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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


スカイ・ウィッシュ

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0.オープニング

随分と久しぶりだ。
彼に会うのも…何年振りだろうか。
もはや、思い出す事すら出来ない。
長い、長い時間。
誰にも平等な時の流れの中で。
あの人は、変わらず。
今も、変わらず。
夢を追っているのだろうか。
随分と唐突だけれど。
不意に気になったんだ。
あの人がくれた、指輪を見つけてしまって。
それからというもの。私の心はモヤモヤ。
別に、何を期待して行くわけじゃないさ。
ただ…ただ、元気なのかと。気になっているだけさ。
「さて…と」
カタンと席を立ち、鏡で化粧をチェックして。
私は店を後にする。向かうは、夢見る。
あの人の所。

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1.

草間に頼まれたものを買いに来たのだが…。
私は店の前にある樹に隠れつつ、蓮を見やる。
普段から妙な雰囲気の女ではあるが、今日は、いつもとは違う雰囲気…。
何というか、憂いを含んだ表情というか…。
むぅ、と考え込んでいると。
RRRRR―
携帯が鳴り響く。
私は慌てて取って、即座に言う。
「うるさいっ」
電話をかけてきたのは草間で、出来るだけ値切ってきてくれという内容だった。
私は店の扉に鍵を掛けて、辺りを伺いながら歩いて行く蓮を見てクスリと笑い。
「値切るネタ掴めそうだ。一日待て」
ピッ―
そう告げて一方的に電話を切ると、軽い足取りで蓮を追う。


蓮は間抜けな女じゃない。
寧ろ、鋭い女だ。
私が付いてきている事に、気づかないわけがない。
クルリと振り返って、おいでと手招きする蓮。
私はタタッと隣に駆け寄ると、空を見上げつつ言う。
「たまたま、向かう先が一緒なだけだぞ」
蓮は苦笑して、
「こんな人気のない丘に、何の用だい」
そう言った。

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2.

緩やかな傾斜の丘を登り歩きつつ、私は蓮を見やる。
雰囲気もそうだが、見た目もまた、いつもと違う。
何より目につくのは、左手の薬指で光る…。
「普段つけていない指輪だな。化粧も、いつもより丁寧で濃くないか」
淡々と指摘すると、蓮はクスクス笑ってかわした。
今更だが、巧いな。
見習いたいものだ。ほんの、少しだけ。


丘の頂に到着した私達は、ポツンと建っている青い屋根の小さな家の前で並んで立ち尽くす。
「…ここに、いるのか?」
私が問うと、蓮はスタスタと扉に向かい、
「あぁ。夢見る御馬鹿さんがね」
そう言ってガチャリと扉を開けた。
室内は、まるでゴミ屋敷。
意味不明な絵と公式のようなものが書かれた紙が、散乱している。
足の踏み場もない、そこで。
ジッと窓の外を身を乗り出して見やっている男が一人。
私達が来た事に、気づいていないようだ。
「…おい。こいつか?」
眉を寄せつつ小声で言うと、
蓮は淡く笑って小さく頷いて。
男が、どういう人間かをサラリと話してくれた。


