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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ウィンド・シャックル

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0.オープニング

「はぁ。困ったな」
道行く人を眺めつつ溜息を漏らす。
皆さん、忙しそうですね…今日も今日とて。
わかってはいたんですよ。
そうそう居ないだろうな、って。
自分の事で皆さん手一杯。ここは、そういう場所ですから。
でも協力して欲しいんですよね。
折角覚えた、難易度の高い補助魔法。
実践しない事には、成功するかわからないですから。
え?あぁ、はい。自分には使えないんですよ。この魔法。
使えてたら、こんな所にいませんよ…。

ハァ、と溜息を漏らす。
もう、何度目だろう…。はぁ〜あ…。
一旦家に帰って、友人に手当たりしだい頼みなおしてみようかな。
と思い、よいしょっと立ち上がった時。
僕の目は、捉えた。
素敵な協力者を。
待ってました。あなたを。

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1.

「すみませんっ!こんにちはっ」
突然の目の前に現れ、進路を塞ぐ少年。
私は携帯を弄りつつ、冷めた眼差しを向け、
少年をグイッと押し除けて再び足早に進む。
ピピッ―
「………」
コールがかかっている間、数秒。
少年は私の腕に絡みつき、何度も同じ台詞を吐く。
プツッ―
繋がった瞬間。少年は一際大きな声で言った。
「お願いします!冥月さん!もう、あなたしかいないんです!」
「…ちょ」
そこだけ聞けば、十分誤解出来る。そんな言葉だ。
私は若干慌て、少年に言う。
「駄目だ。無理だ。今日は用事があるんだ」
けれど、少年は一歩も引かない。
数百メートルの懇願。私は諦め、電話の向こうの奴に伝える。
「すまん。ちょっと遅れる。先に話を…」
私の言葉に、電話の向こうの男は少々不機嫌になったようで。
私の神経を逆撫でするような言葉を吐いた。
「…後でかけなおす」
私もつられて不愉快になり、弾みで。電話を切った。
何とも言えぬ、後悔感。
まぁ、あいつが悪い。こっちにも事情があるんだ。
それを理解できぬとは。器の小さい男よ。ふん。
少し乱暴に携帯を懐にしまう私を見て、
少年…ティースは申し訳なさそうな顔で言った。
「すみません。デートでしたか。邪魔してすみません…」
「デートじゃないっ!ほら、さっさと言えっ。用件をっ」

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2.

ティースの頼み事を聞いた私は、その場で腕組みをして言う。
「仕方ない。早く済ませろ。けど、もし失敗してみろ。殴り倒すぞ」
「は、はい…」
オドオドしつつ、右手で十字を切るティース。
補助魔法…か。便利だとは思うがな。
私には向いていない。攻撃魔法なら…覚えても良いかもな。
まぁ、既に便利な能力を授かっているから、実際そんなに欲していないが。
「い、いきます」
詠唱を終えたティースが、少し離れた位置から右手を上げて合図した。
私は何も言わず、腕を組んだまま、コクリと頷く。
「サル・ヴァ・ハイネっ…!」
ティースが解放の言霊を放った瞬間。
私の身体を青く薄い膜が覆った。
「………」
無言のまま、その膜を内部からコツコツと叩く私。
結構な強度だな。どれ…。
私は右手を上げ、ティースの居る位置あたりに影矢を出現させると、
それを自ら目掛けて放った。猛スピードで迫る影矢。
ギュッと固く目を閉じるティース。
おいおい。そこは自信を持てよ。
クッと私が笑った瞬間。
ガキンッ―
膜に当たった影矢は、クニャリと曲がって、折れ消えた。
「ほぉ、私の影を弾くとは。見た目と違って優秀だな」
放った影矢の無残な姿を目の当たりにし、
久方ぶりに踊る私の心。
「何か、他の魔法もやってみせろ。そうだな…攻撃魔法で」
私の言葉に、ティースはキョトンとし、言う。
「良いんですか。デート…」
「デートじゃないっ!いいから、やってみろ」
「は、はい。で、では…」
コホン、とひとつ咳払いするティース。
何だかんだ言っても、まだ子供。
褒められて嬉しくないわけがない。
表情を見ればわかる。ちょっと、調子に乗ってる事くらい。
ニッとティースが笑う。
来るな。どれどれ…どんなもんか…。
「ルタ・ゼ・フォン…!!」
ティースが解放の言霊を放った瞬間。
巨大な竜巻が出現し、勢いを増しつつ、こちらに向かって来る。
おぉ…これは凄い。派手な魔法だな。
このくらいじゃないと、スカッとしないな。やはり…。
ゴォォォォッ…―
私をスッポリと包み込む竜巻。
凄い凄いと余裕で構えて居られたのは、最初の三十秒だけ。
ティースが張った結界は、パリン、と砕け。
私は竜巻をモロに浴びる。
「…っ…ちょ…」
視界を遮られ、何も見えない。
風の音が耳を支配し、何も聞こえない。
恐怖の、三分間。

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3.

「…はぁ、はぁ」
その場にしゃがみこみ、呼吸を整える私。
「冥月さんっ、大丈夫ですかっ…って、うわぁ!!」
心配し駆け寄ってきたティースは顔を真っ赤にし、そっぽを向く。
酷い有様だ…。髪はボサボサ…。服はボロボロ…。
襲われたんです、と警察に駆け込めば、十中八九 同情される…。
「すみませんすみません。本当、すみません。デートなのに。これからデートなのにっ」
そっぽを向いたまま、見当違いの方向に頭を何度も下げるティース。
私はスッと立ち上がり、ガシッとティースの首根っこを掴む。
「デートじゃない、と何度言えば理解るんだ。貴様っ」
「ひぃっ」
ビクリと肩を震わせ、情けない声を発するティース。
私は溜息混じりに、
「やれ、といった私も悪い。一発で赦してやる。大切な魔道書を破られないだけ有難く思え」
そう言ってティースの後頭部を殴った。
ゴツッ―
「いっ…たぁぁぁ!!」
その場に崩れ、涙目で転げ回るティース。
私はフン、と顔を背け、目を伏せる。
まだまだ、修行が足りんな。精進しろ。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / ティース・ベルハイム (てぃーす・べるはいむ) / ♂ / 14歳 / 見習い魔法使い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/04/06 椎葉 あずま