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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


ハプニング!!〜妖精と、あやかし荘と、時々三下〜

オープニング

 柚葉がぱたぱたとしっぽを振りながら、玄関先で何かを眺めていた。
 玄関の掃除をしようと出てきた管理人である因幡恵美は、不振な柚葉の後ろ姿を怪訝そうな顔で眺める。
「柚葉さん? 何してるのかな?」
 背中に声をかければ、彼女はびくーっと身を震わせる。さっきまでヘニョヘニョだったしっぽも警戒からかピンと立った。いったい、何が起こったというのだろうか。恵美はまるで穴が開くのではないかと思えるほどじーと柚葉の背中を眺める。
 柚葉はちらりと恵美の姿を見た。
 そして、何かを思案しているかのように、唇を尖らせる。恵美はますます怪しいと、柚葉に近づいた。柚葉はどうやら何かを隠そうとしているようだった。
「柚葉さん。どうしたの、何を隠してるの……っと」
 柚葉の隠しているものをのぞき込んで、恵美は目をぱちくりさせた。
「よっ」
 そこにいたのは、手のひらほどの人間のような生物だった……。

***

「つまり」
 柚葉と共に妖精に対峙した恵美はこめかみを揉み解しながら、妖精から先ほど聞き出した情報をまとめるように言の葉をつむぐ。
「アパートの周辺の森に落し物をしてしまったから、それを探すのを手伝って欲しい、と。そういうことでいいのかな?」
「ああ、そうだ」
 えらそうにふんぞり返って、妖精が言い、柚葉はその妖精のことが気に入ったらしく、しきりに恵美と視線を合わせる。
「ボク、探すよ!」
 恵美は真摯な柚葉の視線に陥落され、溜息を吐き出した。そして、妖精の顔を覗き込むと、尋ねる。
「どの辺に、何を落としたの?」
「お、やる気になってくれたか。それが……」
「恵美さーん」
 妖精が詳細を話そうとしたその瞬間、大きな声に邪魔される。聞き覚えのあるその声に恵美が振り向くと、手を振りながら、一人の少年がこちらに歩いてくるところだった。左側に金のメッシュが入った髪型で、整った顔のかわいらしい少年を見て恵美も微笑んだ。
「蔓君」
 少年の名前は桐生蔓。たまにあやかし壮に遊びに来る元気の良い少年だった。
「あ、蔓ちゃんだ!」
 柚葉と蔓は同い年である上に、少々性格も似通ったところがあるので、どこか通じ合うところもあるようで、仲がいい。柚葉もぶんぶん手を振って、蔓の訪れを歓迎した。蔓は二人の下へ辿り着くと。ひょいっと彼女たちが取り囲んでいる妖精を見た。妖精のほうは突然の蔓の登場に面食らったらしく、ピクリと体を動かす。
 妖精を見た瞬間、蔓の目がキラキラと輝き、猫耳と尾が飛び出した。いきなりの彼の体の変化に恵美と柚葉は目を見開く。
 蔓はその格好のまま妖精を見つめると、ていっとばかりに妖精を小突いた。妖精はコロンと転がり、蔓から逃げようと必死にじたばた走り出した。それを許す蔓ではなく、尻尾を振りながら、妖精をコロンコロンと転がし始める。
 その様子を呆気にとられて眺めていた恵美だったが、はっと我に帰り、蔓の肩を掴む。
「こら、やめなさい、蔓君」
「あ」
 蔓はそんな恵美の言葉に我に返ったようで、手を止めた。妖精は蔓の容赦ない攻撃を受けたために、目を回してぱったりと倒れてしまった。
「ご、ごめんにゃ」
 蔓の謝罪に答えるように、弱弱しく妖精は片手を挙げた。

