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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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VS シャドウキャット
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0.オープニング
「ちょっと、一回引っ込めとくれよ」
「…いや、ちょっと無理でさぁ」
頭を掻きながら言う、いつもの行商人。
あたしはムッとした表情で男を見やり、言う。
「無理って…どういう事だい」
「あれを破壊しないと、どうにもならないんですよね」
”あれ”と言って男が指さしたもの。
それは、真っ赤な宝石。
ただ、そこに在るのではなくて。
「フーーーッ!」
その宝石は、毛を逆出てて、あたし達を睨み付ける”猫”の額に在る。
影猫、シャドウキャット。
太古、異国で大量に繁殖した妖。
こいつの爪で引っかかれると、厄介なんだよ。
発熱、嘔吐、幻覚症状。ロクでもない症状が次々襲ってくる。
行商人の男は、この影猫が封じられたブレスレットを、
異国の少女から譲ってもらったらしい。
少女曰く”中の猫は、絶対外に出さないでね”だそうだ。
…出してるけどね。今。
ブレスレット自体が高値のつく素材故、
こいつは、この猫を何とかしたいんだろう。
だからといって、何の相談もなく急に出すとは…。
まったく、呆れた男だよ。
何とかしてくれる、と思ってるあたりが、また腹立たしい所さね。
さて…どうしようか。
また、あのコに解決してもらおうかねぇ。
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1.
今日の晩御飯はシチュー。
自分で言うのも何だけど、かなり良い出来。
今日は、ちょっと肌寒いから。クリームシチューで温まりましょ。
スプーンを持って、いざ。
「いただきま…」
RRRRR―
うーん…ナイスタイミング。
いただきます、と言い終える直前に。事務所の電話が鳴り響く。
「先、食べてて」
二人にそう告げたのは、予感がしたから。
こんな変な時間に電話がくるのは、きっと、また…。
『あぁ、シュライン。丁度、良かった』
「…こんばんは」
クスクス笑いつつ返す私。
電話をかけてきたのは、やはり蓮さん。思った通りね。
電話のコードを指でクルクル回して弄りつつ苦笑する私を見て、二人は悟る。
誰からで、どんな内容の電話かを。
そして、アイコンタクト。
私はウン、と頷き。
「すぐ、向かうわ」
蓮さんに、そう告げて電話を落とす。
ん、もぅ。せっかく久々に ゆったりと夕食を味わえると思ったのに。
まぁ、仕方ないか。
タイミングは、悪いようで良いしね。
頼りにされてるって感じも、嫌じゃないし。
えっと…そうね…。
今回の問題児さんは”影”との事。
蓮さん曰く”うってつけ”が、近くに居るだろう、って。
うん。そうね。
私は、ソファで転寝している小さな虎を抱き起こす。
「タシ、ちょっと付き合ってね」
数日前、家族…?の一員になった虎。
私は、このコに”タシ”と名前を付けた。
このコも元々問題児。
光を放つ妖虎で。ちょっと苦労させられたのよね。
私は眠そうなタシを抱きつつ、急いで蓮さんの店に向かう。
事前準備怠りなく。
今日は、なるべく早く帰りたいの。
最近、皆でゆっくりと御話してないから。
携帯で連絡を入れ、指示するは、
店にある、ありったけの鏡を壁際にグルリと配置してもらう事と…。
ゴーグル状…じゃなくても良いけど、サングラスの役割を成すものを準備をしてもらう事。
うん。すぐに、解決するわ。
タシが突破口を作ってくれる。きっと。
眠いのに、ごめんね。タシ。
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2.
店に入り、見慣れた二人と対面。
店内を猛スピードで走り回っている”影猫”に苦笑しつつ、私は言う。
「早川さん…でしたっけ」
「あ、はい」
行商人の男性、早川さんは、頭を掻きつつ軽く会釈した。
その仕草が、何だかカチンときて。
私は、早川さんのオデコを指でピン、と弾いて警告。
「もう三度目ですよ。頼りっきりは良くないです」
早川さんは「すんません」と苦笑しつつ言った。
良いんだけどね。別に、本気では怒ってないし、
自分じゃあ どうしようもなくて此処に来てるのも理解ってるから。
でも、アレよね。
次から次へと、よく持ってくるわ。蓮さん顔負けじゃない?
