コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ダウン・メロウ

------------------------------------------------------

0.オープニング

いつも無意識に口へ運ぶ二つ。
煙草とコーヒー。
美味い、と思う気持ちがあるから。
もう、何年も。繰り返してきた。
だけど。
「いれさせておいて悪いけど…やっぱ、いらねぇ」
ベット横の棚に置かれた温かいコーヒー。
鼻をくすぐる、豆の香りが。
とても。そう、今は、とても不快で。
その隣にある灰皿には、ほんの少しだけ吸った煙草が数本。
ユラリと昇る、白い煙が。
とても。そう、今は、とても不快で。
欠かさず摂取し、依存してきたのに。
摂らないと、イラつくのは、理解っているのに。
どうして、こんなにも…。
「寝た方が良いですよ」
不安そうな表情で俺を見やり、コーヒーを片付ける零。

あぁ、もう。何だって…こんな小春日和に。
風邪なんて、ひいちまうかな。俺って奴は。

------------------------------------------------------

1.

三十九度。ありえない高熱。
本当にもう…どこで貰ってきたのよ。
私はクスクス笑いつつ、布団の中で唸っている武彦さんを見やる。
まるで猫みたいに丸く、小さくなって。
うわ言のように「暑い」「寒い」を繰り返す…。
うぅん…相当参ってる御様子。
普段の格好つけ、見る影もないわ。クッタクタね。

「じゃあ、ちょっと行ってきます」
ペコリと頭を下げて言う零ちゃん。
私はウン、と頷き「気を付けてね」と告げる。
零ちゃんが緊急書類を、とある依頼主さんに届けに行ってる間。
さてさて。腕の見せ所。
一生懸命、看病するわよ。愛を込めて、ね。
とりあえず、水分補給ね。
私はスポーツドリンクの入ったボトルにストローを差し、武彦さんの口元へ持って行く。
目を伏せたままパクッとストローを咥え、グビグビと喉を潤す武彦さん。
着替えは…どうしようかな。
とりあえず、背中…汗で気持ち悪いと思うから、タオル挟んでおきましょうか。

------------------------------------------------------

2.

眠っている武彦さんの横で、小説を読む私。
モソリと動く布団。あ。起きた?
ヒョコッと覗き込むと、武彦さんは薄っすらと目を開けて言う。
「…腹減った」
あら。食欲、ちょっと戻ってきた?
良い傾向ね。うんうん。
私はニコリと微笑み言う。
「何食べたい?」
「…お粥」
「了解。卵と梅干、どっちが良い?」
「…ちゃまご」
プッと吹き出す私。
ちゃまごって…!
呂律回らないのね。可愛い。
私はクスクス笑いつつキッチンへ。


「よいしょっ…と」
武彦さんの背中にクッションを挟み起き上がらせて。
「火傷、気を付けてね」
そう言い添えて、私は卵粥を渡す。
けれど武彦さんは首を左右に振り、受け取ろうとしない。
…うーん。まぁ、そうか。面倒よね。自分で食べるの。
私は「ごめん、ごめん」と笑いつつ、
レンゲでお粥を掬い、フゥと少し冷ましてから武彦さんの口元へ持っていく。
けれど武彦さんは、また首を左右に振って口を開けない。
あらら…食べたくなくなっちゃった?
私が苦笑していると、武彦さんはピッと私の唇に指を当てた。
…リクエストですか。上等じゃない。
私は前髪をかき上げ、お粥を少量口に含むと望み通りに。
武彦さんの喉に落とす。
もう。風邪、移ったらどうしてくれるの?なぁんて。

さてさて。食事が済んだら、次はお薬ね。
武彦さんの口元を拭ってやり、私は棚の上にあった粉薬と水を手に取る。
ガバッ―
「あらっ」
慌てて布団に潜り込む武彦さん。
私はクスクス笑う。
「飲まなきゃ駄目よ」
「…嫌だ。苦ぇもん」
「んもぅ。甘いお薬なんて”はーどぼいるど”には似合わないでしょ」
「…嫌だ」
布団の中から聞こえる、篭った声。
私は少し呆れつつ、ゆっくりと布団を剥いで。
「苦くない苦くない。苦いの苦いの飛んでけー」
そう言いつつ武彦さんを起き上がらせる。
「…飛ばねぇ〜…」
苦笑する武彦さん。気の持ちようよ。
私は自身の唇に指をあて、首を傾げて言う。
「じゃあ、またリクエストする?」
すると武彦さんは可愛らしくコクリと頷いて返す。
「リクエスト」

------------------------------------------------------

3.

薬を飲んで、苦い苦いと文句を言っていたけれど、
しばらくすると、すっかり大人しくなって。
武彦さんは、ボーッと天井を見やっている。
「少し眠ったら?ここにいるから」
私が言うと、武彦さんはユルリと首を傾け、私をジッと見やる。
「ん?」と微笑みつつ首を傾げる私。
そんな私の頬に、武彦さんは、そっと手をあてて。呟いた。
「…好きだよ」
ドキンと高鳴る鼓動。
少し照れつつ、私もよ…と返そうとした時。
「…ぐー」
響く鼾。武彦さんは深い眠りに落ちた。
…私だって。目の前に居るのは、私だって。
ちゃんと、理解ってて言った?
私はクスクス笑いながら布団を掛け直してやり、呟く。
「熱のない時に、お待ちしてます」
今の言葉を。もう一度。

深い眠りに落ちてからの武彦さんは正に爆睡状態で。
私は戻ってきた零ちゃんと一緒に汗だくになった寝まきを着替えさせたり、
額と脇下を冷やすタオルを頻繁に交換したりと、献身的に看病。
武彦さんの熱が下がったのは、朝日が昇る、少し前だった。


「…んぁ?」
フッと目を開け辺りを見回す お兄さん。
「おはようございます」
私が微笑んで言うと、お兄さんはムクリと起き上がり、
「あー…おぅ。って…おっ?」
布団の上に、ぽてっと頭を乗せて眠っているシュラインさんを見て目を丸くする。
「おい、もしかして…」
苦笑しつつ言う お兄さん。
私はクスクス笑って言う。
「ずっと看病してくれてたんですよ。お礼、しなくちゃ」
「あー…マジでか」
お兄さんは俯き、少し申し訳なさそうな顔をしつつ、
シュラインさんの頬を指で軽く突付く。
「…ん?」
首を傾げる お兄さん。
私はキョトンとして返す。
「どうしました?」
「こいつ…熱あるんじゃねぇか。すげぇ熱いんだけど」
「……………えぇっ?」

------------------------------------------------------


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
           ライター通信          
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
すみません。我慢できず、伝染してしまいました(笑)
録音ネタですが、敢えて描写しておりません。実は録ってた、という感じで^^
いつか、揺さぶる良いネタになりそうですね(笑)

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/2 椎葉 あずま