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●喫茶店『Blitz Kong』内部調査
●可笑しな依頼 〜何故何どうして?〜
喫茶店『Blitz Kong』、冬の厳しい寒さが弱まり春の風が強くなる中でもこの喫茶店は何時もと変わらずに人影はまばらで、長閑だった。
「なー」
「やーん、相変わらず可愛いー!」
それでも客はおり、久し振りに足を運んだ沢崎友(さわさき・とも)は以前に来店した時と同様に喫茶店のマスコット的存在である黒猫のゼオを撫で、余りの可愛さからか一緒になって店内を転がっていた。
「まぁ、他にお客さんがいないからいいけどね」
「ですがマスター、今日の掃除はまだ済んでいませんが」
「‥‥いいんじゃない。むしろ今止めるのは無粋なだけだと思うし」
そんな当人らを苦笑湛え見守るのは喫茶店のマスターが硲大輔(はざま・だいすけ)だったが、次にウェイトレスのセリ・D・ラインフォートがボソリ呟くと固まる彼だったが、その妻の硲恵理(はざま・えり)は再び彼女らに視線を移し、悦に入っている友の表情を見て言えば三人は直後、揃って頷く。
「何で使ってる店の調査なんか依頼しているんだろう、この人達」
とその長閑な光景の中、友以外に存在する数少ない客人が平代真子(たいら・よまこ)はカウンターにて、ついさっき来たばかりの今日のランチ(因みに今日のランチはハンバーグでした)を早々と平らげた後にその眼前に張り出されている一枚の紙片に目を留めては呟けば
「住まいの改善は行いたいけれど、貧乏暇なしとも言うからね」
「‥‥ま、いいか。何だかおもしろそーだし」
「理由があるのはいいけれど、それだけと言うのも何か複雑だな‥‥」
それを聞き止めた大輔が己の肩を竦めると彼女は口元をナプキンで拭った後、にっと笑顔を浮かべ言えばその発言に正直なコメントを添えるマスターだったが
「おもしろきゃ万事、それでいいからねっ」
「それに付いては全く同感っ」
「‥‥はぁ」
尚も返って来た、変わらぬ答えに恵理もグッと拳を突き出し応じれば、何とはなしに普段感じる疲労感を倍に受けている様な錯覚に囚われながら大輔は溜息を漏らす。
「あ、何か面白い物見つけたら、あたしのものにしていいのかな?」
「まぁ、物にも寄るかな?」
「金目の物は駄目だからねー」
「こら、露骨にがっつくな‥‥とりあえず何か見付けたら報告はして下さい。後は応相談、かな」
が依頼請負人に至ってはその限りではなく、やはり呑気にマスターへ再び尋ねるとしかし今度は大輔の答えの後に恵理がカウンターより身を乗り出し、人差し指を立てては注意すると妻を窘めてその夫は苦笑を漏らしながら正式な回答を代真子へ告げると、頷く彼女に笑顔を返しながら、閉店するまでゼオとじゃれていそうな勢いでやはり床を転げ回る友を見つめ、今度は大輔が彼女へ尋ねるのだった。
「で、ゼオとじゃれている君はどうするのかな?」
●内部調査開始 〜露骨に怪しい、一つの扉〜
それよりコーヒーを一杯、煽る程度の時間を経て‥‥今日唯一の客人二人は喫茶店『Blitz Kong』の店内にある、非常に怪しげな扉の前に立っていた。
「ふんふん、なるほどなるほど」
そして大輔からの簡単な話を聞いた後、その扉に手を掛けては色々と弄ってみる二人だったが彼の言う通りに扉は開かず、頷く友だったが
「それじゃあ一先ず、此処は私の出番って事で‥‥ちょっくら中の様子を見て来るよ」
やがて一つ決断すればしゅたっと腕を掲げそれだけ言うと異能力を振るい、見守る皆の前から一瞬にしてその姿を消す。
「ふべっ!」
すると果たして転移は成功し、友は扉を飛び越えてその内部にこそ移動するが‥‥内部の構造が分からない為、見事に壁の中へと埋没する形で転移してしまうと思わず叫んで彼女。
「ちょちょちょ、これってピンチじゃなーい?!」
頭部こそ壁に埋没されずに済んだからこそ、久々の失敗にうろたえて彼女はそれから暫く辺りの様子を伺う事も忘れ、必死に助けを求めるのだった。
●
暫くの後、何とか部屋の内部より帰還を果たした友‥‥着ている衣類が少々薄汚れたままに今は代真子と揃い、扉を開ける事に専念する。
「‥‥やっぱり、押しても引いてもスライドさせても動かないや」
だがやはり扉は何事にも反応せず、その口を開ける事がなければ惑う彼女らだったが代真子がやがて意を決すると助走をつけるべく扉から離れ、そして駆け出せば拳を掲げる。
「こうなったら最終手段‥‥殴り飛ばしてみよー!」
「‥‥申し訳ありません。そこの床は先程ワックスを掛けたばかりで非常に滑り易くなっていますので‥‥」
「ふへ?」
もその途中で響いたセリの言葉は果たして最後まで紡がれないまま、盛大に踏み込んだ足元が直後に滑ると彼女は間抜けな声を響かせ、その勢いのままに頭から扉へ突っ込んだ。
ずどーん!