私は微笑みつつ、タシをカウンターに乗せて、
準備しておいてもらったゴーグル状のサングラスをかけ、店内を見回す。
うんうん。これだけ鏡があれば、十分ね。
「随分と…小さくなったねぇ」
タシの前足をつつきながら言う蓮さんに早川さんが続く。
「すっかり大人しくなってますね。ははは…」
私は持ってきた鞄から、ノミとハンマーを取り出し笑って言う。
「しっかりと、しつけてますから」
さぁて…。あの額に付いてる宝石を、先ず割らなきゃならないのね。
どの位の衝撃で壊せるかが、わかりかねる所だけど…とにかく、やってみましょ。
私は、タシの背中をポンポンと軽く二回叩く。
すると、タシの体から閃光。
放たれた光は鏡に反射し、店の中心へ集中。
白い光の中、浮かぶ黒い影。
光に包まれた影猫は、さっきまでの威勢を失い、ピタリと動きを止める。
よっし。今だわ。
私はタッと影猫に駆け寄り、グッと背中を床に押し付けて。
「ニャァッ!」
動きを封じられ、怒声をあげる影猫。
「ごめんね」
私は、そう呟いて。
影猫の額で輝く紅い宝石にノミを打ち付ける。
ピキッ―
あら。意外と脆いのね。大して力を込めていないのに。宝石にヒビが入った。
これなら、すぐに割れそう。
そう思った私は、もう一度ノミを打ちつけようとする。
でも。
「フゥッ!!」
「きゃっ!」
影猫は身を捩じらせ爪を振り回しつつ、私から逃れた。
うぅん。危ない危ない。
ギリギリで爪を避けた私は、手を離れて、こちら睨む影猫を見やりフッと息を吐く。
さすが、猫ねぇ。しなやかな動き。
黒いからかしら。余計に、そう見えるのね。
でも残念。私の勝ちよ。
勝利を確信し、私はニッコリと微笑みつつ。
両耳に手をあてがい超音波を放ち浴びせる。
パキン―
やがて響く、甲高い音。
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3.
「いやぁ〜…本当、大したものだ。あなたって人は」
大人しくなり、その場で丸くなっている影猫のお腹を撫でつつ言う早川さん。
うぅん、今回は、私よりも。タシの力が大きいと思うの。
私はフフッと笑いつつ、タシの頭を撫でる。お疲れ様。タシ。
「所で、このコ…大人しくさせて、どうするつもりなんですか?」
私が問うと、早川さんはハハッと笑い言う。
「ブレスレットとセットで、どこぞの富豪さんにでも売ろうかと」
ふぅん…売っちゃうんだ。売れる…のかなぁ。
まぁ、大人しくなってみると、アレね。妙に気品があって。素敵なコよね。
気に入る人、絶対いるような気がする。…うん。…うーん。
モヤモヤとする、私の心。
ちょっと、困らせちゃうかもしれないけど。…駄目かな。
私は、ポツリと呟いてみる。
「引き取っちゃ、駄目かしら」
「へっ?」
キョトンとする早川さん。
私は早川さんが持っているブレスレットを指差し、続ける。
「それは要らないから。このコだけ」
うーん、と悩む早川さん。
あぁ、やっぱり困らせちゃったな。ごめんなさい。
私が俯くと、蓮さんはクスクス笑って言った。
「そのブレスレット単品の方が、買い手を見つけ易いと思うけどねぇ」
えっ?そうなの?
早川さんは頭を掻きつつ笑って言う。
「そうなんですよね。でも、ほら…厄介だけ押し付けたみたいで、何かね…」
「そんな事ないですよ!むしろ、引き取らせて下さいな」
私は、間髪入れずに言った。
何ていうのかしらね。こういうの。
運命…っていうかな。
大人しくなった瞬間…ううん。もしかしたら、パッと見た瞬間に。思ったの。
このコを、連れて帰りたい、って。
名前もね、もう決めてあるのよ。つい、さっき浮かんだんだけど。
”エク”とか…どうかしら?
「ニャァオ」
私の心を読んだかのように鳴く影猫…エク。
良かった。気に入ってくれたみたいね。
あぁ…でも、どうだろう。
武彦さん、またプンスカ怒って呆れるかな。
事務所を動物園にする気か!って。
でもね、仕方ないの。
放っておけないの。手離したくないんだもの。
私はエクを抱きつつ店を後にし、事務所への帰路を急ぐ。
私の後ろをトテトテ付いてくるタシ。
…何だか。ペットショップ店員みたいじゃない?私。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主
NPC / 早川・太助 (はやかわ・たすけ) / ♂ / 25歳 / 行商人
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ライター通信
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます!心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^
2007/04/30 椎葉 あずま
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