スカイ・フィッシュ。
一目見る事が出来れば、あらゆる願いを叶えてくれる、魔法の魚。
この男は、十年前から、その魚を見る事を目的に、この丘に居座っているらしい。
男は、依然私達に気付かず、真剣に空を見やっている。
ボサボサの髪。伸びっぱなしのヒゲ。ヨレヨレの服。
まるで、ホームレスのような出で立ち。
パッと見は冴えないが、きちんとすれば、それなりに良い男なのは理解る。
私が苦笑すると、蓮も苦笑して。
「困ったもんだよ。あの人も、あたしも」
小さな声で呟いた。
私は男の背中を見やりつつ、返す。
「生死の違いはあれど、過去の男に今も囚われているのは、私とて同じだ」
「はは…こりゃあ、良いネタ拾ったねぇ」
そう言うも、蓮の声には、いつもの覇気というか威勢がない。
ネタとして使い、揺さぶる気など微塵もないと一発で理解る。
私は微笑みつつ言う。
「だが、私は現実を見ない男は好みじゃないな」
「何言ってんだい。”ハードボイルド”だって一緒さ」
「だっ、誰が奴を…」
「うん?誰の事だい?」
不敵な笑みを浮かべる蓮。
私は舌打ちして、フイッと顔を背ける。
その瞬間。
「あっ…?ああああああぁぁぁっ!!!!!」
ガタッ―
突然席を立ち、ググッと前のめりになる男。危な…。
駆け寄ろうとするも、既に遅し。
「何やってんだい!」
先に蓮が駆け寄り、男の腕を押さえた。
「おっ…おぉ?蓮じゃねぇか!久しぶり!」
脱力する台詞を吐く男。
男は蓮の言葉を待たずして、ハッと気付き大騒ぎする。
「って、おい!!今、それどころじゃねぇんだ!ほら!!ほら!!見てみろ!!」

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3.

男が指差した先。窓の外。
澄み切った青空を、風に乗って泳ぐ、魚―…。
幻でも見ているかのような美しさ。
呆気に取られる私。
そんな私を見て、男は言う。
「お嬢ちゃん、蓮の知り合いか?ラッキーだな!ほら、願い事しろよ!」
我に返った私は、頬を掻きつつ俯く。
「願い事、ないのかい?」
笑いつつ蓮が言った。
私は俯いたまま、返す。
「…ある。私にとって唯一、どんな代償を払ってでも叶えたい願いが」
「だったら願えよ!あいつらが叶えてくれるぞ〜」
「絶対ではないかもしれないけれど、願ってみる価値はあると思うよ」
口々に願ってみろと促す二人。
そうだな、蓮。
所詮、願いが叶うなんて、誰かが言い出した嘘かもしれないよな。
けれど、もし。
もし、本当に…。
私は顔を上げ、二人を見やって微笑み言う。
「もし叶ってしまったら、きっと酷く怒られてしまう。だから絶対…願わない」





帰り道、蓮は何も言わずに黙って私の隣を歩く。
せっかく久しぶりに会ったんだ。
あいつの所に居れば良いじゃないかと言ったのに蓮は断って。
私と共に帰路についた。
「本当に、良かったのか?」
ポツリと私が言うと、蓮はハハッといつものように笑って。
「一人にさせてやるべきなのさ」
そう言った。
まぁ…わからなくもない。
あの後も、あいつは子供のように大はしゃぎしていたからな。
長年の夢が叶ったんだ。無理もないが。


この妙な雰囲気の中、値切る事は不可能だ。
…というか、その気が失せた。
私は一言”無理だった”というメールを草間に送る。
送った直後、鳴り響く携帯。
私は携帯を取り、草間のしぶとさを知る。
今月、ピンチなのはわかる。
そんなのは百も承知だ。
だが、無理だ。無理なんだ。
「あぁ…うるさい。酒買ってやるから、黙れ…あ?ドンペリ?…あんな高価いだけの酒の何が良いんだ…?」
草間のリクエストに呆れる私。
蓮は、空を見上げつつ呟く。
「お互い、男には苦労するねぇ」
携帯を切り、懐にしまいつつ、私は返す。
「まったくだ…って、ち、違っ」
私の言葉に蓮はケラケラ笑いつつ、少し先を歩きながら言った。
「冥月。たまには、一緒に酒でも飲もうか」
夕焼け、オレンジ色の光に照らされてキラキラと輝く蓮の髪を見つつ、
私はフッと笑って返す。
「そうだな。たまには良いか」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主

NPC / 神野・壮平 (かんの・そうへい)/ ♂ / 29歳 / スカイフィッシュ・ウォーカー


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
遅れてしまい、大変申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/28 椎葉 あずま