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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


廃墟探検
 月刊アトラスの特集ページの端に、募集の公告があった。

『密かなブーム!? 廃墟探検☆★

 誰もいない病院
 置き捨てられたベッド、カルテ、医療器具……

 麻酔の切れた痛み苦しむうめき声が
 助けを呼ぶナースコールが
 救急車のサイレンが

 今にも聞こえてくる……かもしれない……病院

 一緒に探検してみませんか?

 日時 ○×年■月▲☆日 23:00

 問い合わせ・参加申込は98pをご覧下さい

※探検をする病院は予め持ち主に許可をいただいております』


「お客さん来ますでしょうか……?」
 いつでも困った顔のような三下忠雄に、碇麗香はこともなげにいう。
「来なかったら、三下くんが行って原稿書いてちょうだいね」
「ええええええええええええええええ」
 三下は更に情けない顔になった。

●シュライン・エマ
「武彦さん」
「ん?」
 シュライン・エマに呼ばれ、草間武彦は振り返る。その口にはさきいかが咥えられている。
「…書類に唾がつきますよ…」
「……用件はそれか?」
 大仰にため息をつきながら言うシュラインに、武彦は目を細めてさきいかを引っ張ったティッシュの上に置く。
「あ、そうそう。確か▲○日ってお休みでしたよね?」
「▲○日……?」
 武彦はカレンダーとにらめっこしてから、ああ、と短く返事をした。興信所に休みはほとんどないのだが、草間興信所の近くで水道工事があり、半日断水、と言われた武彦が「臨時休業だ」と勝手に決めた。
 もちろん事務所はしまっていても、活動している人たちもいるのだが。
「それなら大丈夫ね」
「ん? なんだデートか?」
「……」
 シュラインに睨まれ、武彦は書類に視線を落とした。
「…全く…」
 小さくため息。
「翌日休みだから参加できそう。三下くんが記事かけない場合、代わりに書いて原稿料貰おうかな」
 早速月刊アトラス編集部に電話をいれる。
 そこで碇麗香と交渉し、原稿料をもらえることになった。
 電話をきったシュラインは、再びさきいかを咥えた武彦の後ろ姿をみながら、その日何度目かのため息を落とした。
 結局、原稿料でもらえるお金も、事務所の維持費にかわるのだろう。

●冴木紫
「これはいいかも」
 アトラスの記事を見つけた紫は、ドックイヤーをつける。
 紫の座っている腰元には、電気代やら水道代の明細書が無造作におかれている。
 そこには何日に引き落としをします、とあるが、手元の通帳の残高は心許ない。
「三下の原稿なんてアテにしてたら、いつまでたってもあがってこないの目に見えてるし!」
 雑誌相手にブツブツいいながら、紫は携帯電話を手に取る。
 そしてなれた様子で麗香につないでもらうと、原稿の交渉にはいる。
 三流オカルト雑誌を中心に仕事をしている紫。その手に雑誌では名が知れている方である。
 もう一人原稿を書いてくれる人がいる、ということで二人比べておもしろかった方を載せるから、と言われた。
「ちっ」
 電話をきった紫は小さく舌打ち。先約がいたなんで誤算だが、自分はプロである。負けるはずがない。そう紫は思いながら、立ち上がり、明細書を踏みつけた。
「どっかに、たまーにご飯一緒に食べるだけで、お金くれるよーなお金持ちいないかしらね」
 ぽつり呟いた後に、いけないいけない、と首を振る。
「どーも最近夢見がちでいけないわ」
 コキコキ、と肩の骨をならした。

●白虎轟牙
 轟牙のいるサーカスに、一人の美女が訪ねてきた。
 その美女の名前は碇麗香。月刊アトラス編集部の編集長だと言う。
 なんてそんなオカルト雑誌の編集長がサーカスに? まさかサーカスに幽霊が出る、とでも噂がたったのだろうか!? と団員の間でおひれはひれついて噂があちこちに広まった頃、団長は動物たちのところにたっていた。
「轟牙」
 呼ばれて出てきたのは真っ白な虎。世界でもそう何頭もいないホワイトタイガー。
 轟牙は人語を解している。
「なんだか護衛を頼まれたよ。……行ってくれるかい?」
 団長の声に応えるように、轟牙は低くうなった。