『‥‥あぁぁ』
そして盛大な音が鳴り響けば喫茶店を揺さぶる中で見守っていた店員の皆が皆、呻いたのは言うまでもなく。
再び時間を置く事、小一時間‥‥。
「お互い、苦労したけどこれでとりあえずは先に進めるね」
「よっし、頑張るぞー!」
頭部に未だ氷のうを乗せたまま、漸く目を覚ました代真子が今は吹っ飛び倒れてはその口を開けている部屋の前にて感慨深げに頷けば、やがて被ったダメージを気にする事無く友と揃って元気良くその内部へと歩を進めるのだった。
『‥‥大丈夫かなぁ』
そして扉の中へ姿を消した二人を見送りながら硲夫妻は暫くの間、彼女らが消えた闇の中に視線を固定したまま、珍しく不安を覚える中で‥‥果たしてこれから、どうなる事やら。
●
そんな訳で扉の奥へ漸く足を踏み入れた代真子と友の二人は何処まで伸びているか、邸内とそう変わらない雰囲気の通路を歩いていた。
「ねぇ、此処何処かなぁ‥‥ちょっと暗くて怖いんだけど!」
だが友が叫ぶ様に僅かとは言え薄暗い中を進む二人は絶賛、迷子の真最中で迷路の様に入り組んだ通路を何となくで進んでいたが
「そんな困った時にはこれ! これで怪しいものがあっても大丈夫! うん」
「‥‥本当に大丈夫なのー?」
「問題ない問題ない」
友の言葉に漸く意を決して代真子は懐を弄ると、二本の曲がった金属製の棒を取り出しては断言するが瞳を細めてはそれを疑問視して尋ねる友へ、代真子は根拠なき自信を胸に頷くと早速それを両手に持つ事暫し。
「おっ、おぉ〜」
「よぉっし、来た来たー」
何を思ってだろう、ダウジングロッドがいよいよ動き出すと友が感嘆の声を上げれば誇らしげに胸を張って代真子はそれの指し示す方へ歩を進めると‥‥暫くして二人の鼻を突くのは何処からか漂ってくる、香ばしい匂い。
「何だか美味そうな匂いが‥‥」
何故、何処からそれが漂ってくるかは知れず、だが間違いなく二人が進んでいる通路の先の方からそれはやって来る事は間違いなく、だからこそお腹を鳴らせながら代真子は歩くスピードを上げるとやがて視界に映る、一筋の光明。
「また、扉‥‥だね」
その光が漏れているのは扉の隙間からで、間近にまで迫りその事に気付けば友が先までの調子とは裏腹に彼女の背に隠れ、ポツリ漏らすが代真子は躊躇わず扉を開けるとそこには‥‥。
「‥‥調理中に厨房へ客が入って来るとは、けしからんな」
コック帽にエプロンをしっかりと身に着けた九骸刃(くがい・じん)が可愛らしいミトンを着けた姿があり、その手で賄い飯だろう出来上がったばかりのグラタンをオーブンより取り出しては二人を見付け、先ずはそれだけ呟き彼女らを窘めれば瞳をすがめるのだった。
●調査終了 〜無駄に広いと言う、結論〜
さりとて、その日の夕刻‥‥はとっぷり過ぎて、夜も九時は既に回った頃。
「とりあえず、中は迷路の様になっていてその内の一つは何故か厨房に繋がっていた‥‥と」
「だね」
代真子と友の報告を受けて一つの結論に至る喫茶店『Blitz Kong』のマスターへ、相変わらずゼオとじゃれながら頷く友だったが
「まぁ、こんなものかな。けれどさて‥‥どうしたものかな」
「どうせなら迷路にして一般開放するとか!」
「‥‥‥」
彼女の明るい表情の割、困惑するのは大輔だったがそれでも気にせずに代真子が次に続けて句を紡げば渋面を湛える彼。
「お世辞にも当喫茶店の運営は黒字‥‥と言えませんのでそれは考慮に入れても問題はないかと思います」
「とは言え、迷路もある喫茶店なんて今まで聞いた事がないぞ」
「だからいいんじゃない」
「ま、そうね」
「‥‥厨房に入られるのは困るが、それさえどうにかなるなら俺は口を挟まない」
しかし立ち尽くしたままのセリが現実的な問題を掲げ、代真子の案に肩入れすると言い渋るマスターをさて置いて、恵理に陣も頷けば‥‥大輔は溜息を漏らすと
「‥‥とにかく、まだその全貌が見えていないから迷路として開放するにしても内部構造の全てを確認してからだな」
『えー!』
「‥‥勘弁してくれ」
とりあえず分が悪い事を察し、だからこそ一先ずの折衷案を紡ぐのだったが他の皆(とは言え主には代真子と友と恵理だったが)声高らかに不満を露わにすると、彼は果たして頭を下げれば皆に懇願した。
と言う事で今回の一件、一先ずは保留と言う事に落ち着いたが‥‥いずれ扉の奥のその全貌が明らかになれば、きっと迷路として開放される事だろう。
それが果たして、幸か不幸か今は分からずとも。
〜Fin〜
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 4241 / 平・代真子(たいら・よまこ) / 女性 / 十七歳 / 高校生 】
【 5167 / 沢崎・友(さわさき・とも) / 女性 / 十七歳 / 高校生 】
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■ ライター通信 ■
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●沢崎様へ
一年振りの執筆、と言う事でしたが如何でしたでしょうか?
今回は共通の作品なっていますが、沢崎様に付いては猫好きのイメージが先行していますのでゼオとの絡みを増量しておきました(苦笑)。
次回の参加を考えているなら今後、更に増量も考えていますのであっさりこそしていますが今回の作品もお気に召して頂けたならまた次回も何卒、宜しくお願い致します。
以上、ありがとうございました。
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