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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


独逸からの訪問者

投稿者:りょーこ :200X/03/27 12:15:09
 最近、A県のT廃病院にお化けが出るって噂知ってる?
 誰か調べてきてくれないかなー


 深夜。険しい顔でT廃病院を見上げる少女がいた。アリス・ルシファールだ。
「本当なのかしらね」
 その一言は隣に立つアンジェラに向けたのか、はたまた独り出に零れ落ちたのか。
 この事件に興味を抱いた彼女は過去に飛んで調査してみた。だが、答えと呼べるものに遭遇する事はなかった。
 彼女が掴んだ手がかりは、噂が始めて人の口に上ったのは三週間前。それ以前は何も無い。
 実際にその前後に何度か廃院に訪れてみたが、幽霊に遭遇する事はなかった。
「あれ、先客がいる…」
 背後から投げかけられた声に、アリスはおや、と振り返った。
 そこには一組の男女…チェリーナ・ライスフェルドとブルーノ・Mがいた。
「私はアリス・ルシファール。ここで幽霊が出るって聞いて、その調査に」
「じゃあ私達と一緒ですね」
「その格好は?」
 彼のまるで中世期の騎士のような格好に、アリスは首を傾げた。
「この服ですか? これはマルタ騎士団の…えぇと、コスプレ…とかいうものらしいです」
 何故疑問系。問おうとしたアリスの唇を、新たな気配が遮断した。
「ごめんなさい。遅れてしまいました」
 現れた少女の姿を確認するや否や、ブルーノの顔がパっと明るくなる。
「お久しぶりです暁美さん!」
「あ、お兄さん。久しぶり」
「エックスちゃんの名前って、暁美ちゃんだったんだ」
「サクラさん…」
「私の名前はチェリーナ。久しぶりだね」
 再会に喜ぶ三人に軽い疎外感を感じながら、アリスは一歩前に出た。
「はじめまして、アリスです。こっちはアンジェラ。私の姉です」
「天宮暁美です。一緒に探索をしますか?」
「勿論」

「こんばんは! お話しよう! サンドイッチもあるよ!」
 無人の院内に、チェリーナの声が木霊する。中は全く人気の無い闇だった。
「今日はいないのでしょうか」
「お化けにそういう概念があるの?」
 さぁ、と相槌を打とうとしたアリスの目が変わる。
 アンジェラが何かを捕らえたのだ。確かに耳を澄ませば、風を切る音が聞こえてくる。
 声に出さず、精霊魔法を唱える。
 やがて近づいてくる気配。皆気付いたのか、一転を凝視している。アリスは風の唄を解き放つ。風が何かを捕らえた。
 それは、ボロボロのドレスを着た人形。いや、少女だ。真っ白な肌、艶やかな黒髪、紫の瞳は生物というより人形だ。
 その意外な正体に、一同は唖然とした。
「ごーはーん…」
 首根っこを風に掴まれたまま、少女はじたばたと手足を振る。
「君は?」
「どうしてここにいるの?」
「君がお化けなの?」
 口々に質問を投げかける一同。まるで聞こえていないのか、少女は三人に意識の欠片も向けずにチェリーナのバスケットをじっと見つめている。
「お腹減ったの?」
「うん」
「君が教えてくれるなら、いいよ?」
 バスケットを揺らすチェリーナ。少女は頷いた。
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫じゃない? 見たところ、精神は幼いみたいだし」
 言いながら、アリスは少女に奇妙な違和感を感じた。確かに人間によく似ているが、どこかずれている印象を受けるのだ。
 何者なのか。それは彼女の口から聞くしかない。アリスは束縛を解いた。
「じゃあ、まずは名前を聞かせてくれないかな?」
「不動初音」
 きりっとした紫の目は凛々しく、暁美を、一同を見渡した。彼女達はその眼光に人在らざる者の光を見た。
 しかしそれも一瞬の事。次の瞬間には初音は無邪気にサンドイッチに挑んだ。
「ここで何をしてるの?」
 チェリーナが問う。
「ここで暮らしてるの」
「なんで?」
「外は怖いって、パパが言ってたから」
「パパ?」
「うん。ここはパパと暮らしていた家に似てるの」
「でも、早くここを出てにほんてーこくぐんの応援にかけつけなきゃいけないんだよね」
「大日本帝国…随分と、昔の話ね」
 アリスに、目をぱちくりさせる初音。
「戦争は半世紀以上前に終わったわよ?」
「え?」
「第二次世界大戦は1945年五月に終結。その三ヵ月後には、太平洋戦争も終結しました。連合軍の勝利という形でね」
「でも、その子とその子は私と同じだよ?」
 サンドイッチを平らげ、不思議そうに暁美とブルーノを指差す。
「私と同じ友達でしょ?」
「わかる…の?」
 初音はブルーノの手をぎゅっと握り締めた。
「なんとなく!」
 暁美は一歩引いた。無意識の行動だ。怪奇現象に飛び込む暁美とはいえ、自分の秘密を言い当てる存在に、本能は警戒を抱いたのだ。そんな彼女などおかまいなしに初音は無邪気に笑い、ブルーノの手をぶんぶん振っている。
「じゃあ、やっぱり君は」
「霊鬼兵! 二人と同じだよ!」
「その、盛り上がっている所悪いのだけれど」
 言い難そうに、チェリーナが入ってくる。
「どうするの? 戦争が終わってるなら、ここにいる必要も無いと思うけど」
「そうだねぇ」
 んー、と宙を眺める初音。
「どうしよっか」
 その直後。
 爆音と閃光が彼女達の視界と耳を奪った。

