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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


Operation

「えーっと、何が起こったのか説明してもらえませんか?」
 最近、蒼月亭のマスターであるナイトホークは、ヴィルア・ラグーンに誘われて『戯れ』と称した戦闘訓練を行っている。
 それは戦闘状態になると、いきなりキレて猪突猛進になってしまうのを直すという意味と、ヴィルアの愉しみに付き合うの両方だ。ナイトホーク自身も、いざというときにキレて周りが見えなくなるのも、そろそろまずいと思っている。
 そんな訳でいつもの調子で、ヴィルアが居候している陸玖 翠(りく・みどり)の家にやって来たのだが、今日はいつもと何だか違っていた。
「この姿は実に150年ぶりぐらいか。初めまして。ヴィルア・マクバーンだ」
 ヴィルアは普段見慣れている赤い瞳ではなく、青い瞳でナイトホークを見つめ優雅に礼をする。その隣にいる翠は何だか酷く疲れた様子なだけではなく、銀髪で左の目に光が感じられない。
「初めまして……でいいのか?」
「ヴィルアの酔狂ですよ。それは離れに行ったときにでもお話ししましょう……ふぅ」

「私の力を少し封印してもらえないか?」
 ヴィルアがそんな事を言い出したのは、ナイトホークが来る前日のことだった。お互いそれまでナイトホークの戦い方を見ただけではなく、一緒に仕事をして知ったことがある。
 曰く。
 ナイトホークは自分の力で敵わない相手と戦うときになると、自動的にスイッチが入るようになっている。
 自分から突っ込ませず上手く指示を与えれば、よほど相手が常軌を逸した力でもない限り、言うこと(命令)を聞く。
 そのまま戯れてもいいのだろうが、ヴィルアが吸血鬼の能力を持ったままでは、どうしてもダンスの途中にキレてしまう。それではいつまで経っても、次のステップに進まない。
 その為に翠にヴィルアの力を取り出してもらい、生前の「若干魔術の心得があり、剣と銃の腕がそこそこ」まで下げてもらおうと思ったのだ。それであれば、ナイトホークもキレずに戦闘訓練を行えるだろう。
 それでナイトホークの戦闘力が底上げ出来れば、自分の力で敵わない相手が減り、その事でキレることも少なくなるのではないかと思ったのだ。
 ヴィルアにその話を聞き、翠は少し呆れたように笑う。
「お前も酔狂だな」
 確かにナイトホークには謎が多い。自分の力で敵わない相手や、殺気に反応してキレるところや、一定期間から前の記憶がないこと。翠もそれに関して少し追いかけてはいるのだが、それにも増してヴィルアがわざわざ付き合うことが珍しかったのだ。
「言い出したのは私だからな、愉しむ事に手間はおしまんよ」
 そう言いながらヴィルアも喉の奥で笑う。
 初めて見たときの泥臭い戦い方。血に飢えた兵士もいいが、それに戦術や戦い方を教えればもっとダンスは楽しめるだろう。
 そもそも『戯れ』に誘ったのはヴィルアからだ。まだまだヴィルアも翠も、そしてナイトホークにも時間はある。その時間を無為に過ごすぐらいなら、お互いに退屈しのぎは必要だ。うんざりするぐらいの時間でも、成長できる残り時間が多いと思えば少しはマシになる。
「じゃあ私の力でしばらくお前の力を封印するぞ。久々に全力で術が使えそうだ」
「それは良かったじゃないか。たまには使っておけ……腕が鈍るぞ」

