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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


夢色雫

オープニング

「夢色雫?」
朝一番にやってきた女性の依頼人に草間は問いかける。
「えぇ‥最近若い子の間でよく話を聞いて‥」
女性は最近高校教師になったばかりだと言う。
「夢の中に少女が出てくるんだそうです、そして夢色雫をくれて、それは願いを叶える物なんだとか‥」
女性は俯きながら、少し落ち着かない様子で答える。
「願い‥ね。それで何を願うんです?」
「‥信頼される教師になりたいんです‥。新任、しかも若い教師だと‥どうしても馬鹿にされて‥」
あぁ、なるほどと草間は呟く。
彼女のように綺麗な教師は男子生徒からはからかわれ、女子生徒からは嫌われるタイプなのだろう。
「それでは、お願いします」
そう言って女性は丁寧に頭を下げながら帰っていった。

「ねぇ、あの女‥何を頼んだの?」
女性が帰ると同時に高校の制服を着た少女が、女性を見送った草間に話しかけてきた。
「‥キミは?」
「あの女はアタシの担任。ねぇ‥何を頼んだの?」
「‥悪いが、依頼内容を話すことはできないな」
そう言って事務所に帰ろうとしたとき「助けて!」と少女がすがり付いてきた。
「アタシ、あの女に殺される!」
「何を‥」
興奮する少女を事務所にあげ、詳しく話を聞いてみることにした。
「あいつは、アタシに嫌がらせを毎日してくるの‥一度は歩いているところを上から植木鉢を落とされたこともあった」
話しながら震える少女に、嘘をついているようには見えなかったが女性の態度と全く違うため、いまいち信用しきれないでいた。
「アイツ、アタシのお兄ちゃんと付き合っていたんだけど少し前に別れたらしいの、それからアタシに嫌がらせが‥いつか殺される!ねぇお金は払うから助けてよ!」
しまいには泣き出す少女に草間は、どうしたものか‥と呟き電話を手に取った。

「もしもし、俺だ。仕事を頼みたいんだが‥結構複雑な仕事になりそうだ」


 視点→蒼王・翼



「思い込み‥という事はないのかな?」
 電話越しに翼は草間武彦に問いかける。その問いに草間武彦は「分からない」とだけ答える。
「‥両者に会ってみて、どちらかが嘘をついていそう‥とかはないのですか?」
「‥それはなかった、どっちも本当の事を言っているように俺には見受けられた」
 そうですか、分かりました―‥翼はため息混じりに答え、電話を切った。
「まずは少女の方を探ってみますか‥」
 そう呟くと、翼は調査書に目を通して少女の通う学校へと向かい始めた。

「‥こんなモノかな‥」
 男子生徒の制服に身を包んだ翼は鏡を見ながら呟く。少女の身辺を探るには生徒のふりをして聞きまわるのが一番‥という結論に至った翼は草間武彦に電話をして男子用の制服を調達してもらったのだ。
 普段から男装の麗人として通っている為、そこまで違和感はない。強いて言うなら翼の美貌と制服という組み合わせが違和感を与えている‥という所だろうか。
「アンタ、この学校の子?見かけないね」
 二年生の教室(少女の教室)がある校舎に向かう途中で、草間武彦に泣きついた少女・愛梨が姿を現した。
「‥最近、転校してきたからじゃないかな?キミこそ何でそんな所に?」
「‥アタシは嫌いな女から逃げて――」
 愛梨の言葉が最後まで発せられる事はなかった。何故なら翼が愛梨の腕を掴み、自分の方へ引き寄せたのだから。
「ちょ‥いくらなんでも急展開すぎでしょ―‥」
 愛梨が喋り終わると同時に上から植木鉢が落ちてきた。しかも落下地点は愛梨が先程まで立っていた場所、翼が引き寄せなければ愛梨の頭に落ちてきていただろう。
(‥狙われているのは本当みたいだな‥)
 震える愛梨の体を抱きしめ、翼は原型を留めていない植木鉢を見ながら心の中で呟く。
「どうしよう‥アタシ‥殺される‥あの女から殺される‥」
 がたがたと体を震わせて、涙声で呟く愛梨に「大丈夫、僕が護るから」と安心させるように呟く。
「‥とりあえず今日は家に帰った方がいい、大丈夫。僕が何とかしてあげるから」
 ね?と言うと「‥何でそこまでしてくれるの‥?」と愛梨が不思議そうに呟く。
「可愛い子の味方だからね、僕は」
 いつものように口説き文句を言うと「‥ふふ、変な人」と言って愛梨は家へと帰るために学校を出て行く。
「問題は教師の方‥。こっちは夢色雫の事を調べてからじゃないと動けないなぁ‥」
 今すぐに愛梨に嫌がらせをしている教師のところへ行っても良かったのだが、逆上したら愛梨に何をするか分からなかった。
 植木鉢を落として殺そうとするくらいだ、逆上したらそのまま殺しに行く可能性だってある。それよりは教師の欲しがっている『夢色雫』をちらつかせながら話し合った方が、話が纏まりそうだと翼は考えたのだ。
「さて‥コンピューター室は‥」
 周りをキョロキョロと見渡しながら翼が呟く。教師が探している『夢色雫』は若い子たちの間で流行っているモノだと言われている。だとしたらネットで探す方が手っ取り早いだろう。
「さて――‥」
 コンピューター室にあるパソコンの電源を付け、翼は『夢色雫』で検索をかける。すると流行っているという事もあり何万件もヒットした。
「‥これを全部調べていたら何日もかかってしまう‥さて、どうしよう‥」
 どうしようか思案していると、突然パソコンの画面が暗くなり『ユメイロシズク ガ ホシイノデスカ ?』と白い文字で表示された。その下には『 YES  /  NO  』と表示されていてどちらかをクリックするようになっている。
「‥何だろう、これ―‥とりあえず‥YES‥っと」
 カチ、とマウスをクリックすると同時に翼は意識が遠のき、机に突っ伏すような形で倒れてしまう。


