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五つの封印石〜第二話〜
オープニング
満月の輝く夜に、瑠守未央はスキップをしながら神聖都学園の前に姿を現した。
吸い込まれそうなほどの濃紺の空の中では星が瞬きを放ち、すべてが未央を見下ろしていた。静寂に包まれた学園は、昼とはまた違った顔を未央に見せている。
先日の鬼を倒した件で、神聖都学園にはまだまだ自分と遊んでくれるものが居ると判断した未央は手帳を片手に持ちながら、神聖都学園の前で歩みを止め、夜の学園を眺めた。彼女の顔には笑顔が浮かんでいる。
金色の髪を夜風が揺らして去っていった。
銀の瞳の中には、ただ嬉しさの輝きしか見出すことは出来ない。
未央は夜の学園を不気味だと思う気持ちは持っていないようだった。無邪気な彼女は天使のように愛らしい。だが、見た目とは全く違った強さが彼女の中には隠されている。
「あと四人、居るんだよね」
未央はにっこりとしながら、つぶやいた。
***
しばらく気のすむまで学園を眺めてから、未央は学園の中へと入っていった。夜の学園は不気味な静けさをたたえて未央を迎え入れる。本当に何か変なものが出てきそうな静けさの中、彼女は遊び相手が現れることを心の奥底から望んでいた。
「今日は誰か遊んでくれるかなぁ♪」
未央はそう嬉しそうに言いながら、相手を探すように学園内を歩く。中庭に侵入し、渡り廊下を歩きと自由奔放に駆け回った。
しばらく学園内を歩き回っていた未央が校庭へと足を踏み入れたそのとき、月の光を遮る黒い影が未央の頭の上を過ぎ去っていくのがわかった。
その影を見る限り、大きな鳥のようなものだということが伺える。未央は目をキラキラと輝かせながら上を仰いだ。
すると、そこにいたのは黒い翼を広げ飛んでいる、男性と巨大な鳥が合体したようなものだった。その鳥は鵺だろうということは予測が付いた。五つの封印石から解き放たれたバケモノの一匹だ。鵺は大きく一鳴きする。
鵺は未央向かって大きく翼を広げると、早速攻撃を仕掛けてきた。鬼との一件を鵺が知っているのかはわからなかったが、彼が未央を敵視しているということは、その体全身から立ち上る殺気によって予測をつけることが出来る。
翼の中から大量の羽根が飛び出し、未央を襲う。その羽根は一枚一枚刃物のようによく切れるということがなんとなくわかった。
未央はそれらをたくみに避けると、刃物の風を鵺に向かって放つ。だが、鵺は巧みにそれを避けた。黒い空の中に、未央の刃物の風が吸い込まれていってしまう。未央の避けた羽根は地面に深々と突き刺さっており、それらを体に受けたら無事ではすまないということを物語っていた。だが、未央はその様子を見て恐れるどころかさらに笑みを強くする。
そして、鵺が再び攻撃を仕掛けてくる前に、未央はすばやく視線を校庭の中に走らせた。校庭の周りにはちらほらと杉木の姿が見える。それを確認してから、鵺の攻撃を視界の隅に捉えると、駆け出した。羽根が先ほどまで未央がいた位置に突き刺さる。
未央はそんなことは気にも留めず、杉木の下へと向かった。
杉木の下へ行くと彼女はなにやら手を上に伸ばす。鵺が未央の後を追って翼を羽ばたかせる。その姿を確認してから、未央はまた駆け出した。彼女の顔には笑顔が広がっている。
未央はもう一つの杉木の下へ行き、先ほどと同じ行為を行った。それをまた鵺が追いかけると、未央はまた違う杉木へ向かう。
丁度四隅の杉木にすべて同じ行為を行うと、彼女は丸腰のまま校庭の真ん中で足を止める。
遮るものが何も無いその場所で、空を飛んでいる敵と対峙するのは自殺行為にも等しい。だが、未央の表情は自信に満ち溢れていた。
「悪いけど」
未央がやっとそこで口を開き、鵺が怪訝そうな顔で彼女を見つめる。
「ボクはただ動き回っていたわけじゃないんだよね」
にっこりと彼女が笑う。
「僕の、勝ちだね」
未央がそういって、自分の上に来た鵺に対して手を伸ばした。すると、四隅の杉木から風の鎖が飛び出した。それらは巧妙に杉木に隠されており、鵺が逃げるまもなく、彼を捕獲する。
鵺は力によって鎖を引きちぎろうと試みるが、風の鎖が引きちぎれるわけも無い。
未央は笑みを深くする。
「ボクと遊んでくれて、ありがと」
未央は、風の鎖を身動きの取れない鵺に向かって放った。
***
未央は学園の外へと飛び出し、それから振り向き学園を眺めた。
彼女の片手には一枚の羽根が握られている。鵺が放った羽根だ。それをもてあそびながら、手帳に「鬼よりは楽しかったかな」とメモをして、歩き出した。
エンド
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【6786/瑠守・未央(るかみ・みお)/女性/11/小学生・ハンターネーム【ハーピィ】】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは
また発注をありがとうございます。
いかがでしたか。
気に入っていただけたら幸いです。
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