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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


傍迷惑なトラブルシーク


「あ」
 がしゃん。
 小さな音を立てて、それは壊れた。
 中に入っていたものがふわりと宙に浮かび、ついで光を放って拡散する。
「あぁ〜どうしよう。これ吉良さんのところから持ってきたのに」
 日向明は、もとは小瓶であった硝子の欠片を見遣り、深々と溜め息を吐く。
「『種』だったんだよねぇ、あれ。ってことはトラブルが起きるってことで…」
 自身の能力である『トラブルシーク』で見つけたトラブルの種。それを閉じ込めた小瓶を明は持ち出したのだった。……もちろん無断で。
「ここ、学校だし…そのままにしてたらどうなるかわからないなぁ。どうしよう。誰かに手伝ってもらって回収しようかなぁ」
 呟き、携帯を取り出した。誰に連絡しようか、と考えて、とりあえず吉良に報告することにする。
 幾度かコールを繰り返した後、吉良が出た。
「あ、もしもし吉良さん?」
『……明か』
「そうですボクですぅ。ちょっと頼みたいことがあるんですけど〜」
 受話器の向こう側で溜息を吐いたのが聞こえる。それはさらりと無視して明は尚も続ける。
「『種』の入ってた瓶、割っちゃったんですよ〜。なので回収要員を誰か見つけて欲しいんですけど…」
『……もう行かせた』
「え?」
 予想外の言葉に目を丸くする明。
『元凶同士、きっちり回収してこいよ』
 その言葉を最後にブツリと通話は切れた。ツーツーと無機質な電子音が鼓膜を震わす。
「元凶同士…?」
 さて一体どういう意味だろうと首を傾げた明に、背後から声がかかった。
「日向…明くん?」
「そうですけど〜?」
 応えながら振り向けば、そこに立っていたのはすらりと背の高い女性だった。
 長い黒髪がさらりと肩を滑り、艶やかな唇には笑みを刷いている。
 綺麗な人だなぁ、と明は思った。
 でもすごく学校に似合わない人だなぁ、とも思った。
 明らかに就学年齢は過ぎている。高校生には間違っても見えない。
 しかも着ている服が……扇情的というか何と言うか。学内でミニのタイトスカートはそうそう見ない。
 そんなことをぼんやり考えていた明に向かって、その女性はいきなり頭を下げた。
「ごめんね! 瓶を割ったの私なの!」
「え?」
 少々間の抜けた声を漏らす明。見知らぬ人に突然謝られれば当然の反応だろう。
「えーと。とりあえず顔上げてくれません〜?」
 言葉に、女性は姿勢を正した。そして明は口を開く。
「お姉さんはボクのこと知ってるみたいですけど、お姉さんの名前は?」
「あ、藤田あやこです。初めまして」
「初めまして〜。…あー、もしかしてお姉さんが吉良さんの言ってた人ですか?」
「えぇ。せっかく歳も身長も釣り合ういい男友達見つけたのに! 失敗しちゃった」
 目の前で明るく苦笑するこの女性が『元凶』なのか、と考える。一体どういう風に『元凶』なのだろう。
 考えたって分かるわけ無いので率直に尋ねることにする。
「吉良さんがボクとあなたは元凶同士だって言ってたんですけどぉ、どういうことですか?」
「ああ、それは私の能力のせい」
 にっこりと笑ってあやこは告げる。
 自らの能力――興味本位で他人の不幸を願うと成就する、その能力を。
「つまり、その能力が発動したから瓶が割れちゃったってことですかぁ〜?」
 首を傾げて問う明に頷くあやこ。
「話が弾んで冗談で『瓶が割れたら面白いかも』って言ったらこんなことになっちゃって。吉良さんカンカンなの〜!」
 多分カンカンというよりは呆れてるんじゃないかなぁ、と明は心中で呟いた。
「責任は取るわ。ということで早速種を回収しに行きましょう!」
 心なしかうきうきしているあやこが明の腕をがしっと掴む。
 見た目以上にパワフルなあやこに、明は為すすべなく引き摺られていくのだった。