●アトラス編集部
「これはまた…」
 見た顔しか揃ってないわね、と麗香はつぶやき、予定表を手渡した。
 それに紫とシュラインはさっと目を通す。
「それから三下くん」
「は、はい」
「護衛雇っておいたわ」
「護衛?」
 麗香に言われて出てきたのは……轟牙。
「そ、そそそそそそそれは!?」
 思い切り後ろに飛び退いて、三下は轟牙を指さす。それに轟牙は指でさすな、と言うかのように低くうなる。
「ホワイトタイガーよ。暗闇にも目立っていいわね」
「そ、そういう問題ですか……」
 廃墟に向かう前から三下はすでに震え上がっている。
「ショック療法かしらね。これだけ怖かったら逆に廃墟で怖くないんじゃないかしらね」
 どこか楽しそうに紫が言う。シュラインはどうして麗香が虎を護衛に頼んだのか、その真意がわからず、虎と麗香を見比べた後、小さく息を吐いた。

●廃墟
「そ、それでは、み、みなさん、い、いきましょうか」
 轟牙と廃墟におびえ、半泣き状態になっている三下に、轟牙がしっかりしろ、と吼える。
 それにまた三下は瞳を潤ませながら1mほど飛び退く。
「さすがに病院の名前は取り外してあるわね」
 入り口の写真を撮る紫。シュラインはあたりの音に耳を澄ませながら、メモをとる。
 入ると受付が見えた。その後ろにある書棚は崩れ、たくさんの紙が下敷きになり、水に濡れ、文字を読み取ることはできない。
 たくさんの人が座ったであろうソファはあちこちが破れ、転がっている。
 受付のわきから抜ける廊下。
 床はめくれあがり、錆のにおいが鼻につく。
「こっちは診察室ね」
 辛うじて外科、と読める文字。担当の先生の札も残っているが、そこは劣化していて読めなかった。
 診察室の中も散乱としている。
 ベッドが横倒しにされていて、誰か遊んだような形跡が残っていた。
「廃墟が密かなブーム、とかやってたけど、おもしろ半分で荒らす馬鹿がいるのよね、どこでも」
 シュラインはほこりだらけの棚を指先で触り、顔をしかめる。
 さすがに針は見かけなかったが、注射器やら消毒器具が散らばっていた。
 一通り診察室、処置室、手術室などをまわった。
「病棟は2階かしらね」
 天井を見上げた紫に、三下は頷く。
 そして階段にさしかかった瞬間。
「ガオォォォォォー!」
 突然轟牙がほえ、三下が飛び退く。轟牙は何かを感じるかのように階段を軽やかにかけあがっていった。
「あの巨体でどうしてまたあんなに軽々とのぼれるのかしらね」
 紫は肩をすくめると、階段のめくれをよけながら轟牙の後に続く。
 シュラインは耳に意識を集中する。
 自分たちのほかに人がいれば、否が応でも呼吸する。そんな息づかい、足音、布擦れの音、それらが聞こえるか確かめてみたが、アトラスからきたメンバーの他に、人の気配はなかった。
「三下くん、しっかりしないと、ここで一人になるわよ」
 シュラインの声かけに、三下はあわてて後についた。

●病棟
 轟牙は病棟の廊下を走っていた。
 どこかですすり泣く声が聞こえる。
 2階、3階、ときてようやく声の出所を発見した。
 小さく声をあげながら、轟牙は病室の中に入っていく。
 入り口には数人の名前が書かれたプレートがあった。
「だ、だれ……?」
 病室の中から、小さな女の子の声が聞こえた。

「小児病棟みたいね」
 シュラインから渡されていた病院の見取り図を見ながら、紫は3階にあがり、病室に消えていく轟牙のしっぽを辛うじてみることができた。
「ど、どうですか……?」
「そこの病室に入っていったみたい。ほら、先に入って」
「え、ええええええええええええ!?」
「何驚いてるのよ。あなたのとこの企画でしょ。がんばって」
 肩で息をついていた三下は紫の言葉に文字通り飛び上がった。
 何があるのかわからない病室。しかも言葉が通じない(と思っている)轟牙、という虎がいる病室。
 三下は今にも逃げ出したい気持ちでいるのに、病室に先頭をきって入れ、という。
 思わず三下はすがるような目つきでシュラインを見る。
 それにシュラインは息をついて病室と三下を見比べた後、三下の前に一歩進み出た。

