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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


朔月の夜に


投稿者:吉良
件名:協力者求む。
本文:今度の朔月の夜、子供を預かってくれる人物を探している。
   ただの子供じゃない、ちょっと特殊な事情の有る子供だ。
   最低二人、できれば男女共にいると尚良い。
   夜が明けるまで、その子供と一緒にいてやって欲しい。普通の親子のように。
   ただ歩き回るだけでも、どこかに遊びに行くのでも何でもいい。
   とにかく、その子供と一晩一緒にいてくれるって奴がいたら、名乗り出てくれ。
   落ち合う場所や日時はこちらから連絡する。


「吉良って、」
 書き込みを見て、あやこの脳裏に浮かんだのは顔見知りである吉良ハヅキ。
 確証はない。しかし直感がそうだと告げる。
 数秒考えた後、あやこは携帯に手を伸ばした――。

◆ ◇ ◆

 量子論によれば、人の認知が万物の源だという。
 我々の宇宙はただ一人の未来人の追憶だと。

 ――朔月の夜には、時間の扉が開く――



「人類最後の末裔、ラストイブ……」
 ある孤島に降り立ったあやこは小さく呟く。
「もうすぐ彼女がここに召喚されるのね」
 ラストイブ――彼女が死ねば、世界は強制終了する。
 あやこは己が今まさに移動手段として使ったばかりの空間の裂け目に向かって声をかける。
「明くん?」
「はい…」
 声に応えるように裂け目から姿を現したのは日向明。
 どことなく疲れた顔の明に、あやこは意欲たっぷりの様子で言う。
「さあ、早くイブを迎えに行きましょう!」
「はぁ…それはいいんですけど、なんでそんな格好なんですか」
 そう言って明が見遣るあやこの格好は――ビキニ姿。
 ちなみに明はといえば、ウィッグと化粧で見事に女子に化けている。あやこが強行に水着(もちろん女物)を勧めたが、なんとかそれだけは逃れて大きめのパーカーと短パンという服装だ。
 『ラストイブが召喚されるのは女子孤児院。男子禁制の花園よ。つまり女装は必須!』というあやこの主張で女装することと相成ったのだが、何故にあやこは水着なのか。
「ふふふ、それは『日焼け水着美女コンテスト』を装ってイブを拉致するからよ!」
 胸を張って言い切るあやこ。
「いや普通でいいと思いますけど。なんでわざわざ『日焼け水着美女コンテスト』なんですか」
 というか拉致って…、と思いつつそう問う。
「出来る限り怪しまれないためよ。敵は強大なんだから、用心に越したことはないわ!」
 むしろ怪しさ全開のような気がするが。
 しかしもう今更なのでつっこまない明。前回で自分の手に負えないことは嫌と言うほど思い知ったのだから。
「そろそろね。……行くわよ!」
 言うや否や孤児院の建物に向かって駆け出したあやこの後を、ため息を吐きつつ明は追うのだった。

◆ ◇ ◆

 ――結果だけ言えば、イブを連れ出すことには成功した。
 『敵』である組織――『救世主』の出現を待望するが故に世界の終了の繰上げを目論む組織――の妨害もあったが、それはあやこの能力と、彼女が開発に従事している次期主力対戦車ライフルによって蹴散らされた。
 案の定というべきか、孤児院や島の自然に少々どころではない被害が出たが……それは目を瞑るとして。
 事情を説明する間がなかったため状況を把握できずにいるイブを連れた2人は、沖に着水していたジェット飛行艇に乗り込んだ。
 そこには吉良と、ラストイブの対たるラストアダムの姿が。
「……来たか」
 呟いて、吉良はアダムの手を引いてイブの目の前に立つ。
「イブ」
 名前を呼ばれ、イブはびくりと肩を震わす。
「ここが何処――いや、何時だかわかるか?」
 問いかけに、こくりと頷くイブ。そして口を開く。
「ここは、わたしの居た時代じゃなくて――もっともっと昔。過去…」
「そうだ。お前がこの時代に居られるのは一晩。夜が明ければまた元の時代に戻るだろう。だが、ここにはお前の命を狙う奴らが居る」
 吉良の言葉にイブは哀しそうに目を伏せた。
「わたしが死ねば、世界が終わるから…?」
「――…そうだ。ここに居れば恐らく危険はないだろうが…。俺は機関室に居る。何かあったら呼べ」
 言って、吉良は扉の向こうに姿を消す。
 明は女装をとくため、さっさと艇内の一室に引きこもっている。
 必然的にそこにはあやこと2人の子供だけが残された。
 ふ、と俯いていたイブが視線を上げ、アダムを見る。
「アダム、は…なんでこの時代に居るの?」
「『世界のバランスを保つため』にあの人に呼ばれたんだ。君が召喚されるのは避けられないからって、さ」
「そう………」
 沈黙が落ちる。
「……僕たちは『末裔』だ」
 唐突にアダムがそう呟く。
「『末裔』が死ねば、世界は存続しない。――僕たちにはお互いしか居ないから」
 イブの手をそっと取って、アダムは自嘲気味に笑む。
「どこまでいっても、僕たちは2人きりだ」
「………『最後の2人』だもの」
 何かを諦めたかのような声音で、イブがアダムの言葉に応える。
 その様子を見ていたあやこは、思わず叫んでいた。
「貴方たちは末裔じゃないわ!」
 自分には子を産むことは出来ない。
 けれど。
 今、あやこの心にあるのはまぎれもない『母』の気持ちだった。
 親の温もりを知らないこの2人の子供に、それを教えたいと。
 どこかぼんやりとした瞳で、イブとアダムがあやこを見上げた。
「貴方たちは末裔なんかじゃない」
 その声は慈愛に溢れていた。
 2人の子供は感情の読めない表情で、ただあやこを見ている。
「貴方たちが2人きりだというのなら、私が貴方たちの家族になるわ。一晩だけしか一緒にいられなくても――私は貴方たちの家族になりたい」

 未来を。
 明日を。
 命を紡ぐ、その役割を。
 ――担いたいと。

 そう告げたあやこに――『末裔』と称される2人の子供は、微かに笑った。
「ありがとう……」
 一夜限りの、親子が誕生した瞬間だった。

 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061/藤田・あやこ(ふじた・あやこ)/女性/24歳/女子大生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、藤田さま。ライターの遊月です。
 今回は「朔月の夜に」にご参加くださり有難うございました。

 かなり壮大なプレイングでしたので、かいつまんでしか描写できませんでしたが如何でしたでしょうか。
 この後の展開はご想像にお任せいたします。無事2人があるべき時代へと戻れることを祈りつつ。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。ご縁がありましたらまたご参加ください。
 リテイク・ご意見その他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。