コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


トラブル・ハグ

------------------------------------------------------

0.オープニング

「ちょっと、離しなさいっ!」
ドカッ―
「うぐ」
鳩尾に私の肘が入り、その場に倒れこむ男性。
私は襟を整え、スーツをパパンッと払って溜息。
「はぁ…まったくもう。迷惑な奇病ね」
「編集長ー!大丈夫ですかっ!!」
「遅いっっ!!」
バシッ―
「痛ぁっ!」
頬に私のビンタをくらい、その場にしゃがみ込む、三下…さんした君。
私は腰に手をあて、見下ろして言う。
「集合時間は、とっくに過ぎてるわ!あなた、やる気あるの!?」
「す、すみません…。捨て猫が…」
「言い訳は聞きたくないわ。さっさと取材!」
「は、はいっ」

近頃、評判の奇病。
その名は”トラブル・ハグ”
迷惑な抱擁。その名の通り。
感染した者は、見境なく異性に抱き付く。
タチの悪い感染者の場合、チカラ任せに押し倒し、それ以上を要求する。
まったくもって、迷惑な奇病だわ。
女性の感染者より、男性の感染者が多いというのも、また問題よね。
編集部にも被害を受けた若い女の子が何人か居て。
随分と落ち込んでしまっているのよ。
仕事が手につかないくらい。
立派な勤務妨害だわ。とても迷惑よ。腹が立つわ。
だから、取材をしつつ、何とか出来ないものかと。
思っているんだけれど。

------------------------------------------------------

1.

「迷惑な抱擁…か。確かに」
抱きついてきた感染者に肘を入れている麗香さんを見て、クスリと笑う私。
「ちょっと!遅いじゃない!」
ツカツカと私に歩み寄りながら、文句を言う麗香さん。
私は緩んだ口元を慌てて締めて返す。
「ごめんなさい。別の仕事に少し手間取っちゃって。三下くんは?」
「知らないわ。あんな役立たず」
フンと息を吐いて腕組する麗香さん。
目に入る、離れた場所でデレデレしている三下くんの姿。
…良かったね。三下くん。
私は苦笑しつつ、感染者に纏わりつかれて嬉しそうな三下くんを放置。
見なかった事にして、麗香さんに問う。
「感染の継続時間は、どの位なのかしら?」
「長くて三十分程度ね。感染が解けると、皆深い眠りに落ちてしまうわ」
「なるほど…」
って事は、感染が解ける少し前が聞き込みの狙い時なのね。
…麗香さん。失神させちゃあ駄目じゃない。苦笑する私。
その途端、背後に気配。
ハッとして振り返ると。
「付き合って下さい!!」
見知らぬ男性が、私に抱きついた。
ブワリと走る寒気。
「いやぁぁぁっ!!!」
ドカッ―
バコッ―
数秒間の記憶欠乏。
我に返った時には、時すでに遅し。
その場に倒れこんで泡をふいている男性。
「…はぁ…はぁ…」
呼吸を整えながらチラリと見やると、
麗香さんは耳をおさえつつ言う。
「…相変わらずね。あなた」
失神させちゃ駄目じゃない、何やってるのよ。私ってば。
でも…仕方ないのよ。
気持ち悪くて、我慢できないの。
いつまでたっても、治らないのよ。これは。
嫌な記憶が、蘇ってしまって…。

------------------------------------------------------

2.

「ちょっと…大丈夫?」
私の顔を覗き込みつつ言う麗香さん。
私は笑って、返す。
「大丈夫よ」
まだ少し、胸がモヤモヤするけど、ここで仕事を放棄するわけにはいかないもの。
聞き込んだ結果、感染源が饅頭である事もわかった事だし。
もう一息ね。
「感染経路から察するに、犯人が向かってるのは、おそらくこっちね」
地図を確認しつつ、薄暗い路地を進む私。
麗香さんは後を付いて来つつ、
「進行が、どこぞの探偵みたいね」
そう言ってクスクス笑った。



こんなに人気のない場所で、わざわざ饅頭を売るなんて。
あからさまに怪しいじゃない。黒装束だし…。
追い詰められた犯人は、首を左右に振って、何度も「濡れ衣だ」と繰り返す。
往生際の悪い人ね。
本当に、逃れられると思ってるの?この状況で。
「捕まえたっ」
私は怪しい行商人の腕を掴み上げる。
「ちょ、ちょっと…何するんですかっ。痛いっ!離して下さいっ!」
ふぅん。まだ、そんな事言うんだ。
それなら、こっちにも考えがあるわ。
私は、行商人が持っているカゴから饅頭を一つ取って。
ニコリと微笑んで告げる。
「暖かくなってきたわよね。そろそろ、蚊が飛び交うわ。この饅頭、人外にも効果あるのかしら?」
「ひ…ちょっと待っ…」
ギョッとして慌てふためく行商人。
そこへ麗香さんが威圧を添えて。
今だ、とばかりに取材責め。

------------------------------------------------------

3.

行商人の正体は、駆け出しの調合家で。
異国の富豪から大金を先払いされて”惚れ薬”の調合実験をしていたらしく。
無差別に迷惑をかけた愉快犯として警察に強制連行。
「とんでもない愉快犯よね…まったく」
眼鏡を外しつつ溜息を落とす麗香さん。
まったくだわ。
一般の人に迷惑・被害を出さずに実験してれば良かったのに。
世の中には、妙な事に首を突っ込みたがる物好きさんってものがいるんだから。
そういう人に協力してもらえば良かったのよ。


「それにしても…あなた、大丈夫?」
麗香さんの問いにキョトンとする私。
「うん?何が?」
「そんなんじゃあ、ロクに恋人も作れないんじゃないの?」
私は何も言わず、苦笑だけを返す。
心配してくれて、嬉しいし有難いけど。
過去も記憶も、払えないものだし。
大切なのは現在だから。
全ての男性を拒絶するわけじゃないのよ。うん。
一人だけ。一人だけだけど、
どんなに傍にいても、触れられても平気な人がいるの。
もしも、彼が…この”トラブル・ハグ”に感染したら。
他の女性に抱きついたりしないように、部屋に閉じ込めちゃうかも。
…なーんて。
こんな事考える私も、愉快犯?

------------------------------------------------------


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 碇・麗香(いかり・れいか) / ♀ / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長

NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
           ライター通信          
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


こんにちは。発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
物凄く遅れてしまい、大変申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/28 椎葉 あずま