コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『僕の中にいるモノ』

投稿者:ななし 17:23

 僕の体の中に僕じゃない人がいます。
 その人は僕の両親と妹に卵を産みつけようとしています。
 僕が正気でいられるのは、3分程度です。
 神聖都学園初等部、池上伸也

**********

 影沼ヒミコは自室でその書き込みを見た。
 霊的な存在、それも寄生虫の類いのようである。
「私に追い払うこと、できるかしら……」
 高峰沙耶から貰ったお守りを握り締めながら、思考をめぐらせる。
 少年の様子からして、そう猶予はないと思われる。
 彼の両親、妹、そして学園の生徒達が憑かれてからでは遅いのだ。
「自分1人では無理かもしれないけれど、他になにか能力を持った人がいれば、サポートなら……」
 ヒミコは掲示板を更新して、能力者からの返信の有無を調べる。
 しかし、少年の書き込みに対しての返信はおろか、少年の書き込み自体も既に消えていたのだった。

 ヒミコはもう一度、希望を込めて更新を押してみる。
 ……すると、少年の書き込みは消えていたが、同じ文章が別の人物により、書き込まれていた。
 少年の書き込みそのものと、情報を集めて現場に向うというその人物の書き込みを見て、ヒミコは吐息をついた。
「よかった、誰かが向ってくれる……」
 拳を握り締めると、ヒミコは立ち上がった。

 ヒミコはまず、初等部の校舎へ向った。
 名簿を見れば生徒の住所がわかると思ったのだが、少年のクラスメイトでさえないヒミコには見せることができないと、当直の先生に追い返されてしまう。
 緊急事態だと言っても、まるで取り合ってくれなかったのだ。
 ただ、池上伸也という少年が確かに初等部に在籍しているということだけはわかった。
 それともう一つ……。
 ヒミコの前に、同じ少年の住所を聞きに来た人物がいたという。
 間違いなく、少年を助けようと動いている人がいる。
 ヒミコは心に喝を入れると、走り出した。

**********

「お兄ちゃん、あの人ずっとこっち見てる」
 幼い少女が、ブランコをこいでくれている兄に言った。
 漆黒の髪の少女が、穏やかな表情で二人を見ているのだ。
 日本人にしては、肌が白すぎる、神秘的な雰囲気を纏った少女だった。何故か黒い亀の着ぐるみを着ている。
「外人さん? 可愛い格好〜」
「外人さんみたいだね。じゃ、そろそろ帰ろうか麻衣」
「うん!」
 小さな少女は、身軽にぴょんとブランコから飛び降りた。そして、小さな手を年の離れた兄へと伸ばす。
 兄……池上伸也は妹の手を取って、歩き始めた。
「お兄ちゃんと、お外で遊んだの久しぶりだね。また遊ぼうねっ」
「うん、これからは毎日遊ぼう」
 そう言って、兄は妹の頭に手を伸ばした。
 漆黒の髪の少女の黒い瞳が、兄の手に注がれる……。
「伸也、麻衣ー!」
 女性の声が響いた。
「あっ、ママだー!」
 少女が兄の手を離し、ぱたぱたと走り出した。
 伸也はちらりと漆黒の髪の少女を見た後、妹の後を追って走り出した。
 幼い少女が、母親と手を繋ぐ。
「お母さん」
 伸也も、手を伸ばした。
 少しだけ意外そうな表情をした母親だが、伸ばされた伸也の手をとって微笑んだ。
「伸也はいくつになっても、甘えん坊ね」
 漆黒の髪の少女は、微笑み続けながら、そんな親子を見ていた。

