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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


リトル・ラヴ

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0.オープニング

いや、マジで。最近、零の様子がおかしい。
具体的に、どう変か…って?うーん…。
「っぶ!!」
ブハッと吐き出すコーヒー。
俺は、ハァと溜息を落とし、向かいで首を傾げる零に言う。
「零。それ、砂糖じゃねぇから。塩だから。塩っ」
「へっ?あっ、あぁ!!ご、ごめんなさい!いれなおしますねっ」
パタパタとキッチンへ駆けて行く零の後姿を見やりつつ、また溜息が漏れる。
…まぁ、こんな感じだ。
心此処に在らず…っつーかな。
コーヒーにドバドバ塩は入れるし、皿やカップを次々割るし。
果てにはアレだ。電気の通っていない掃除機を引き摺り回してる始末。
どうして、こうなったかって?
心当たり?あるさ。…そりゃあな。一緒に暮らしてるワケだから。
…じらすなって?あー…もう、わかったよ。
お前には言っておかなきゃならねぇだろうしな。
男だよ。男。零に、男の影あり、だ。
頻繁に出かけるし、電話もかかってくるし。
詳しい事は知らねぇよ。
あ?知ろうとしてないんじゃないかって?大きなお世話だ。
あぁ、もう、いいから。俺の事はいいから。
何とかしようぜ。こんなのが、これ以上続いたら…。
事務所、とんでもない事になっちまうから。

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1.

「すみません。遅くなっちゃって」
申し訳なさそうにテーブルにコーヒーを置く零。
私は微笑み、気にするな、と伝えつつ向かいのソファに座っている草間に言う。
「…で?今日は何の…っぶっ!?」
吹き出した。軽く口に含んだコーヒーを、私は即座に吹き出した。
舌が拒んだ。何だっ、この極甘コーヒーはっ。
もはやコーヒーじゃないぞ。これは。ただの砂糖湯だ。
口元を拭いつつ、チラリとキッチンで食器を片付けている零を見やる私。
吹き出した事に気付いていないようで、零は真剣に皿を磨いている。
妙だな…そう思い、眉を寄せる私に、草間は苦笑しつつ説明した。
一体、今、何が起こっているのかを、わかりやすく。簡潔に。

なるほどな。男、か…。
何というか、遂に…って感じだな。
今まで何もなかった故、不思議な嬉しさのような感情が生まれてくる。
そうだよな。零だって女なんだ。恋の一つや二つ、するだようよ。
…というのは、私の率直な気持ち。お前は…そうもいかないんだろうな。
大切な妹だし、仕方ないとは思う。
手放しで喜ぶ事は出来ないだろう。
わかる。その辺は、わかる。
でもなぁ、草間。
そんな険しい顔で一日中居てみろ。
ずっと傍にいる零が、どう思うか。
まったく…。
「お前が悪い」
ボソリと言う私。
草間はヘッと笑って返す。
「何でだよ。どこがだよ」
「…そういう態度だ」
馬鹿め。まるでガキだな。いや、それ以下かもしれん。
困ったものだ。お前という奴は。

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2.

「じゃあ、行ってきます。あの…す、すぐ戻って来ますので」
財布を持ち、扉に手をかけつつ言う零。
私は、いってらっしゃい、と手を振りつつ。
悟られぬよう、零に”影”を纏わせる。
バタン―
「…なぁ、これ、盗撮じゃ…」
零が事務所を出るや否や、苦笑して草間は言った。
まぁ、確かに心苦しいが。現状、こうするしかないしな。
お前が、そんな仏頂面していちゃあ、ここに連れてくるなんて出来まい。
まず、相手がどんな男なのかを調べ確かめねば。
お前も、知りたいはずだ。知りたくて、仕方ないはずだ。
…本音をな。本音を晒せば。私も、反対なんだ。
男と仲良く親しくなる事には、反対しないさ。
だがな、それ以上。
ずっと、一緒に居たい。傍に居たい。離れたくない。
そう思う程に、想いが育ってしまう恋ならば。
素直に、それを応援する事は出来ん。
成就させてやりたいとは思うが…相手が悪い。
草間の話を聞く限り、どうやら相手は”普通の人間”のようだ。
他人が、とやかく言う問題ではないが…。
いずれ、不幸になるのでは、という不安が、とてつもなくデカいんだ。
そうは思ってもな。言った所で聞かぬであろうな。
本人は夢中。恋に、相手に夢中故に。
自ら悟るまで。見守るしかないだろう。
成就するのなら、ずっと幸福で居られるのなら。それが、一番だけどな…。


