コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


トラブル! 〜お片付けは大切です〜



「こんにちは〜」
 気の抜けるような明るい声に、草間武彦は渋面になった。
 出来ることなら一日聞かずに過ごしたいと思うその声の主は、日向明。
 性格も厄介だが、能力も厄介である。関わることなく過ごせるならどれだけよいことか。
「……何の用だ」
 嫌々問いかける。さっさと用件を聞くだけ聞いてお帰り願おう、そうしよう。
「用って言うかですねぇ、なんかここでトラブルが起きるっぽいので来てみました〜」
 草間の顔が引きつった。
「『トラブル』…?」
「そうですそうです〜。ボクの『トラブルシーク』は知ってるでしょう?」
 知っている。よくよく知っている。…知りたくなどなかったが、身をもって。
「…げ、原因は」
「そうですねぇ…」
 ぐるりと興信所内を見回す明。一通り見てから草間ににっこりと笑いかける。
「『部屋の汚さ』みたいですよ?」
 乱雑な興信所内に、草間は頭を抱えるしかなかった。

◆ ◇ ◆

(まぁ、当然かしら……。零ちゃんが来てから自分で掃除しないんだもの、武彦さんたら)
 草間と明のやりとりを見ていたシュライン・エマはそう思った。
 興信所内は随分と散らかっている。
 零が来てから草間は自身で片付けるということをしなくなった。怠惰にもほどがあるとは思うが、仕方ない…と言っていいものかどうか。
 ちょくちょく自分も掃除をしていたが、それだけにかかりきりになるわけにもいかず、簡単にしか片付けることが出来なかった。
 結果、興信所の環境は改善されることなく今日まで来てしまったというわけだ。
「腹くくって一緒に掃除しましょ、武彦さん」
 ぽん、と肩に手を置き、にっこりと笑う。草間はそれに深く深く溜息を吐いて、頷いた。

  ◆

「さて、と」
 腕まくりをし、まず散らばっている洗濯物を拾い集める。何をどうしたらこんな惨状になるのか心底不思議だ。
 それらをまとめて洗濯機に放り込み、草間に集めさせた書類と、明に集めさせ、一旦箱に入れた小物を台所に避難させた。
 ちなみにシュラインが掃除しつつ指示を出し、それを受けて草間と明が動く、という流れだ。零は私用で出かけている。
「これは先に片付けなくていいのか?」
 書類を運びつつ草間がそう問う。
「ええ。この状態だと間違って捨てちゃう可能性もあるし。部屋の片付けが大体終わってから改めて区分けすればいいから」
「そうなのか」
 納得したらしい草間。零が来る前から思っていたが、どうやら我らが興信所所長は片付けがそもそも苦手のようだ。掃除の手順なども詳しくないようだし。


 とりあえず掃除の基本は高所から。
 ということで、草間にハタキを渡し、高い部分をやってもらう。
 その間に床を素早くチェック。
(どうやら今のところ気配はないみたいね…)
 黒かったり茶色かったりする、時折飛ぶことすらあるアレ。
 アレだけは生理的に駄目なのだ。受け付けない。見ると身体が固まるほどだ。
 すす、と草間に近寄り、こっそり耳打ちしておく。
「アレのことなんだけど…見つかったら本当に私固まって使い物にならなくなるから。そのときはお願い、武彦さん」
「ああ、アレな…。了解」
 苦笑して、ちょっと涙目のシュラインの頭をぽんぽんと撫でる草間。「アレ」で通じるところが長い付き合いを物語っている。
「酢入り、水スプレー作って来ましたよ〜」
 能天気な声で言いつつ、明が台所から戻ってきた。はいどうぞ〜、とスプレーをシュラインに手渡す。
「これってあれですよね、汚れが落ちやすくなるんですよねぇ? 10円玉がぴっかぴか〜、とかと同じ原理で」
「そうよ。これだけで大分変わるものなの。……あ、武彦さん、終わった?」
 ハタキ片手に戻ってきた草間に笑いかけ、さて次は、と頭の中で手順を組み立てるシュラインだった。

