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＜東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン＞
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日本人形は露出狂！？
もうすぐ日が暮れる。夕日によって赤く照らされる店内を見ながらカツン！と音を立ててキセルの灰を落とし、蓮は小さなため息をついた。元々この店に来る事の出来る人間は少ないのだが、今日はいつもより客足が少なかった気がする。
「仕方ないか。……さて、そろそろ店じまいだね」
まるで、嵐の前のような静けさ。何となくとんでもない厄介ごとが舞い込んでくる気がして、蓮が店を閉めようと立ち上がった瞬間。
−それは、けたたましい音と共にやってきた。
「蓮！！」
壊れるのでないかと思うほど勢い良く扉を開けて店に入ってきたのは、茶色の髪に赤い目をした酷く人相の悪い男。けれどもその顔は情けなく歪んでいて。
蓮はため息をつきつつ、吐き捨てるように呟いた。
「何だい、騒がしいね」
「こ、これ！！これを何とかしてくれ！」
「……木箱？意外だね、あんたがこんな物持っているなんて」
男がガッチリと押さえつけているのは、高さ３０センチ、奥行き２０センチほどの木箱。その木箱はまるで内側から誰かに押されているかのようにガタガタと揺れていて。
「俺のじゃねぇ！あのヤロウ、面倒な事押し付けやがって……！」
「何が入ってるんだい？」
蓮の瞳が、面白いものを見つけたと言わんばかりに楽しそうに細められた。男は木箱を倒してカウンターに置き、ふたが開いてしまわないように上から体重をかけて押さえ込んでいる
「日本人形！！！こいつ、夜になると動き出すんだ！」
「……動くだけなのかい？」
「知るか！コイツの持ち主の話じゃ、夜中になると着てる着物脱ぎだすとか何とか……！んな気持ち悪いもん俺に押し付けんじゃねーッ！」
半泣きになりながらも、男は必死な顔で木箱を押さえ込んでいる。それを見ながらこの男の弱点が心霊現象だった事を思い出し、蓮はクツリと笑みを浮かべた。
「とんだタイミングできてくれたよ。今日はもう店じまいする予定だったんだがね」
「あんた、俺を見捨てる気か！？とにかく助けてくれ！」
言ってる事は偉そうだが、その表情は笑ってしまうほど情けない。ガタガタと騒がしい音を立て続ける木箱に精神の限界を感じたのだろうか。
「まったく……おや？またお客のようだよ」
カランという涼やかな音と共にそっと開いた扉を見るなり、男は情けない声で助けを求めたのだった。
「助けてくれ！」
扉を開けた主、みなもは扉を開けるなり聞こえてきた情けない男の声に驚き、慌てたように店の中へと足を進めた。店内に入ってきたみなもを、店の主である蓮と赤い瞳を持つ人相の悪い男、そして鎮守の森にいるはずの蒼月が出迎える。
パタパタと三人に近づくと押さえつけられた木箱と情けない男の顔が視界に入り、みなもは不思議そうに首をかしげた。また何か騒動でもあったのだろうか、と。
「おや、みなもではないか。久しいのぅ」
「あ、お久しぶりです蒼月さん。……また何か騒動ですか？」
「丁度いいところに来たね。この男の持っている木箱なんだが−」
みなもの問いに答えようとした蓮の言葉を遮り、木箱がガタガタと騒がしく揺れる。箱が勝手に動いた事に驚いたみなもは、反射的にバッ！と箱から距離をとった。
「……この箱に何が……？」
「日本人形じゃよ。何かの呪いでも掛かってるのか、夜になると着ている着物を脱ぎだすらしくてのぅ」
「え？この木箱に入っている日本人形さんが自分で着物を脱ぐんですか？」
