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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


One day's memory




投稿者:no name
件名:思い出をください
本文:自分の記憶は一日しかもちません。
   どんなに楽しいことがあっても
   どんなに悲しいことがあっても
   次の日には忘れてしまうのです。

   一日だけでいいのです。
   一日だけ、自分に付き合ってくれませんか。
   長年付き合った友人ですら忘れてしまう自分は、誰かと遊んだ記憶がありません。
   誰かと、話したり遊んだり…そういうことをしてみたいのです。

   出会い系サイトのような書き込み、失礼しました。




 そんな書き込みに目を留めたのは、草間興信所事務員、シュライン・エマ。
「んー…」
 思案げに眉根を寄せて、声を漏らす。
(『一日しか記憶がもたない』…そういう病気、なのかしら? こういう書き込みが出来るのだし、日常生活に関する知識には問題なさそうな気がするけれど。文面からすると最初からそうだったわけじゃないみたいだし…この現象の発端とか、お聞きしてみようかしら)
 会うことはシュラインの中で既に決定事項だったりする。
 『私でよければ』と思い出作りに協力する旨と、いくつかの訊ねたいことを打ち込み、メールを送信する。
 5分と経たず返ってきたメールに少々驚きつつ目を通せば――興味深いことが書かれていた。
 曰く『記憶がもたないのも当然』『仕方のないこと』などなど。
 病気ではないのだと告げるその文面に、考えを巡らせ――ようとして止めた。
(まずは会ってみてからよね)
 微笑して、会うための段取りを考え始めた。

◆ ◇ ◆

「じゃ、武彦さん。私明日は一日デートでいないから」
「ああわかっ――ってデートぉ!?」
「なにびっくりしてるの、武彦さん。前から言ってあったでしょ」
「は? …あ、あぁ、例の掲示板のか」
「そうそう。そういうわけだから」
「………気をつけろよ」
 などという会話を興信所所長と交わしたりなどしつつ、迎えた約束の日。
 待ち合わせの場所はある遊園地。一日のプランはシュラインに任せるとのことだったので、まずここを指定したのだ。
(赤い日日草が目印らしいけど……あ、あの人かしら)
 入り口付近にぼんやりと立って、所在無げに日日草を弄んでいる人物――恐らくあの人が件の書き込みをした人物だろう。
 と、そちらに足を向けた瞬間、その人物がシュラインを見た。じいっと見つめた後、にぱっと笑う。
「シュライン・エマさん、ですよね?」
 たたっ、とシュラインの元へ駆けて来たその人物――金髪の少女は、にこにこと笑いながら開口一番そう言った。
「ええ、そうよ。こんにちは。今日はよろしくね。…えーと、あなたは――」
「リーリアです! 初めまして。こちらこそよろしくお願いしますっ!」
 喜びいっぱいの様子で頭を下げる少女。
「リーリアちゃん…って呼んでもいいかしら?」
 問えば、リーリアは目を輝かせて大きく頷いた。
「はいっ!」

  ◆

「シュラインさん、あれ! あれ乗りましょう!」
「ふふ、そんなに急がなくても、乗り物は逃げないから」
「だってだって、面白そうなんですもの!」
 そんな会話を交わしては絶叫系アトラクションに突撃し。
「うわぁあ〜! 可愛い! あれも乗り物ですか!?」
「ええ。……乗りたいの?」
「もちろんですっ!」
 などと言ってはファンシーでメルヘンなメリーゴーランドへと走り寄り。
「お、おいしい…! こんなにおいしいもの初めて食べました!」
「本当においしいわね…チェックしておいて良かったわ」
「はう〜…しあわせぇ〜」
 というように頬を緩ませながら期間限定スイーツに舌鼓を打ち。
 大型連休も終わって空いているのをいいことに、園内を縦横無尽に駆け巡る。
 とても楽しそうなリーリアに、シュラインも自然と笑顔になるのだった。

  ◆

「すっっっっごく楽しかったです!」
「それはよかったわ」
 あれだけ走り回ったというのにまだまだ元気な様子のリーリアに、シュラインは微笑みかける。
「それで、今度はどこ行くんですか?」
「雑貨屋さんよ。ノートを買いにね」
「ノート?」
 首を傾げるリーリア。
「そう。今日のリーリアちゃんから、明日のリーリアちゃんへのメッセージ、書いてみたらどうかなって」
「メッセージ…ですか? 面白そうですっ!」
 見ているこっちがあたたかい気持ちになるような笑顔を浮かべるリーリアを微笑ましく思いながら、シュラインはあることに思いを巡らせる。
(…心音が、聞こえないのよね)
 それはつまり、人間ではないということ。
 人間にしか見えないけれど、それでも違うのだ。
 春先にも似たような存在に出会った。
 彼女は季節が自我を持った存在だったけれど、リーリアはそれとも違うらしい。
(話してくれるかしら…?)
 きっとリーリアの記憶がもたない理由はそこにあるのだと思うけれど。
 話す話さないは彼女の自由だ。
 無理強いするつもりはさらさらない。
「さ、ここよ。好みのノートが見つかるといいわね」
 考えを払拭するように笑って、雑貨屋の入り口を指し示した。

◆ ◇ ◆

 ノート探しをしている途中、ぽつぽつとリーリアが話し始めた。
「シュラインさん…気づいていらっしゃるみたいですけど、わたしは人間じゃないんです」
「……どうして気づいてるってわかったの?」
 微苦笑を浮かべるリーリア。
「『アキ』の気配が微かにしましたから。『アキ』を知っているなら、きっと気づくと思ったんです。……わたしは『日光の精』とでも言うんでしょうか、そういう感じのものです。だから、記憶がもたない…」
 言って、胸ポケットに挿していた赤い日日草を見遣る。
「『日日草』は友達です。わたしほど短くはないですけど、記憶がもたないのは同じです。だから、……『忘れない』人と一日を過ごしてみたかった」
 泣きそうに、笑う。
 それは今日見た楽しげな表情とは真逆で、別人かと錯覚するほどだった。
「一緒に一日過ごしてくれて、ありがとうございました」
 ぺこり、と頭を下げて、また上げたときには――先までの悲しげな雰囲気はどこにもなく。
「これにしますっ! お会計行って来ますねー!」
 ぱたぱたと、リーリアはレジへと走っていった。
 それを見送ったシュラインは、困ったように笑って、ひっそり呟く。
「お礼を言うのは、こちらもなのだけど」
 彼女が戻ってきたら、告げよう。
 楽しい一日をありがとう、と――。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、シュライン様。ライターの遊月です。
 「One day's memory」にご参加くださりありがとうございました。毎度ありがとうございます…!
 だ、だというのにお届けが遅くなりまして申し訳ありません…。

 今回はほのぼの&ちょっとしんみり、な感じに仕上がりましたー。
 きっとリーリアは、買ったばかりのノートを使い切る勢いで、この一日の出来事を明日の自分へのメッセージにすることと思われます。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。