 一方。
 自らの情報網と、ゴーストネットOFF管理人瀬名雫、高峰心霊学研究所所長高峰沙耶の元を回り、今回の書き込みの信憑性と事件性について調べあげた人物がいた。
 その人物、ササキビ・クミノは、決して殺し屋ではない。ただ、裏社会に少し従事していたことがあるだけの、普通ではない学生なだけで。
 一応神聖都学園に在籍している彼女は、まず初等部の事務所を訪れたのだが、そこから少年に繋がる情報を得ることはできなかった。
 しかし、好奇心旺盛にして、顔の広い雫に掛け合ったところ、いとも簡単に少年の住所を聞きだすことができたのだ。
 続いて、高峰沙耶の元を訪れ、書き込みの信憑性について確認をとった。彼女の答えは曖昧であったが、そういったケースは十分あり得るという事実が判明した。
 夕方、少年の自宅前に到着したクミノは、家の側のガードレールに腰掛ける漆黒の髪の少女と出会った。亀の着ぐるみを来た不思議な雰囲気の少女だ。
 少女はクミノに気付くと、微笑みながら、軽く会釈をした。……クミノが近付いても、動じない。普通の少女ではないようだ。
「私は、篠宮久実乃。名は?」
 格好が気がかりではあったが、自分と同じ目的だろうと、クミノは少女に名を訊ねた。
「わたくしは、海原みそのと申します」
 品のある口調であった。
「事態は急を要する。踏み入るか」
「そうですね。楽しみです」
 楽しみという言葉に、クミノが眉根を寄せたその時――。
「私も行きます」
 御守りを握り締めた少女が駆けて来た。
 彼女のことは知っている。確か名は、影沼ヒミコ。ネットカフェでたまに見かける少女だ。
 クミノはヒミコに頷いてみせ、とりあえずチャイムを押したのだった。
 しばらく待つが、返答がない。
「さっき、悲鳴が聞こえましたの。だから、もう始まってるかもしれません」
 にこやかに言うみそのの言葉に、クミノとヒミコは驚いた。
「何故それを早く言わない!」
 クミノは障気の力で、手近な窓ガラスを割る。
 ガラスの割れる音が鳴り響いても、住民の反応はない。
 3人は急いで部屋に入り込んだ。
「まあ!」
 亀さん姿のみそのは真っ先に幼い少女の元に駆け寄った。
「産みつけられたのですか? られたのですねー」
 倒れた少女は頭を押さえて苦しんでいる。
「苦しいよー。暑い……」
 クミノとヒミコは母親の元へ走る。母親は台所で倒れていた。
「伸也君はどこです?」
 母親は二階を指差し、そのまま気を失った。
「二階ですか」
 即座に向ったのは、みそのだった。
「ヒミコさん、洗脳される前に卵だけ始末できるか?」
「やってみます」
「では、二人は任せる」
 自分の言葉に強く頷くヒミコを残し、クミノは2階へと向った。

「何処へいかれますの?」
 窓に足をかけている少年に、みそのは声をかけた。
「あなたは中に入っている方ですよね? 産卵に向われるのでしたら、わたくしもご一緒させてください」
「産卵ってなに? 僕はちょっと買物に行くだけだよ」
「東京にお住まいの方は、普通二階から買物に出かけたりはしないようですよ? わたくしもよくは知りませんが……。それより、あなたの生態系に興味があります。先ほど手を通して産みつけたお二人には拒絶反応が出ているようです。もっと効率よく行なえる方法を一緒に考えて差し上げますわ」
「他に方法があると?」
 少年の目つきが変わった。
「ええ、例えば……口から入れてはどうでしょう。内側に産みつけてしまえば、抵抗しにくいですから」
 みそのが少年に近付いた。その時、足音が鳴り響き、クミノが二階に姿を現した。
 少年とみそのは共に窓から外へ飛び出す。
「……どういうことだ?」
 クミノは窓に近付き道路を見下ろした。既に二人の姿は人ごみに紛れている。
 みそのからは邪念は感じられない。
 何か策があってのことか。
 わからないまま、クミノは二人の後を追った。

