コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


五つの封印石〜第五話〜

オープニング

 ざわざわと複数人の話し声により、騒がしくなる教室内。話し声の一つ一つは小さくとも、全員でおしゃべりをすればそれなりに耳障りな騒音となる。
 そんな教室内で、他の生徒たちと同じように話す女子高生の二人が居た。
「巨人?」
 吉良原吉奈は目の前に居る少女の言葉に思わずそう言葉を返していた。
「ええ、今じゃ学校中の噂よ。深夜に校舎に現れる巨人の噂。宿直の先生が目撃したらしいんだけど、もしかしたらそれって最後の怪物じゃないかと思って、親切にあんたに教えに来てやったのよ」
 神妙な顔をして言う牧原尚美の言葉に、吉奈は腕を組んでなにやら考え込むポーズをとる。しばらくそのポーズをしていたかと思ったら、肩をすくめ、諦めたように尚美に声をかける。
「考えていても埒があきませんね。とりあえず、今夜、学校に来て見ますよ」
「私も来るわよ」
「危ないですよ」
「ここまで足を突っ込んだのよ! 黙ってみてられるわけが無いでしょう」
「やれやれ、ですね」
 吉奈は呆れたような表情を浮かべると、尚美と今夜のことについて話し合う姿勢を見せた。



 満月が夜空に輝き、星の光がチカチカと瞬く静かな夜。空はすがすがしいほどに晴れ渡り、雲の陰さえも見えないそんな夜に、吉奈と尚美は二人で神聖都学園の前に立っていた。夜の神聖都学園はしんと静まり返り、とても巨人が出るようには思えない。二人は身軽な動作で学園の中へと忍び込むと、歩き出した。
「本当に出るんでしょうかね」
「噂だから、嘘かもしれないけど、見てみるしかないでしょう」
「まぁ、そうですね」
 二人はそんな会話を繰り広げながら校舎内を見回る。
 二人が諦めかけたその瞬間、神聖都学園高等部校舎がゆれた。
「うあ、地震!?」
「私達が、目的としている奴かもしれません」
 慌てる尚美とは対照的に、吉奈は冷静に事態を見極めようとしていた。
「外に」
「あ、ちょっと、待ちなさいよ」
 地面が揺れ、うまく走れない尚美に対して、吉奈はすばやい動作で駆け出した。二人が校舎の外へと出、校庭へ向かうとそこには校舎を飛び越すほど巨大な巨人が佇んでいた。
「がぁぁぁぁ」
 頭が割れそうなほど大きな声で雄たけびを上げる巨人に対して、吉奈と尚美は絶句して見上げた。巨人とは聞いていたもののこれほどまで大きなものだとは考えていなかったのだ。巨人は校舎の一角に手を伸ばす。その様子を眺めて、吉奈ははっと正気にかえる。
「とりあえず、爆破しなくては」
「そ、そうね」
 尚美は答えたものの、声が上ずっている。
 吉奈はそれを気にすることなく巨人へと向かっていった。飛び上がり、巨人の右足に触れ「点火」と口の中で言う。爆破は起こったものの巨人の大きさに対してその程度の爆破力では力不足だったようだ。巨人は少々異変を感じたのか、吉奈を見て、その巨大な腕で吉奈をつぶそうとする。彼女は寸でのところでよけながら舌打ちをした。
「これはまずい…。単純にデカいだけの相手ですが、それ故シンプルに…強い…!」
 身軽な動作で吉奈は尚美の元へと戻る。
「どうすればよいと思いますか?」
「わからない、こんなに大きかったらもう何がなんだか……」
 尚美はそういって巨人を見上げている。
 吉奈も苦々しげに巨人の様子を眺めていた。
 しばらくしてから、尚美があることに気がついたというような顔で吉奈に視線を送った。
「あ、あれって弱点じゃない…!?」
 尚美が指し示した巨人の頭部を見ると、そこには何か紋章をかたどった青白い光が宿っている。吉奈は胡散臭そうな顔で尚美を見ると、一言。
「…ゲームのやりすぎですよ」
 吉奈の言葉が図星だったのか、それとも馬鹿にされたと感じたのか、尚美は頬を染めて彼女に食って掛かる。
「うるさいわね!」
「まぁ、ほかにめぼしい弱点らしきものもありませんしね。あそこを爆破してみるしかありませんか」
 溜息と共に出された言葉には若干の疲れが見えた。額まで行くには巨人の体をよじ登る必要があったからだ。吉奈は覚悟を決めたように息を吐き出すと、巨人の足へ向かって走り出した。巨人は着実に校舎に手をかけている。そこから壊すのか揺らすのか、彼女には予期できなかった。
 野蛮な巨人の様子に、眉をゆがめながら、吉奈は巨人の足にしがみついた。足はしっかりと地に着いているため、そこまで強い振動は来ない。
「足場がなくて、きついですね」
 吉奈はひいひい言いながら巨人の足を上りきり、腰へ行き、わき腹を上りと着実に巨人の体をよじ登っていった。だが、かすかな違和感に気がついたのか、巨人が吉奈の姿をその目に捉えた。そのときにはもう、吉奈は巨人の肩まで来ていた。気づかれたことに彼女は舌打ちを行い、吉奈を振り落とそうと体をねじる巨人に対して、決して離れるものかとしがみつく吉奈。傍目から見たら失笑を誘いかねないその攻防だったが、いたって本人たちはまじめだった。巨人が体をひねったために、校舎ががらがらと音を立ててえぐれてしまう。
 首を上り頬を上り、巨人は首を思い切り振る。
 振り落とされそうになりながらも、吉奈は巨人の頭上に光る模様に手を触れた。
 その瞬間、吉奈は屋上へと振り落とされた。
 落ちるその時、彼女が口を開く。
「―――点火」
 すさまじい爆発音と共に、巨人の頭の模様が爆発し、巨人は校庭へと倒れこんだ。
「……ビンゴ、だったみたいですね」
 吉奈はつぶやくと、そのまま屋上に倒れこんだ―――。



「あれって……」
「壊れたはず、ですよね」
 翌日、丁度同じような時間に登校して来た吉奈と尚美は、壊れたはずの校舎が何事も無かったかのように直っているのを見て、ぽかんと間抜けな顔をぶら下げた。
「もう、あんな化け物は出ないんでしょうね」
「ああ、全部倒しましたからね」
 尚美の言葉に応えると、やれやれと言う様に吉奈は歩き出した。彼女の背中に向かって、尚美が声を投げかける。
「また」
 吉奈は振り向いた。
「また、大変になったら助けてやってもいいわよ。……面白そうだし」
 尚美はそれだけ言うと、もう耐えられないとでも言うように顔を背けた。
 吉奈はそんな尚美の様子に、微笑を向けると、一言を送った。
「お願いします、ね」
 尚美が驚愕を顔に貼り付けて吉奈を見ようとしたそのとき、彼女はもう普段の生活に戻るために校舎へ向かって歩き出していた。

エンド

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3704 / 吉良原 吉奈 / 女 / 15 / 神聖都学園高等部全日制普通科に通う高校一年生、キラープリンセス】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

吉奈様
どうでしたでしょうか。
これで五つの封印石はおしまいです。
牧原尚美がかなりでしゃばってしまいましたが、ツンデレキャラということで(笑)
また、次もよろしくお願いいたします。