「……で、ヴィルアの力を封印するのに全力出して、翠はそんな姿になってるのか」
 言い出しっぺとはいえ、そんな大事になっていると思っていなかったナイトホークは、離れで煙草をくわえながら驚いたような溜息をついた。一度ヴィルアが力の封印を解いて翠と戦ったのを見たことがあるが、見学していただけなのに首の後ろがチリチリするような殺気と力を感じた。それを翠はあっさりあしらったのだが、力を封じるということはそれだけ大変ということなのだろう。
 翠は疲れたように隅に座り、式の七夜の喉を撫でている。
「大丈夫なのか、翠?」
「少し休んでいたら回復しますよ。流石に封印は明け方までかかりましたが」
 確かに全力で術を行使したので疲れてはいるが、寝込んだりするほどではない。ヴィルアとナイトホークが戯れている間には回復するようなものだ。
 そんな様子にヴィルアはふっと笑う。
「さあ、これなら私と戯れている間にキレることはなかろう。ルールを説明しようか」
「了解。ただ闇雲に封印したって訳じゃないんだろ?」
 察しがいいと話が早い。
 ヴィルアはシャツのカフスを外し、袖をまくった。そこには符が張り付いている。
 今、ヴィルアの力は翠の符で封印された状態だ。だから今の状態なら、ナイトホークとほぼ同じぐらいの戦闘力だろう。少しずつ訓練していき、ナイトホークの方が上回るようになれば、徐々に徐々に翠に力を戻してもらって調整していくつもりだ。
 いつもの都市迷彩服で話を聞いていたナイトホークは、携帯灰皿で煙草を消し天を仰いだ。
 ありがたい。
 自分でも何とかしなければと思っていたし、かといって、あまり大勢にこの体質のことや、戦闘中にキレることを教えたくはない。それは圧倒的な弱点であって、利点にはなり得ない。過去のことも含め、そこにあまり触れずにこうして付き合ってくれるのは気が楽だ。
「でも、俺の成長如何じゃ、いつまでもヴィルアの封印解けないんじゃないか?」
「気にするな。それにそもそも全力を出さずとも、ある程度の仕事はこなせる。伊達に長生きしてる訳じゃない。準備が出来たら来い……前と同じように、自分の体に私のサーベルが触れないように防御しろ」
 サーベルを構えるヴィルアに、ナイトホークも翠からもらった符を握り自分の銃剣を呼び出す。
「了解。お手柔らかに」
 これが結局一番良い方法だろう。手加減してもその力を何処かで感じ、キレてしまうのならば、力のレベルを合わせるしかない。ヴィルアはサーベルを突き出しながら、ナイトホークにアドバイスをした。
「私が持っているような剣ないし、ナイフや刃物で襲われそうになったら、武器から目を離すな。素早く横に避けて……その辺りは出来ているようだな」
 やはり能力が同じぐらいだとキレないのか。足の動きも良いし、前みたいに目が据わるようなこともない。
 本来徒手格闘で刃物相手の防御訓練では、攻撃側がマーカーペンを持ち防御側が如何にそれを避けるかで、どれぐらいの傷を負うかをシミュレーションするのだが、不死のナイトホークにそれはナンセンスだ。ヴィルアにとってこれは、戦闘訓練と言うよりは「ダンスの練習」なわけで、ナイトホークに上手くステップを踏ませ、同じぐらいのレベルで踊れるようにしたいのだ。
 しばらくそれを続け、ヴィルアは翠の方を見る。
「これぐらいなら平気なようだ。一枚符を取ってくれ」
 どこで戦闘技術を学んだのかナイトホークは覚えていないという話だが、完全に力を封印したぐらいならあまり変わらないようだ。これなら一般人相手に戦闘して、ケガをするようなことはないだろう。
「そうだな。少し力を上げたぐらいが良さそうだ」
 翠がそう言うと、ヴィルアの体に力が戻るのが感じられた。青かった瞳が少し紫がかる。
「ナイトホーク、今日は組み討ちを集中的にやるか?」
「そうだな。攻撃よりも防御に重点を置きたい……身の守り方を覚えないと、先に死んでたら意味ないし」
「それもそうだな。パターンを変えていくつか行こう」
 素手で戦うことよりも、刃物相手の戦闘に対して対処させた方が良いだろう。前からの攻撃、なぎ払ってきたとき、喉元に刃物が突きつけられているときなど、様々なパターンを説明し実践させていく。最初はゆっくりと、慣れてきたら徐々にスピードと力を上げる。
「銃剣格闘に対しては、結構体で覚えてるみたいだな」
 サーベルを下から切り上げ、それを防御させながらヴィルアが聞いた。
 本人が言うとおり、ナイトホークは着剣小銃の扱い方は上手だった。銃と銃剣の長さを利用し距離を取ることも出来るし、手から滑り落とさずに上手くバランスを取り銃床を扱うことも出来る。
 ナイトホークもそれが分かっているのか、目だけで笑いそれを受け止めた。
「そうみたいだ。ただ、キレるのがいつからなのかが分からないのがな……」
「怖いか?」
 ……剣がぶつかり合う硬質的な音。
 その沈黙に、ナイトホークが力一杯銃剣を払った。受け止めたヴィルアの手が痺れる……だが、キレた訳ではないらしい。
「そりゃ怖いよ。見境つかなくなって、気が付いたときに自分が誰かを傷つけてたらと思うと背筋が寒くなる。それがもし……」
 自分の大事な人だったら。
 それは口に出せなかった。そんな事にならなければ一番だが、東京に住んでる以上何があるか分からない。その気になれば人と関わらない暮らしも出来たのに、それを選んだのは自分だ。
 だから、少しでも食らいつかなければ……ナイトホークは自嘲的に笑う。
「何でもない。でも、キレるのが怖いのは本当だよ。頭悪い犬みたいになりたくないしな」
「そうだな。冷静さを保てば、もっと自分の体質が生かせるだろう」
 出来れば早く、クイックステップが踊れるぐらい上達して欲しいところだが。少し目を細め、ヴィルアは二枚目の符を取るよう翠に指示した。

