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<東京怪談ノベル(シングル)>


AN OLD TALE

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弱りきって、人目を避ける猫のように。
忍び込んだ巣は、あの頃と何一つ。
そう、何一つ変わっていなくて。

東京、繁華街。その”裏”
薄暗い路地を突き進んだ所に、ひっそりと建つ木造アパートの二階。
四畳一間の小狭い、そこで。
私は布団の中で咳を幾つも落としつつ、寝返りを打つ。
ギシッ―
其の度に響く、床の軋む音。
朦朧とする意識の中、どんだけ古いんだと。
私は苦笑を浮かべつつ、いつしか眠りに落ちた―……


ガチャッ―
「!」
扉の開く音に過敏に反応。
私はパチッと目を開け、ガバッと起き上がる。
記憶と現実が、ごちゃまぜになる瞬間。
私の目は、見慣れた男の姿を捉える。
「…よく、ここだと判ったな」
目を伏せ、微笑んで言う私。
すると草間は、雨で濡れた髪を弄りつつ淡く笑って言った。
「はじめて会ったのも、ここだったよな」
あぁ…そうだ。
お前に、はじめて会ったのも、ここだった―……





東京。騒がしく世話しない街。
噂通りに、人々は皆、急ぎ足で人生を歩む。
そんなに急いて、どこへ行くのか。目的地は、ちゃんと在るのか。
そう思うも、私とて同じ。自分の順応性に感服さ。
ここに来て、すぐ。私は仕事にありついた。
新興組織勢力拡大の為の、少女誘拐と監視。
与えられた仕事の内容は、今までと。
そう、今までと何ら変わらない。
多少、温くなった程度か。
私は、こうして生きる。こうして、生きていく事しか出来ぬ故。

ガチャンッ―
「!」
四畳一間の小狭い部屋に響く。
扉を開けようと足掻く音。
私はスッと立ち上がり、長い髪を結わいて笑う。
どこのどいつだ。
部屋を間違えた、というくだらないオチか?
それとも、見事に私と少女を見つけたか?
「だぁー!もう、めんどくせっ!」
ドカッ―
バキッ―
扉を開けようと足掻いていたのは、眼鏡にジャケット…そして煙草を咥えた男で。
男は扉を強引に蹴り開けた。
何だ、こいつ…身構えつつ、眉を寄せる私。
そんな私を見て、男は煙を吐き出しつつ、笑って言った。
「おいおい、参ったな。こんな美人だったとは」
その言葉から理解る。
部屋を間違えたマヌケじゃない。
こいつの狙いは、そう。紛れもなく。
ガッ―
「…いてっ!」
私は男の胸倉を掴み、壁に背中を叩きつけ、至近距離でクッと笑って言う。
「よく見つけたな。褒めてやるよ」
男は私の目をジッと見つめ、フッと目を伏せ、返す。
「そりゃ、どうも」
大したものだ。本当に。刑事か何かか。とにかく凄腕だ。
お前の読み通り、私はここに身を潜めていた。
お前が探している少女も、ここにいる。
けれど、お前は使命を果たす事ができない。
なぜなら。
ここで死ぬからだ。
バチッ―
「ちょっと待て」
私の蹴りを腕で受け止め、男は笑う。
「俺ぁ探偵でね。良い情報があるんだ。聞いてみないか?」
探偵…。刑事ではなかったか。
「興味ないな」
バチッ―
「お前を雇った新興組織はな、相当な曲者で…」
バチッ―
「人質共々、始末する気だよ。お前を」
ピタリと動きを止め、眉を寄せて私は返す。
煮えくり返る、過去の仕打ちに苛まれながら。
「それが真実ならば、奴等を殺す。嘘ならば、お前を殺そう」
男はククッと笑い、煙草を踏み消した。

真実を探りに。
私は少女を男に預け、影内へ。
去り際、男は言った。
「殺すなよ。美人は、人を殺すな」
…どこまでも甘く。読めぬ男。
けれど、何故だろう。
男の放つ言葉には、妙に説得力が在り。
疑う余地を与えない。
そして、出会って間もない、この男を信じたのは、正解だった。
男の情報は正確で。
私は狂い咲く。裏切る事への制裁を。
男の言い付けを守る必要なんてないのに、半殺しで済ませて―……




「いやぁ、懐かしいな。ここは、あれ以来だ」
布団を体に巻き、俯いたまま草間が持って来た苺大福に、はむっとカブり付く私。
「あれ?何か、顔…赤くね?」
私の顔を覗き込む草間。
私は目を逸らして返す。
「うるさい。熱だ、熱。病人だからな。誰かさんの所為で」
草間はフッと笑って言う。
「何か、今日は女みたいだな。今なら、簡単に押し倒せそうだ」
「女だ。私は」
眉を寄せて返す私。
まったく…人が病で弱っているからといって、こいつは。
そういう事を軽々しく口にしおって。不機嫌な私。
草間は、ハハッと笑い、私の肩を押さえて言う。
「冗談だって。怒るなよ。ほら、寝てな…って、うぉっ」
「…きゃ」
ドタッ―
自分でも驚いた。
ここまで弱っていたのかと。
少し押さえかかられただけなのに、私はいとも簡単に。
その場に、押し倒された。
食べかけの苺大福を持ったまま、頬を赤らめて草間を見上げる私。
草間は笑って。私の頬を撫でつつ、
「美味い?それ」
首を傾げて言った。
コクリと頷くと、草間は 「そりゃ、良かった」 と言って私を抱き起こし離れると、
頭を掻きながら、扉に向かってスタスタと歩き。
扉に手をかけて言う。
「早く治せよ。仕事、溜めといてやっから」
それは嫌だ。
私は、苦笑しつつ。感謝を告げる。
「ありがとう」
色んな意味を込めて。
すると草間は、自身の肩を押さえ、ワザとらしく身震いして。
「何か寒っ。また風邪ひいたかな」
そう言って、振り返らずに手をヒラヒラ振りながら部屋を出て行く。

あいつめ。体調戻ったら、覚えてろ。
私は、ぱふっと布団に寝転がり、淡く淡く微笑む。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵


著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

ついに来ましたね。過去シチュノベ…!御待ちしておりました!^^
過去シーン、とてもノリノリで紡がせて頂きました。

見舞い品は、苺大福で(笑) 病人に、何て甘味を持ってくるんだ!
というツッコミは受け付けません!(笑) 苺大福に、はむっと…。
かぶりつく冥月ちゃんが描写したかったんです…しかたったんです…。
すみません。ちょっと(かなりだよ)楽しんでおります(笑)

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ 宜しく御願い致します。
いつも、ファンレターありがとう御座います。感謝感激で御座います^^

2007/05/05 椎葉 あずま