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<東京怪談・PCゲームノベル>


蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間

 レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
 彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
 美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
 其れだけに美しい女性である。
 ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
 名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
 また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
 と、申し出るレノア。
 あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
 と、あなたは言う。
 うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。

 色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。

 様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。


〈陸誠司の視点〉
 陸・誠司です。トンでもないことになってしまったです。
 レノアさんを救ったことは、今でも後悔していない。けど、けど、色々ややこしいことにも、ああ困った。困った事って言うのは、えっと、その、理緒さんが、ここ神農堂で一緒に暮らすってことにあるわけで、えっと、うん、コレでも健全な青少年なので、精神衛生上宜しく……。いや、正直言いますと嬉しいんです、ハイ。うん、でも、好きな人と一つ屋根の下……ああ、どうしよう(いろんな意味で)。ああ、何か幸せ。それに、冷静に考えると、現実問題では……。理緒さん曰く、
「なに? 誠司さんは下着買ってこれるの?」
 のこと。
 無理です。はい、俺にはそんなことできません、恥ずかしいですよ! たしか、一時プレゼントでそう言う物があったとか――! って、それはそれっ――! 前に友人達と、女装される話題など思い出されてしまう――!
「なに、悶えているの? 誠司さん?」
「いや、何もしてないよ! なにもしてないから!」
 と、うれしさ反面、先が不安な、日々を過ごしています。
「?」
 いや、レノアさん? 小首かしげてみないでください。
「思いこんでは行けませんよ?」
「レノアさんが、そう言うのはおかしいよ?」
 苦笑してるのは理緒さん。
「え? すごい悩んでいましたから。私も心配になります。」
 心配してくれるのは嬉しいですけど。
「あー、コレは癖みたいな物だから気にしない方がいいよー。」
 理緒さんひどいっス。
「そうなんですか……。」
 納得しないで……(ずーん)。
 今はこの3人で暮らしているわけで。そこでレノアさんについて分かったことと言えば、すごい方向音痴であることだ。俺も、このだだっ広い家がどこにどう繋がっているか分からない場合もあるので。いや、そこで迷子になられると困ります。なので、常に俺か理緒さんが彼女の傍にいることになるんです。
 あの影が襲ってこなくなって、まるで其れが嘘のような日々。
 中庭で、レノアさんが、綺麗な声で美しい歌を歌っている。本当に天使のような歌。でも、言葉が分からないので、どういう意味か分からない。
「歌、好きなのですか?」
「はい。ふと口ずさむ名前以外に、思い出したものなんです。」
「意味は?」
 と、訊くと、彼女は首を振った。
“発音として覚えているけど、意味は覚えていない”という曖昧な状態みたいだ。しかし、この歌はとても心が和むし清められるのだった。暇があれば俺は理緒さんと、彼女の歌をすっと聴いている。
 本当に平和な、あの事件が嘘のような錯覚さえ……覚える。


