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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


VS アクアスネーク

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0.オープニング

「まぁ、今更だけどさ」
溜息混じりに あたしが言うと、少女はキョトンとして言った。
「はい?」
「物好きだよね。あんたって子は」
目を伏せ、クスクスと笑う あたし。
少女は、少しはにかんだ笑顔を返す。
自覚がないわけじゃあないんだよね。この子は。
まぁ、あたしも似たようなもんだし…強くは言えないけれど。
「さぁて…」
目の前でクネクネと動く不気味な巨大蛇を見上げ、
あたしは常連客リストをパラリとめくる。

誰に頼もうかねぇ…。

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1.

「あ?何だ今更。貴様が言うから来たのに、要らんだと…?」
ガチャッ―
カランカラン―
「あのな。私だって、暇じゃないんだ」
通話しつつ店内に入ると、バチリと蓮と目が合う。
蓮の隣には見慣れぬ少女。その傍には、水を纏った妙な巨大蛇。
慣れ、というのは、時に厄介なものだ。
瞬時に現状把握できてしまう自分が居る。
ハァ、と溜息を落とす私。
同時に電話の向こうから、奴の甘い からかい台詞が飛んできた。
「なっ…バ、バカ。何言って…きさ…はぁ?べ、別に嫌いとか、そういう…」
突然アタフタしだした私を見て、蓮がニヤニヤと笑う。
「あ、後でかけなおす。じゃあな!」
ピッ―
一方的に電話を切り、懐にしまう私。
「旦那と痴話喧嘩かい」
ククッと笑う蓮。私はツカツカとカウンターに歩み寄り否む。
「旦那でもないし、痴話喧嘩でもないっ!」
はいはい、わかったわかった、と肩を竦める蓮。
あぁ…もう。本当に腹が立つ。何なんだろう。この女の、この雰囲気。
苛立つ私の心を、更に乱すもの。それは、
さっきから舌を出しつつ、シャアシャアと声を張り上げて威嚇してくる妙な蛇。
えぇい、うるさいっ。
スッと左手を上げ、円柱の影を伸ばし放つ私。
影に包まれて三秒。跡形もなく消える蛇。
要するに、こういう事なんだろう?
何とかしてくれ、と。そういう事だったんだろう?
私はな、苛付いているんだ。
何だか良くわからないが、そう、物凄く。
詳しく話を聞くつもりはない、そんな余裕がないんだ。
まったく…あいつめ。
突然連絡してきて、やぶからぼうに頼み事しおって。
朝食準備の途中だったのに。急だ、急ぐんだ、と言うから来てやったのに。
店に着いた途端”やっぱ要らん”だと。ふざけやがって…。
私を何だと思ってるんだ。全く…。
とにかく、ここに居る必要は、もうない。
ならば、早々に立ち去るべきだ。
ここに居ると、何かと苛付くからな。
「じゃあな」
スタスタと扉に向かう私。
ドンッ―
「むっ?」
背後からのタックル。
振り返ると、そこには蓮の隣にいた少女が。
腰にしがみ付いて、私を見上げていた。

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2.

「何だ」
冷たい眼差しで見下ろし言うと、少女は今にも泣きそうな表情を浮かべ言った。
「アリエスタはっ。アリエスタは、どこに行っちゃったんですかっ?」
アリエスタ…?首を傾げる私。…あぁ、あの蛇の名前か。
理解した私は、淡々と言う。
「亜空間に飛ばした」
私の言葉を聞き、ギョッとする少女。
「も、戻して下さいっ!早くっ、早くっ!」
首を左右に振りながら、必死に乞う少女。
…何だ。始末して欲しかったんじゃないのか…?
眉を寄せつつ、私はパチンと指を弾く。
すると、出現した影から、ニュッと蛇の頭だけが出た。
キョトンとしている蛇。
マヌケなその姿が妙に滑稽で、私は苦笑しつつ。
ペシッと蛇の頭を叩いた。


