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<東京怪談・PCゲームノベル>


縛りの糸




 細くて、長くて、強い糸。
 意図するように糸が絡んでいく。
 美しく巣を張って、待っている。
 動き出すのをその蜘蛛は。
 絡め取って、動けない。




 銀屋の二階には倉がある。
 不思議なことに、そこはどうみても銀屋の建物からはありえない広さ。
 そこは不思議な力で存在する。
 そして、その奥にある黒い、扉。
「ここから行くんですか」
「うん、すぐだからね。ボクが開ければー」
 しゃらんと南々夜の右手には金の輪。それが揺れる。
「というか、この腕輪があればなんだけどねー、えい」
 そう言って、軽く押された黒い扉。
 その扉の先には、欝蒼と茂る緑。
 濃く深い緑の森がそこに静かに静かに広がっていた。
「手品みたい!」
 わぁっと瞳をきらきらさせ、百合子は言う。
「―白山……準備はできた……って何で二階が山なんだ!?」
 虚空を撫でて日本刀を召喚した友衛は、突っ込みを入れつつ、苦笑する。
「世の中には不思議がいっぱいだからねー」
 踏み出す先、しっとりとした土の感触。
「あのねー、危険もあるけどおっけー? 気持ちも色々もおっけー?」
 と、踏み出して南々夜は振り向き、全員に問う。
「危険なのは最初から承知よ。いざとなったら友衛を縦にするし」
「おい」
 にこりと笑みを浮かべた蒼依の言葉にじっとりとした視線を友衛は返して、思う不満を伝える。
 だが蒼依にとってはそんなこと怖くもなんともない。
軽く流してそれで終わり。
「状況からして少し厄介そうですよね、何か策を考えないと……」
 と、またまた銀屋でのんびりしていたところを話をきいて手伝うことを快く引き受けた亜真知は思案する。
 南々夜が持ってきた話は、山奥にて巣食う蜘蛛の悪い妖怪退治。
 妖怪の間にも、良い悪い、そして派閥のようなものはある。
 南々夜はその中で、悪い部類にあてはまる妖怪を退ける仕事もしていたりするのだった。
「うん、今回はいっぱいわさわさいるからねー、ちょっとボクだけじゃしんどいかなって、なっつーも、頑張って」
「……それなりに、ですよ」

「まー、気をつけながら適当に楽しくねー」
「この状況で楽しくなれるわけなかろうが」
 ふぁ、と叩き起こされた藍ノ介は不機嫌そうに言って南々夜を睨む。
「あははー、でもきてよねー。じゃあれっつごー!」
 一番前を進んでいくのは南々夜。
 その後を、亜真知が進み、蒼依、友衛、奈津ノ介、百合子、藍ノ介と続いて行く。
 山道は思っていたよりも緩やか。
 けれども進むたびに、緑はさらにさらに、濃くなっていく。
「山の匂い……」
 百合子は言って、その空気を感じる。
「山かぁ……山だなぁ」
「山以外にどこだって言うんですか。おツムの悪さを披露しないでください」
「……子が冷たい」
「しっかりなさってくださいね」
 にこりと亜真知は言って追い打ちをかける。
 穏やかながらも厳しく。
「奈津、お父様大変ね」
「ええ、大変なんです」
「不憫だなぁ……」
「藍ノ介さんがんばれっ!」
「無理だ」
 軽い笑い声を響かせながら、彼らは進んでいく。
 だがしばらく歩いて行くと、空気の質が変わる。
 その瞬間に、話声も笑い声も、嘘のように消え去った。
 肌に突き刺さるような、冷たく深々とした場。
 その一歩の違いで世界が変わったような感覚。
「……ここから、テリトリーのようですね」
 静かにおちついて亜真知は言ってあたりを見まわす。
 かわりがないようで、ある。
「友衛」
「ああ」 
 そして、どこからか向けられる視線。
 百合子はささっと、藍ノ介のそばによる。
「‥‥ぎらぎらですね、雰囲気は」
「ごめん、予想以上に、かなり、多いかも」
 ざわ、と周りが動くと同時に赤い瞳が光る。
 うごめくそれは、暗闇に確かな敵意をもってあった。
「私が防御を、皆さまは思う存分に」
「百合子、離れるなよ」
「うん、しっかりそばにいる。蜘蛛って夜に殺しちゃダメとか、害虫を食べてくれるから悪いものじゃないってよく言うよね……あれ? それじゃ、もしかして食べられちゃいそうな私たちって害虫!?」
「食べられるのはいやだなぁ……」
「わしはうまくないぞ」
「あはははー、きっと一番おいしよー」
 確かにいつ襲われてもおかしくない状況。
 それでもどこか、話をそらしながらも冷静でいられるのは、一人ではないから。
 じりじりと詰る距離、けれどもその膠着に近い距離を、崩す存在が、あった。
 薄暗い山の中が、さらに暗くなる。
 そんな錯覚。
 降ってくるような影は大きく重いイメージ。
「!」
「上!!」
 視線の、先には。