「何、これ!?」
 それが、現状を把握したチェリーナの第一声だった。
 彼女達は囲まれていた。銃を構えた黒装束の集団によって。
「ナチス製霊鬼兵と失敗作を確認」
「どうやら、初音さんと暁美さんを狙っているみたいですね」
 ブルーノとアリスがチェリーナに目配せを送る。
 意図を察した暁美が言葉を発そうとした瞬間、強い力が彼女の右手を引っ張った。
「逃げるよ、暁美ちゃん!」
「でも!」
「私たちがいても、足手まといでしょ!?」
 暁美は何も言い返せなかった。チェリーナは初音の手も取る。初音は素直に従った。
(力があれば…)
 ぐっと唇を噛み締め、暁美は二人の無事を祈った。
 囲いを抜けた三人へ、追撃を行おうとする黒装束。だが、彼らの前に一組の男女が立ち塞がる。
「行かせはしませんよ」
「私たちが相手になるからね」

 三人はひたすら通路を走り続けた。
 やがて見えてくる、出口への扉。
 が、そこに立ちふさがる影二つ。いや、三つだ。二つの影はライフルを構え、こちらに走ってくる。新たに現れた影は、刀を構えた。
 慌てて反転しようとする三人だが、それよりも早く刀を持った影が動いた。影は先行する二人を通り過ぎると、立ち止まった。影の背後で、二つの影が倒れる。
 やがて明らかになる影の主。その人物を、暁美は知っていた。
「お姉ちゃん、参上」
「お姉ちゃん!」
「暁美、好奇心もほどほどにね」
 暁美に応仁守・瑠璃子はウィンクをしてみせる。
「早く逃げるよ」
「でも、他の皆が」
「私が助ける。だから暁美は」
「危ない!」
 チェリーナの叫び。はっと半歩右にずれた瑠璃子の頬を銃弾が掠めていく。
 ゆらりと立ち上がるは、黒装束達。胸を貫かれているのにも関わらず、その動きは先ほどと同じく、速い。まるで痛みを感じていないかのようだ。
「こいつ!?」

 ブルーノの一撃が吹き飛ばし、アリスの謳が一団を炎に包む。
 だが、相手は歩みを止めない。脚を失おうが、肩を失おうが、まるでゾンビのように二人を、その先の初音達に向かおうとする。
「どうやら、人間ではないみたいね」
「かといってロボットの類ではないみたいですけど」
 全く異質な相手。それでも、二人の呼吸に恐怖は混じっていない。
「数は少ないみたいですから」
「一気にやっちゃいましょうか」
 アリスは息を吸い込むと、更なる謳を唱えるのだった。

 剣閃が煌く。
 相手の異常さに一時は戦闘スタイルを崩された瑠璃子であったが、すぐに冷静さを取り戻すと狙いを変えた。
 胴体を切りつけても意味が無い。ならば。
「流石に、頭を潰されれば!」
 神速の勢いで刀を振るう。敵はまともな反応すらできずに首と胴体を分断される。彼女の読み通り、頭部を切断された敵は動きが止まった。
 倒した、と言っていいのかわからないが、脅威では無くなったと判断していいのかもしれない。
 もう一体も難なく切り伏せる。その際、初音に黒装束の返り血が少しかかったが気付く者はいなかった。
 ブルーノとアリスが戻ってきたからだ。
 安堵の息を吐く暁美とチェリーナ。
 そんな彼女達を眺めながら、初音は扉に手をかけた。
「私、行くね」
「思い出した事があるから」
「思い出した事?」
 初音は人差し指で血を拭うと、それを唇に軽く塗った。
「貴方達二人と、戦闘行動で、やるべき事を少し思い出せた」
「でも戦争は」
「それとは別の事。それが終わったらその時は」
 ブルーノに眼を向ける。先ほどまでの幼子の顔はそこになかった。
「私をお願いします」
「僕と共に、光の道を歩んでくれるのですか?」
 その言葉にはにかみを返し、アリスに向く。
「ごめんね。あの時、怖かったから…」
「もしかして、最初の調査の時…」
 最後に、チェリーナに。
「ありがとう。美味しかった」
「どういたしまして。…行っちゃうんだ」
 頷き、初音は一同を見渡した。
「では、また会える事を」
 初音は一同に会釈をすると、目覚め始めた太陽へと歩いていった。

 皆とも別れた後、朝日を受けながら瑠璃子は口を開いた。
「暁美」
「何?」
「さっきも言ったけど、好奇心はほどほどにね」
 暁美と彼女を作り出した組織の調査を行っていた瑠璃子が現状の情報を総括して言える、唯一つの助言。
「うん」
 瑠璃子の想いを理解したのか、暁美は真摯な顔で頷いた。






■登場人物
【6047/アリス・ルシファール/女性/13歳】
【3948/ブルーノ・M/男性/2歳】
【2903/チェリーナ・ライスフェルド/女性/17歳】
【1472/応仁守・瑠璃子/女性/20歳】

■ライター通信
 こんにちは。檀 しんじです。
 今回ご参加頂き誠にありがとうございます。
 今回は色々詰め込みすぎた感もありますが、如何でしたでしょうか。
 またご縁があればお願いします。