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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


トラブル・ハグ

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0.オープニング

「ちょっと、離しなさいっ!」
ドカッ―
「うぐ」
鳩尾に私の肘が入り、その場に倒れこむ男性。
私は襟を整え、スーツをパパンッと払って溜息。
「はぁ…まったくもう。迷惑な奇病ね」
「編集長ー!大丈夫ですかっ!!」
「遅いっっ!!」
バシッ―
「痛ぁっ!」
頬に私のビンタをくらい、その場にしゃがみ込む、三下…さんした君。
私は腰に手をあて、見下ろして言う。
「集合時間は、とっくに過ぎてるわ!あなた、やる気あるの!?」
「す、すみません…。捨て猫が…」
「言い訳は聞きたくないわ。さっさと取材!」
「は、はいっ」

近頃、評判の奇病。
その名は”トラブル・ハグ”
迷惑な抱擁。その名の通り。
感染した者は、見境なく異性に抱き付く。
タチの悪い感染者の場合、チカラ任せに押し倒し、それ以上を要求する。
まったくもって、迷惑な奇病だわ。
女性の感染者より、男性の感染者が多いというのも、また問題よね。
編集部にも被害を受けた若い女の子が何人か居て。
随分と落ち込んでしまっているのよ。
仕事が手につかないくらい。
立派な勤務妨害だわ。とても迷惑よ。腹が立つわ。
だから、取材をしつつ、何とか出来ないものかと。
思っているんだけれど。

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1.

まったく、あいつめ…。
もっとスマートに解決できないのか。
依頼主も依頼主だ。うだうだと後から文句を言いやがって。
それに笑顔で応じているから、手間取るんだ。
まぁ、あいつの性格上、仕方ないかもしれないが。
お人好しにも程がある。
あんな理不尽な言い掛かり、あってたまるか。
モヤモヤした心のまま、私は眉間にシワを寄せ。
饅頭の入った紙袋を抱えて興信所に向かう。
通りすがりの行商人から買った饅頭。
あいつは、なけなしの金でコレを買い、
私に持たせて「先に帰ってて」と促した。
いつまで、付き合ってやるつもりなんだか…。
紙袋からフワリと香る甘い匂い。
私は饅頭を一つ手に取り、口元へ持っていく。
別にな、どうでもいいんだよ。
依頼主が、物凄く艶っぽい女だったとか、
そんな事は…どうでもいい。
そう、どうでもいいんだよ。
くだらん。まったくもって、くだらん。
饅頭を頬張ろうと口を開いた瞬間だった。
「冥月さぁんっ!!」
「…!」
突然、背後から私の腕を何者かが掴んだ。
聞き覚えのある、その情けない声の主は―…三下。
「離せ、ヘタレ犬っ!!」
ガボッ―
「むぐぁっ!」
私は振り返ると同時に、手に持っていた饅頭を三下の口へ押し込む。
すると…。
「…あぁ…冥月さん…今日も綺麗だ…」
トロンとした眼差しで私を見つめる三下。
ゾクリと背筋を走る寒気と不快感。
何だこれは…この世のものとは思えぬ気色悪さ…。
「冥月さんっ!!」
ガバッ―
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
突然、三下に抱きつかれ腹の底から悲鳴を上げる私。
ヘタレでも男。引き剥がそうとするも、ビクともしない。
「は・な・せぇぇ〜〜…」
込み上げる不快感に勝る怒りに任せて、
冷や汗を額に浮かばせながら全力で引き剥がそうとした時。
ドカッ―
「ぁぅ」
ドサッ―
三下の後頭部にチョップが炸裂。
「まったくもう…何やってんのよ」
腰に手をあて、もう片方の手で眼鏡をクイッと上げる女。
それは、碇。碇 麗香。
仮にも下僕…いや、部下だろうに。
何の躊躇いもなく三下を眠らせた碇に、私は苦笑を返す。

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2.

「なるほど…この饅頭が原因だったか」
ヘタレのくせに、いきなり抱きついてきたから何事かと思った。
知らなかったとはいえ、不快な思いをしたのは自業自得…という事か。
いや、待て。あいつが、怪しげな行商人から、こんなものを買ってよこさなければ…。
むぅ…これは、責任転嫁、か…?
「犯人は、今朝から、この辺を徘徊している行商人。饅頭を口にしたら男女問わず感染して…」
わかりやすく説明する碇。
そんなに細かく教えてくれなくて良い。
簡単な事だ。要するに―…。
「その犯人を締め上げれば良いんだろ。奴は、こっちだ」
影で感知した犯人の居所へ、長い髪を揺らし、タッと駆け出す私。
「えぇ。でも少し手加減してよ。取材したいから」
碇は苦笑しつつ、私の後を追う。




ドカッ―
バキッ―
「っ…。くそ…。キリがないな」
ドカッ―
バキッ―
「はぁはぁ…。今更だけど…あなたって、乱暴ね」
「…お前に言われたくないよ」
愛しているだの、あなたが欲しいだの。
感染者は皆、似たような台詞を吐きながら、
あらゆる方向から抱きついてくる。
それらを殴り、或いは蹴り黙らせつつ、犯人の元へ急ぐ私と碇。
抱きついてくるのも迷惑で腹の立つ行為だが、それ以上に…。
”愛している”という言葉をポンポンと軽く放つ事が、非常に不快だ。
感染しているとはいえ、実に腹が立つ。
その言葉は、とても重く特別で。
口にするのを躊躇うものなんだぞ。
本当に愛しい人の前で、その言葉を放つのに涙を伴う事を…。
お前達は、知らないのか…?
「あぁ…!もう、うっとおしい!!知らない奴に抱きつかれて喜べるかっ!!」
ドカッ―
怒りに任せて感染者を次々と眠りに落としていく私。
そんな私に、碇はクスクス笑いつつ言う。
「知ってる人なら、良いの?」
「…深読みするな!」

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3.

ドサッ―
「ひっ…ひぃ…勘弁…」
影に拘束され、地に伏せて命乞いする犯人。
さっきも見てるのに今更だが、妙な格好をしているな。こいつ。
異国の民族衣装のようなものを纏っている。
まぁ、どうでも良いがな。
私は屈んで、犯人の頭をガッと掴み言う。
「感染者を、今すぐ元に戻せ」
犯人である行商人は、私から目を逸らしつつ返す。
「勝手に戻りまさぁ…まだ試段階なもんで、三十分程で…」
行商人の言葉に、碇は溜息混じりに言う。
「誰かに命じられての犯行なのかしら?」
ピクリと動く行商人の眉。
どうやら、図星のようだな。
馬鹿な奴め。そうです、といわんばかりの反応しおって。
こうなったら、もう終いだ。
私は行商人の腕を掴んで立ち上がらせると、
ポイッと物を投げるように、行商人を碇に渡す。
さぁ、取材地獄の始まりだ。





翌朝、朝刊の一面には”トラブル・ハグ”の文字が躍った。
あの行商人は、とある異国の富豪から大金を貰い、
”強力な惚れ薬”の開発を命じられていたらしい。
「…馬鹿馬鹿しい」
薬を使って意中の人の心を手に入れて、それで満足か?
わからん。さっぱり、わからん。
本当、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
シャワーを浴びた私は、
携帯の留守電に残された五件もの三下からの謝罪に笑いつつ身支度を整える。
さて、今日はどんな仕事が舞い込んでくるのやら。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碇・麗香(いかり・れいか) / ♀ / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長

NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
物凄く遅れてしまい、大変申し訳ございません。
規約に引っ掛かる箇所は削らせて頂きました。申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/28 椎葉 あずま