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東京魔殲陣 / 陰陽の下僕
◆陰陽の下僕◆
――バラバラバラバラ……ッ!
軽快な音を響かせて、短く切り詰められた銃身から息つく間もなく吐き出される弾丸、弾丸、弾丸。
結界壁に外界からの光が遮られているせいだろうか、やや薄暗い感じのする戦場をIngram Mac11(サブマシンガン)のマズルフラッシュが照らし出す。
「ウゴアァァァァッ!!」
馬頭に向かって放たれたその弾丸は通常のそれではない。ひとつひとつが退魔処理の施された特製弾頭。これにはさしもの馬頭も堪らず声を荒げる。
これが単なる鉛弾であれば幾ら撃たれようと毛ほどの傷も負いはしないものを。
忌々しげに己が見に穿たれた穴に一瞬視線を落としてから、馬頭は弾丸の主たるその女に目を向ける。
「……術者の制御を離れてるとは言っても、ヤッパリ鬼は鬼……」
手にした銃と馬頭とを交互に見比べポツリと呟く緑色の髪の女。その身に纏うは黒のライダースーツ。
それは年頃の娘の格好としてはやや艶に欠けると思われがちだが、逆にそのシンプルさが彼女の持つ凛々しさを、その意志の強さを感じさせる凛とした美しさを、より一層際立たせているとも言えた。
「そのムダにぶ厚い筋肉はダテじゃあないってコトか」
小さく舌打ちをして右手の銃を投げ捨てる。
如何に銃弾に退魔処理を施してあるとは言っても、物理的な意味での殺傷力は通常のそれと大差ない。牽制には使えるかもしれないが、そうして使うにはやや弾数に難がある。
代わって彼女が取り出したのは一振りのナイフ。無論それにも退魔処理が施してある。それを右手に逆手で構え、空いた左手には彼女お得意の炎の符。
胸の前で両腕を交差させるように構えると、わずかに腰を屈め体勢を整える。
――戦闘準備、完了。
心の中でそう呟き眼前の標的に意識を集中する。
彼我の距離はメートルにしておよそ10。人間が相手なら十分な間合いだが、いま彼女が相対しているモノは、およそ人とは似ても似つかない人外の化生。
「グフッ、グフルルルゥゥゥ……」
その鋭い爪と牙で人の肉を引き裂くことに愉悦を覚える文字通りの鬼。
己の前に現れた美しい獲物を引き裂く様を夢想して下卑た笑いを浮かべるバケモノなのだ。
「そ、いいわ……遠慮は無用ってことね」
人に害成すバケモノにもとより遠慮するつもりなどなかったが、それでも彼女はそう口にする。胸の内に滾る正義の心を、さらに激しく燃やすために。
◆退魔の技の継承者◆
「グガアァァァッ!」
「……ッッ!」
振り下ろされた馬頭の爪が、眼前ほんの十数センチのところを颶風となって駆け抜ける。
――ゴオゥッ!
その爪撃を躱すと同時。彼女の左手から放たれた数枚の符が燃え上がる炎へとその姿を転じ、まるで意思あるものの如く馬頭の身体を絡め取る。
「フウ……ッ」
そうして生まれたその隙に大きく後方へ跳躍。地面に片膝を着く様にして着地、馬頭との間の間合いを計る。
「さすが馬ヅラ……情報にあった通り、かなりのスピードね」
符炎を振り払い憤怒の形相でコチラを睨む馬頭を尻目に、胸元から新たな符を取り出しそう呟く。
だがしかし、自分もスピードに関してならそれなりに自信がある。
常人に比べれば並外れた身体能力を持っているとは言え、その身が人間であり女であることに変わりはない。
そんな彼女がこの荒事に塗れた世界でこれまでやってこれたのは、ひとえに力よりも速度や技に重きを置いたその戦闘技術の高さゆえ。
「でもね……いえ、だからこそ、かしら。真正面からやりあうなんて馬鹿なコトは……しないわよ」
わずかに口の端を釣り上げるようにして、笑う。
(これで、7箇所目。……残るはあと1箇所よ)
間合いを取るために大きく跳躍・後退し、膝を着いたかのように見せかけて地面に縫いつけた符陣。
それは、人を遥かに凌駕する驚異的なタフネスを誇るバケモノですら灰になるまで焼き尽くす、馬頭にトドメを刺す為の仕込みだった。
「ガアアアアァァァァァッ!!!」
しかし、黙ってそれを許す馬頭ではなかった。
いや、彼女の思惑など欲望に取り憑かれ碌な思考を持たない馬頭に察することなど出来はしないのだが、それでもナイフや暗器、鬱陶しい炎の符術などで己の攻撃をのらりくらりと躱され続け、未だに己の爪や牙は一滴の血も吸ってはいない。
その不愉快な事実に馬頭は猛っていた。そして、こう考えた。
もう、弄ぶのはヤメだ。いますぐに息の根を止めて、それから存分に肉を喰らい、血を啜ろう、と。
「グウ……ッ!」
予想を遥かに上回るスピードで迫り、そして鋼板すらも容易く突き破る後ろ足の蹄の一撃を繰り出す馬頭。
辛うじてそれを受け止めることは出来たものの、その予想外の威力に彼女の身体は大きく弾き飛ばされる。
「チイッ」
掌と膝を地に着き、頭を振って、衝撃を振り払う。
些か時間を掛けすぎた。そのことに今更ながら気付き舌打ちを漏らす。
――ビュオゥ!
