた。
 「…ところで、シュライン、しばらく浜栗を預かってもらえるんだな?」
 「ええ、事務所で仕事してる時なら、構わないけど」
 ここなら、まあ、武彦さんとか零ちゃんも居るから、何かあっても何とかなるでしょう。と、シュラインは心の中で付け加えた。
 「じゃあ、早速お邪魔しますね」
 ふわふわー。と、草間の側を浮いていた浜栗が、シュラインの背中に回った。
 「シュラインさんに良い事があるように、がんばりますねー」
 「え、ええ、お願いするわ」
 シュラインは少し背筋に寒気を感じた。これは、結構大変かもしれない。と、思った。
 「そういえば武彦さん、少し顔色が悪いけど?」
 「ん、ああ、昨日の夜、寝ようとする度に無言電話がかかってきて、あんまり眠れなくてな…」
 草間は、少し眠そうに欠伸をした。
 「すいません、私が至らなかったばっかりに…」
 しくしく。と、背中の方で浜栗のすすり泣く声が聞こえる。特に前触れも無く、本棚の本が一冊、倒れた。
 「い、いいのよ、あんまり気にしなくて。そのまま、がんばってね」
 何だか、余計に不幸な事が起こりそうだ。シュラインは浜栗にあんまり気にしないでね。と、言った。
 「そうですか。それでは、がんばりますね」
 浜栗は気を取り直した。
 「そうそう、そんな事より、幾つか確認したいんだけど、いいかしら?」
 「はい、何でも聞いて下さい」
 「…あの、まず一つ目なんだけど、背中の方に憑いてないといけないの?
  お話する時は、出来れば顔を見て話したいんだけれども…」
 浜栗が泣かない様に、シュラインは言葉を選んで言った。
 「あ、すいません、大丈夫ですよ。何となく、こうした方が取り憑いてるっぽくていいかなーって思っただけですから」
 「そうだったのか…」
 数日の間、浜栗を背負っていた草間が憮然として言った。
 「じゃあ、聞くけど…」
 ばたん。
 シュラインの声を遮るかのように、興信所のドアが開いた。
 「あら、きれいなお姉さんですね」
 浜栗が言った。
 なるほど、外見に関して、きれいかそうでないかの2択で考えれば、きれいな方に入るだろう。黒・冥月だ。
 「お前か、地縛霊の浜栗というのは。
  …気に入らんぞ。そういう試験に知人を頼ってどうする!
  甘い採点で、後で苦しむのは自分だぞ!」
 ふらふらと巫女装束で飛んでいるのが浜栗こよみと判断した冥月は、彼女に向かって言った。
 まあ、それには一理あるような気はする。居合わせたシュラインや草間も、多少は同感な気もした。
 「確かに一理あるが…
  一つ、訂正する事がある」
 草間は言いかけて、言葉を切った。
 「浜栗、冥月はお姉さんではなく、お兄…」
 草間の言葉を最後まで聞かずに動いたのは、冥月だった。彼女の右拳が草間の顔面にめり込み、草間は最後まで言葉を続ける事が出来なかった。
 右ストレートという技がある。
 単に拳を真っ直ぐに突き出すだけ…と、素人に思われがちな技だが、それ故に最短コースで相手を攻撃する事が出来る。理想的に力を乗せた右ストレートを放つ事は素人には不可能であり、もし、それさえ出来れば、最短コースで相手を狙う必殺技ともなりえる技だ。
 影を操る事を生業とする冥月だが、彼女の真価は、この右拳にあると考える専門家も一部には居るかもしれないが、定かではない。
 「じゃあ、一人増えた所で話を続けていいかしら?」
 特に何事も無かったかのように言ったのは、シュラインだ。草間は無表情に鼻血を拭いている。
 …この人達、何だか怖い。と、浜栗は少し思った。
 「浜栗さん、試験について少し聞きたいんだけど、何人位に憑けばいいのかしら?
