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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜First〜】



(うわ、もしかしてまた迷った…?)
 せわしなく辺りを見回しながら、冬畠由一は頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。
 一体何度目だろうか――仕事中に迷うのは。
 由一の仕事とは、郵便物の配送だ。小さな郵便局でバイトしている。
 だがしかし。
「くっ…地図が、地図さえ読めれば!!」
 手にした地図を睨み付ける。
 ……そう、由一は地図が読めなかった。配送のバイトをする身としては致命的である。
「ああぁあ〜…どうしよう…。とりあえずわかるところに出ないと…」
 そうは言っても現在地すらわからない身。かくなる上は闇雲に動き回ってみるしかない。
 そう結論を出し、愛用の自転車に乗って走り出す。
 まっすぐ行ってみたり、角を曲がってみたり、三叉路を順に巡ってみたり。
 さまざまな道を行ってみるものの、どうにもこうにも知らないところにしか出ない。
(っていうか本当にここどこなんだっ? 早く配達しなくちゃいけないのにー!)
 地図を片手にうんうん唸りながら自転車をこぐ。焦りも相まって注意力散漫になっていた由一は気づかなかった。
 己が今まさに突き進んでいる道へ、曲がり角から姿を現そうとしている人物に。
「うわっ」
「え?」
 衝撃。傾いだ自転車に、慌ててブレーキをかける。なんとか倒れることは避けて体勢を立て直し、そこでやっと視線を前に向けた。
「痛ぁ…」
 そこにいたのは絶世の美形だった。
 女性らしいまろやかなラインは見当たらないから男性であろうが、性別など瑣末な問題にしかならないような美形だった。男の自分でさえ見とれるほどの。
 きらきらと輝くような金色の髪は肩より長いくらいで無造作に放って置かれているが、それがまた似合っている。
 深海のような深い青の瞳は吸い込まれるような輝きを持っていて。
 まるで絵本から抜け出てきた王子様みたいだ、と由一は思った。直後、その考えにちょっと恥ずかしくなったが。
 その美青年は地面に尻餅をついていた。そして先ほどの衝撃。その2つから導き出されるのは…。
(うわ、もしかして俺ぶつかった…!?)
 もしかしなくてもそうだろう。
 地図を見ていたということは前を見ていなかったということで。
 すなわち過失は自分にある。
「あっ――あの、大丈夫ですか?! 怪我とか…!」
(こ、こんな綺麗な人に傷でもつけたら、男性だろうとも何らかの責任をとらなくちゃ!)
 一体どうやって責任を取るのかとつっこむ人物はいない。生憎と地面に座り込んでいる人物に読心術の心得はなかった。
「僕は大丈夫。君は?」
「俺は大丈夫です――っていうか自転車と人間ですよ!? 明らかにあなたのほうが危なかったじゃないですか! あの、俺貧乏ですけど、クリーニング代くらいなら出しますから!」
「いや、構わないって。ほら、怪我もないし」
 立ち上がって笑う青年。
 なるほど、確かに怪我はない。あれだけ派手にぶつかったというのに。衣服は少々擦れているが。
「で、でも俺が前見てなかったからですし」
「前方不注意はお互いさま。僕も考え事してたんで」
 朗らかに青年は言う。
(なんていい人なんだろう!)
 由一はひっそり感動した。
 顔も良くて性格も良いなんて、天は二物をも与えるのだなぁ、と感心する。
 ここに由一を良く知る人物がいたら「ある意味お前もそうだろう」と言っただろうが、何せ本人にはあまり自覚がない。
「あぁっ!」
「どうかした?」
「ふ、服が!」
 青年の着ている服――先ほどの接触でところどころ擦れてしまっている――を指差して慌てだす由一。
(あれってブランド物じゃ!? 弁償…って無理! そんなお金ないし!)
 そう、青年が着ていたのは有名ブランドのスーツだった。それが汚れ、ほつれてしまっている。
「服? ……ああ、これ? いいよ、気にしなくて。どうせ貰い物だし」
 そんなこと言われても。
 そんな思いが雰囲気に出ていたのか、青年は苦笑して「それじゃあ」と切り出す。
「君が暇なときにでも、一緒に食事とかどう?」
「え?」
「一人で食べるご飯って味気ないんだよね。君の行きたいところで良いから」
 これはまた突飛な申し出だ。会ったばかりの人間を食事に誘ってくるなんて。
「いや、でも……」
「大丈夫、僕の奢りだから」
「いやそうじゃなくて!」
 そもそも服の弁償の代わりが食事するだけ(しかも相手の奢り)って。
「僕はそれでいいんだけどなぁ。……まぁそれはともかくとして、君お仕事中じゃないの?」
 配達物その他を見てそう言う青年。
 言われて思い出す。今は仕事中――しかも絶賛道に迷い中だった。
「うわぁあどうしよう!」
 青ざめる由一。それに青年が首を傾げる。
「何かマズいの?」
「道がわからないんですっ!」
 ついうっかり暴露。
 しかし青年は笑うでもなく、由一の持っていた地図を覗き込む。数瞬考え込んだかと思えば、顔を上げて由一を見た。
「道案内してあげようか?」
「………っお願いします!」
 ぶつかった上に道案内させるなんて、と思わないでもなかったが、それよりも差し迫った問題の方が先立った。
 結局、郵便局に戻るまで付き合ってもらってしまった由一だった。