「‥ここは―‥」
 目が覚めると目の前に広がる花畑、そして中心には着物を着た少女が立っていた。
「初めまして、夢色雫を求めてやってきたのですね。さぁ、どうぞお持ちなさい」
 そう言って少女は躊躇う事なく光り輝く丸い玉を、翼に渡してきた。
「こんな簡単に渡して‥いいのでしょうか‥?」
 簡単に手渡してくる少女とは真逆に翼の方が戸惑う。
「えぇ、此処に来た人には渡していい事になってるの。それに夢色雫が全ての願いを叶えるわけではないの、悪意のある願いは叶えないのよ」
 そういいながら少女は翼に近づき「目覚める時間よ」と翼の肩を軽く叩いた。
「ちょっと、何をしているの?」
 肩を叩く女性教師の声で翼は意識を取り戻す。
「西川‥さん?」
「え?」
 翼は女性教師の顔を見て呟く、何故翼が彼女の名前を知っているのか‥それは草間興信所に『夢色雫』の事を相談に来て、愛梨に嫌がらせを続ける教師本人だったからだ。調査書をFAXしてもらってよかったな‥そう思いながら翼は西川に話しかける。
「僕は草間興信所で夢色雫の事を調べるように言われた者です」
 夢色雫、その言葉を聞いて西川は「本当に!?」と身を乗り出して問いかけてくる。
「えぇ、夢色雫も此処にあります」
 そう言って翼は西川の前に夢の中で手に入れた『夢色雫』を見せる。
「私に―――‥」
 西川はそれを取ろうと手を伸ばすが、翼はサッと夢色雫を引っ込める。
「‥何?依頼したのは私よ?」
「確かにそう聞いてます―‥がキミに聞きたい事があるんです」
 聞きたい事?と西川は首をかしげ「愛梨の事だ」と短く言葉を返す。
「彼女に立て続けに起こる殺意のある嫌がらせ、キミの仕業でしょう?それは否定させない、現に僕の前でも起きたのだから」
 有無を言わさない翼の言葉に西川は言葉を詰まらせる。
「明日の夕方、草間興信所まで来てください、その時に夢色雫を渡すか決めます。もちろん渡さなかった時には依頼金をお返しします」
 そう言って翼は学校から出て行く。


「草間さん夢色雫を手に入れたんだけど‥依頼人に渡していいか迷っています」

 翌日の夕方、翼は草間興信所で草間武彦と話していた。
「確かに教師という仕事は大変だと思う、生徒、教師、保護者との関係など大変な事は多いと思う、でも夢色雫で信頼を得て、本当に納得するのかな‥それに愛梨の事も―‥」
「俺はお前に仕事を任せたから、お前の考えで動いていいと思うぞ」
 草間武彦は煙草を吸いながら翼の言葉に答える。それが一番難しいんだけど、と翼は言おうとしたが、その時に西川がやってきた。
「こんにちは、夢色雫‥いただけますか?」
「‥その前に愛梨を何故殺そうとするのか聞かせてもらえますか?」
 翼の言葉に「‥自分が止められないんです」と涙の混じる声で呟きだした。
「‥あの子が悪いワケではないのは分かっています、悪いのは浮気をした彼の方、私を捨てた彼の方‥だけどあの子の顔がたまに彼とダブって見えて‥どうしようもないくらいに憎たらしく思えてくるの‥」
 ぐす、と泣きながら呟く。
「本当は‥信頼される教師になりたいなんて嘘、全てが嘘というわけではないけれど―‥あの子を殺してしまう前に私をどうにかしてもらいたかったの‥」
 うぅ‥と泣く西川に翼は「‥それでも‥」とポツリと話し始める。
「それでも、その問題はキミが解決していかなくちゃ‥。夢色雫を使って解決しても、適当にやり過ごしたり、嫌な事から逃げ出している事と大差ない‥どうにかしたいなら自分の心でしなくちゃ解決にはならないと思う」
 僕に手伝えることがあったら何でも手伝うから頑張ろう、そう言って翼は西川に夢色雫を渡した。
「これはキミが自分の心を強く持つために持っておくといい。使ったときは‥キミは弱い心に負けたという事になるんだから‥使わないことを祈っているよ」
 分かりました、そう言って西川は草間興信所から出て行った。その顔はどこか晴れ晴れとしたもののように見えた――。
「やれやれ、女にはとことん甘いんだな」
 草間武彦は翼を見てクッと笑いながら呟いた。


 後日、西川から手紙が草間興信所に届いた。

 先日は色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 あれから、私は愛梨ちゃんと話し合い、今まで私がしたことを謝りました。
 全てが許されるには時間がかかると思います。
 だけど、弱い心にくじけそうになった時はあの時の翼さんの言葉を思い浮かべて、頑張っていこうと思います。
 ありがとうございました。


END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2863 / 蒼王・翼/女性  /16歳  /F1レーサー 闇の皇女

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■         ライター通信          ■
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蒼王・翼さま>

お久しぶりです。
今回「夢色雫」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
「夢色雫」はいかがだったでしょうか?
翼さまのカッコイイキャラが上手く表現できていると良いのですが‥。
少しでも面白かったと思ってくださったら、とてもありがたいです♪

それでは、またお会い出来る事を祈りつつ、失礼します。

―瀬皇緋澄