◆ ◇ ◆

「体育館にドッペルゲンガー、ね…」
 通りかかる生徒に片端から異変が無いかを尋ねてみたところ、出てきた情報がそれだった。
「確かに体育館の方に『種』があるみたいですし〜、行ってみます?」
 言いながら体育館に足を向けた明。しかしあやこがそれを阻む。
「待って!」
「? 何ですか?」
 あんまり長引くと帰るの遅くなるのになぁ、なんて考える明。
「情報によると今体育館ではバレー部が試合してるらしいわ。ここは助っ人の転校生に化けて潜入しないと!」
「いやあの」
 別にそこまでしなくてもいいんじゃ、と言いかけた明だったが、あやこは明そっちのけで携帯を操作し、吉良に電話をかける。
「…ええ、そう。そういうわけだからお願いできる? …吉良さんならそう言ってくれると思ったわ!」
 なにやら話がついたらしい。通話を切ったあやこは、ぼけっとあやこを見ていた明に笑いかける。
「手続きは吉良さんが上手くやってくれるって。それじゃあ着替えましょう!」
「は?」
 自分の手を掴まれ目を丸くする明。自分は着替える必要はないはずでは。
「あなた、目がカワイイから女の子で十分通用するわ。大丈夫、自信持って!」
 普通そんなことに自信は持ちたくないだろう。
 話に若干ついていけていない明と、ノリノリのあやこの頭上の空間が唐突に割れる。
 そこからぺいっと吐き出されたのは――。
「体操服……」
 顔を引きつらせつつ呟く明。
 そう、2人の手の中に落ちてきたのは体操服。
 これに着替えろと言うことなのか。
 デザイン自体は男子用と女子用にそう変わりはない。変わりはないが、なんだか微妙な気分になるのは当然だろう。
「うふふ、こんなぴちぴちの体操服着るの久しぶりだわ〜」
 あやこはそう言って至極楽しそうに笑っている。本気だ。
 と、体操服から視線を外し、明を見たあやこは「もう」と唇を尖らせる。
「明くんったら嫌な顔しないの。成功したらお姉さんがカノジョになってあげるから☆」
 えいっとばかりに明の額をつつくあやこ。対する明は、彼にしては珍しく疲れてきていた。
 他人を自分のペースに巻き込むのが得意なはずの自分が、相手のペースに呑まれている。
 こういうタイプの人は初めてだ…と壊れ気味の思考で思う。
「恋愛にさして興味はないので謹んで辞退させてもらいます…。とりあえず体育館行きましょう。着替えも更衣室でやらないとですし」
 もうなるようになれと投げやりに提案する。喋り方も素だ。
「何疲れた顔してるの明くん! お楽しみはこれからよ?」
「ええはい分かりましたから行きましょう。行ってさっさと種を回収しましょうそうしましょう」
 言いながらぐいぐいとあやこの背中を押して、体育館へと向かったのだった。

◆ ◇ ◆

「さあ! 準備はいいわね明くん!」
「はいOKでーす…」
 女子更衣室に無理やり引き込まれかけたり、ウィッグつけられたり軽い化粧されたりと、攻防を繰り返したせいで体育館突入前から既に疲れきっている明。
 あやこはと言えば意欲満々だ。目が輝いている。というか燃えている。
「ドッペルゲンガーが試合に紛れ込んで滅茶苦茶にしてるんでしたっけ」
「そうよ。そして私たちは助っ人の転校生!」
 ぐっと拳をにぎりしめるあやこ。
 ああ、目が使命感に燃えている。
 ついでになんだか楽しそうだ。何が楽しいというのか。…もしかして体操服着ていることとか高校生に化けることとかだったりするのだろうか。
 遠い目をする明にあやこは自信ありげに胸を叩く。
「まかせて、こう見えても補欠だったんだから!」
 別にそれに対して遠い目をしていたわけではない。というか補欠って。
 まあいい。もうとにかく『種』の回収さえ無事に済めば。
 そう思った明だったが――あやこの能力からして無事に済むわけはなく。
 『他人の不幸を願えば成就する』=『不幸が撒き散らされる』。
 その図式を明が身を以って知るのは、『種』の回収は出来たもののなにがどうしてか半壊状態になった体育館を目の前にしたときだったという…。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061/藤田・あやこ(ふじた・あやこ)/女性/24歳/女子大生】


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■         ライター通信          ■
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 初めまして、こんにちは。ライターの遊月と申します。
 今回は「傍迷惑なトラブルシーク」にご参加有難うございました。

 回収よりは明とのやりとりをメインに持ってこさせていただきましたが、如何でしたでしょうか。
 他人を引っ掻き回すはずの明を逆に振り回すほどのあやこさんの行動力に感服です。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。ご縁がありましたらまたご参加ください。
 リテイク・ご意見その他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。