驚いたように木箱を見るみなもに、木箱を抱えている男がまたしても情けない声で助けを求める。普段ならば見られない男の表情がツボに入ったのか、蒼月がクスリと笑みを浮かべた。それは、”楽しくて仕方がない”と言わんばかりの表情で。何がそんなに楽しいのだろう、とみなもはきょとんとしながら蒼月の方へと視線を移す。
「いつもはあれだけ偉そうだと言うに、まったく情けないのぅ？漣弥よ」
「うるせぇッ！苦手だって分かってんならこんなモン俺に押し付けんじゃねぇよ！！」
蒼月は着物の袖で口元を隠しながらクスクスと笑い、漣弥は箱を押さえながら悔しそうに吼えていて。二人は知り合いなのか、とみなもは一人納得したように頷いた。
「さて。今のところわかっておるのは”夜になると日本人形が着ている服を脱ぎだす”と言う事だけじゃ。何か分かりそうかのぅ？」
「お話を伺う限り、日本人形さんが着物を脱いで特に困る事はないような気がするんですけど……。あ、水を使って箱を押さえるので手を離しても大丈夫ですよ」
普段持ち歩いている霊水を操り木箱が開いてしまわない様に押さえつけながら、みなもは必死に記憶を辿る。どこかでこれと似たような話を聞いた事がある気がしたのだ。
じっと木箱を見つめたまま、みなもは必死に自分の記憶を遡って行く。
「どうかしたのかい？」
「どこかで似たような話を聞いた事がある気がするんですけど……」
蓮の問いに答えながらも、みなもの意識は記憶を思い出すことに集中したまま。少しずつ難しい顔になっていくみなもを見、蒼月が優しい声色でその思考を遮った。
「無理に思い出そうとせずとも良い」
「……はい」
しゅん、と俯きながら申しわけなさそうにみなもが頷く。あと少しで思い出せそうな気がするのに。何故だろう、記憶に霧がかかっているかのように肝心なところだけ思い出すことが出来ないのだ。まるで、故意的に何かに妨害されているような−。
「この人形さん、いつ頃から動くようになったんですか？」
「さぁ……あたしは聞いちゃいないよ。ただ、この人形の様子を見る限り昨日今日って感じじゃない事は確かだね。蒼月、あんたはどうだい？」
「我ではなく、この人形を持ってきた張本人に聞くべきではないのかのぅ？」
みなもの霊水に押さえ込まれながらも、木箱はガタガタすごい音を立てて揺れている。木箱とじっと見つめながら、みなもは困ったようにため息をついた。
いくつか解決案は浮かぶのだが、それらが最善の策とは思えなくて。ただ、問答無用で処分する事だけは避けたいと思う。
「それもそうだ、と言いたいところだが……その本人がいないんじゃねぇ」
「……あれ？」
蓮の声に顔を上げてみれば、先ほどまで自分のすぐ傍に立っていたはずの男の姿が忽然と消えていて。みなもは驚いたようにきょろきょろと辺りを見回した。
「……あやつ、逃げおったな？全く、情けない男じゃ」
「逃げちゃった……んですか？日本人形さん事詳しく知っているのってあの人だけなんじゃ……？」
唖然とした表情でポツリと紡がれたみなもの言葉に、蒼月と蓮が呆れたように頷く。ゆっくりと胸元まで上げた手のひらに浄化の炎を召喚しながら、蒼月がいつもより１トーン低い声色でボソリと物騒なことを呟いた。
「情報がなければ解決法も探せぬ。こうなったら強制的に処分−」
「だ、ダメですよ蒼月さん！呪いとかがかかっていて、蒼月さんが人形さんになっちゃったりしたらどうするんですか！」
「……ダメかの？灰一つ残さぬよう燃やしてしまえば大丈夫じゃと思うのじゃが……」
不服そうに炎をしまう蒼月を見ながら、みなもがピタリと動きを止める。咄嗟に口から出た”人形になってしまう”というその呪いに関して噂を聞いたことがあると思い出したのだ。
「あの、私思うんですけど……。日本人形さんではなくて着物の方に何か問題があるんじゃないでしょうか」
「着物にかい？」
「はい。あたし、思い出しました。小袖の手みたいに勝手に着せてくる着物があって、その着物に捕まるとお人形さんになっちゃうって……。誰に聞いたかまでは思い出せないんですけど」