  あと、禁止事項でもあったら、教えて欲しいんだけど」
 まず、ルールを確認しておきたい。とシュラインは言った。
 「そうだ。そもそも、知り合いに頼んで良いものなのか?
  後で『友達に頼むのは禁止でした。えへへ、失敗しちゃいましたぁ』とか言われても、許さんぞ」
 無駄な努力はしたくない。と冥月も言った。
 「冥月、『友達に頼むのは禁止でした。えへへ、失敗しちゃいましたぁ』の部分を、もう一度大きな声ではっきりと言ってもらえるか?
  聞き取れなかったんだが…」
 「聞き取ってるじゃないか!」
 冥月の拳が草間に炸裂した。
 「え、えーとー、特に人数というのは決まってないんです。
  ちゃんと憑りつけば、一人でも良いし、ちゃんと出来なければ、百人に憑りついてもだめなんです。
  禁止になっている事は、特には無いです。
  ただ、元々憑いてらっしゃる守護霊の方が居たら、仲良くするようにって話です」
 「一人でいい事もあれば、百人でもだめな時はだめ…抽象的な話だな」
 面倒な話だ。浜栗の話に草間は軽くため息をついた。
 「とりあえず、武彦さんに憑いただけじゃ、だめだったのね…」
 「草間は、だめ…と」
 シュラインと冥月が言った。
 「憑いている人に良い事が起こるようになれば、守護霊として合格みたいです。
  そうでなければ、だめって事ですね…」
 「なるほどねー…
  まあ、何事も経験かしらね。
  憑く相手が足りなそうなら、アトラスの三下くんにも、一応声をかけておく?
  あの人なら、まあ、不幸が一つや二つ増えても、守備範囲だと思うし」
 確かにそうだ。あの男なら、それ位、どうという事は無いだろう。
 シュラインの言葉には、草間と冥月も同意した。
 「へえ、不幸をものともしない、強い方なんですね、三下さんて。
  …男らしい人なのかな」
 少しうっとりした顔で、浜栗が言った。
 「いや…それは…まあ、いい。
  私は、これから別件で仕事がある。せっかくだから、浜栗も憑いてくるか?」
 「はい、どこでも行きます」
 浜栗は即答した。彼女はすーっと、冥月の背後に回った。冥月は、少し寒気がした。
 「いいか、浜栗。冥月は頼りになる。実の兄と思って、何でも聞けよ」
 草間が浜栗に声をかけた。
 冥月が言葉も無く、草間を殴ろうと…したが、空振りした。
 …ある意味、すごい力ね。シュラインは派手に空振りして突っ伏した冥月を見て思った。
 「…おーい、零、居るかー?」
 なるほど。これが地縛霊の力か。冥月が事務所の奥の方に声をかけた。
 「はーい、なんですか?」
 きょとんとした顔で、零が顔を出す。
 「零、これで草間を殴れ。
  そしたら、小遣いをやる」
 冥月が、常備している金属バットを零に手渡した。
 「あ、はい…お客さんの頼みでしたら?」
 零は、きょとんとした顔で頷いた。
 「じゃあ、行くぞ。浜栗」
 「はい、行きましょう」
 冥月は後を振り返らず、事務所を後にした。彼女の思い(バット)を受け取った零は、任務を忠実にこなした。
 「…武彦さん、女の子を性別の事でからかうのは、あんまり良くないと思うわよ?
  あと、零ちゃんも、少しは手加減した方が…?」
 「少し…悪かったと思う」
 「あ、手加減ですか…」
 あんまり血が出ると、死ぬわよ?と、シュラインが草間事務所関係者に言った。草間と零が、なんとなく頷いた。
 …さて、浜栗さんが出かけてるうちに、事務処理の仕事を進められるだけ、進めておいた方がいいわね。シュラインは仕事に励んだ。勤勉な人である…
 
