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マジカル・アスク - ヒトメボレ -
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0.オープニング
最近、ちょっと零が おかしい。
いや、別に体調が悪いとか、そういうんじゃなくて。
まぁ、見れば理解る。
カチャッ―
扉を開けて、零の部屋へ。
フワッと舞う、甘い香り。
香炉で灯る火が、薄暗い部屋を、ほんのりと照らしている。
部屋の中心には、正座して目を伏せ、
手を組んでブツブツと何かを言っている零。
「おーい。零」
声をかけるが、反応ナシ。
零の足元には、紫色の紙がある。
そこには、妙な文字が円状に綴られていて…。
何つったっけな、あれ。えーと。
あぁ、そうだ。「魔法陣」
占い師に教えてもらったらしいんだけどな。
最近、ずっと こんな感じでよ…。
まぁ、没頭できる趣味があるってのは、良い事なんだけど。
怪しいだろ。これ。どう見ても。
何か、ロクでもない事が起こりそうな気がすんだよ…。
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1.
ん…?おかしいな。所内が異様に静か。
買物から戻って来た私は、首を傾げつつリビングへ。
その途中。
ガタン―
物音。
ピタリと足を止め、音のした方を見やる私。
零ちゃんの部屋から…?
片付けでもしてるのかしら、と思いつつ、私は扉を叩く。
「零ちゃん?入るわよー?」
………。
返事なし。変ね。
スッとドアノブに手を伸ばすと。
「うぉぁっ」
部屋の中から、聞き慣れた声が。
「武彦さんっ?」
ガチャッ―
勢い良く扉を開け、部屋に入る私。
そして、私の目はムカッとする光景を瞬時に捉える。
「シュ、シュライン…ナイスタイミング」
私を苦笑しながら見やる武彦さん。…の上に四つん這いでまたがっている女性。
「…わー。武彦さんったら、モッテモテ〜」
パチパチと拍手しつつ、言う私。
武彦さんは、グイグイと自分の上に乗る女性を押しやりながら言う。
「何だ!その棒読み!!」
だって…。誤解されてもおかしくない状況じゃない。どこから見ても。
フイッと武彦さんから目を逸らし、私は武彦さんの上に乗っている女性を見やる。
バチッと交わる視線。
随分と大胆な人だけど…お客様、なのよね。うん。
私は、首を傾げて告げる。
「お茶、お出ししますから、とりあえずリビングへ…」
言い終える前に、私はハッと気付く。
薄暗い室内を、ボンヤリと照らす円陣と、その傍で倒れている零ちゃん。
…うん。状況把握した。
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2.
「シュライン。あのな…」
「ちょっと待って」
事態説明兼弁解しようとする武彦さん。
私は、それを止めて、タタッと零ちゃんのもとへ駆け寄る。
その体勢で弁解されてもね。正直、説得力皆無よ。わかってる?
弁解するなら、その人をベリッと引き剥がしてからじゃなきゃ。
…まぁ、わかるけどね。貴方は、それが出来ない人だって事位。
零ちゃんをベッドに寝かせ、ポンポンと軽く頭を撫でる。
顔色、そんなに悪くないし、呼吸も落ち着いてる。
一時的に気を失ってるだけね。
意識、取り戻したら、温かいココアいれてあげるね。
さぁて…。何とかしなきゃね。この人。
私は、ススッと歩み寄り、武彦さんと女性の間に体を滑り込ませる。
「何なんだい、お前」
キッと私を睨みつける女性。
思っていたより、それは、ずっと低い声で。
私は背中に武彦さんを庇う姿勢で微笑む。
「はじめまして。私はシュライン。シュライン・エマと申します」
私の言葉に、女性はクッと笑い、言う。
「シュライン、邪魔だよ。そこ、どきな」
女性の口調から、性格が伺える。
うぅん…かなり我侭な人みたいね。
自己中心的っていうか、女王気質っていうか…?