自分の話を聞いてふむ、と考え込んでしまった蒼月と蓮ををみなもが不安そうにじっと見つめる。
「そうなると、人形もただの人形と言うわけではなさそうじゃの」
「もしかしたら何か悪いものを封じてるのかも……。この日本人形さんを封印する−ッ！！」
ガコンッ！とみなもの背後で木箱がこじ開けられる音がし、弾かれた霊水が当たり一面に飛び散った。ゆっくりと木箱の中から浮かび上がった人形を見、みなもが驚きに息を呑む。
−と、次の瞬間。
「きゃぁっ！」
人形が着ていた着物の帯がスルリと解け、固定するもののなくなった着物がみなもに向かって襲いかかった。蒼月が身構えるも時既に遅く。
「みなも！！」
みなもの姿が視界から掻き消え、コトンという音と共にみなもそっくりの日本人形が床に転がったのである。
「……青い髪に青い目……どうみてもみなもじゃ。と言う事は、みなもの聞いた話は正しかったと言う事かの？」
「そうみたいだね。……どうするんだい？」
「この着物を今すぐ焼き払ってしまいたいのは山々なんじゃがの、みなもが元に戻らぬのは困る。我はあやつを気に入っておるのでな」
人形になってしまったみなもをそっと拾い上げ、机の上に優しく置きながら蒼月が唸った。変わらずキセルを吸ってはいるものの、蓮の表情も真剣で。
二人から静かな焦りと怒りが感じられるのは気のせいではない。
「とりあえず、我の力でこの着物を拒絶する。それでも無理じゃと言うなら−っ！？」
蓮と向かい合って喋っていた蒼月が何かに気づいたように突然しゃがみ、その瞬間頭上ギリギリを鋭い何かが通り抜けていった。
「……やはり、普通の人形ではなかったようじゃの」
「嫌な予想ばかり当たるねぇ。……店のものを壊さないでおくれよ」
蒼月と蓮の視線の先には、先ほどまで問題の着物を着ていた日本人形が浮かんでいて。
「それは無理な話じゃの。我も、なるべく店に被害が出んように祈っておるぞ」
人の怨念や呪いによって穢れすぎたその人形は、すでに呪詛の塊となっていた。−否。呪詛そのものだと言った方が良いかもしれない。
「気のせいだといいんだが……みなもちゃんを狙ってないかい？」
「奇遇よの、蓮。我にもそう見えておる」
片手にみなもを抱いたまま蒼月は人形を迎え撃つために構え、蓮は巻き込まれないよう店の奥へと引っ込んでいく。ゆらゆらと黒いもやを纏いながら宙に浮かぶ日本人形が酷く不気味で仕方なかった。
「みなもを元に戻す事に集中したいのじゃが……そうは言っておれんようじゃ。蓮、みなもを元に戻す何かいい案はないかの？」
「着物がみなもちゃんに取り付いたのと同じ方法でその日本人形を封印しちまえばいいんじゃないかい？」
「−なるほど」
日本人形が放つ針状の髪をうまく避けながら、蒼月が着物の帯に向かって集中的に能力を使う。パンッ！と自分の背後で陶器の割れる音がしたが、そんな事に構っている余裕など微塵もなかった。
「高々着物の帯の分際で厄介なやつよの！えぇい、焼き切ってくれる！」
中々外れない帯に苛立ち、蒼月が浄化の炎で着物の帯を焼ききった−途端。
「伏せよ、蓮！」
バッ！と音を立てて着物が広がり、日本人形を包み込んだ。それと共に蒼月の腕に心地よい重みが加わる。みなもが落ちてしまわないよう、蒼月は咄嗟に彼女を横抱きに抱えなおした。
「みなも！」
「あれ……蒼月さん？」
「大丈夫かの？怪我は？」
横抱きにしていたみなもをゆっくりと床に下ろし、蒼月が心配そうにみなもの顔を覗き込む。蒼月たちを安心させるような笑みを浮かべ、みなもは力強く頷いた。、
「大丈夫です。ありがとうございます、蒼月さん、蓮さん」
人形にされながらも周囲の音はハッキリと聞こえていたらしく、どこか不安そうな表情でみなもは着物にくるまれている日本人形に視線を移す。
人形に掛けられている念がよほど強いのか、着物はまだ人形を封印できずにいるようだった。