 2.地縛霊と共に

 「ところで、冥月さん、どこに行くんですか?」
 「ヤクザの護衛だ。一応、命がけだから気をつけろ」
 浜栗の問いに、冥月が答える。
 「ヤクザ…って、よくわからないんですが、護衛という事は、守る…守護するって事ですよね?
  誰かを守る…素晴らしい事ですね」
 冥月さんて、良い人なんですね。と、浜栗は言った。
 「いや、まあ…」
 面倒なので、冥月は、あまり細かくは説明しなかった。
 それから、冥月は、黒い服を着てサングラスをかけた男達と合流した。これから、白い粉の薬を売りに行くそうだ。冥月はその為の護衛であった。
 「へー、薬屋さんなんですね?」
 「いや、まあ…」
 面倒なので、冥月は、あまり細かくは説明しなかった。
 埠頭にある倉庫で、冥月とヤクザは、取引相手のヤクザと遭遇した。
 色々と怒鳴りながら、話をしている。何を話しているのか、浜栗にはわからなかったが、仲良く話しているようには見えなかった。
 「いかん…交渉決裂か。
  浜栗、じっとしてろよ」
 冥月が言った。こんな時の為に、彼女は居た。
 浜栗が取引相手の方を見ると、何やら長い筒のような物を取り出している。
 …あ、鉄砲かな?
 村の猟師さんが持ってたのとは違うけれど、多分、鉄砲だろうと浜栗は思った。
 取引相手のヤクザは機関銃を構え、殺る気は満々のようだ。
 「…む、私に任せてください!」
 と、浜栗が、すーっと冥月の前に出て、手を広げる。
 「私は体がありませんから、鉄砲を撃たれても平気です!
  お守りします!」
 手を広げると、巫女の衣装がひらひらと揺れた。
 …む、なかなか責任感の強い奴。冥月は少し感心した。
 浜栗の姿など見えない取引相手のヤクザは、全く動じず、機関銃から、一秒辺りに10発の弾丸を放った。
 放たれる無数の弾丸。
 だが、体の無い浜栗には銃弾など、全く無意味だった。
 全ての弾丸は、彼女の体を通過する。
 通過して、そのまま、彼女の後ろに居る冥月に向かう。全く勢いを削がれる事無く、全て。
 「…あれ?」
 「おい!
  ちょっと待て!」
 無数の弾丸に無防備に晒された冥月が、怒鳴った。
 「は、浜栗よ。気持ちはわかったから、私の後ろに居るんだ。
  …いいな?」
 「は、はい」
 これじゃ、単に目隠しをされたようなものだ。冥月の言葉に浜栗は従った。
 結局、何百発かの銃弾を浴びたものの、所詮、相手は、ただの機関銃を持ったヤクザである。冥月が本気で影を繰り出せば、負けるような相手では無かった。
 「あ、あのー…血が出てますけど、平気ですか?」
 「…あまり平気じゃない」
 ヤクザから報酬を受け取り、ひとまず冥月は浜栗を連れて興信所の方に帰った。
 草間興信所には、出かける前と同じような面子が居る。
 「というわけで、私は、しばらく休む。浜栗を置いていくぞ…
  まあ、守護霊、がんばれよ」
 冥月は浜栗に一声かけて、一度、興信所を去っていった。
 「お大事に…」
 一般的に見て、瀕死の重傷に見える冥月を、シュラインは見送った。
 それから、浜栗は草間興信所で、シュラインの所に居座った。
 黙々と事務処理を続けるシュライン。
 「…あの、武彦さん?
  見慣れない領収書が山ほど出てきたんだけど?」
 「…あ、悪い。忘れてた。
  それ、経費の申請って事で宜しく」
 「『宜しく』…とか、軽く言われても困るんだけど…?」
 「すまん…」
 火の車に灯油とガソリンを投げ込んだような、草間興信所の財政である。頭が痛い所に、さらに領収書が出てきた。
 「お金、無いんですか…?」
 「ええ、最近は不景気で…ね」
 心配そうに尋ねる浜栗に、シュラインは答えた。
 頭は痛いが、領収書が出てきたのだから、合法的に経費として処理すれば税金も安くなる。目先の仕事が山ほど増えるのは痛いが、長期的に考えれば、不幸とは言えないが。
 …微妙ね。
 シュラインは、ため息をついた。
 まあ、頭にタライが振ってくるよりは良いわね。と、彼女は納得する事にした。
 その後も、何やら事務処理上の不具合が次々発覚して、シュラインの仕事はいつになく長くなった…
 そんな風にして、一日が終わった。
 翌日、再び冥月が事務所に来た。
 「なんだ?まだ何か用があるのか?」