〈桜月・理緒の視点〉
 桜月・理緒です。
 まさか、こんなことに。
 なにがって? うん、誠司さんがレノアさんを助けたあと、一緒に住むことにしたってことで。まさか、ねぇと。予想外なことになっているわけで。あの影が来ないのはたぶんかなりダメージを与えたのかどうか何だろうけど。それは、後々考えて。
 だって、レノアさんの服を選んだり、下着買ったりと日用品も買うわけだけど、ほら、一緒に暮らすんだから、私がお料理に掃除にお洗濯、2人の世話をするってことだから、こんな若い年齢で主婦を体験できるってそうそう無いよ? 家では、まあ、引きこもってばっかりだし。あ、通い妻ではなく同棲ってことになるんだよね。やっぱ嬉しいな。これは、レノアさんに感謝だよ。
 誠司さんは奥手だから、まあ、その、あれはないんだけどねぇ。うん(一寸残念)。
 いまは、買い物の途中。
「レノアさんはコレが似合うと思うよ。」
「え? そうですか? あ、これは良いですねぇ」
 やっぱり洋服選びは、楽しいな。
 レノアさんも、憂鬱で怯えている様子はなくなるし、服とにらめっこしている横顔がとても可愛い。綺麗な金髪に合う服。下着はえっと、レノアさんの好みが良いのかな? 
 誠司さんは日用品買いに行っている。女の子の買い物は、長いからねぇまたせるのは悪いし。それに、いまは悪戯することもないから。でも、お出かけ用の服の試着には呼び寄せてみよう。
「あの、理緒さん? これとコレがほしいのですけど……いいですか?」
 彼女が持っている服は、薄ピンク色のブラウスと一寸草色をしたTシャツだった。あ、でも、彼女ってどんな服が似合うのかなと考えると、色々選びたくなるなぁ。お人形さんみたいで可愛いし又は、とっても綺麗だし。ドール用ドレスを人間サイズにしたものとか、ゴスとか似合いそうだ。
「うん、いいよ。でも。それだけでは足りないと思うから見繕ってあげるね。」
「あ、ありがとうございます。」
 秋葉原でコスプレものも取り寄せようかなー♪ ゴスとか、メイドとか。
「さて、お披露目ですー。」
「あ、理緒さん? レノアさんの服を買いに着たんじゃ?」
「私も色々選んでいたら、買いたくなったの。 いいじゃない。 私の着ているの似合うかな?」
「に、に、似合います! とっても!」
 舌かんでいるし。誠司さん。
「理緒さん、すてきです。」
「レノアさんには負けるよー。だって、スタイルが違うしー。胸とか。」
「え? え? え?」
「はわわ! 理緒さん!?」
 レノアさんと私で、色々試着して、誠司さんをからかってみる。
 しかし、やっぱり私より、レノアさんは何着てもサマになるって言うかすごいなぁとおもった。だって、誠司さん見取れてた。一寸嫉妬。でも、まあ、素材がちがうものねぇ。レノアさんの赤面した顔が! 女性の私でも萌えるのだから!

 分かったことと言えば、レノアさんはとてもケーキとか甘い物が好きみたい。沢山食べるわけではないけど、一つ一つゆっくり食べる。でも、その至福の顔が、とっても可愛いの。ああ、コレは犯罪的ね。お強請りされたらいくらでも買ってきてしまいそう。レノアさんはそう言うことはしないようだけどね。
 でも、2人でこっそり甘み行脚してみたいね。と、思うのです。女の子にはそう言う秘密があっても良いかもと。


〈レノアのお礼〉
 レノアです。
 陸誠司さんと桜月理緒さんは、私に優しくしてくださっています。とてもありがたいことです。何も分からない私のために、此処までしてくれることが。私には何もできないことがもどかしかった。
「お礼を何かさせてください。お掃除、洗濯お料理を!?」
 と、言ったのだけど。
「ほへぇい?」
「お礼? 誠司さん、パンくわえながら喋らないで。」
 エプロン姿の理緒さんと、朝食中の誠司さんが私を見る。
「だって、色々良くしてくださって……。」
「いや、そんなことは良いよ。大したことをしたわけではないし。大げさだから。誰だって、誰かを助け助けられて生きている訳ですから、気にしないでくださいね。」
 誠司さんは言う。
 でも、それだけでは何か私は……。
「私も省みず、飛び込んできただけだから、気兼ねしなくて良いよ? それに。」
「それに?」
 理緒さんの、言葉に私は、彼女を見る。
「こういう形で笑って過ごせるなら、充分お礼はしてもらっているから。いいの。」
 と、笑顔で。
 私は、2人がとても幸せそうと感じた。
「あ、コーヒーできたよ。どうぞ。」
「ありがとう理緒さん。」
 とても仲が良い。
 ああ、この人達は、
「あの、お二人はやっぱり恋人同士なんですか?」
 思わず訊いてしまった。
 誠司さんは、コーヒーを吹き出し、理緒さんはそのまま硬直してしまった。
「あの、いや、その、えーっとそれは。」
「ああああ、友達だけど! 誠司さん、か家事が何にもできないからたまーに! ええ、 そうよね!?」
「ああ、理緒さんにはいつも!」
 あ、一部嘘がはいってそう。取り繕っているというか、なんていうか。
 この反応は、図星だと、記憶があまりない私でも――たぶんどこかで経験していても、“どこで経験”したのかを忘れているのかもしれない――、分かった。
「仲が良いことは良いことです。」
 私は、心の奥から笑えた。
 だって、この2人を見てあたたかいもの。

