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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


蒼天恋歌 7 終曲

 門は閉じ、虚無神の暴走は食い止められた。
 ヴォイド・サーヴァンは霧散し、状況が不利になった不浄霧絵は姿を消した。
 未だ虚無の境界が生きていることは同じ事件が起こる可能性を秘めているのだが、この門を閉じ、ある程度平和な世界に戻したことが何よりの功績である。

「終わったのですね」
 レノアはあなたに言う。
「私は、何もかも失った。家族も……でも」
「いま、私がしたいことを言っても良いですか?」
 と、彼女は嬉しそうに行ったのだ。
 そう、何もなくなった、というわけではない。
 ささやかに、何かを得たのだ。


 非日常から日常に戻った瞬間だった。

 日常に戻るあなた。
 只、少し違うと言えば、隣に子犬の様なレノアがいる。
 相変わらず方向音痴、料理は修行中。掃除は上手くなったようだが、謎に、精密機器を壊す。というお茶目なところは残っている。
 あなたは、このあと、彼女とどう過ごすのだろう?

 未来は無限にあるのだ。
 


〈2週間後〉
 全ての事情聴取も終え、周りに数名のエージェントがレノアを見張っている以外では、平穏な一日が過ぎていく。後かたづけはIO2がするわけだが、レノア達の動向に注意するのも道理なので、文句は言えないのだ。茂枝萌もそれほど権限を持っているわけではない。現場担当なだけなのだ。
 しかし、無理にレノアを刺激することはかえって悪い。IO2も監視を続ける以外にも彼女のケアを考えているので、悪いことではない。巫浄霧絵がまた狙ってくる可能性もあるわけで、デルフェス達だけでどうこうできる状態ではないのである。
「嘱託などになるのも一つの手ですけど、あまり権限ないし、あまりIO2の仕事を手伝わせたくないんです。」
 茂枝萌は言う。
 嘱託になっても、IO2はうるさい訳なので、お勧めしたくないようだ。影斬は既に一員みたいになっているようすだとか、聴かされたが彼は彼である。
 小難しいことはこれぐらいにして、鹿沼デルフェスとレノアについては一度、アンティークショップ・レンに連れて行く。萌のところには、IO2の関係でレノアをおけない状況になったそうだ。
 当然の事ながら、碧摩蓮は鼻を鳴らしながら、レノアを見定める。
 記憶喪失で怯えていた子犬は、今では凛とした態度をしているため、品定めの瞳にたじろぐことはない。
 蓮は、ため息をついた。そして、
「まあ、しばらくは置いてやっても良いけどさ。」
 渋々一時滞在を許してくれたらしい。
「ありがとうございます! マスター!」
 デルフェスは。深々とお辞儀をする。
「では、早速、お部屋にご案内しますわ!」
「あ! お、おねがいします! 蓮さ……、きゃああ!」
 子供がはしゃぐ様に、レノアを引っ張っていった。
「さわがしいねぇ。今の声で踊る呪い人形が踊ってる……。」
 蓮は苦笑して、その人形の踊りを止めさせた。

 デルフェスは、レノアにコスプレさせてみたり、お茶を楽しんだり、とかなり有意義に過ごす。レノアも、別に文句を言わずに彼女の趣味に付き合っていた。
「そうだわ。約束をしたカラオケに行きましょう。」
 手を軽く叩いて、デルフェスは言った。
「ええ、私も唄いたいですね。」
「歌はやっぱり好きなのですね。レノア様は。」
「はい、使命のための歌以上に、普通に唄うことや遊びで唄うことはとても楽しいから。」
「それは良いことですわ。」
 しかし、レノアは急に暗くなる。
「どうされました?」
「でも、昔、友達とカラオケしたとき、機材を壊しちゃって……。カラオケの破壊神とあだながついたことがありまして……。」
 たしかに、彼女の機械音痴レベルは恐ろしい。
「まかせてください! 機械を弄る場合はわたくしがいたします! 気兼ねなく!」
「ありがとうございます! 茂枝さんとエヴァさんも!」
「ええ!」
 と、2人はお互いの掌を軽く叩く。
 歌声で壊すある神父と、触って壊すレノアどっちが酷いのか、それはよそに置くことにした。


〈夜〉
 レノアは眠っているとき、デルフェスはマスターの蓮の部屋を訪ねた。
「なんだい、この深夜に? 酒の相手をしてくれるってのかい?」
「お話があります。」
「……あの、小娘のことだろ?」
「お察しで……。」
「たしかに、あんたが言うには、身寄りがない可哀想な子だ、しかしだ、仕事ができそうにないじゃないかい? あの娘。家事も掃除もそして方向音痴……。義理人情以外ではできないわけもあんたは分かっているはずだよ?」
 デルフェスは言葉が出ない。
 デルフェスが此処に雇われているのは、コンストラクトクリーチャーなのだからだ。基本的に食事を必要としていない。彼女の整備も人の独り分の風呂と着替えなどで充分という結果に終わる。食費はバカにならないのである。人件費は通常給料の2〜3倍というのだ。
「私が頑張って働きますわ! どうか! どうか! 彼女を、ここに……。彼女の学校の世話、そして私生活に於いても、わたくしが、面倒を見ます! 彼女が、独り立ちできるまで!」
 必死にデルフェスは蓮に訴えた。
「そこまでして何の得がある?」
「エゴかもしれませんわ。しかし、わたくしは、彼女を友達として、いや、それ以上の絆を深め、助けたいのです! わたくしに、似ているから……。だから。」
 彼女は涙を浮かべていた。
 暫く沈黙が続く。
 涙を流しながらも、マスターを睨むように立つデルフェスに、負けじとにらみ返している蓮。
 しかし、蓮は、下を向いて、ため息をついた。
「……、責任とれるかい?」
「はい!」
「よし、何かトラブル起こしたらあんたが、いいね?」
「ありがとうございます……。マスター。」
 深々とお辞儀をするデルフェスであった。