 それからしばらく銃剣格闘と拳銃の撃ち方を教え、今日はこれぐらいにしようとヴィルアは言った。倒れるまでやっても良いのだが、ナイトホークも次の日は仕事がある。何事も程々が丁度いい。
「疲れた……やっぱ体鈍ってるような気する」
 そんな事を言いながらシガレットケースを出すナイトホークに、翠は冷たい麦茶を出した。来たときには銀髪だった翠の髪は、既にいつもの黒髪に戻っている。目にもちゃんと光が戻ったようだ。
「煙草の前にこれでも飲みなさい。水分補給も必要ですよ」
「あ、サンキュー」
 ナイトホークとヴィルアが座ったのを見て、翠は懐から赤い符を二枚取り出した。
 ヴィルアがナイトホークに関して色々考えていたように、翠も考えていたことがあった。それは、ナイトホークの防衛機能に関しての事。
 自分の力で敵わない相手に対して、自動的に戦闘人格へのスイッチが入る。それは自己防衛の手段なのかも知れないが、それにしてはあまりにも矛盾している。自分を傷つけてまで身を守ろうとするなど正気ではない。
 だが、同じようにこうも思っていた。
 ナイトホークがある一定期間から前の記憶がないのであれば、それはそのなくした時間にすり込まれたのではないだろうかと。まずはそれを知らないことには、対処の仕様がない。
「相変わらずその安い煙草なのか?」
「これが好きなんだよ。あとホープとか」
 そんな話をしている二人の前に、翠が立つ。
「ナイトホーク。貴方に確かめたいことがあります……これは対象に触れると、術や異能系統で施されたあるモノがある場合のみ、黒く変色する仕組みの符です」
 ふい……とナイトホークが顔を上げる。
「確かめたい事って何?」
「この一枚はは軽い力で作った符。もう一枚はかなり強力に作った符です。ヴィルアの力は今私が封印してますから、使うとこうなりますね」
 そう言いながら翠は最初の符をヴィルアの頭に触れさせた。一枚目は反応しない……だが、二枚目を触れさせるとそれが黒く変色する。翠の力で強力に封印しているせいだ。
「リトマス試験紙みたいなもん?」
「そんな感じですね。ナイトホークがキレるのが元からなのか、それとも後付けされたものなのか確かめたいんです」
 ヴィルアは煙草をくわえながら符を手で払った。そしてナイトホークを見て笑う。
「それは私も興味があるな」
「うわ、元からだったらマジへこむ……」
「はいはい、符に火がつかないように煙草を下ろして下さい」
 翠が頭に一枚目の符をかざすと、ナイトホークは上目遣いでそれを追った。しばらく乗せているが、特に色が変わる様子はない。
「軽い術ではないということか。二枚目が変わらなかったら、元からと言うことになるな」
「どうでしょうねぇ……じゃあ、次行きますよ」
 二枚目を額にかざした瞬間……。
「………!」
 さあっと額に触れた部分から、黒が広がっていく。それは赤を飲み込む勢いで、瞬く間に符を埋めていった。その様子を自分で見ながら、ナイトホークは困ったように溜息をつく。
「これはどういう事なんだ?」
 ナイトホークがキレて戦闘人格に変わるのは、何処かで後付けされたものらしい。魔術なのか、それとも何かの力でそうなったのかは分からないが、ひとまず元からキレやすい訳ではないらしい。
 後付けされたものならば、その方法か術者を追えば、我を失うことはなくなるはずだ。溜息をつきながら札を見ている翠に、ヴィルアは愉しそうにナイトホークを見る。
「良かったな、元から躾が悪いという訳ではなさそうだ。ひとまず私との戯れを続けて、翠は術を解く方法でも考えるといい。まあ、この状態も私は嫌ではないぞ」
「解く方法とか、お前は簡単に言うな……」
 やっと札が頭から離れたので、ナイトホークは煙草を口にくわえた。そして何処か遠くを見て息をつく。
「元からじゃなくて良かったけど、問題はどこでそれを拾ったかだよな。自分で言うのもどうかと思うけど、難儀だな、俺」
 やはり何処かで、自分の過去と向かい合わなければならないのかも知れない。
 あまり思い出したくもないが、それでも一人じゃないのなら少しは目を背けずにいられるだろうか……。
「まあ誰にでも色々あるものですよ。貴方の過去を掘り返さない程度に、術については調べてみましょう。私も気になりますしね」
「私達で良ければだがな。ナイトホーク、お前はどうだ?」
 きっとヴィルアや翠にも、色々な過去がある。思い出したくないのは自分だけではない……過去よりも大事なのは、これから続く長い人生だ。ナイトホークは煙草を消し、軽く伸びをする。
「じゃあ付き合ってもらうか。今後ともよろしく」
 そう言って差し出した右手に触れた二人の手は、とても温かかった。

fin

◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧)◆
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
6777/ヴィルア・ラグーン/女性/28歳/運び屋
6118/陸玖・翠/女性/23歳/面倒くさがり屋の陰陽師

◆ライター通信◆
ツインノベルありがとうございます、水月小織です。
ナイトホークとの戯れ三ラウンド目ということで、力を封印して頂いたり、戦闘中にキレるのが何者かにかけられた術のせいと言うことを書かせて頂きました。お二人は同居しているということで、色々話をしてナイトホークの情報を知っているという設定になっています。
色々思うところがあって、これからもダンスの練習は続けたい模様です。
リテイク、ご意見は遠慮なく言って下さい。
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。