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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ダウン・メロウ

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0.オープニング

いつも無意識に口へ運ぶ二つ。
煙草とコーヒー。
美味い、と思う気持ちがあるから。
もう、何年も。繰り返してきた。
だけど。
「いれさせておいて悪いけど…やっぱ、いらねぇ」
ベット横の棚に置かれた温かいコーヒー。
鼻をくすぐる、豆の香りが。
とても。そう、今は、とても不快で。
その隣にある灰皿には、ほんの少しだけ吸った煙草が数本。
ユラリと昇る、白い煙が。
とても。そう、今は、とても不快で。
欠かさず摂取し、依存してきたのに。
摂らないと、イラつくのは、理解っているのに。
どうして、こんなにも…。
「寝た方が良いですよ」
不安そうな表情で俺を見やり、コーヒーを片付ける零。

あぁ、もう。何だって…こんな小春日和に。
風邪なんて、ひいちまうかな。俺って奴は。

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1.

情けない…依頼人から風邪を貰っただと?
一緒に居た私は健康だと言うのに。
ベッドの上でグッタリとしている草間を見やる私。
馬鹿でも風邪引くんだな…。
いや、疲れていたのだろうな。
ここの所、妙に忙しかったし。
フゥ、と息を吐くと、草間は布団の中で何やらモゾモゾと動いている。
「…何してる?」
ヒョイッと覗き込むと、草間はボソボソ呟く。
「汗…気持ち悪ィんだよ…」
「あぁ、待て。やめておけ。今動くと、余計酷く…」
「…無理無理無理無理」
あぁ…うるさい。
私は呆れつつ、わかったわかったと応じ、着替えを取りにクローゼットへ。
まったく…女の前でツラッと下着姿になるとは。
こちとら戸惑うというに…。
いや、まぁ、現状、仕方ないが。
「ほら、これに着替えて…」
振り返って、私はカッと頬を染める。
全裸っ。何でだっ。
何で、そこまで脱ぐっ!?
「馬鹿っっ!!」
私は慌てて、テーブルの上にあった熱いタオルを投げつける。
「あっ…つ…!」

まったくもう!
何を考えてるんだ。
平然としやがって。こちとら…。
いや…まぁ。現状、仕方ないが。
はぁ…。
何で私、こんなに疲れているんだろう。
溜息を何度も落としつつ汗の滲む草間の背中を拭く私。
すると草間は、ポツリと呟いた。
「お粥が食いたい…」

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2.

粥なんて、久しぶりに作ったな。
私は粥の入った小鍋を持ち、草間の寝室へ。
高熱に侵され、おそらく胃腸も弱りきっているだろうから。
よく煮込んだ薄味の中華粥だ。
味は保障する。美味くないわけがない。
「火傷、するなよ」
私は、そう言い添えて草間に器に取った粥とレンゲを渡す。
受け取ろうとしない草間。
私をジッと見やる、切なげな眼差し。
…仕方ないな。今日は特別だ。
私はレンゲで粥を掬い、草間の口元へ運ぶ。
「…冷まして冷まして」
弱々しく笑いながら言う草間。
私はクッと笑い、フゥフゥと粥を冷まし、再び口元に運んでやる。
「ほら。あーん…」
何をやってんだ。私は…。

満足そうに粥を食べる草間。
その顔色が突然急激に悪くなった事に気付いた私は。
熱が上がったのでは、と慌てる。
体温計、体温計。
すぐ目の前に体温計はあるものの。
あぁ、両手が。
器とレンゲで、両手が塞がっている。
私は困惑し、何を思ったか草間の額に自身の額をあてがう。
あまりの熱さに、すぐに額を離し、私は溜息。
何て酷い熱だ。だから着替えるなと言ったのに。


私は器とレンゲをテーブルに置き、ハッと気付く。
そうだ。こうして、置けば良かったじゃないか。
自分の額をあてがうなんて…一体、どんだけテンパっていたんだ私は。
己に呆れつつ、棚の上にあった粉薬と水を取り、
「飲め」と草間に差し出す。
すると草間はフイッと顔を逸らし、何とも言えぬ表情で呟いた。
「…苦い」
…苦いだと?当たり前だ。薬は苦いものだ。
良薬、口に苦しと言うだろう。
いいから飲め、と促すも。
草間は「苦い」の一点張り。
私は呆れ、少し低い声で脅す。
「薬を飲むか座薬をブチ込まれるか。二つに一つだ。さぁ、選べ」
すると草間は弱々しく笑って。
「薬を飲みます」
そう言った。

飲むにしても、草間は既に意識朦朧で。
ロクに体を起こす事も出来ず、口に含んだ水をダクダクと漏らす。
…参ったな。
私は頬を掻き、悩み倒した末。
草間の手から薬と水を奪うと、自身の口にその二つを含む。
昔は、仕事中見知らぬ奴にさえ、していた事だ。
髪を耳にかけ、草間の唇に…触れる寸前。
ドキドキと高鳴る鼓動。
何を躊躇う事がある。
人工呼吸と同じだ。これは、治療。治療だ。躊躇うな。
戒めとも言い訳とも取れる葛藤の後。
私はキュッと目を瞑り、薬を口移しで。
草間の喉に落とす。

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3.

「………」
目をゆっくりと開き、草間の喉が波打ったのを確認して、
私はフゥ、と息を漏らす。
まったく…手間かけさせおって。
依然高鳴ったままの自身の鼓動を棚に上げ呆れていると。
草間はスッと私の唇に指をあてる。
突然の事にビクッと揺れる私の肩。
「ど、どうした?」
小さな声で問うと、草間は私の唇を指でスーッとなぞりつつ呟いた。
「…好きだ」
「…!」
な、何だって?
今、何て…。
今、何て言った?なぁ、草間…。
火照る体と泳ぐ目。
チラリと草間を見やれば。
「…ぐぅ」
鼾。え…鼾?
え…寝た?寝言…?そんな…。


バタン―
「すみません、遅くなってしまいました」
扉が開いた瞬間、私はパッと草間から離れる。
重要書類を、とある依頼人の元へ届けに行っていた零。
零はキョトンとした顔で、私を見やって言う。
「冥月さん…?顔、真っ赤ですよ」
「はっ?き、気のせいだろ」
ハハッと笑って誤魔化す私。
零はトテトテと私に歩み寄り、顔を覗き込んで言う。
「何か…あったんですか?」
私はギクリとして、思いっきり目を逸らして返す。
「な、ない!何もしてない!何も言われてない!」
ニマリと笑う零。
その笑みを見て、私は思った。
墓穴…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/2 椎葉 あずま