 尋ねる草間の顔面に、冥月の前蹴りが飛んだ。地縛霊の加護さえ無ければ、ちゃんと当たる。
 「これから買い物に行く。
  付き合え、お前ら」
 冥月が言った。
 「買い物…って、何を買うの?」
 まあ、昨日、山ほど仕事をしたから、今日は少しなら良いけど。とシュラインが答える。
 「うむ。縁のある中国系孤児院に贈り物をするんだ。いっぱい買うから、手伝え」
 冥月が言った。
 「恵まれない子に愛の手をって感じですね。行きましょう」
 浜栗が言った。
 「手伝う報酬は、何が貰える?」
 「…拳と蹴り、金属バットの中から、好きな物を選べ。
  少し古いが、チェーンソーというのもあるぞ。苦しまなくて、一瞬でバラバラになれるから、おすすめだ」
 「…たまには、ボランティアもいいな」
 草間と冥月が何やら話している。
 特に忙しいわけでも無いので、草間興信所関係者は、冥月の買い物に付き合う事にした。
 「あ、向こうで白装束の人が売ってる、『買うと幸せになれる30万円の壷』とか、どうでしょう?」
 最近は、そんな便利な物も売ってるのですね。と、街頭で何やら販売活動している宗教団体の人間を指差して、浜栗が言った。
 「浜栗さん、幸せって壷を買って得られるものじゃないと思うわよ…」
 「んー…、それもそうですね。
  じゃあ、あっちで黒い服を着てサングラスをした人が売ってる、『飲むと幸せになれる末端価格10万円の白い粉』も、買わない方が良いですね?」
 シュラインが浜栗と話している。最近は、色んなものが売ってるんですね。と、浜栗は思った。
 一向は、適当な店で、孤児院向けの贈り物を探す。
 「孤児院向けの贈り物って、どういう物が良いんでしょうか…」
 零が悩んでいる。
 「やっぱり、実用品が良いかしらね?普段着るような洋服とか」
 「そうだな。修繕しながら着ても限度があるし。
  きらびやかな服なんて物は要らんが、みすぼらしい服を着させて、それが原因で蔑まれるのは可哀想だしな」
 シュラインと冥月が答えた。
 こっそりと、草間は浜栗を連れて福引所に並んでいたが、全く当たる気はしなかった。もちろん、当たらなかった。
 そうして、のんびり買い物をしていたが…
 ぐらぐら。
 少し、地面が揺れた気がした。地震のように定期的な振動ではなく、一瞬、地面が傾いたような揺れだった。自然の揺れとは、何か違う。
 「…ねえ、最近、建築基準に違反してて、いつ倒れてもおかしくない建物って話題になってるわよね?」
 「ああ、大陸の方だと、デパートが丸ごと崩壊した事もあったな」
 シュラインの問いに冥月が答えた。
 「おい…帰るぞ、お前ら」
 草間が青い顔をしている。皆、草間の意見に賛成だった。
 その後、草間興信所関係者の紹介で、しばらく浜栗はアトラス編集部の三下の所に、とりついていたという。特に事情を知らされずに浜栗にとりつかれた三下は、特に何も気づかなかったという…
 
 3.守護霊の手紙

 浜栗が草間興信所に来てから2週間程過ぎた、ある日の事である。
 今回の関係者の元に手紙が届いた。手書きの筆で書かれた、丁寧な手紙だ。
 『皆さん、その節はお世話になりました。
  色々な人にとりつき、私は守護霊の見習いになりました。
  大体、2回に1回位、皆さんに幸福をお届けする事が出来そうです。御礼を申し上げます。
  御用がありましたら、いつでもお呼び下さい。私はいつでも、あなたを守護しに参ります』
 2回に1回…
 手紙を受け取った関係者は、複雑な表情で手紙を読んでいたという。

 (完)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2778 / 黒・冥月 / 女 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

(PC名は参加順です)

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。MTSです。今回はお買い上げありがとうございます。
今回は途中まで個別で書いていたのですが、オープニングに個別で書くとはどこにも書いていませんでしたので、やっぱり集合で書き直してみました。
いかがでしたでしょうか…
また、機会がありましたら、宜しくお願いします。
ありがとうございました。