「トラ、さん……?」
 病室の主は、肩口で綺麗に切りそろえられた黒髪の少女だった。
 その少女の姿は、少し透けていた。
 あからさまな幽霊、という感じの少女だが、予想外のお客さんに、さすがに目を丸くする。
「トラさん…迷子なの?」
 少女の問いに、轟牙は小さく首を振った。
 その行動に、少女の表情がぱっと明るくなる。
「トラさん、私の言葉、わかるんだ!」
 嬉しそうにベッドの上から飛び降りて、轟牙の首にとびついた。
「……可愛い彼女ね」
 不意に別の声が聞こえて、少女はぎゅっと轟牙の首にしがみついた。
 声の主はシュライン。病室の中がどうなっているかと思いきや、轟牙は可愛い女の子と抱き合っている。そんな様子に、思わず苦笑いが浮かぶ。
「こんな所にいる子だから、普通の子じゃないとは思うけど……」
 シュラインに続いて紫が入ってくる。三下は二人の後ろに隠れるようにドアの陰にしがみついている。
 次々に入ってくる人に、少女はおびえきった様子で轟牙の首に更にしがみついた。
 それに轟牙は苦しさを感じつつ、後から入ってきた3人を睨むように振り返る。
 ぐるぐるぐるぐる、と低く喉をならされ、三下は飛び退く。
「そんな怖い顔しなくても、その子を傷つけたりしないわよ」
「……お話くらいはしてもいいでしょ?」
 あきれたような紫に、困ったような曖昧な笑みを浮かべるシュライン。
 完全に隠れてしまった三下を抜きにして、二人の様子から少女は自分を傷つける人ではないと判断したようだった。
 少女はベッドの横に腰をおろした轟牙の横にちょこんと座った。
「昔は、沢山お友達がいたの」
 少女はそう言って病室内を見回した。
 お友達、が生きているのか死んでいるのはわからないが、あえてつっこみはいれなかった。
「でもどんどんお友達は減っていったの……そして気がついたら私一人……時々なんか騒がしい人たちが入ってくるんだけど、私が見えないのかわからないけど、全然相手にしてくれなくて。たまに私が見える人が来ると、怖がった逃げちゃうか、変なおまじないを唱えてくるの。……怖くないけど、よくわからないから、私が逃げちゃうんだけど……」
 すっかり轟牙が気に入ったのか、後半は轟牙の体にピッタリくっつきながら話していた。
「それで、これからどうしたいの……?」
 シュラインに問われて少女は小首をかしげた。
「どうする、って?」
「成仏したいのか、このままここにいたのか、って事かしらね」
 シュラインの言葉に付け足すように紫が言うと、少女は悲しげに顔を轟牙の毛の中に埋めた。
「わからないの……どうして私がここにいるのか……」
「誰か、待ってる人でもいた?」
「待ってる……?」
 少女はシュラインの言葉に、何かを思い出すかのように空中を見つめる。
 そして、あ、と小さく呟き、その瞳から大粒の涙があふれ出す。
「私、ずっと待ってたんだ。お母さんが必ず迎えに来るから待っててね、って言ったから。でも私……お母さんが来る前に死んじゃったんだ……」
 すべてを思い出したのか、少女の瞳から次々に涙があふれ、流れる。
 その涙を轟牙が優しくなめとる。
「そっか……お母さんをずっと待ってたのね。それじゃ多分……お母さんも待ってるわよ?」
 紫に言われて、少女は「え?」と紫をみた。
「あなたのそのパジャマから察するに、結構前の物よね。それから考えると、お母さん先にいってる可能性が高いわ。……万が一お母さんがまだいってなくても、向こうで待っててあげたらいいわ」
「お母さんを待ってる……」
 少女はその言葉を大事そうに胸に抱え、立ち上がる。
「どうやってのぼったらいいか、わかる?」
 生憎とここには霊能者はいない。上にあげるところに何度立ち会ったところで、その術が使えるわけではない。
 シュラインの問いに、少女はキョロキョロとあたりを見回してから、ついと天井を見つめた。
「……大丈夫、だと思う」
「そう、ならよかったわ」
「この事、書かせて貰ってもいい?」
「うん、いいよ。……もしそれをお母さんが読んで、私のこと思い出してくれたら嬉しいし」
 にっこりと紫に少女は笑いかける。
 それに紫も笑顔で返しながら、もし生きてても結構老齢だから、月刊アトラスなんて読まないんじゃないかな、という言葉は辛うじて飲み込んだ。
「ありがとうトラさん、お姉ちゃん達。ばいばい」
 小さく手を振って、少女はとけるように消えていった。
 少女の消えていった場所を、轟牙は眺めると、天井を見つめ、小さくほえた。