 しかし、この後の2人の一日は、とてもぎくしゃくしていた感じ。私飛んでもないことをうっちゃったのかな? どもっていたし。
 何もできない状態で、私はどうすればいいのか悩むこともわすれて、2人のことを考える。どう考えていたのかよく分かっていなかった。
「レノアさん散歩しよう。中庭に。」
 誠司さんは、まだ真っ赤な顔になっている。
 理緒さんを意識しているためか、どうかはさておき、今は一緒にいては気まずいのかも。
「あ、はい。」
 誠司さん中庭を散歩する、何とかこの辺の道順は覚えたのだけど、誠司さんが危ないからとついてくることがおおい。あの大きな桃の木が目印なので、自他共に認める方向音痴(汗)でも迷わなくなった自信はあるのだけど……。
 そこで色々考えていると、ふと、ある歌が思い出される。どこかで歌ったような……。何か懐かしく、悲しくなる歌。でも、野菜いあたたかい歌を。思わず、其れを歌い始めた。


〈歌〉
 朝にレノアが言った言葉に、誠司と理緒は、お互いを意識していた。
 ――あ、やっぱり俺。理緒さんのことが、でも、でも、俺は……。
 ――誠司さん、奥手だけど、私も似ているからなぁ。
 少し距離を取ってしまう。スキンシップはあまりしているということではないし、レノアの一言が、何か、複雑な気分にさせてしまったのだ。別にレノアのことを忘れている訳でもないのは、レノアの反応から見れば分かる(もし、忘れて放っておくと、お礼をしたいとか言わないだろう)。
 バターナイフを同時にとってお互いの手が重なってしまったとき、2人とも顔を真っ赤にしてしまって、手を引っ込めてしまう。
「ご、ごめん! 理緒さん!」
「あ、先に使うなら、誠司さんどうぞ。」
「あ、うん、ご、ごめん。」
 と、今まで親しく会話していた2人が、ぎくしゃくしている。
 レノアは失言したかな、と反省してしまうが、此処で謝ってしまうと、逆効果ではないかとおもい、それ以降言葉をつなげなかった。しかし、心から笑顔でいられた。
 朝食が終わる。
「ごちそうさま。」
「私も手伝います。」
「レノアさんは良いよ。さっき言ったでしょ?」
「あ、はい……。」
「レノアさん散歩しようか?」

 理緒は洗濯や掃除に精を出して、誠司はレノアが何か考えて、桃の木をうろうろしているのを眺めていた。
「ふうぅ、おわった? せ、誠司さん?」
「あ、り、理緒さん?」
 まだ、朝のことが気になっている。
 2人の関係はこのままで良いのかと、同時に考えていた。いつしか変わる。いつもこのままではいられない。どうすればいいのか。2人は迷った。
「レノアさん、悩んでいるのかな?」
「? そうなのかな?」
 2人はレノアを見る。
 レノアは、歌を歌っていた。英語でも別の欧州関連の言語でもない。
「……。綺麗な歌だ。」
「うん。」
 レノアは、2人がいることも気にせず、歌っていた。
 誠司と理緒は、心から何かを、感じる。
 無意識に誠司が理緒の手を握っていた。
 焦る必要はない、と、優しく握っていた。
 理緒も、優しく握り返した。
 レノアが歌う桃の木の舞台、2人はずっとその歌を聴いていた。

 心癒される歌を。


4話に続く


■登場人物
【5096 陸・誠司 18 男 高校生(高3)兼道士】
【5580 桜月・理緒 17 女 怪異使い】

■ライター通信
 こんばんは、滝照直樹です。
「蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間」に参加してくださりありがとうございます。
 レノアを取り巻く日常の一端、そしてお二人の恋愛関係を甘く楽しく描写を重きに置いてみました。いかがでしたでしょうか? 誠司さん、もっと、頑張っていきましょう、と応援します(どういう意味で?)。 理緒さん主婦体験おめでとうございます。
 4話はシリアスに戻ります。謎の男達との関わり、そしてレノアの正体などが行動次第で分かるかもしれません。

 では、4話でお会いしましょう。
 滝照直樹
 20070317