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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


VS シャドウキャット

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0.オープニング

「ちょっと、一回引っ込めとくれよ」
「…いや、ちょっと無理でさぁ」
頭を掻きながら言う、いつもの行商人。
あたしはムッとした表情で男を見やり、言う。
「無理って…どういう事だい」
「あれを破壊しないと、どうにもならないんですよね」
”あれ”と言って男が指さしたもの。
それは、真っ赤な宝石。
ただ、そこに在るのではなくて。
「フーーーッ!」
その宝石は、毛を逆出てて、あたし達を睨み付ける”猫”の額に在る。
影猫、シャドウキャット。
太古、異国で大量に繁殖した妖。
こいつの爪で引っかかれると、厄介なんだよ。
発熱、嘔吐、幻覚症状。ロクでもない症状が次々襲ってくる。
行商人の男は、この影猫が封じられたブレスレットを、
異国の少女から譲ってもらったらしい。
少女曰く”中の猫は、絶対外に出さないでね”だそうだ。

…出してるけどね。今。
ブレスレット自体が高値のつく素材故、
こいつは、この猫を何とかしたいんだろう。
だからといって、何の相談もなく急に出すとは…。
まったく、呆れた男だよ。
何とかしてくれる、と思ってるあたりが、また腹立たしい所さね。
さて…どうしようか。
また、あのコに解決してもらおうかねぇ。

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1.

RRRRR―
見覚えのある番号が、ディスプレイに表示される。
何だか不快故に、決してメモリ登録しない。その番号は。
ピッ―
「…何だ」
『あぁ、影使いの冥月。ちょっと、良いかい?』
わざわざ名前の前に”肩書き”的なものを乗せた蓮。
予想はつく。そして、おそらく的中だ。
溜息混じりに話を聞けば。やはり的中で。
私は”影猫”の沈静を依頼された。
蓮は、しきりに相手が影なら、影使いの出番だろう、と私に告げた。
…厳密には違う。別物だと思うが。まぁ、正論とも取れる。
だが、こう何度も何度も同じような依頼をされると。正直、腹が立つし面倒だ。
「申し訳ないが、今日は…」
窓の外、浮かぶ綺麗な月を見やりながら断ろうとする私。
すると蓮は。
『所で、あのホレ薬だけど…』
クックッと笑いつつ、そう言ってきた。
「う、うるさいっ」
その度に声を荒げる私。
あぁ…本当に腹が立つ。
いつも、いつも。何故、お前が主導権を握る?
揺さぶられ、戸惑い。慌てる自分が嫌になる。
私は大きな溜息を一つ落とし、蓮に告げる。
「今、行くから」

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2.

「ほぅ…これか」
店に入った途端、フーッと声を上げて威嚇する影猫を前に、腕を組んで言う私。
「いつも、すんません!お願いしやすっ!」
ピョコッと立ち上がり顔を見せ、
投げやりに そう言って再びカウンターに身を隠す行商人の男。
その隣でクスクス笑う蓮。
今、実感した。
蓮は、もとより苦手だったが。
お前。そこの男。お前も苦手だ。いや、むしろ…うっとおしい。
そう。今、実感したよ。
私は、お前達コンビが大嫌いだ。
あぁ…全く気分が乗らない。
だが、来た以上…放置というワケにもいかん。
私は腕を組んだまま影猫を見やる。
どうやら、本当に全身”影”で構成されているようだな。
黒い炎のようにユラリと揺れる尻尾。
鋭い眼差し。しなやかな動き。
ふむ…確かに、何となく親しみが…。親近感、とでも言おうか…。
そう思い、フッと一瞬、目を閉じた時。
「フーッ!!」
影猫は、しなやかに高く飛び上がり、私の顔目掛けて爪を振り下ろす。
「…っと」
即座に左手を右下から左上へ払い、自身の前に影盾を張る私。
ガチンッ―
掻っ捌いたつもりが、手応えがなく、着地して不満そうな唸り声を上げる影猫。
当然だ。この影盾は、相当な硬度を持つ。
やれやれ。粗暴な猫よ。
私はタッと駆け寄り、影猫の尻尾をガッと掴むと、
そのまま振り回し、壁に叩きつける。
ボフッ―
ありえぬ音を放ち、平然と唸り声を上げ続ける影猫。
「む…そうか。効かないな」
影に打撃は通用せぬ。
今更気付くとは。突然牙を向かれて腹でも立ったか。
己に苦笑しつつ、両手を躍らせるように揺らし影をユラリと解放する私。
「ひぃ〜…何だか、おっかねぇ光景ッスねぇ…」
私の身を、生き物のように包み蠢く影に対する感想をポロリと漏らす行商人。
怖い、か。まぁ、端から見ればそうかもな。
けれど、決して恐ろしいものではない。
不気味がる奴もいるが、こやつら…影は、私の一部。
包まれ安心感すら抱くのだ。