「みなも、霊水はまだあるかの？」
「ありますけど……」
「みなもの霊水と我の力を使ってあの人形を封印するのじゃ。あれに込められた念は恐ろしいほど深く激しい。みなもが人形になってしまったのも、恐らくは封印の要であった着物が人形の力に負けてしまったせいじゃろう」
みなもは懐から霊水を取り出し、蒼月が手のひらに炎を集める。
「わかりました。……蒼月さん、炎を使ってあのお人形さんの動きを止めてくれますか？その間に、私が霊水であのお人形さんを拘束します」
「了解じゃ」
蒼月がみなもに返事をするのとはたしてどちらが早かっただろうか。蒼月の手を離れた炎は人形の周りをぐるりと回り、人形を取り巻く怨念を浄化していく。それに人形が驚き怯んだ所を、みなもの操る霊水がきつく巻きついて拘束した。
「陰陽師の札……一枚掠めておいて正解じゃったの」
みなもの霊水と浄化の炎に包まれて尚、暴れる人形を見かねた蒼月が一枚の札を投げつけると、”シュッ”と音を立てて人形を取り巻いていた邪気が治まり、元のように着物が綺麗に着せられる。
それを見たみなもがほっと小さなため息をつく。
「終わりましたね……」
「終わったのぅ。……蓮、店のものはどうじゃ？」
「粉々になってるものも、ひびが入っているものもあるよ。全く……どうしてくれんだい？」
そう言いながらも、蓮の表情はどこか明るくて。申し訳なさそうに俯くみなもとは裏腹に、蒼月はニヤリと怪しい笑みを浮かべて一枚の紙を取り出した。
「ここに載っておるのが漣弥の連絡先じゃ。蓮、請求はここにしてくれ」
「え？」
「いいのかい？」
驚いたように顔を上げたみなもが見たのは、怪しげな笑みを浮かべて笑いあう２人の姿。
「元々この店にあの人形を持ってきたのはあやつじゃからの。……さて、もう夜も遅い。送っていく故、帰るとするかの？みなも」
「え？え？あの……いいんですか？」
「人形は厳重に封印して蓮があるべき場所に返してくれるじゃろうて。それに、あんな男の事は気にせずとも良い。お主は被害者と言っても過言ではないのじゃからのぅ。まだいくつか店も開いているじゃろうし、なにかおごってやるぞ？」
くいっとみなもの手を引いて、蒼月がアンティークショップの扉に手をかける。蒼月から受け取った紙を片手にご機嫌な蓮に挨拶をし、二人はゆっくりとアンティークショップを後にした。
fin
＋ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧）＋
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
1252/海原・みなも （うなばら・みなも）/女性/13歳/中学生
N P C/蒼月(そうげつ)/女性/？/鎮守の森・守人
N P C/爪牙・漣弥（そうが・れんや）/男性/24歳/代理屋
＋ ライター通信 ＋
ご依頼ありがとうございました。ライターの真神です。
この度は「日本人形は露出狂！？」に参加してくださり、誠にありがとうございました！
またみなもさんのお話を書くことが出来て、とても嬉しかったです＾＾
題とは裏腹にあまりギャグにはなりませんでしたが、とても楽しみながら書かせていただきました！
色々と悩んだ結果、こんな感じに納まったのですが大丈夫だったでしょうか？
着物や日本人形の様子をうまく描写できなかったのが心残りですが、少しでもみなもさんの魅力や個性を表現できていればと思います＾＾
そして、少しでも気に入っていただけたならこれほど嬉しい事はありません！
リテイクや感想等、何かありましたら遠慮なくお寄せくださいませ＾＾
それでは失礼致します。
またどこかでお会いできる事を願って―。
真神ルナ 拝
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