「じゃあまず、あなたに産んでもいい?」
 少年が瞳をひらめかせてみそのに言った。
「ええーっ。それはとっても素敵ですけれど、最後がいいです。産卵を全て見させていただいてから♪」
「ふふっ、じゃあそうするよ。手伝ってね、お姉ちゃん。卵を産みつけられる時間はあと数分だけなんだ。この少年と相性のいい相手だけに限定される。例えば、家族とか、血液型が一緒とか」
「ではでは、流れを探ってみますね」
 みそのは少年を探し当てた時と同じように、周囲の気の流れを探ってみる。
「……あの子とか、どうでしょう。年頃も一緒ですし」
「確かに、いい匂いがする」
「匂いで判断されるのですね」
 みそのには、少年の言葉一つ一つが新鮮で楽しかった。
「では、わたくし、あの子に聞いてみます」
「……聞く?」
「ええ、こういうことには、同意が必要でしょうから。産みつけられるのを嫌がられるかもしれません」
「同意なんて必要ない。同意してくれるのは、お姉ちゃんくらいだよ。時間がないんだ急ぐよ」
 少年は笑いながら、みそのが示した男の子の元へと走り寄った。
 突然、少年は男の子の腕を掴み、手を握った……。
「なるほど、肌と肌が触れ合わないとダメなのですね」
 みそのは興味津津眺めていた。
「そこまでだ」
 突如、少年の首に硬いモノが押し当てられた。
 周囲には何もない。細い道に、人の姿がぱらぱら見られるだけだ。しかし、この息苦しさはなんだ。体中に痛みさえ感じる。
 何もない空間に、少女の姿が浮かび上がる。……クミノだ。
 ステルスを装備の上、姿を不可視化し障気を操り体を浮かせていた。その状態で街中を駆け巡り、二人を見つけ出したのだ。初めての試みだったが、今回のような追跡では、有効な手段のようだ。
 ナイフを押し当てられた少年は動かない。どうやら肉体が死亡すれば、中に入っている寄生虫も無事ではすまされないようだ。
 クミノの障壁に当てられ、少年が顔をゆがめる。
 このまま、中のモノだけ滅せられるか……。
 そう思ったクミノの腕を、みそのが掴んだ。相変わらず、穏やかな笑みをたたえて。
「嫌がっている人に、無理矢理産みつけようとするから、いけないんですよね。でしたら、他の方法で種を残す手段がないかどうか調べてみてはどうでしょう」
「そうは言っても、元々このような種は単身では長くは生きられない。人に寄生することで体を得られるようなものだ。……もし、蟯虫が意思を持って、人間を内側からコントロールしようとするのなら、滅するしかないだろ」
「ううーん、そうですね」
 みそのはまだ納得いかないようだった。惜しそうに少年を見ている。
 邪心の感じられない瞳に、クミノは吐息をついた。
「嫌がる相手に寄生させたりはしないんだよな? なら、こうしよう……」

「クミノさん!」
 クミノが少年の自宅に戻ると、ヒミコが玄関先で心配そうに待っていた。
「どうでした?」
「命に別状は無い」
 瘴気を体に叩き込むことにより、少年の体から寄生虫をはじき出したのだが、荒療治だったため、著しく少年の体力を奪ってしまった。
 ヒミコはクミノと共に少年を運び込み、居間のソファーに寝かせた。
 隣には、母親の姿がある。窓際には、幼い妹の姿も。
 二人とも、安らかな寝息を立てている。
「二人も大丈夫です。生まれる前に、駆除しました」
 ヒミコの言葉に頷くと、クミノは早々にその場を後にした。
 「目を覚ますまでいてあげて」というヒミコの言葉には、頷くことができなかった。自分の力が逆に家族の体力を奪いかねないからだ。
 手柄はヒミコにとられてしまうかもしれないが、そんなことはどうでもいい。元々金や名声の為にやったわけではないのだから――。

 みそのは自室に戻り、柔らかなクッションに身を埋めた。
「お土産話ではなくて、お土産ができてしまいました」
 手の中の小瓶を、テーブルにおいて、ちょんとつっついた。
「海亀さんは、浜で産卵して、海に帰るのです」
 瓶の中には、小さな塊が入っている。
 時折動くその生き物は――彼女が地上で手に入れた可愛い玩具なのかもしれない。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1388 / 海原・みその / 女性 / 13歳 / 深淵の巫女】
【1166 / ササキビ・クミノ / 女性 / 13歳 / 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

初めまして、川岸満里亜です。
この度は、僕の中にいるモノにご参加いただき、ありがとうございました。
瓶の中の虫はこの後、みそのさんに可愛がってもらえたのでしょうか!?
またお目にとまった際には、どうぞよろしくお願いいたします。