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<東京怪談ノベル(シングル)>


ラヴ・ドラッグ - mix -

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小さな小さな瓶。
妙に厭らしい、紫色のそれには。
人を惑わす、ラヴ・ドラッグ。

…あからさまに怪しいんだよな。何度見ても。
瓶のデザインは凄く好みなんだが。色が、ちょっとな…。
行商人から買った、この惚れ薬。
ありえない程の大金をはたいて。
奴には、絶対言えぬ。ワケありなんだと言っても聞かぬであろう。
私が大金をはたいて、惚れ薬を買った。
そこだけを取り上げて。
どうしても、落としたい男が居るんだなと判断し、
躊躇なく突っ込んでくるに違いない。
そんなにイイ男なのか?とか、
そこまで愛されるなんて、羨ましいねぇ、とか。
全てを知っているかのような、あの悪戯な笑みを浮かべて、奴は言うんだ。絶対に。
事実そうである事に、妙な敗北感を覚えつつ。
私は小瓶を指で弄り呟く。
「こんなので手に入れてもな……って、何をだよ」
はい、一人突っ込み。
何を言ってるんだ、私は…。
手に入れるって何を、誰をだよ。
入れてもな…って何だよ。
じゃあ、どうやって手に入れたいんだよ。って、はぁ?
手に入れたくなんて、ないさ。そう、ちっとも。
何をって、誰をって?いや、それは、だから…。
「何してるんですか?」
「うわぁっ!?」
突然背後から声を掛けられ、ビクゥッと体を揺らす私。
小瓶を手の中に隠し、私は振り返って言う。
「は、早かったな」
「はい。ドレッシングセールをやってて。色々買っちゃいました」
大きな麻袋を差し出して、ニコリと微笑む零。
どうやら、本当に色々買ってきたらしく。
麻袋から、カチャンカチャンと音がする。
キッチンで、買ってきたものをテーブルの上に出しつつ鼻歌する零。
私は、小瓶を懐にしまって言う。
「今日は、何にするんだ?」
「うーんとですね。サラダに合う、お兄さんの好物にしようかと思うんです」
「…カレーか」
ポツリと私が言うと、零は微笑んで。
「手伝ってくださいね」
楽しそうに言った。脳と舌に蘇る、闇カレーの味。
私はスッと立ち上がり、キッチンに向かいつつ言う。
「勿論だ」


「このルゥが、一番美味しく仕上がりますよね」
パキンとルゥを割りつつ言う零。
「あ。ちょっと待て、零」
「はい?」
「どうせなら、本格的なカレーにしないか」
「…はい?」
首を傾げる零。
テーブルの上に並べられたドレッシングを容器に移し替えていた私は、
零の背中をポンと叩き”交代”を告げる。
棚から取り出す、小麦粉と香辛料。
零は、ドレッシングを容器に移し替えつつ楽しそうに言う。
「凄いですね。そんな所から始めちゃうんだ」
「美味いぞ。冥月オリジナル、だからな」
「あはっ。楽しみです〜」
口には出さぬが、亡き…あの人が大好きだったんだ。
何か作ろうか、と言うと お約束とばかりに”冥月カレー”と言ってきてな。
懐かしいな。あれから、どの位経ったのだろう。
物凄く、久々なのは確かだが。
体は覚えてる。
何度も何度も作った…思い出を覚えている。
「…こんな、もんかな」
鍋から少し小皿に取り、味見しようとする私。
「あっ、味見したいです!」
隣でジッと作っている過程を見ていた零が挙手して言った。
私は笑いつつ、零に小皿を渡す。
クイッと小皿を傾け、喉にカレーを落とす零。
どうだ?と首を傾げると。
「美味しい!!…でも、ちょっと辛いです」
零は笑って言った。
自分も次いで味見をし、同じ事を思う。
ちょっと、久々過ぎたかな。
さすがに、これは少し辛過ぎるかも。
これでは、味を楽しむ事が出来ん。
円やかにせねばな…。
そう思い、林檎を摩り下ろす私。
零はキョトンとして言う。
「林檎、入れるんですか?」
「あぁ。少量入れるとな、円やかに更に美味くなるんだ」
「へぇ…そうなんですか」
「覚えておけよ。いつか、彼に作る日がくるかもしれんぞ」
「や、やだ。もぉ!」
パシパシと私の背中を叩く零。
乙女モードにスイッチが入ったか。クックッと笑う私。
冷蔵庫から取り出す、ヨーグルトとチョコレート。
「へ。それも入れるんですか?」
「少しな。あぁ、あとコーヒーもだ」
「…へぇ〜〜」
物凄く感心している零。
良い勉強になっただろう?と言おうとし、私は口ごもった。
ボチャン、ボチャン―
響く、嫌な音。
そう…零は、私が言った”隠し味”の要素を成す食材を、
丸ごと…次々と鍋に放り込んだ。
「…はぁ」
漏れる、溜息。わかってないな、零。
あくまでも、少量なんだ。何で、全部入れる…?
余計だったな。あの闇カレー実施が余計だった。
「あぁ、もう…」
それから三十分。私は必死に調理を。
味を調えるのに、惜しみない努力を。


何とか…なったな。
味見をし、ホッと胸を撫で下ろす私。
もうすぐ完成だ。
最後まで、気を抜かない事。
仕上がる、その時まで、決して。
カレーを作る際の鉄則だ。いや、カレーに限らずか。
火加減を調節し、コトコトと煮込むカレー。
サラダとドレッシングを準備して、それをテーブルへ運ぶ零は、
私の胸元を指差してクスリと笑った。
何だ?と思ったのは、ほんの一瞬。
すぐに気付いた。
…そうだ。零は、とても霊力の高い娘だ。
隠した所で、どうにもならない。今更気付くとは、余程焦っていたな、私。
零の笑みが意味するのは。
”それ、どうします?”
そういう事だ。
どうする、と言われてもな。レードルでカレーを混ぜつつ、懐から取り出す小瓶。
いやぁ…何度見ても、駄目だ。怪しいったらないな。これってやつは…。
そんな事を考えていると、バタンと扉の開く音がし、聞きなれた足音が。
帰ってきたか。
さぁ、どうする。
誰に問われているわけでもないのに、何だか。妙な煽りが…。


いつもの位置に座り、私を待つ零。
私はテーブルの中心に見事な出来栄えのカレーが眠る鍋をゴトリと置き、言う。
「完成だ」
「ナイスタイミングですね」
クスクス笑う零。
あぁ、別に計ったつもりはないんだがな。
奴の嗅覚が凄いのかもしれないぞ。
私は苦笑しつつ、並ぶドレッシングの中にコトリと。
桃色の液体が入った瓶を混ぜ置いた。
並ぶ同じデザインの瓶の中、一本だけ。見慣れぬ色の液体が入っている。
怪しいか…?とも思ったが。
「しそドレッシング、でイケますね」
フフッと不敵に笑って零が言った事により、その不安は払拭された。
うん、確かに。事実を知らぬものなら、そう言われて疑う事はないだろう。
むしろ好都合じゃないか。奴は、しそ好きだから。
…って、好都合って何だよ。
はい、またも一人突っ込み。
頭を軽く振るい、妙な自分を落ち着かせ。
私と零は待つ。
リビングに、いつものように欠伸をしつつ入ってくる男を。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ 宜しく御願い致します。

2007/04/24 椎葉 あずま