 世界が、真っ白。
 そして真っ暗。
 どちらかわからない。
 けれどもしっかりと感覚はある。
 自分がいて、自分がいる。
 けれどもそれだけで、それしかない。
 なにもなく、からっぽのよう。
「……真っ白……」
 亜真知は呟いて、あたりを見回す。
 何もない白だけ。
 ふっと手を伸ばすと、その白に指先がかする感触。
 けれども、実態はないかのよう。
「あれだけ蜘蛛がいたし、糸なんでしょうね……」
 いつまでもここにいるわけにはいかないし。
 ふぉん、と周りに光の球が浮く。
 それがふよふよとあたりを探るようにさまよって、動きを止めた。
 そして一気に、突き破る。
 白い世界に暗い光が差し込んで、視界は元の森に戻る。
「!」
「大変なことになってますね」
 開けた視界、そこにはうようよと蜘蛛だけ。
「皆様は?」
「糸にもってかれちゃった。うっかりだよ、気ぬけてたー。でも自力ででてきちゃったんだね、すごい! なんとも、なかった?」
「はい、ただ白かっただけですよ」
 蹴飛ばしつつ、無事だったらしい南々夜は亜真知のそばに。
「白かっただけかー。なるほどっ。他のみんな、助けないと食べられちゃうんだよ。手伝ってくれるー?」
「もちろんです」
 亜真知はにこっと笑い答える。
 その間に後から遅い来る蜘蛛には、瞬時に防御障壁を張って跳ね飛ばす。
 そして光球を飛ばして、打ち抜くような攻撃。
「確かに、数だけはいっぱいのようですね。一番上位の蜘蛛は、いなくなってるようだけど」
「うん、それは、奥に引っ込んだみたい。でも、見てるよ」
「そうですね」
 ぴょんっとなぎ払われた足を飛び越えて、お返しとばかりに攻撃。
「そこ! その白いの中に百合ちゃん!」
 言われて、瞬間的に指さされた方向を追う。
 そこには確かに、大きな白い繭のようなもの。
 自分が入っていたものとよく似ていた。
 光球で糸を切る。
「邪魔しないでくださいね」
 その間も襲ってこようとする蜘蛛を撃退。
 はじかれ重なる蜘蛛は、周りに増えていく。
 と、白い糸の中から手がみえて、亜真知は百合子を見つける。
 触れると、温かさはちゃんとあった。
「大丈夫?」
「え……あ、い、糸いっぱい!」
 百合子の意識は一気に覚醒する。
 けれども体は、だるくて仕方がない。
「私……」
「糸に捕らわれていたんです」
「あ、そっか……助けてくれて、ありがとう」
「いいえ」
 ほわり、と二人で微笑みあう。
 けれども、動く蜘蛛の群れで現実を思い出す。
「蜘蛛さん、おいしくないよ、私たち!」
 百合子は話かけるのだが、グギャアと謎の鳴き声が返ってくるだけだ。
「うっ……」
「私が守ります、大丈夫ですよ」
 そう言って、亜真知は蜘蛛へ向き直る。
 ふっと彼女は蜂の幻影を浮かび上がらせ、牽制。
 一定の距離を、生み出す。
「大丈夫、かな……みんな」
「そのうち合流できるはずです。それまでがんばりましょう」
 微笑んで亜真知はあたりを見回す。
 遠くがぼおっと紅い。
 そして焦げるようなにおいもする。
「なんか……焼けてる?」
「そうみたいですね」
 その方向をみる。
 何かが起こっているのは確実だ。
 そして、しばらくしてこちらへ向かってくる三人の姿。
「あ!」
「無事だったみたいですね」
 亜真知と百合子は自然と顔を見合して、安心を伝えあった。
 と、合流するなり、南々夜は強く言う。 
「退くよ!」
「でもまだ、他の方が……」
「……だいじょーぶだよ、二人なら。それに、今、みんなくったりだし」
 分が悪い、と続けて南々夜は言う。
「追ってくる糸は私が切ります。私が糸に捕らわれないのは実証済みですからね」
「そうだねーあまっちゃんに任せる」
 今まで攻撃をはじき、切りさいて全てを払っていた亜真知。
 その実力を目の当たりにしていた南々夜は、信頼を表す。
「あおちゃんはー? いける?」
「なんとか……友衛」
「動けは、するから大丈夫だ」
「百合ちゃんはボクが背負ってくし、走るよ!」
 糸の中において行くのは、奈津ノ介と藍ノ介。
「また戻ってくるんだよね?」
「うん、取り返しにくるよー。二人の目がさめないうちにねー」
 後ろから追ってくる蜘蛛の大群。
 糸は亜真知が切り、そして弾く。
「目は、覚まさない方がいいのか?」
「うん、覚ましちゃうとねー、よろしくないって聞いてるけどーどうなるかまではわかんない!」
 ざっと山の斜面を走って走って、あいたままの扉が視界に現れる。
 来た時と変わらず、空いたまま。
 扉の向こうは、倉だ。
「無事に辿り着きましたね」
「うん、とりあえずはね。でも糸ついてたらとっておいてね。危ないからー」
 黒い扉は、重たい音をたてて、閉じる。
 狭まっていく山への、道。
 その閉じられていく扉の先をそれぞれ眺めながら、思うことは様々。