零に纏わせた影は、カメラの役割を成す。
映画館のスクリーンのように。目の前に映し出される、零の姿。
チラチラと見やるだけの草間。
その姿が、とても滑稽で。
私は苦笑しつつ影内から座り心地の良い極上ソファを出し、
そこへ半ば強引に草間を座らせて言う。
「少し落ち着け。みっともない」
気持ちは理解る。
そりゃあな、私にとっても零は妹のように可愛い存在。
どこの馬の骨ともわからぬ奴に、やる気はないさ。
だがな、零の気持ちを思えば。
頭ごなしに駄目だなんて言えない。
だから、草間。こうしよう。
良い男だったら、事務所に招待でもして、少しずつ。認めてやろう。
パッと見で判断は出来ぬかもしれないが。
大丈夫。人を見る目には自信があるんだ。私は。
「…あ」
影スクリーンに映し出される、逢引現場。
そうか…いつも、こうして。
買い物ついでに、彼に会っているのか。なるほどな。
影スクリーン内の零は、やたらと腕時計を見やっている。
…不憫だ。草間の事を気にしているのだろう。
これじゃあ、ゆっくり落ち着いたデートなんぞ、出来まいて…。
そして、問題の相手、だが…。
「ふむ…まぁまぁ、か?」
ポツリと言う私。
「そうかぁ?頼りねぇよ。何か」
クスクス笑う私。お前が言うのか。それを。
「…はぁ」
漏れる、草間の溜息。
パッと見でロクでもない男だったら、駄目だと即座に言えたな。
でも、そうではなかった。むしろ、逆。
おそらく、誰が見ても感じの良い好青年。
若く、たどたどしいが、必死にエスコートをしている。
微笑ましい光景じゃないか。思わず、顔が綻んでしまう。
「…何歳なんだろうな。こいつ」
ニコニコしている私とは逆に。
神妙な面持ちでポツリポツリと呟く草間。
相手の歳や住んでる所。果てには家族構成まで気にしている始末。
まったくもって、困った奴だ。これは…苦労するなぁ。零。
可哀想に。

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3.

ガックリと肩を落とす草間。
私はササッと隣に座り、目を伏せ微笑んで言う。
「妹を取られ、寂しいのは理解る。だから…」
「だから?」
フッと顔を上げて言う草間。
私は、少し目を泳がせつつ続ける。
「傍にいてやる。私が」
「………」
ジッと私の顔を見やる草間。
そ、そんなにマジマジと見るな。
時折交わる視線に、胸の鼓動が高鳴る…。
その苦しくも甘い痛みから逃げるように。
私は、少し声を荒げる。
「話相手になるだけだぞ。ふ、深い意味はないっ!」
別に草間は、直接何かを探ってきたワケじゃないが。
問われているような気がしたんだ。
”それって、どういう意味?” と。
目を逸らしたまま、意味もなく窓の外を見やっていると。
「なら、早速慰めてくれよ」
草間は、ポテッと私の膝に頭を置いた。
「…ちょ」
突然の事に、反射的に握る拳。
何してんだ、と。いつもなら殴っているが。
…それが出来ないのは。
あまりにも、弱々し過ぎるからだ。
何だよ、それ…今にも消えてしまいそうな、脆い、脆い、姿。
そんなの、お前らしくないよ。
私はフッと笑みを浮かべ、草間の頭に手を乗せて言う。
「まるで、父親だな」
すると草間は、即座に言葉を返した。
「…うるせぇ、母親」
一瞬、呆気に取られる私。
意味のわからない、声篭った反論。
私は草間の髪を優しく撫でやる。
影スクリーンに映し出されている少年が、
どことなく草間に似ている事に気付き。
時折、クックッと苦笑しながら。


コツコツ―
「零、入るぞ」
ガチャッ―
どうぞ、という返事を待たずしてツカツカと部屋に入ったのは、
私も草間と同じように。妙な興味が湧いて仕方ないからかもしれない。
「ど、どうしました?」
パタンと読んでいた雑誌を隠すように閉じる零。
チラリと見えるタイトル。
その雑誌は、中高生に人気のファッション誌。
テーブルの上には、数点のスキンケアグッズ。
あぁ、もう、すっかりと。
見も心も”女”だな、零。
私は微笑みつつ、零の隣に座り、
床に置いてあった他の雑誌をパラパラめくりつつ言う。
「”いい人”でも出来たか?」
「…へっ。えっ、と…」
パッと目を逸らし、戸惑う零。
無駄だよ。お前達兄妹は、まず隠し事が出来ない。
あぁ、勘違いしないでくれ。
問い詰めたり、誘導尋問したり、そういうつもりは全くないんだ。
ただ、そう、一つだけ。
「きちんと、草間には紹介してやれよ。家族、なんだから。な」
ニコッと微笑んだ私を見て、緊張の糸が切れたのか。
零は涙目で一度頷いて、言った。
「なら…冥月さんにも、紹介しなくちゃ、ですね」
「…な、何でそうなる」
草間がヘコみ倒れてフテ寝に落ちた夜。月の綺麗な夜。
話し疲れて眠るまで。
私は、零の話を聞いた。
まるで、娘の悩みを聞く母親のようだと。
そう思ったのは、兄妹揃って妙な事を言うからだと、思う…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/04/24 椎葉 あずま