しかし、そこへ間髪入れずに迫らんとする馬頭。瞬間、その姿がまるで掻き消えたかのような錯覚を覚える。
弾き飛ばされた衝撃とその際に生まれた一瞬の混乱がその錯覚を生んだのだ。
――グォォォンッ!!
重く厚い何かが風を切って迫る音を知覚する。おそらくそれは先程と同じ馬頭の蹄。直撃すれば如何に鍛錬を積んでいるとは言え無事には済むまい。
……だが、次の瞬間。
「残念……。一手、遅かったわね」
絶体絶命の場面にはおよそ似つかわしくないクールな声が、明らかにその倍以上はある轟音の中で涼やかに響く。
――ゴオオオオオゥッ!!!
それは地に付いた掌、その下で地面に縫われた炎の符から迸る、物理法則を無視し、質量すら伴うほどまで圧縮された炎の塊。
「ガァアアァァァッ!」
地面から噴出すそれに必殺の一撃を阻まれたのみならず、他の七点からも同様に噴出した炎によって退路を封じられ、気がつけば行くも引くもかなわぬ有様。
外周を結べば円、対角を結べば重方陣を描く八つの頂点から噴出した炎の舌は止まることを知らず、終には周囲の空間ごと馬頭を飲み込むと、一瞬にしてその身を灰へと還してしまった。
「ふうっ、どうやら私の……勝ちみたいね」
馬頭の最後を見届けて、彼女はホッと息を吐く。
最期にほんの少しだけ梃子摺ったけれども、終わってみればこんなものか。
どこからか吹き込んでくる風に浚われ消えてゆく、ほんの一瞬前まで馬頭であった灰の山を一瞥し、彼女は最期にこう呟く。
「私の名前は火宮・翔子、退魔の技の継承者……。地獄に行っても覚えてなさい」
■□■ 登場人物 ■□■
整理番号:3974
PC名 :火宮・翔子 (ひのみや・しょうこ)
性別 :女性
年齢 :23歳
職業 :ハンター
■□■ ライターあとがき ■□■
火宮・翔子さま、お初にお目に掛かります。
この度は、PCゲームノベル『東京魔殲陣 / 陰陽の下僕』へのご参加、誠に有難うございます。担当ライターのウメと申します。
地獄の門番が一、馬頭との戦いお楽しみ頂けましたでしょうか?
残念ながらダイスのカミサマは機嫌が悪かったようで、アイテムの入手とはいきませんでしたが見事な勝利おめでとうございます。
私としては、はじめて企画したタイプのシナリオで、お客様に気に入って頂けるかどうか戦々恐々。
個人的には、【ほのぼの・らぶらぶ】<<<<<【シリアス・バトル】なので、書いてて非常に楽しかったです。
シリーズものとして軌道に乗れば、多人数戦のシナリオも作成したいと思っておりますが、今後の予定は未定です。
そんな未熟な私ではありますが、これからも皆様に楽しんで頂けるストーリーを目指して頑張りますので、どうぞヨロシクお願いします。
それでは、また何時の日かお会いできることを願って、有難う御座いました。
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