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閻魔様とワタシ
──そこは、死者が行く先を決められるために裁く場所。
暗い暗い闇の底。ふっと意識を取り戻した『ワタシ』は、周囲に篝火が焚かれているのを目にする。
──ここはどこなのか?
首を捻っていると、目の前に卓と共に巨大な生き物が出現した。
『4月1日の今日、お前は自分でやった事全てを話さなければならない──』
拒否も、肯定も、最初から訊いてはいなかった。ただ厳然たる事実だけが存在する。
インドの古くから存在するという、死者を裁き、地獄へ叩き落すと言われている大王。
──なぜ、自分がここに。死んだのか?
それは分からない。分からないが、どうやら自分は今から罪状を告白し、裁かれねばならなかった。
『さあ、小さき者よ。話せ、全ての悪しき行いを』
●詐欺師、舘・宗平
「悪しき行い?」
ほのほのほの。
そんな擬音が付くのでは、というくらい春に陽だまりの如き笑顔を浮かべるのは、舘・宗平。齢三十二の
「そんな事した覚えはありませんよ?」
──詐欺師である。
目の前の鬼神の如き面の化け物を見ても、宗平の心は何ら揺れなかった。自分の記憶では、ソープに堕ちた女に絡んだ後、正義の味方気取りの男に高利貸しの男達に引き渡されたので、ああこれは殺されたのかなと思っていた。だったら何を怖がる必要があるだろう? ここに日本の法律は介在しない。
そんな浅はかな思惑など神にも等しい存在にはお見通しなのだろうか? 鬼の形相が一層恐ろしいものに変化し、『ここでは我が法律なのだ』と睨みつけた。
『分かるか、此処はお前を裁く場所。お前の人生総てを明らかにし、行く末が決まる──地獄か、極楽か』
「痛いのは嫌ですねぇ」
あくまでのんびりと、けれど確実に自分が助かる方法を計算し始める。現世で生きられないのなら、極楽浄土でのんびり暮らしたい。地獄と言えば殺伐とした痛みを与えられ続ける世界だからだ。
痛みに歪む女の顔は好きだ。だが、自分が見下ろされ、痛みを与えられるのは──好きではない。
身勝手な思いは、何年も共にしてきた自分の一部。宗平は閻魔大王に極力睨まれないよう、口を開いた。
「‥‥そう言えば、ちょっと女の子を泣かせる事が人より多かったかもしれませんね?」
女が好む、悪意のない仮面を被って。
●罪業
「こんなナリでも結構モテるんですよ。俺の笑顔が好きだと言ってね。よく告白されるんです」
常蛾灯に群がるように、女は数限りなく存在する。
「付き合ってあげるんですがねぇ、どうやら、向こうのご希望のオツキアイではないようで。いっつも俺が悪いと責められるんですよ」
半裸の女が自分に向かって叫ぶ姿が脳裏に浮かぶ。あれは何番目の女だったろうか。自分に向かって鬼と罵った女。だが、
「自分から告白したわけじゃないんだけどなぁ」
そう、ちょっと微笑んだだけで。自分に心を許し、手を取り、体を委ねる。だが、それも一瞬の事だ。
──なに‥‥だれっ!?
シーツの海に潜り込んでいる時に、多数の男達が部屋に乱入してきたらまず錯乱するだろう。半裸状態で泣き叫ぶ女をうっそりと眺めながら、間近で助ける事はなく、見守り続けるのだ。
「俺は俺で彼女達に尽くしてるんですがね?」
最近の携帯はムービーもついてて便利だね、と見せてやると顔を歪めて涙を零す。画質も良いんだよと顔に押し付けてやると更に泣き喚いた。
上っ面なだけの説明に、閻魔大王は聞き入っている。信じているのか、いないのか。嘘ではない自信が態度の余裕になった。
『お前の言葉は真実を隠すもの。我は総てを話せと言った筈だ』
宗平の体がピクリと動く。顔も、微笑みから不愉快そうなものへ。ご機嫌伺いだった言葉は、なりを潜めた。
「真実を話していますが?」
『女側の真実は大分違うようだが?』
すいと指を伸ばした先から、映像が生まれる。号泣する女達が次々と現れては消えて。
遊んだ後は放置したケースがほとんどだから、家庭が崩壊しようが本人が崩壊していようがどうでも良かった。実際、知らない女性達の姿も沢山あった。が、
「付き合ってと言うから付き合った。別れてと言うから別れた。その後の事なんか知りませんね」
ひらひらと不用意に近づいたのは総て女側から。それでどう『遊ぼう』が人に非難される覚えはない。
『何が悪で、何が善か。それすら見失ったか』
人を断罪しようとするのは上から下に頭を踏みつける事だ。宗平はそうされる事に慣れてはいない。故に、我慢がならない。
──裏切られた、と泣く女達の声は甘美で。そういう性が認められないのならば何故自分はそう『在る』のか?
女の歪む顔が好ましいと思い始めたのは何時だったろうか。気付けば呑気に笑っている女を蝿を叩き落すかのように地獄に落としていた。
何人もの女が、自分に向かって言葉を投げつけた。曰く、鬼だとか人間じゃないとか、まぁ大体人間外の存在にされる。それすらも快感に変わる。
男とは違う女の細い眉が顰められるのが好きだ。長い睫毛が震えるのは心躍る。紅のついた口から漏れる悲鳴は極上の蜜だ。許されないと罵られながら甘美な蜜吸い続ければ、道徳観念など剥がれ落ちた。
綺麗なものが認められる世の中が嫌いだ。汚いものあっての綺麗なものなのに、排斥しようとする世界が嫌いだ。だから、俺は犯罪ギリギリのところで女達と遊び続けている。
瞼を閉じれば、自分に極限まで追い詰められた女達の傷ついた瞳が見えた。甘やかな微笑みに酔い、自分を認められる心地に酔った女達が絶望色に染め上げられる悦び。彼女達が白ければ白いほど、その悦びは大きくなる。
『──小さき者よ、人は人が裁いてはならない』
閻魔大王が宗平の歪みを正しく見つめ、罪状を言い渡す。そういうお前は何様だ、と地獄へ落とされる恐怖も忘れ嗤った。
『お前が人に裁かれたくないと思っているように、女達もお前が裁いてはならない』
裁いている? 俺が? ‥‥違う、『遊んでいる』だけだ。
『極楽へ行く事は叶わん。しかし地獄へも行く事は許されぬ』
「な、」
『生きよ』
それは、何よりも大きな罰。生き続ける事こそが一番苦しいのだから。
「く、あああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!!」
全身に痛みが甦りつつあるのは、生と死の狭間より帰還を果たしているから。
生き地獄にも等しい苦しみの中、自分の罪を知る。
『自分の罪が分からぬ事。それこそが一番の、罪』
分かった時こそ、死に導いてやろうぞ。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
7004 / 舘・宗平 / 男 / 32 / 詐欺師
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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舘・宗平さま、ご依頼ありがとうございました!
こちらの都合で納品が遅れに遅れて申し訳ありませんでした。え、えいぷりるシナリオがこんな時期に‥‥。
小説の雰囲気も、当初考えていたものと180度違うものとなりました。
宗平さんの人生を深く考え、恐らくこうだったんじゃないか‥‥という考えが加わったせいでもあります。
美香さまの視点では、単なる悪役な宗平さんでしたが、ただ楽な悪役で生きていたわけじゃないんだと。
それでは、最後に。長々とお預かりしてしまい、申し訳ありませんでした。
どうか少しでもお気に召して頂けますように‥‥。
OMCライター・べるがーより
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