 結局私の歪みというのは……何なのでしょうね。
 いつかわかる時がくるかしら……

「みんな真剣な顔だね」
 ふと声が響いて引き戻される感覚。
 扉はいつの間にか閉じて、山の匂いもかき消えていた。
「また、この扉をあけていくのか?」
「行くよー、行かなきゃダメだからねー。あんなに強いのがいるとも思わなかったし……でも、皆は、休むのが先だからね」
 先に南々夜は言う。
「休むのは、体もだけど気持ちも、だからね」
「そうね……いつ行くの?」
「それはねー、内緒。いつ行くっていったら来るでしょー? また危険な目にあわすわけにはいかないしね」
 南々夜の言っていることはわかるけれども、気持はそれに追いつかない。
「でも、ちゃんと元気になってたなら止めないからー。今日は、ここで終わり」
 半ば無理やりに近い形で、二階から下ろされていく。
 階段を下ろされながら最後にみた黒い扉は、来た時と変わらなままあった。




<END> and...




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【5976/芳賀・百合子/女性/15歳/中学生兼神事の巫女】
【6077/菊理路・蒼依/女性/20歳/菊理一族の巫女、別名「括りの巫女」】
【6145/菊理野・友衛/男性/22歳/菊理一族の宮司】
(整理番号順)

【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/南々夜/男性/799歳/なんでも屋、実行者】


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■         ライター通信          ■
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 お久しぶり、な感じのライター志摩です。
 ご参加ありがとうございましたっ。
 さて、このゲームノベルはちろっと書いておりましたとおりに草間興信所依頼へ続くということで負け戦でした。次は、勝ちに参ります。
 歪みを引き出す蜘蛛さんはうぞうぞといっぱい。次もいっぱいです。でも蜘蛛さんよりも強い妖怪さんも、でてきます。誰が出てくるかは、お楽しみですね・
 そして奈津と藍ノ介は残ったままで、皆さんによってどうなるのかわたしもどきわくしていたりもします。
 ではでは、草間もご縁がありましたら参加くださいませ!