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リトル・ラヴ
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0.オープニング
いや、マジで。最近、零の様子がおかしい。
具体的に、どう変か…って?うーん…。
「っぶ!!」
ブハッと吐き出すコーヒー。
俺は、ハァと溜息を落とし、向かいで首を傾げる零に言う。
「零。それ、砂糖じゃねぇから。塩だから。塩っ」
「へっ?あっ、あぁ!!ご、ごめんなさい!いれなおしますねっ」
パタパタとキッチンへ駆けて行く零の後姿を見やりつつ、また溜息が漏れる。
…まぁ、こんな感じだ。
心此処に在らず…っつーかな。
コーヒーにドバドバ塩は入れるし、皿やカップを次々割るし。
果てにはアレだ。電気の通っていない掃除機を引き摺り回してる始末。
どうして、こうなったかって?
心当たり?あるさ。…そりゃあな。一緒に暮らしてるワケだから。
…じらすなって?あー…もう、わかったよ。
お前には言っておかなきゃならねぇだろうしな。
男だよ。男。零に、男の影あり、だ。
頻繁に出かけるし、電話もかかってくるし。
詳しい事は知らねぇよ。
あ?知ろうとしてないんじゃないかって?大きなお世話だ。
あぁ、もう、いいから。俺の事はいいから。
何とかしようぜ。こんなのが、これ以上続いたら…。
事務所、とんでもない事になっちまうから。
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1.
ものすごい落ち込みようねぇ。
気持ちは理解るけど…。
そんなにショゲられると、正直。私としては複雑だなぁ…なんて、ね。
溜息を漏らす武彦さんの隣にストンと座り、腕に絡み付いて私は言う。
「お兄さんも大変ね」
「…まったくだ」
うな垂れて返す武彦さん。
あれよねぇ。何て言うかな。
ちょっと、零ちゃんが羨まし…じゃなくって。
あの魔法陣、心が落ち着くものって言ってたけれど。
本当は違うのかもね。恋愛成就系っていうか。そんな気がしてくるわ。
一緒に暮らしてるワケだから、私もね、そりゃあ気付いてますとも。
でも、貴方とは違う目で、見ていたの。
微笑ましくって。嬉しくって仕方なかったんだもの。
らしくない失敗を繰り返して、ハァと溜息を漏らす零ちゃんがね。
可愛くって仕方なかったの。
あぁ、悩んでるなぁって目の当たりにする度にね。嬉しいのよ。
零ちゃんの感情が成長してるって事じゃない?
普通の女の子。そう見える、この喜び。
貴方も理解るでしょ?ううん、理解っているのよね。貴方は。
だからこそ、寂しいのよ。
お兄さん、お兄さんって、いつも尽くしてくれた妹が急に離れてしまったみたいで。
一種の独占欲よね。それって。
うーん。羨まし…じゃなくって。
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2.
「で…武彦さんは、どうしたいの?」
私が問うと、武彦さんは眉を寄せて返す。
「どうしたいって…さぁな」
んもぅ。本当、困った人ね。
わかってるくせに。どうすれば、零ちゃんが元に戻るか。
全部わかってるくせに。
変に意固地になっちゃって。拗ねちゃって。
子供じゃないんだから。拗ねたって、どうにもならないの。
逆に悪化していっちゃうんだから。
そんなんじゃ、本当に零ちゃん、離れて行っちゃうわよ。
嫌でしょ?そんなの、耐えられないでしょ?