  ◆

「あ」
 シュラインに言われて棚を動かしていた明が小さく声を漏らす。
「どうした?」
 別の棚を動かしていた草間が問えば。
「いや、イニシャルGの生命体が」
 壁沿いに視線を走らせながらそう答えた。


 ………しーーーーーーん。 


 瞬時に沈黙が支配した室内に、カサカサカサ……というアレの動く音が響いた。
 半ば反射的に椅子の上に乗り、小さく震えるシュライン。
 棚に手をかけた状態で、間抜けにもぽかんと口を開けている草間。
 先と変わらずアレの動く軌跡を目で追っている明。
「あ、飛んだ」
「―――っっっ!!!」
 声無き悲鳴をあげるシュライン。
 慌ててヤツを退治するための道具を探す草間。
 そこでやっと明はシュラインの恐怖に気付いたらしい。
「あれぇ〜? シュラインさん、もしかしてGの付くヤツ苦手なんですかぁ?」
 こくこくと高速で首を縦に振るシュライン。涙目だ。
「そうだったんですか〜。すいません気付かなくて」
 言いながら、何かを目にも留まらぬ速さで投げた。
 としゅっ、と軽い音を立てて、それは飛んでいたヤツを貫き、床に落ちた。
「……………………………………」
「………………………………………………」
「えーと〜、ティッシュティッシュ〜」
 イイ笑顔でヤツを包むためのティッシュを探す明。
 展開についていけないながら、視線をめぐらせた草間の目に映ったのは、竹串で串刺しにされたヤツの姿だった。
「どこから竹串なんて出したんだお前」
「え? ポケットからですよー。何かあったときのために何本か入れてるんですぅ」
 何かって、何だ。竹串が一体どんなときに必要になるというのか。
 それへのつっこみも見せられた竹串投げの技術についても意識の隅に丸投げすることにして、草間はシュラインに視線を遣った。
「……とりあえず、まぁ始末したぞ」
 自分ではなく明が、だが。
 その言葉に、シュラインは深い安堵の息を漏らした。

◆ ◇ ◆


 黒光りするGの来襲のショックからなんとか立ち直ったシュラインの指示のもと、無事に興信所内の掃除は完了した。
 綺麗になった興信所内を見回し、シュラインは満足げに頷く。 
「お疲れさま。ケーキ作って来たのを冷蔵庫に入れてあるから、みんなで食べましょうか」
「手作りケーキですかぁ? それは是非とも御相伴に預からないと〜。あ、お茶の用意してきますぅ」
 にこにこと満面の笑みを浮かべる明。帰ってきた零と連れ立って台所へと向かう。
 それを確認したシュラインは、慣れないことをしたからか、疲れてぐてっとソファに倒れ込んでいる草間に声をかける。
「武彦さん、これ…」
 言いながらそっと差し出したのは、一冊の手帳。
「ああ、それいつの間にか無くして――ってシュライン! 中身! 中身見たか!?」
 なにやら赤くなって取り乱す草間。その由来に心当たりのあるシュラインも、つられて赤くなってしまう。
「ごめんなさい、見ちゃったわ」
「うっ……」
 ますます赤くなった草間は、まるで熟したトマトの如く。
「でも、武彦さん」
 手帳の中身――というか手帳に挟まれていたものを思い返し、シュラインは言う。
「どうせなら、2人で写った写真の方が嬉しいわ」
 それだったら、自分もこっそり持っていられるし。
 零あたりが撮ったのだろう、少しだけピンボケした自分の写真が挟まれた手帳。
 見つけたときは恥ずかしいやら嬉しいやらで複雑な心境になったものだ。
「いや、その、それは………そ、そのうち、な」
 色々いっぱいいっぱいな所長の姿に、シュラインは耐え切れず笑いをこぼした。




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 こんにちは、シュライン様。お届けが遅れまして申し訳ありません。ライターの遊月です。
 「トラブル! 〜お片付けは大切です〜」にご参加くださりありがとうございました。

 やはりここは!と思い、黒光りするアレを登場させたのに、草間氏にいいところなしと相成りました…。
 他人に見られたくないナニカ(笑)は王道のアレにするか否か悩んだ挙句、べったべたの学園ラブコメみたいなオチに…。
 ど、どうでしょう。意外にオイシイかなと思ったんですが…! 
 
 
 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。