●サーカス ─轟牙─
「大丈夫だったか?」
 少々ほこりだらけで帰ってきた轟牙。それに団長が労いの言葉をかける。
 それに轟牙は低く喉をならして応える。
「一眠りしたら、また頑張っておくれ。うちの看板スター」
 言ってそっと、扉をしめた。
 轟牙の一日は、これからはじまるのである。

●草間興信所 ─シュライン─
 なんとなく興信所に足を運んでしまったシュライン。
 来たついでに軽く片付けでも、と思い合い鍵でドアを開けると、机にもたれたまま眠っている人物を発見した。
「……」
 シュラインは思わず笑ってしまう。
 その声に反応したのか、はたまた眠りが浅くなっていたのか、武彦はうっすらを目を開ける。
「…そんなところで寝てると、風邪ひくわよ」
「……ん? なんだ…もう朝か……」
「朝、って呼ぶには少し早いかも知れないけど。コーヒーでもいれる?」
「あ、ああ……。そういや、今日はでかけるんじゃなかったのか?」
「用事はも終わったわよ。ちょっと夜中に探検ゴッコしてきたの」
「探検……?」
 シュラインの言葉に首をかしげつつ、武彦は大きなあくびをする。
「用事ないなら、もうちょい仮眠したらどっか行くか」
「武彦さんと?」
「嫌なら別にいいが」
「……しょうがない、つきあってあげるわ。どうせ休日でもデートする相手なんていないんでしょうから」
「うぐ……」
 言葉をつまらせた武彦に、シュラインは嬉しそうに笑った。

●アトラス編集部 ─紫─
「こっちが私の原稿で、こっちがエマさんの原稿。それからこっちが撮影した写真ね」
 ぽんぽんぽん、と紫は麗香のデスクの上に原稿と写真が入った封筒を置いた。
「ありがとう。読ませていただくわね」
 言って麗香は両方の原稿にさっと目を通す。
「……さすがに冴木さんの方が読ませる文章になってるわね。でも調査員としても目も確かみたい……そうね、こっちの文章を取り入れて、もういっかい構成し直してくれると嬉しいわね」
 原稿料は両方に払うから、と珍しく気前のいい麗香。
 後で聞いたところによれば、全然役に立たなかった三下の分が二人に回っただけ、という話らしいが。
 この際紫にとって、原稿料が入ればいいわけで。
「そうそう、使えない三下のおもりもした事だし、原稿料上乗せしてくれると嬉しいわね」
 家賃の引き落としももうすぐだし、という言葉は飲み込む。
「……そうね、その書き直し次第で考えるわ」
「またよろしくね」
 にっこりと紫は笑った。
 これで催促の電話を貰うことはなさそうだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086*シュライン・エマ*女*26*翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1021*冴木・紫*女*21*フリーライター*さえき・ゆかり】
【6811*白虎・轟牙*男*7*★サーカス団の看板動物スター。猛獣使い 柴樹紗枝のベストパートナー*びゃっこ・ごうが】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは&初めまして、夜来聖です。
 今回は私の依頼にご参加くださりまして、誠にありがとうございます。
◆シュライン様
 私が書くと、武彦氏は子供のまま大人になったような男性になります(汗)
 公式NPCなので私は位置づけできませんが、友達以上恋人未満って事で。
 でも実はこの辺のやりとりも好きだったりします……。
 って全然依頼と関係ないですねΣ
◆紫様
 イメージが狂ってないと嬉しいのですが。
 シュラインさんとちょっとにてるかな、と思いつつ、紫さんの方がさばさばしてるかなぁ、と勝手に思って書きました。
 楽しんで頂ければ幸いです。
◆轟牙様
 トラさん(笑)の参加ははじめてなので、どう描写したらいいのか、考えながら書かせて頂きました。
 勉強になりました。
 台詞とかないですが、存在感はタップリあるかなー、と。
 楽しんで頂ければ幸いです。

 それでは、またの機会にお会いできることを楽しみにしています。