…成程な。そういう事だったのか。
まぁ、異質であるにしろ、蛇は蛇。
しかも、こんなにデカいんだ。
小さなお前では時折、役不足なのだろう。
「始末するか」
腕をまくって言う私。
飼っている、と言ったがな。それ自体が危険な行為だと、私は思う。
動物園の獣と同じ。どれ程慣れようが、ふと野生の血が目覚め事件を起こす。
今回は大した被害を及ぼさなかったが、次回もこうだとは、誰も言い切れない。
その時、お前は責任が取れるのか?
あまりにも、今のお前では、役不足なのではないか?
少女を見つめつつ、眼差しで伝える私。
けれど、少女は首を左右に振る。ポロポロと涙を零しながら。
…愛情で。全ては賄えないとは思うが。私も…甘いな。
私は、フゥと息を吐き、蓮に問う。
「報酬は?」
いつもの遣り取りだ。まぁ、予定外だが。それもまた、いつもの事。
私の問いに、蓮はフッと笑い、小さな声で呟いた。
「彼の昔話でも聞かせようかね」
彼。
蓮の言う”彼”とは、ただ一人を示す。
今の私にとっては、ただ、一人を。
昔話か…ちょっと興味あるな…いや、寧ろ知りた…。
ハッと我に返る私。
蓮のニヤニヤとした表情。
パッと目を逸らして、私は言う。
「べ、別にそんなもの…だ、だが、あの馬鹿をからかうのには役立つな。それで良い」
思惑通りに事が運んだ、と言わんばかりにクックッと笑う蓮。
あぁ…もう。さっさと解決してしまおう。さっさと。


グッと握り拳を作り、影を操る。
四方八方からギュッと押しつぶされる蛇。
息が詰まったように、グッグッと喉を鳴らす蛇を見て、少女は不安極まりない表情。
焦るな。勘違いするな。十分、伝わっているから。
お前にとって、この蛇が、大切な愛してやまぬ存在だという事は。
まるで、今にも割れそうな水風船。
蛇は、喉を鳴らしつつ、頭を激しく上下に振った。
謝罪とも、音上げともとれる、その動き。
私はパッと手を開き、蛇に歩み寄って告げる。
「いいか。お前は、この娘に絶対服従だ。もし、また暴れたら、その時は容赦なく殺すぞ」
低い私の声にパチクリと瞬きし、蛇は頷いた。
何度も。何度も。
…私に服従しているな。まぁ…良いか。

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3.

ありがとうございました、と聞き飽きる程言い、店を出て行く少女。
バタン―
柱時計の音が、鮮明に聞こえる数秒の静寂。
しかしまぁ…アレだな。どこにでも居るものだな。
妙なコレクターというか、変なものに心を魅されてしまう奴というのは。
不思議としみじみする私。
まぁ、夢中になれる好物があるのは良い事だ。
…人に迷惑さえ、かけなければの話だがな。
「アールグレイで良いかい?」
突然の蓮の言葉。
私はクルリと振り返り、蓮を見やって言う。
「ん?何だ、急に」
蓮は、席を立ちつつクスクス笑って。
「知りたいんだろう?彼の事を、もっと」
そう言った。
あっ、と気付き。私はコクリと頷く。
そして、即座に慌てる。いやいやいやいや、何がコクリ、だ。
そんな言い方は止せ。そんなつもりじゃない。ダシだ、ダシ。
あいつを苛め、苛むダシ。

美味な紅茶に酔いしれながら。
私は聞き入る。私の知らぬ、あいつの姿に。
妄想と妙な胸の高鳴りは留まる事無く。
夜が、更けて行く…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主

NPC / 沢渡・ハルカ (さわたり・はるか) / ♀ / 12歳 / アクアスネークの飼い主


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

納品が遅れてしまい、申し訳ございません;
気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/04/06 椎葉 あずま