私はクスッと笑い、武彦さんの顔を覗き込んで言う。
「いつも…十時頃に帰ってくるわよね。零ちゃん」
「そうだな。たまに十時半とかだけどな」
「細かいなぁ」
「お前なぁ、三十分あれば、煙草が何本吸えると思ってんだ」
「細かいなぁ」
クスクス笑う私。
十時かぁ。うーん。そうよね。いつも、その位なのよね。
そんなに遅い!ってワケじゃないけど。
ちょっと、心配かな。
多分、帰りは近くまで彼に送ってもらってるんだと思うんだけど。
っていうか、それよりも。凄くバタバタしてるのが、何だかねぇ。
夕食後、散歩してくるってバレバレな理由つけて外に出て。彼に会い…。
一時間とか、長くても一時間半位しか、会えてないのよね。現状。
だから、会えない時は長電話。
うん、仕方ないわよねぇ。そうなっちゃうわよ。
未成年の頃の恋愛って、アレなのよね。とにかく傍にいたくて仕方ないの、
寝る間も惜しむ事が出来ちゃう。
若さ、よねぇ。
「ねぇ、一度、ここに招待してあげたら?」
「………」
「外で会われるよりも、そっちの方が、少しは安心じゃない?」
「…まぁなぁ」
零ちゃんだって、嫌だと思うの。
いつもでもコソコソしてるの。
私だったら、絶対に嫌だもの。
全てをすぐに認める事は出来ないかもしれないけれど。
ちゃんと理解してあげるべき所は理解してあげなくちゃ。
目を逸らしてるだけじゃ駄目よ。
見てあげなきゃ。
零ちゃんが好きになった人が、どんな人なのか。
ちゃんと、向かい合ってあげなきゃ。
零ちゃんを大切に思うのなら、ね。
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3.
「…もうそろそろ帰って来るな」
「そうね。早速、お茶でも一緒に飲んでみる?」
クスクス笑って言う私。
武彦さんは、頭をワシワシと掻きながら「少しなら」と呟いた。
そう、それよ。その心の広さ。
それが必要なのよ。今の、貴方には。
私は、微笑みつつ、武彦さんの頬をムニッと伸ばす。
「何だよ」
眉を寄せて言う武彦さん。
「ううん、別に。ただね、随分と余裕だなぁ、と思って」
「何が」
「人の恋路を心配してる所が」
「…痛い痛い。離せって」
零ちゃんの恋を、凄く心配しているけれど。貴方は?
自分は、どうなの?
つい最近も、セクシーな死神さんに言い寄られたりしちゃってたワケですけど?
私、覚えてるのよ。言い寄られていた時の、貴方の、あの余裕の表情。
慌てふためく事もなく、参ったな〜って感じの、あの表情。
むっ。…何か、思い出したらムカムカしてきたわ。
私はフン、と鼻で笑い、武彦さんの頬から手を離すと、
お茶をいれに、キッチンへ向かおうと立ち上がる。
次の瞬間。
グイッと腕を引っ張られ。
「きゃ」
私は武彦さんの膝の上へ、お座り。
むぅ〜…っとした表情の私。
武彦さんは、私の腰に腕を絡めてクックッと笑う。
「んもぅ!何、笑ってるのよっ」
「や。お前も、相当わかりやすいなぁと思って」
もう…本当に。嫌になっちゃうわ。
拗ねて困らせてやろうと思ったのに。
ただ私が拗ねこんでるだけの、残念な結果になっちゃってる。
いつも、こうなのよね。無理なのかしら。
ねぇ、無理なのかしら?貴方を惑わせ、手玉に取るなんて。
できないのかしら。できないの…かなぁ。
バタン―
開く扉の音にハッと我に返り。
私はパタパタと玄関へ急ぐ。
「おかえり、零ちゃん」
「あっ、た、ただいまです」
「呼んでらっしゃい。まだ、近くに居るんでしょ?」
「へっ。えっ…で、でも…」
「大丈夫。武彦さんも、会いたいって」
その言葉に零ちゃんの表情がパッと晴れたのを。
私が、見逃すワケない。
ポンと背中を叩くと、零ちゃんは慌てて外へ。
”彼”を呼びに向かう。
「…おい。俺、別に会いたくはねぇんだけど」
背後でボソリと呟く声。
私は振り返り、クスッと笑って言う。
「さ。美味しい紅茶の準備でもしますか。手伝ってよ。武彦さん」
「…へいへい」
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い
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ライター通信
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^
2007/04/24 椎葉 あずま
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