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<東京怪談ノベル(シングル)>


STAY

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いつもよりも一つ多いティーカップが。
彼が、ここに居たと実感させる。
フフッと笑い、自室に向かおうと手を拭きながらキッチンを出ようとして、
私はピタリと足を止める。
冷蔵庫に隠れつつ、私をチラーリと見やっているシュラインさん。
私はクスクス笑って言う。
「かくれんぼ、下手っぴですね」
シュラインさんはニコッと微笑んで。
私の頭を撫でつつ言った。
「ちょっと、御話しましょ」


パジャマに着替えた私達は、リビングのソファに並んで座る。
ふっと見やれば、必ず交わる視線。
それが何だか可笑しくて恥ずかしくて。
私はクッションをギュッと抱いてエヘヘと笑う。
「ねぇ、零ちゃん。彼とは、いつも、どんな話をしてるの?」
微笑みつつ首を傾げて問うシュラインさん。
私は髪を指で弄りつつ、返す。
「えっと…犬の話が多いですね」
「あぁ。彼、犬飼ってるもんね」
「はい。トリマーになりたいそうです」
「へぇ。トリマーかぁ。素敵ね」
はい。私も、そう思います。素敵だな、って。いつも思います。
犬の話をしている時の彼、凄く楽しそうなんですよ。
あぁ、本当に好きなんだなぁってわかるんです。
少し、犬にヤキモチ焼いちゃう位…。
同時に、彼の夢が叶いますように、って思うんです。
心から、そう思うんです。


「ねぇ。もし、何か計画できたら言ってね」
「計画?」
シュラインさんの言葉に首を傾げる私。
「遠出デートとか。事、荒立てないように協力するから」
「あ、ありがとうございます…」
遠出…遠出かぁ。良いなぁ。
これから温かくなるし、山とか…行きたいな。
とっても楽しそう。山だけじゃなくて、海とか…動物園なんかも行きたいな。
次々と頭に浮かんでは並ぶ、行きたい所。
想像するだけで、ワクワクしちゃう。
ヘヘッと笑う私。
シュラインさんは、そんな私の頬をツン、と突付いて言う。
「今日、どうだった?連れて来て…緊張した?」
「は、はい。凄く。落ち着かなかったです…」
クスクス笑うシュラインさん。だって、何だか怖かったんです。
お兄さんの目が。気のせいかもしれないけれど…。
実際、どうなんだろう。彼の事、どう思ったのかな。
気になって仕方なかった不安を、包み隠さず。
私はシュラインさんにぶつけていった。


真剣に私の話を聞いて、的確なアドバイスをくれるシュラインさん。
その一言一言が、とても温かくて優しくて。
私はシュラインさんの肩に、ぽてっと頭を乗せて微笑む。
暫らく、お互いに何も言わない時間が続いて。
何だか、妙に照れ臭くなってきた時、
シュラインさんが、独り言のようにポツリ、ポツリと呟いた。
昔、ここに来る前の私の事とか、
ここに来て掃除機や洗濯機、レンジなどの使い方を教えたよね、とか。
優しい声で、思い出を辿るように。
私は、何も言わず目を伏せたまま、黙ってそれを聞いていた。
うん…本当に。色んな事がありましたね。
シュラインさんには、御世話になりっぱなしです。
「…ありがとう、ございます」
ポロリと自然に漏れた感謝の言葉。
その言葉を聞いた途端、シュラインさんは、ぎゅーっと私を強く抱きしめる。
「シュ、シュラインさん…?」
背中に腕を回し、私が呼びかけると。
シュラインさんは、ポツリと呟く。
「…ちゃんと、会わせてくれて、ありがとうね。凄く、嬉しかったわ」
「はい」
「でもね…」
「はい?」
「まだ、もう少し…遠くへは行かないで。目の届く所に居てね…」
震えているシュラインさんの肩と声。
私はニコッと微笑み、
シュラインさんに、ぱふっと抱きついて言う。
「…はいっ」


その後も、私とシュラインさんはピットリくっついて。
手を繋いだまま、色んな話をした。
思い出とか、不安とか、疑問とか、他愛ない事とか…色々な話を。
シュラインさんは、話の合間にコツンと自分の頭を小突いて。
「やぁね。何だか私、心配し過ぎ」
「お嫁に行くわけじゃないのにね」
何度も、そう言った。
確認するように何度も同じ事を言うシュラインさんが、
とても、とても可愛らしく見えて。
私はずっと、ずっと微笑んでいた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / ??歳 / 草間興信所の探偵見習い


著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

シチュノベ発注ありがとうございます!!お待ちしておりました!(笑)
『リトル・ラヴ』の続編的シチュノベ、一本目(零サイド)を御届けします。
普段と少し違うスタイルで紡いでいるので、不安もありますが、とても楽しかったです^^

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ 宜しく御願い致します^^

2007/05/05 椎葉 あずま