ブワッと影を猫に向けて放つ。
津波のように襲い掛かって捕らえ、決して逃さない。
お前は正に”影”だがな。こちらは、厳密に言うと”次元操作”なんだ。
誰の身にも、その周りにも。影は宿る。
ましてや、影で構成される お前の回りには、
他人よりも数倍多く。影が蠢いているんだ。
私は、自身が放った影と、影猫の回りにあった影を混ぜ操り、次元そのものを固定。
身動きの取れなくなった影猫を見下ろし、私はフッと笑う。
その、厄介な爪を。まず、何とかしてしまうとするか。
パキンッ―
パキンッ―
次々と割れていく、影猫の爪。
どうする事も出来ず、芽生える恐怖心。
影猫は、それまでの威勢を失い、耳を垂らして震える。
私は影を操り剣の形にすると、それを突きつけて言う。
「この剣は、次元さえ切り裂ける。どういう状況か、わかるな?」
怯えた目で、私を見やる影猫。
数分前との差に私は苦笑し、言う。
「似た能力のよしみだ。お前の為に、亜空間を一つやっても構わんよ」

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3.

大人しくなった影猫は、私に撫でられ喉を鳴らす。
これを服従と言わずして何と言おうか。
私は微笑みつつ、影猫の額に付いている宝石を、そっと外す。
フゥ、と息を吐き、蓮と行商人を見やって「満足か?」と笑う私。
蓮はお見事、とばかりに目を伏せ、パンパンと手を叩く。
行商人は例の如く。大喜びだ。


「いやぁ、本当!ありがとうございました!」
私の手をギュッと握り感謝を告げる行商人。
その手を払い、私は素っ気無く言う。
「もう、お前の尻拭いは、たくさんだ」
すると、行商人はニコリと微笑んで。
自身の鞄からブレスレットを取り出し、言う。
「所で、これ。どうです?綺麗でしょう?」
「………」
「いやぁ、この猫が封じられてた、こっちのブレスレットには少し劣りますがね」
「………」
「お安くしますよ」
絶句だ絶句。
反省の色なし。こんなに、がめつい商人、初めて見る。
私は影猫を撫でつつ、もう買わぬ、要らんと告げるが。
行商人は一歩も引かず商品を勧めてくる。
はぁ…あんなに高値で、一度買ったからだな。完全に味占めている。
私は、己の責任でもあると判断し、やむなく買い取る事を決意。
いくらだ?と渋々聞くと、行商人は指を三本立てて笑う。
三百円…なワケないな。
「三百万で」
つらっと言う行商人。
馬鹿か、こいつ。このサギ商人め。
ムカッとした私は、影猫を抱き上げ、
割らずに残しておいた爪をグイッと指で剥き出して言う。
「おい。こいつ、引っ掻け」
「ニャオ」
わかりましたとばかりに鳴く影猫。
「え。ちょ、ちょっと待っ…」
バリッ―
「ぎぃやぁぁぁぁぁああああ!!」


影猫の爪に引っ掻かれ、行商人は三日三晩、下痢と嘔吐に見舞われたらしい。
自業自得だ。少しは反省しろってんだ。
私は小さな蝶のレリーフがついているブレスレットを月明かりに照らして笑う。
いや…私も、大概 甘いな。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主

NPC / 早川・太助 (はやかわ・たすけ) / ♂ / 25歳 / 行商人


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます!心から感謝申し上げます。
ホレ薬シチュノベを後で納品するツモリが、先に納品してしまったので、
冒頭の蓮とのやり取りが、若干変化してしまいました;申し訳ございません。
今回、行商人から買った商品(蝶のブレスレット)は、
身に付けると、言動が、やたらと乙女(はぁと☆)になる。
って代物で…いかがでしょうか? (いい加減にしなさい。笑)
参考までに。そんなイメージで書きました事をお伝えしておきます^^

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/04/30 椎葉 あずま