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<東京怪談ノベル(シングル)>


ラヴ・ドラッグ - praise -

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なぜ…なぜ二人きりで向かい合っての夕食になってしまうんだ。
あいつめ…ササッと食事を済ませて、眠いとか言って、早々に自室に戻って行きやがった。
まぁ、別に良いんだが…。
妙な気を利かせるな、と言いたいだけで。
「ん…。何か、ほんのりチョコレートの味がする。気のせいか?」
笑いつつ言う草間。
私はカレーを口に運び、苦笑しつつ返す。
「悪戯好きの”妹”がな。色々とブチ込んだんだ。味を調えるのに一苦労したぞ」
「ははっ。仲良いよなぁ、お前達」
「まぁな。で、どうだ。美味い、か?」
ジッと見つめて問うと、草間は目を伏せ微笑んで。
「おぅ」
一言だけ、そう言った。
たった一言だけど、十分に伝わる。
長く一緒に居るからかな。
随分と、お前の事を理解したものだ。私も。フフ、と笑う私。
「っつーか、今日は多いな。ドレッシング」
それまでのマッタリとした空気が、瞬時に張り詰める。
私は若干慌てつつ、それでも平然を装って返す。
「あ、あぁ。何か、セールをやってたそうだ」
「へぇー。お。これ、何?もしかして、しそ?」
「あっ」
「ん?」
「あ、いや。た、多分な」
ど、動揺が隠せん。参った。
ホレ薬の入ったビンを手に取り、鳴れた手つきで、サラダにかける草間。
私は、効き目がないかもしれないとか思いつつ、
ドキドキしながら、その様を見やっていたが。
我慢できず。
「や、やはり駄目だっ!」
そう叫んで、ガタンと席を立つ。
だが、時、既に遅し。
草間はサラダを食しつつ、呆けて言う。
「何が?」
「い、いや…何でもない」
俯きつつ、再び席につく私。
「何だよ、さっきから。ちょっと変じゃねぇか?」
普段と変わらぬ様子の草間。
な、何だ…全く効かないじゃないか。
いや、待て。時間差でくるのかもしれない…。
そう思い、平然を装い続け様子を見るものの、全く変化なし。
何だ…本当に効かんのか。


心のどこかで”ツマンナイ”なんて思いつつ。
私は食事を続ける。まぁ、あいつの持ってた商品だしな。
欠陥品だったとしても、仕方あるまい。金が勿体無くは思えてくるがな…。
溜息混じりに、黙々と食事する私。
すると、突然。
「冥月って、肌…綺麗だよな」
草間が言った。
「っぶ。…はぁ?」
口元をおさえつつ、見やって返す私。
草間は頬杖をついて、私をジッと見つめている。
な、何だ。どうした、急に。何の前触れもなく褒めてくるなんて…。
不思議に思いつつ、草間の手元を見やると。
そこには、和風ドレッシングのビン。
…今更気付く自分に腹が立つ。
あからさまに…中身の色が違う。
あいつめ…すり替えやがったな。いつの間に…。
「透き通ってて…何つーか。雪、みてぇ」
カタンと席を立ち、私に近寄りつつ言う草間。
悪戯娘に対する怒りを瞬時に吹き飛ばしてしまう、草間の、その言動。
「く、草間。大丈夫か?」
スプーンをテーブルに置き、見やりつつ言う私。
草間は「何が?」と呟き首を傾げると、私の背後に立ち、髪を撫でる。
「髪も…すっげぇ、綺麗」
ビクリと揺れる肩。
「いつから伸ばしてんの?髪」
「か、関係ないだろう」
フイッと顔を背けて返す私。
尚も。尚も、草間の甘い言葉は続く。
「そういう気丈な態度も、俺好みだったりすんだよな」
「はっ、はぁ?」
「でも、そういう奴に限って本当は、すっげぇ寂しがり屋で脆かったりすんだよ」
「そ、そうとは限らな…」
「どーかな?冥月も一人の時は、塞ぎ込んだりしてんじゃねぇか?」
「し、してな…」
「弱いトコ、見せねぇからな。お前って」
「あ、当たり前だ。何で、貴様なんぞに…」
「そういうの全部ひっくるめて、お前って、イイ女だと思うよ。俺は」
「…っ」
こ、これは…これが、ホレ薬の効果なのか。
ありえん。本当に、ありえん。
こいつが、こんな。甘い言葉ばかり吐くなんて。
凄い効き目だと関心していられたのは、ほんの一瞬。
草間は、後ろから私の首に腕を回し、続ける。
「香水は…使ってねぇよな?」
「つ、使ってない」
「じゃあ、あれだな。いつも”冥月の香り”に酔ってんだ。俺」
グイッと腕で私の顔を上げ、自身の顔と至近距離で向かい合わせる草間。
「…っ」
今にもパンッと弾けてしまいそうな心臓。
みるみる熱くなる頬。
私は目を逸らし、下唇をキュッと軽く噛んで目を泳がせる。
「おい。何で目ぇ逸らすんだよ」
や、やめろ草間。
「なぁ、冥月」
やめてくれ。
「こっち、向けって」
駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ。殺られる。このままでは。
堕ちる。堕ちる。堕ちてしまう。
「…や、やめろっ!」
ドカッ―
思い切り振りかざした拳は、見事に草間の顎にヒット。
ドタッと、その場に崩れるように倒れこむ草間。
私はガタンと席を立ち、熱い頬を両手で押さえつつ呼吸を整える。


まったく…あの悪戯娘め。油断も隙もないっ。
いつから、こんな悪知恵が働くようになったんだ。
出会ったばかりの頃は物静かで控えめで、本当に人形のようだったのに。
倒れた草間を引き摺り、必死に移動させつつブツブツと呟く私。
さすがにフローリングの上ではな。体を痛めてしまうだろうから。

草間をソファに凭れさせ。私はクスリと笑う。
何だろう。いつものマヌケな姿が、今はとても滑稽で。
私はしゃがみ、草間を顔をジッと見やってフッと気付き思う。
こいつ…やたらと私の事を褒めてきたな。
本気で、褒め殺されるかと思った。でもな…少し、妙だとも思う。
ホレ薬と言うからには、好きだの何だの、そういう言葉があった上で、
色々と褒めてくるもんなんじゃないのか、と。
そういう言葉は、一切なかった。
私を好いているとか、そういう言葉は。一切、なかった。
ただ、褒め倒しただけ…か?それとも……。
「いやいやいやいや」
自分の妄想、想像、ほのかな期待に激しく首を左右に振る私。
と、とにかく。こんな薬は回収だ。回収っ。
私は、まだ少し残っているホレ薬を手に取り、
悪戯娘を叱りに向かう。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂


著┃者┃通┃信┃
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気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ 宜しく御願い致します。

2007/04/30 椎葉 あずま