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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


スカイ・ウィッシュ

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0.オープニング

随分と久しぶりだ。
彼に会うのも…何年振りだろうか。
もはや、思い出す事すら出来ない。
長い、長い時間。
誰にも平等な時の流れの中で。
あの人は、変わらず。
今も、変わらず。
夢を追っているのだろうか。
随分と唐突だけれど。
不意に気になったんだ。
あの人がくれた、指輪を見つけてしまって。
それからというもの。私の心はモヤモヤ。
別に、何を期待して行くわけじゃないさ。
ただ…ただ、元気なのかと。気になっているだけさ。
「さて…と」
カタンと席を立ち、鏡で化粧をチェックして。
私は店を後にする。向かうは、夢見る。
あの人の所。

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1.

「ね、どこ行くんですか?」
ニコニコと微笑みつつ言う私。
何度も同じ問い掛けをされ、蓮姉さんは少しウンザリな御様子。
決して質問には答えない蓮姉さん。
ただ、苦笑を返すだけ。
けれど、私はイラ付いたりしない。
”どこ行くの?” それ以上は聞かない。
聞いても笑って誤魔化されるのは目に見えてるし。
このまま付いて行けば、嫌でもわかる事だし。
私は蓮姉さんの腕に絡み付いて、微笑みつつ見上げる。
そんなの持ってたんだぁ…と驚かされる程、綺麗な服。
いつもより念入りで、隙のない完璧なメイク。
いつもは使っていない、甘い香りの香水。
今日の蓮姉さんは、ただ一言。
綺麗。
ねぇ、気付いてる?
さっきから擦れ違う人、皆振り返ってるよ。
ねぇ、とっても綺麗だよ。蓮姉さん。
カウンターで足を組んで、妖しげな笑みを浮かべる蓮姉さんも素敵だけど。
今日は、もっと素敵。
誰もが認める”イイ女”
そんな蓮姉さんの心を掴んだのは、一体どんな人なのかな。
尽きない期待と興味にフフフと笑えば、
蓮姉さんは目を伏せて呆れるように笑う。
揺れる、紅の乗った唇。

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2.

少し小高い丘の上。
青い屋根の小さな家。
家、というより小屋といった方がしっくりくる、そこに。
蓮姉さんの”用事”はあった。
紙屑と本が散乱する室内。
一つしかない、小さな窓の傍。
その男性は、何かを紙に書き留めながら窓の外をチラチラと見やっていた。
「この人が…蓮姉さんの彼氏?」
私達が来た事に気付きもせず、夢中な男性の背中を見やりつつ言う私。
蓮姉さんは笑って。
「さぁ。どうだろうねぇ」
また、酷く曖昧な言葉で質問をかわすも、
男性の事を躊躇いがちに教えてくれた。


願いが叶う、空飛ぶ魚…かぁ。
前に、少しだけ学校で噂になってたなぁ。
結局、逸話だって結論に落ち着いて、
いつからか誰も、その話をしなくなったけど。
私だったら、そうだなぁ…。
服に、アクセに、靴に、CDに、お菓子に…物欲全開だけど、こんな感じかな。
私は、逸話だなんて思ってないんだ。
きっと、空飛ぶ魚は存在する。
でもね、こんな小屋に篭って、
来る日も来る日も、その姿を追おうとは思わない。
勘違いしないで。それが可笑しな事だなんて思ってない。
寧ろ、素敵。素敵だと思うの。
あなたは、何の為に、空飛ぶ魚を追い求めるの?
あなたの叶えたい事って、何なの?

「ねぇ、蓮姉さんは…もし、見たなら何を願う?」
ポツリと問うと、蓮姉さんはジッと男性の背中を見やり。
暫くしてハッと我に返ると、
「バカバカしい」
そう言って目を伏せた。
そんな事、思ってないくせに…。
素直になればイイのに。子供みたい。
私はクスクス笑いつつ蓮姉さんの背中をパシッと叩く。

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3.

狭い小屋の中、三人揃って窓の外を見やる。
誰も何も言わず。ただ、時間だけが過ぎていく。
やっぱり…逸話なのかな。
空飛ぶ魚なんて、存在しないのかな。
こんなに追い求めている人がいるのに。姿を見せてくれないのかな。
もどかしく、切ない気持ちで外を見やる私。
チラリと見やった蓮姉さんも、切なげな表情。
けれど一人だけ。
目を輝かせて真っ直ぐに。空を見やる人がいる。
何かに、夢中な人の目って、こんなに綺麗なんだ…。
蓮姉さんってば…さすが。


「蓮!!!」
突然、男性が叫び空を指差す。
パッと顔を上げ、男性が指し示した空を見やる私と蓮姉さん。
二人の目が、同時に捉えるもの。それは、紛れもなく。
「すっ…ごぉぃ」
空を舞う、白い魚。スカイ・フィッシュ。
夢でも見ているかのような、美しい光景。
淡く、優しい笑みを浮かべる蓮姉さん。
私はクスリと笑い、耳打つ。
「これを機に、自分の心に素直になっちゃえば…?」
蓮姉さんは私を見やり、苦笑しつつ返す。
「生意気」




先に素直になったのは男性の方で。
男性は、空から蓮姉さんへと視線を移し、
濁りのない綺麗な澄んだ目でジッと蓮姉さんを見つめて言った。
「蓮。今まで、寂しい思いをさせて、ごめん」
「………」
「俺の願いは、一つ。蓮。お前にふさわしい男になる事」
男性の言葉に、蓮姉さんは苦笑して返す。
「まさか、それを願ったんじゃないだろうね?」
男性は笑い、首を振って小さな声で「まさか」と言った。
あぁ…何てもどかしいんだろう。
もう一息なのに。
この二人ってば、揃って恥らっちゃって。
私はトン、トンと二人の背中を叩いて促す。
言いたい事、伝えたい事、もうお互いに喉元まできてるんでしょ?
何を躊躇うの?何を恥らうの?素直になればイイじゃない。
ありのままを。想いをぶつければイイじゃない。
気付きなよ。それは、とっても簡単な事だって。


一人、帰路につく私。
オレンジ色に染まった空の下。
小さな小屋の中で。
二人は、どんな話をしているのかな。
長い間、真っ白だった二人の歴史を、
どんな言葉が色鮮やかに染めるのかな。

…はぁー。ちょっと、羨ましくなっちゃった。
いいなぁ。私も、素敵な彼氏欲しいな。
それを願えば良かった…っていうか。
自分の願い事、すっかり忘れちゃってた。
あぁー…勿体ない。がっかりだよ。
しょんぼりだよ…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

5251 / 赤羽根・灯 (あかばね・あかり) / ♀ / 16歳 / 女子高生&朱雀の巫女

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主

NPC / 神野・壮平 (かんの・そうへい)/ ♂ / 29歳 / スカイフィッシュ・ウォーカー


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/30 椎葉 あずま