”どきません”と首を左右に振りつつ、女性から目を逸らさぬ私。
フッと目に映る、女性の鋭い牙。
…吸血鬼とか、そっち方面の人なのかしら。
こんな所まで、ご苦労様ねぇ。
「彼女の名前は、レア。…何となぁく把握してるかもしれないが、死神らしい」
背後でボソボソと私に耳打ちする武彦さん。
死神…かぁ。これはまた、凄い人が来訪したものね。
っていうか、もう名前聞いたの?相変わらず、そういうのは迅速ね。貴方。
フッと苦笑する私。
武彦さんは、私が何を思ったかを悟り、言う。
「違うぞ。向こうが一方的に名乗ってきたんだって」
はいはい、と私は肩を竦める。
「武彦…私はね、運命を感じてるんだ。私が、この私が一目惚れしてしまったんだから」
死神…レアさんは、そう言いつつ、私の額に手をあてた。
冷たい…死人のような手…。そんな事を思っていると。
ビシッと頭に激痛が走る。
「…痛っ」
眉を寄せ、顔を歪める私。
魔法の類ね…私の額に手をあてたまま、死神は不敵な笑みを浮かべている。
「シュライン!大丈夫か!」
私の後ろから手を伸ばし、死神の腕を掴む武彦さん。
額から死神の手が離れた瞬間、私はキュッと目を閉じて超音波を発する。
「…うっ!?」
怯む死神。
ズズッと後退しつつ、死神は不快極まりない顔で私を睨む。
「生意気な小娘が…」
フラつきながら、死神が両手を上に掲げる。
掲げた両手に黒い…影のようなものが集っていく、不気味な光景。
…これは、ちょっと。マズイ気がする…。
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3.
額に滲む、嫌な汗。
それを、とりあえず拭おうとした時。
グイッと私の肩を後ろに押しやり、
私の背後にいた武彦さんが、私の前に背を向けて立ち膝で構える。
「た、武彦さん?」
ポツリと私が言うと、武彦さんはクルッと振り返り、
私の額に手をあてて、切ない表情を浮かべた。
キョトンとする私を他所に、武彦さんは再び前を向き、死神を見やりながら呟く。
「さっきの、もう一回頼む」
…さっきの?首を傾げ考える私。すぐさま、あぁ、と気付き。
スッと目を閉じ、私は超音波を再び放つ。
でも、さっきは背後にいたから影響なかったけれど。今は違うのよね。
前方には、武彦さんも居る。
その事が気がかりで、私は微弱な超音波しか発せない。
死神は、少し顔を歪めるも、さほど苦痛ではない様子。
どうすれば…眉を寄せて思っていると、
武彦さんがスッと立ち上がり、死神に駆け寄って、その両腕を押さえつつ叫んだ。
「遠慮すんな!!シュライン!!」
久しぶりに聞いた、武彦さんの、大きな声。
ハッと我に返ったように。私は固く目を閉じて、最大超音波を放つ。
「くっ…!!」
顔を歪め、フラつく死神。
両手に集った黒い影が、バランスを崩し、不恰好に揺れる。
死神の両腕を押さえながら、同じく顔を歪めて武彦さんが、言う。
「残念だけどな。俺は、お前に運命なんぞ感じちゃいねぇんだよ」
「くっ…は、離せ。武彦っ!」
「そんな一人よがりの運命、あってたまるか。ボケ」
武彦さんに強く腕を掴まれている事と、
私の超音波を浴び続けている事で。
死神の戦意は、みるみる薄れていく。
その、強い想いとは裏腹に。
ドシャッ―
「武彦さんっ!」
舌打ちを残して、在るべき世界へ死神が戻って行くと、
武彦さんは、その場に崩れるように座り込んでしまった。
駆け寄り、抱き起こす私。
無茶よ。あの超音波を、モロにくらうなんて…。
こうするしかなかったと言えば、それまでだけど…。
ハハッと私の腕の中で笑う武彦さん。
私は、武彦さんの頬に手をあてて、小さく呟く。
「もぅ…」
すると、武彦さんは、私の額に大きな手をあてて、言う。
「ちょっと、痣になっちまったな…。大丈夫か。痛まねぇか?」
クッと熱くなる目頭。
私は、溢れてきそうな涙を堪え、武彦さんの頬をペチッと叩く。
「こっちのセリフよ。ばかっ」
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い
NPC / レア・ノクタンス (れあ・のくたんす) / ♀ / ??歳 / 死神
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ライター通信
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
納品が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^
2007/04/11 椎葉 あずま
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