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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ディアー・ユー

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0.オープニング

…これ、どんくらい入れれば良いんだ。
わかんねぇ。…こんくらいか?
ジュゥッ―
「うぉっ」
炎が踊るフライパン。
「わぁぁ!駄目ですよ、お兄さん!そんなに入れないのっ」
「…や。わっかんねぇんだよ。加減が」
「加減とかじゃなくて〜…。油でベタベタになっちゃいますよ。ほらぁ〜…」
「………」
一瞬、面倒くせぇ、その思いが頭を過ぎった。
こんなに、面倒くせぇもんなのか。料理って。
俺はフライパンを振りつつ、フゥと息を吐く。

普段、料理なんて。俺はしない。
自ら進んで作るなんて、絶対にない。
でも、今日は特別。今日くらいは。特別。
いつも世話になってる、あいつと出会った日だから。
「はい。そこで、塩を少々」
「少々って、どんくらいだよ」
「適量ですよ」
「わっかんねぇって」
「もぉ〜…」

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1.

今日は、特別な日。
…なんだけど。私は、外に一人。
興信所の扉の前で、しゃがみ込んでフゥと溜息。
何なのかしら。
二人とも、起きてきたと思ったらグイグイと私をキッチンから引きずり出して…。
あぁ…気になるなぁ。
今朝仕込んだ杏仁豆腐と、コーヒーゼリーの具合。
サラダも仕込んだのよね。
うーん、と首を傾げていると、
フッと鼻をくすぐる、美味しそうな香り。
それは、デザートの香りでもサラダの香りでもなくて。
「…ふふ」
中で何が行われているのかを悟った私は微笑んで。
目を伏せ、声が掛かる時を待つ。
ひとりでに緩む口元。緩みっぱなしの口元。
やだ…もう。落ち着きなさい。私。




「すご…たくさん作ったわね…」
テーブルに並ぶ料理の”量”に驚く私。
「…ご飯が空っぽになっちゃいました。予想外です」
空になったジャーを見せつつ、笑う零ちゃん。
「いいんだよ。全部食えば済む話だろ」
煙草をふかしつつ言う武彦さん。
私はクスクス笑いつつ席に着くと、
暖かくなっていく胸の心地良さに酔いつつ、両手を合わせて言う。
「いただきます」

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2.

カリッ―
「んぅ?」
口の中で割れた卵の殻。
私はクスクス笑いつつ、それを掌に出す。
「はい。卵の殻が入っていました。減点ですね」
楽しそうに言う零ちゃん。
「マジかよ。すげぇ気ぃ付けたんだけど…俺」
頭を掻きつつ不満そうに言う武彦さん。
私は再び料理を口に運び微笑む。
いいの。全然、気にならないわ。
寧ろ、一生懸命の手作りって感じがして、嬉しいの。
初料理。武彦さんの、初料理だもの。
お世辞なんかじゃなくて、本当に美味しい。
ちょっと、ビックリしちゃった。
私、初料理の時、こんなに上手に出来なかったもの。
私好みの味付けに舌鼓。そういう所も、覚えていてくれたのかな。
そう考えると、もっともっと、嬉しい。
私が仕込んだデザートとサラダとの相性もバッチリじゃない。
うん。すごいわ。
武彦さん、もしかしたら、料理の才能あるんじゃないかな?
今度、二人で何か作ってみようか。
楽しそうじゃない?ね?




「ごちそうさまでした」
パンと両手を合わせて私が言うと、零ちゃんは笑って。
「完食ですね」
そう言った。
当然よ。残すなんて、勿体なくって、できないわ。
心もお腹も満たされて、大満足の私。
そこで、ふと目に入る、武彦さんの手に浮かぶ赤い痕。
「やだ。火傷したの?」
そっと手を取り言うと、武彦さんは目を伏せて返す。
「何ともねぇよ」
「駄目よ。冷さなきゃ」
私は、慌てて席を立ち氷水を用意すると、それを患部に宛がう。
「何ともねぇって」
苦笑する武彦さん。
うん。それは、わかるの。
パッと見で、大した火傷じゃないって事くらいは。わかるのよ。
でもね、でも。何だか、とっても苦しくて。
胸が、キューッと締め付けられるの。
ありがとう、の想いと。
痛いの飛んでけ、の想いを込めて。
私は赤くなった武彦さんの手に、優しく、そっと唇を落とす。

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3.

さっきまで、そこにいたのに。
零ちゃんの姿が見当たらない。
私がキョロキョロしていると、武彦さんは笑って。
「気の利く妹だよ。ホント」
そう言って私の腕を引き寄せた。
あっ…そ、そっか。そういう事か。
そうよね。私ってば、零ちゃんの目の前で何やってるのかしら。恥ずかしい…。
「何を今更恥ずかしがってんだ。おせーよ」
クスクス笑う武彦さん。
そ、そうなんだけど。
本当、無意識だったから。余計に恥ずかしくって…ね。
照れ笑いする私を。
「シュライン」
武彦さんが見つめる。
「はい」
自然と漏れた、かしこまった言葉に、私達は揃って笑う。
「何つーか。こんなんで良かったのか…と思ってる。今」
「うん?」
「もっと、こう…ちゃんとしたプレゼントとかの方が良かったんじゃねぇか?」
「ふふ。何言ってるのよ。凄く、素敵なプレゼントよ。武彦さんの初手料理」
「…つか、美味かった?」
「うん」
即答すると、武彦さんはハハッと笑って、私の頭をクシャッと撫でた。
キュッと目を閉じて、嬉しさ一杯で武彦さんに抱き付く私。
そのタイミングを見計らって。
武彦さんは、耳元で囁く。
「これからも、仲良くやっていこうな。末永く」
記念日とか、そういうの。
うっかり忘れてしまいそうな、あなたが。
しっかり、覚えてくれてた。
特別な日に、大切な人の腕に包まれて。
こんなに幸せな事って、ないわ。
涙もろさは、自覚してる。
笑って「うん、こちらこそ」って言いたいんだけど。
ごめんね。ごめんね。無理っぽいの。
熱くなる目を隠すように。
私は俯いて、フゥと一息。
武彦さんは笑いつつ、私の頭を撫でている。
泣きそうなのを堪えているなんて。
もう、バレバレなんだろうな。
でも、今日は。
笑っていたいの。
特別な、大切な、記念日だから。
涙が引っ込んだと思って、パッと顔を上げ。
「うん。こちらこ、そ…」
返事しようとしたのに。
私の涙は、どうしても外に出たいらしくて。
ポロリと落ちて、武彦さんのシャツを濡らす。
「…う」
何で、どうして、こぼれちゃうかな。
折角、引っ込めたのに。
もう…。俯いて、目を擦る私。
武彦さんは、私の頭をパフパフ叩きながら笑う。
「泣き虫〜」
「…うー」
だって、仕方ないじゃない。
だって。だって。だって。

ねぇ、武彦さん。
私、とっても幸せよ。
これからも、ずっと。
ずっと、ずっと、よろしくお願いね。
これからも、ずっと。
ずっと、ずっと、そばに居てね。
隣に、居させてね。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
遅れてしまい、大変申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/24 椎葉 あずま