◇ ◆ ◇

「うわー…綺麗だなぁ」
 仕事も終え、岐路に着いた由一は、オレンジ色に染まった空を見上げて感嘆の声を漏らす。
(『綺麗』と言えば…)
 ポケットを探って一片の紙片を取り出す。そこには携帯のナンバーとメールアドレス。
 リヒト――昼間に会った超絶美人さんが、「都合がついたら連絡して」と言って渡してきたのだ。
 そんなに軽々しく教えて大丈夫なのか、と危惧した由一に、リヒトは「君なら大丈夫だと思ったから」と笑ったのだが。
(うーん…いつがいいかなぁ。やっぱり週末とか?)
 リヒトとの食事をいつにしようか悩んでいると、ふと視界に入ってきた煌めく金の髪。
 今まさに脳裏に思い描いていた人物――リヒトが居た。
 昼間の謝罪と礼を改めてするついでに、食事の日取りも相談しようと考えた由一は、リヒトに近づく。
「……え?」
 目の前で、リヒトの輪郭が揺らいだ。
 目の錯覚かと思う。しかしそれは違うようで。
 沈みゆく夕日の最後の一欠片が照らす中。色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
 そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
 揺らいだ輪郭は、僅かに形を変化させ、はっきりと。
 褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
 そして先ほどまでリヒトが立っていたそこには――…全くの別人が。
 雪のように白い肌、腰まで届く流れるような白銀の髪。
 穏やかに細められた瞳は、紅玉の赤。
 ゆったりとした雰囲気を纏ったその人は、伏せていた瞳を上げて由一を見た。
「あぁ…あなたは確か、昼間の――」
 微笑みながら由一に語りかけるが、それは由一の耳には入らない。
 ――…くらり。
 由一の身体が傾ぐ。
 驚きに目を見張る青年を他所に、由一の身体はそのまま重力に従って――こてっ、と地面へ倒れこんだ。
「……気絶――してます、ね。珍しくリヒトが気に入ってたみたいですし、放っておくわけにもいきませんか。さて、どうしましょうねぇ」
 困ったように呟く声も聞こえない由一は、意識が闇に落ちゆく最中。
(あぁぁ、俺これでも捕縛師見習いなのに…。まだ怪異系に慣れないんだよな。ってかあのお兄さん、一体何者なんだぁぁあぁあ!??)
 そう、心の中で叫んでいたのだった…。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7085/冬畠・由一(ふゆはた・ゆいち)/男性/25歳/郵便局の配送バイト兼封魔士見習い】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、冬畠様。ライターの遊月と申します。
 「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございました。

 リヒトと謎のアルビノ青年(名前が出てない…)、如何でしたでしょうか。
 リヒトは結構軽めの性格に。とっつきやすいんじゃないかと。
 夜NPCもちゃんと名前はありますので、次の機会にでも…。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。