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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ディアー・ユー

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0.オープニング

…これ、どんくらい入れれば良いんだ。
わかんねぇ。…こんくらいか?
ジュゥッ―
「うぉっ」
炎が踊るフライパン。
「わぁぁ!駄目ですよ、お兄さん!そんなに入れないのっ」
「…や。わっかんねぇんだよ。加減が」
「加減とかじゃなくて〜…。油でベタベタになっちゃいますよ。ほらぁ〜…」
「………」
一瞬、面倒くせぇ、その思いが頭を過ぎった。
こんなに、面倒くせぇもんなのか。料理って。
俺はフライパンを振りつつ、フゥと息を吐く。

普段、料理なんて。俺はしない。
自ら進んで作るなんて、絶対にない。
でも、今日は特別。今日くらいは。特別。
いつも世話になってる、あいつと出会った日だから。
「はい。そこで、塩を少々」
「少々って、どんくらいだよ」
「適量ですよ」
「わっかんねぇって」
「もぉ〜…」

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1.

「料理に大切なものって何だと思います?」
唐突な零の問い掛けに、私は目を丸くして返す。
「何だ急に。”彼”に手料理か?」
「ち、違いますっ」
動揺し、慌てる零。図星…か?
拭き終わった食器を棚に戻しつつ、私は淡く微笑む。
「…ありきたりだがな、料理は”愛情”だ。気持ちを込めると不思議と出来栄えも…」
私が言い終える前に、
「お兄さんに作る時、いつも”愛情”込めてます?」
零はフフフと笑いつつ言った。
「うるさい」
苦笑し、零の頬をペチッと叩く私。
まったく…最近、お前は本当に、そういう事ばかり言うな。
まぁ、現状…そういう事に興味津々なのも、理解るがな。
良いんだ。そんな事は。とにかく。
料理は、愛情。




…なるほど。
そういう事だったか。
テーブルの上に並ぶ、豪快な料理を前に、呆然と立ち尽くす私。
そんな私の腕を引き、零は微笑む。
「さぁ、座って座って」
促されて席に着けば、フワリと鼻をくすぐる、卵の香り。
頬を掻きつつ向かいに座り、コホンと咳払いする草間。
「じゃあ、私、ちょっと出かけて来ますね」
そそくさとリビングを去っていく零。
”じゃあ”って何だよ…。
最後に”ごゆっくりどうぞ”って付きそうな、その言い方も何だよ…。
まったくもう…。

零が去り、二人きりになって。
私はフッと笑い、置かれたレンゲを、おもむろに手に取って言う。
「私に中華か。採点、厳しいぞ」
私の言葉に草間は微笑み返して。
「望む所です」
と小さな声で言った。

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2.

ガリッ−
「ん」
口の中で割れた、卵の殻。
私は、それをプッと掌に出すと、
向かいで”しくじった”的な顔をしている草間の顔に弾き飛ばす。
「殻くらい確かめろ。それ以前に、割り方がなってないのだろうな」
「…厳しいな〜」
苦笑しつつ、頬を掻く草間。
まぁ…何というか。悪くない。
所々、ムッと眉を寄せる箇所はあるものの。
うん…。美味い。でも、強いて言えば、そうだな…。
「油は、もっと飛ばせ」
「へい」
「もう少し、念入りに味見をしろ」
「へい」
一問一答のように返す草間。
それが、とても可笑しくて。私はクスクス笑う。
私の笑顔を見て、満足そうに微笑み、草間は呟いた。
「よく、笑うようになったよな」
「…ん?」
「出会ったばっかん時の、お前の怖さといったら、そりゃあ、もう…」
「…今もだろう?」
「い〜や。全然」
「…ほぅ」
「……いや、嘘。ちょっと、怖いわ。今も」




「…ふぅ」
テーブルの上に並んだ皿が綺麗に空になって。
私は口元をハンカチで拭いつつ目を伏せる。
「美味かったか?」
草間の言葉に、目を伏せたまま。
「あぁ」
私は、一言、そう返す。
「そかそか。や〜。満足満足」
席を立ち、後片付けをしようとする草間。
私はハッとして。
「あぁ、私がやる」
そう言ってカタンと席を立つ。
その瞬間、ふと目に入る、草間の火傷。
隠していたのか…。まったく気付かなかった…。
私は草間の手をキュッと掴むと、影内から特製の薬を出して。
「慣れない事するからだ」
微笑みつつ、そう言って薬を塗り、手際良く包帯を巻く。
包帯を巻かれている間、草間は私の顔をジッと見つめていて。
「…な、何だ。何か付いてるか?」
目を合わせぬように言うと、
草間はパフッと私の頭を自身の胸に押しやって言う。
「…えーと。何つーか、な。…これからも、仲良く、やっていこうな。冥月」
「…ヘ、ヘタレは、手伝ってやらんとな」
パッと離れ、俯いて返す私。
最初の…恩もあるしな。
「今日、どうすんだ?泊まってく?」
顔を覗き込みながら言う草間。
私はフイッと顔を背けて返す。
「用があるから、今日は、もう帰らねば」
「何だ、そっか。送ってくか?」
「いや。いい」
「即答しなくても…」
…勘弁してくれ。
これ以上、二人きりでいるのは…。




食器を、そそくさと片付けた私は。逃げるように。
「気持ちは感謝するがな。もっと、精進しろよ」
そう言い捨てて、足早に興信所を後にする。
ガチャ−
「わっ」
「!」
「あれっ。冥月さん…帰っちゃうんですか?」
戻ってきた零が、私を見上げて問う。
「あぁ。用があってな。またな」
私は、零の頭を軽く撫でて、外へ――…。

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3.

バタン―
息苦しい…。
自室に戻った私は、閉めた扉にズルズルと凭れて深呼吸。
跳ねる心臓。熱い頬。
落ち着け。落ち着け。大丈夫。大丈夫。
バレていないはずだ。きっと。
まさか、まさか…覚えていてくれたなんて。
てっきり、忘れているものだと思っていた。
出会った日の、事なんて。
思い返せば、恥ずかしい記憶だが、やっぱり…嬉しい。
「って、何がだ」
一人ツッコミを入れつつ、頬をペチッと叩き。
あっ、と気付く。
懐に眠ったままの、贈り物。
「…渡しそびれた。…驚かせるからだ。あの馬鹿…」
ガックリと肩を落とす私。
あれっ、そうだったっけか?と。あいつの驚く顔が見たかったのに。
逆に驚かされて、どうする。私…。




「ふふふふふ」
「何だ、どうした。気持ち悪ィな」
俺の顔を見つつ、ニヤニヤと笑う零に言うと、
「喜んでくれて、良かったですね」
零は嬉しそうに言った。
「あいつ、すぐ顔に出るんだよな」
クックッと笑って言う俺。
最初は、出会った頃は、あんなんじゃなかったのにな。
感情を持ち合わせていない、人形みたいだったのに。
しかも殺戮を繰り返すような、おっかない人形な。
いつからだろうな。あんなに、わかりやすく。
女らしくなったのは。
誰の、御蔭だろうな?
「必死に嬉しさを抑えてる姿、とっても可愛かったですね」
買って来た煙草を差し出しながら言う零。
俺は煙草を受け取り、ヘラッと笑って返す。
「参るね」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
遅れてしまい、大変申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/24 椎葉 あずま