〈カラオケのあとに〉
 カラオケで集まったのは、デルフェスとレノア、エヴァに萌であった。
「しかし、ふと考えちゃうんですが。」
 レノアが言う。
「?」
「此処まで異国系がそろってカラオケって言うのも面白いかもと。」
「あ、そう言われてみれば。わたくしは欧州の人造、レノア様はハーフですよね? 萌様は純粋な日本人?」
「うん。そうだと思う。」
「私はアーリア素体だけど考えはアメリカ的かな?」
 なんという、多国籍と人外魔境。
 今に限ったことではないが、其れは其れで面白い。
「幸い、此処のカラオケボックスにアレがいないから良いですわ。」
「あれ?って? あれ?」
「あれがいると、色々からかわれる物ね〜。」
 と、デルフェスにとってある意味、敵っぽい存在もいるそうな。
 レノアは其れについては訊くこともなく、
「では、思いっきりはしゃぎましょう!」
「あ、ちょっと! レノア様!」
 皆を押してはいるのであった。

 萌はあまり歌えない。其れもそうだ。戦いの訓練ばかりしていたのだから、しかし、ドイツ語「魔王」等歌うので。皆を驚かせる。
 デルフェスは、前にカラオケ大会をしたときに覚えたものをレパートリーに増やし、エヴァや萌に教えて、デュエットもしていた。
 デルフェスはレノアを見くびっていた。彼女は意外なことに、演歌や懐メロを歌い出すのだ。
 なんと、拳を握って。熱唱している。
「レノア様はてっきりPOPsを好んでいるかと……。」
「演歌は魂です。」
「年齢詐称? なんで、1940年代もしってるの? 私たち生まれてないよ。」
「其れは言い過ぎ、茂枝さん!」
 と、4人で3時間程度楽しく歌ったのであった。
 デルフェスのレパートリーに若干、アニメソングが入っていたのは秘密と言うことで。


〈花舞う……〉
「未成年にお酒を勧めないように。」
 と、萌に釘を刺されてしまった。
 なので、お酒はデルフェスとエヴァの分で、あとはジュースなどで我慢して、桜並木にたたずむ4人。
 満開な櫻の空の下、ゆったりと時間を過ごしていた。
「で、これからどうするの?」
 エヴァがソーセージを食べてからレノアに訊いた。
「衣食住が一気になくなりましたからね。住み込み先を探さないと行けません。新聞配達とか。」
 レノアの方向音痴は尋常じゃないので、新聞配達はできるか不安だ。
 さいわい、遺産相続などの手続きは済ませられるわけで、金には暫く問題はない。しかし、後見人がいないのは辛い。
「安心してください。レノア様。アンティークショップのところで、一緒に住みませんか?」
「あ! デルフェス其れは! 私が住みたい!」
「エヴァは黙って!」
 エヴァが怒るところを萌が制止する。エヴァは押し黙った。
「いまのレノア様は、子供ですから色々面倒を見なくてはならないんです。しかるべき後見人と、必要な教養、安心できる環境を与えて、その中で立派に大人にならないと行けませんわ。そこで、わたくすは、マスターに一緒に住めるようお願いしたのです。どうですか? レノア様。」
 沈黙。
「いいのですか?」
 レノアが尋ねる。
 デルフェスが力強く頷いて、
「はい。でも、お店ですから、少しお手伝いはして頂きますよ?」
 そう答えた。
「はい! お願いします! ありがとう、デルフェスさん!」
 レノアは涙ぐんでいた。
「……むぅ。まあ、そういうことならいいけどー。」
 一寸納得いかないエヴァだが、まあ、状況的に理解を示している。
「しかし、蓮さんの家で、安心できる環境になるのかな?」
 萌はそんなことを、口にする。
「だいじょうぶですわ! 私と皆様がいれば!」
 デルフェスは胸を叩いて自信満々だった。
「いえ、問題なのは私が商品を壊すことですよ……。で、事件発生……。なんて。」
「しゃれになりませんわ。責任は私がとりますけどね……」
 苦笑するデルフェスに、周りが大笑いした。
「では、レノアさんの、新しい門出を祝って、もう一度」
「乾杯!」
 女性4人で、また騒ぎ始める。
 まるでそれは、普通の女の子同士の平凡な一日に見えるのであった。

END

■登場人物
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップ・レンの店員】

■ライター通信
滝照直樹です。
「蒼天恋歌 7 終曲」に参加して頂き、ありがとうございます。
 レノアの好みのレパートリーが演歌でした。意外性かもしくは読まれていたかは、どうなのか一寸ドキドキ物です。ハードロックを歌うのが良かったか迷いましたが。デルフェスさんは、今までの傾向から、アニソン辺りを覚えたという方向にいたしました。いかがでしたでしょうか?
 さて、これにて蒼天恋歌は終了しました。レノアはこれからどう生きていくか、デルフェスさんに懸かっています。どこかのお嬢様を育てるゲームっぽくなりそうな予感です。

 では、別の話でお会いしましょう。

 滝照直樹
 20070323