***

「妖精にゃん? 大丈夫かにゃん?」
「だいぶ、平気になった」
 心配そうに見つめる蔓と恵美と柚葉の視線に、妖精はそう答え、頭を抑えつつ、もう一度仕切りなおしとばかりに話を戻す。
「お願いがあるんだ」
「お願いって何かにゃん?? 僕にできることなら協力するにゃよ?」
「森にある沼付近に、杖を落としてしまったんだ。杖がないと、俺は魔法が使えなくて、家にも戻れない。俺の身長ぐらいの、金色に光る杖なんだ。この小さな体だと探すにも一苦労なんだ。頼む、一緒に探してくれ」
 妖精と同じぐらいの身長だとすると、人差し指ぐらいの長さだろう。少々小さくて大変そうだったが、嫌がるものはそこには居なかった。
「よし、探しに行くにゃよ」
 立ち上がった蔓に引き続き、柚葉が妖精を大事そうに手のひらに乗せてにこりと微笑んだ。
「大丈夫、ボクたちが必ず探し出すから」
 柚葉の言葉に、妖精は安心したように微笑を見せた。

***

 沼付近に辿り着いた四人は早速捜索を開始した。森の中は草などで地面が覆われているために捜査は難航しそうだった。
「ん〜どこにあるのかなぁ〜」
 柚葉が草の根を掻き分けながらつぶやいた。
 それぞればらばらに捜索を行っていた。
「にゃん!」
「蔓君?」
 突然声を上げた蔓に恵美が声をかける。蔓はまた猫耳と尾を生やし、草むらの中に頭を突っ込んでいた。恵美はしばらく蔓の様子を眺めていると、蔓が手に何かを持って草むらから顔を上げた。
 蔓の指につままれているその白いふわふわの生物を見て、恵美は口を開いた。
「離してあげなさい!」
「えー。可愛いにゃよ」
 それは野うさぎだった。野うさぎは怯えきってぶるぶると震えていた。
「怯えてるわよ」
 恵美の言葉に、蔓は野うさぎをじっと見た。震えるそれにしょんぼりとして、自分の手から離してあげる。すると野うさぎは脱兎のごとく走り出した。それを見て、捕まえたいという衝動が蔓の中で芽生えていたが、背後では恵美が目を光らせていたので、諦めることにした。
「ほら、妖精さんの杖を探しましょ」
「にゃーん」
 蔓は恵美が自分の持ち場に戻るのを見てから、草むらの周辺を捜索しだした。しばらくまじめに探していたが、ある一本の木を目にすると、それに上りたくてうずうずしてくる。恵美のほうをちらりと見て、恵美がこちらを見ていないことを確認すると、木に登り始めた。それほど高くない木ではあったが、するすると器用に木を上る様はまるでしなやかな肢体を揺らす猫のようだった。
 蔓は頂上まで登りきると、下に目を向けた。いつもとは違うアングルで世界を眺めていると心が浮き立つのを感じる。懸命に捜索している柚葉と恵美を視界に入れながら、沼の周辺に視線を走らせる。
 すると、柚葉の足元になにやら光るものを見つけた。
 太陽の光を浴びて、金属のようなものが光を放っている。
「柚葉にゃん」
 蔓は柚葉に声をかけた。柚葉は尻尾を振りながら、蔓を見て、不思議そうな顔をする。
「足元を探してみてにゃん」
 蔓の言葉に素直に従った柚葉は「あ」と声を上げた。そこには指ほどの長さで編み針ほどの太さの金色に輝く棒があったからだ。それを手に取り、彼女は歓喜の声を上げる。
「見つけた〜!!」

***

「ありがとな」
「いえいえ」
 金色の棒はぴたりと妖精の手に収まっていた。大事そうに抱きかかえている。
「よかったにゃん」
 蔓も笑顔で見つかったことに対して喜んでいる。
「これで、家に帰れる」
「力になれて、よかった」
「ああ、じゃあな」
 妖精は杖を大きく振りかぶった。すると、妖精の回りにキラキラと輝く光の粒子が集まり、妖精の体を包み込むとそのまま空気の中に解けてなくなってしまった。
 その様子を三人は不思議そうに眺めて、それから一仕事終わったとばかりに大きく伸びをした。
「あ、三下だ!」
 柚葉が帰ってきた三下を視界に入れてそういうと、またいつもの日常に戻るために駆け出した。
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6125/桐生・蔓(きりゅう・かずら)/男性/14/中学生】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは
どうでしたでしょうか。
杖探し、です。
それに、時々三下というように三下の登場も遅い上に少ししか出てきませんでした(笑)もうすこし登場させる予定だったのですが、申し訳ありません。
気に入っていただけたら幸いです。