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<東京怪談・PCゲームノベル>


東京魔殲陣 / 模倣魔

◆ 模倣魔 ◆
それは、常人には……いや、超常の力を持った者にとっても、俄かには信じられないような光景だった。
「おらあぁぁぁぁっ!」
裂帛の気合とともに振り下ろされる白刃は、この世に未練を、或いは怨みを残して死んでいった怨霊を凝り固め作ったもの。
その切れ味、その硬さは、ともに世にある数多の名刀・利刀に勝るとも劣らない。
「……っとぉ、危ねぇ」
―― ギィン……ッ!
しかし、振り下ろされたそれは、目標に刃を立てることなく、突き出された『何か』によって弾かれ、甲高い音を立てる。
ともに人外の速度で行なわれる攻防の応酬。だが、ただそれだけならば信じ難い光景とまでは言えないもの。
何故なら、この東京で、この魔殲陣で日々繰り返される戦いの中では、それは決して珍しいものではないからだ。
ならば、いったい何が信じ難いというのか。それは振り下ろされた刀を迎え撃ったものそれ自体にあった。
「悪ィが、そう簡単に切られてやるワケには……いかねぇンだよ」
一速一刀の間合いの僅かに外。怨霊で構成された刀を構える男に対して、そんな軽口で応じる一人の男。
名は、伊葉・勇輔。
表の顔は、ドコにでもいる政治家の一人だが、その裏の顔は、秘密組織『IO2』の中でもトップクラスの戦力を誇り、『白トラ』の異名を取るフリー・エージェントである。
そんな彼が、つい今しがた彼の同僚(無論、裏の顔としての同僚である)の一人を模倣した眼前の兵鬼、通称『模倣魔』が繰り出した一刀を弾く際に用いたのは、剣や槍などの『武器』ではない。
「さて、ウォーミングアップはこのくらいにして、次はコッチからいくぜぇ……」
言葉とともに紫煙を燻らせ、気息とともに吐き出し双拳を構える。
足を大きく前後に開き、右の拳を引き絞り、左拳を大きく前に突き出す。素早い連撃よりも一撃の威力に重きを置いた型。
そう、この両の拳。怨霊刀の刃を真正面から受け止めて、傷ひとつ負わぬどころか、それを弾き飛ばすその拳、その肉体。
四神の一にして西方を守護せし神の獣、白虎の力を内に宿し、金剛石に比する硬度と稲妻の如き疾さを併せ持つ肉体こそが、勇輔の唯一無二の『武器』。

◆ 人外遺伝子保有担体 〜 ジーンキャリア 〜 ◆
―― ビュオンッ!
「……喰らえッ!」
低くくぐもった声とともに空を裂き、振り下ろされる怨霊刀。だが、
「……疾ッ!」
勇輔は、それをギリギリのところで掻い潜り、男が振り下ろされた怨霊刀を引き戻す一瞬の隙を衝いて、その懐に飛び込み、
―― ズドン……ッ!!
矢弓の如くに引き絞った右拳を撃ち出し、男の身体に文字通り『炸裂』させる。
拳と言うものが生み出せる衝撃の限度を遥かに超えた、まるで大砲の様なその一撃に、男の身体は成す術もなく吹き飛ばされ、どぅと地面に倒れ伏す。
打ち込んだ拳に残る感触は、それが勝負を決するに十分に足る一撃であったと勇輔に語る。
―― にやり。
だが、口の端を不気味に引き攣らせ、男はゆっくりと立ち上がる。
立ち上がった男の身体、勇輔の一打が叩き込まれたその部位を見る。
勇輔の拳は、確かに男の胸骨を砕き、折れた胸骨は肺に突き刺さり、それは致命傷と言うに十分な一撃の筈だった。
だのに、男の身体にはその痕がない。無残に破けているのはその着衣だけで、その下に見える身体はまったくの無傷。
「……やれやれ、再生能力まで完全にコピーしてやがるのかよ。厄介だなぁ、オイ」
だが、勇輔にとってそれは予想の範囲内。目の前の『模倣魔』は勇輔の同僚である『あの男』を模している。あらゆる傷を瞬時に再生させてしまうトロールの再生力を持つ『あの男』を。
この異常なまでの再生力を有する相手を打ち倒す術は大別して二つ。
ひとつは、圧倒的な威力の一撃を以って生命活動そのものを停止させる方法。
ただし、この方法は、勇輔が試みて失敗したように非常に難しいと言わざるを得ない。
何故なら、一撃の後ほんの一瞬でも生命活動が持続していれば、再生が行なわれてしまうからである。
どんな強大な一撃でも一瞬で対象の命を奪うのは至難の業。生物とは想像以上に『死に難く』出来ているものなのだ。
「いまの一撃、結構自身あったんだが……効いてないってんじゃあ仕方ねぇ」
まいったな、といった体で頭を掻きながら呟いてから、ゆっくりとした動きでその構えを変える勇輔。
先程までの、一撃に重きを置いた型から手数と速度に重きを置いた型へ。
「疲れるから、あんまりやりたくはねぇンだが……根競べといこうじゃねぇか!」
拳と掌を眼前でバチンと叩き合わせ、気合を入れる。
強大な再生力を有する相手を打ち倒すもうひとつの術。それは、一撃で相手の命を奪うという理法とは対極を成す方法。
相手が再生するというのなら好きなだけすればば良い。しかし、その再生力とて無限ではない。体力か、それとも魔力か、或いはそれとは別の何かか。兎に角、その再生力の源が尽きるまで打って、撃って、討ちまくる。
それはまさに勇輔が口にした通りの根競べ。
相手の再生力が尽きるのが先か、はたまた勇輔の体力が尽きるのが先か。命を賭けた、根競べである。

◆ 白虎乱舞 ◆
戦場に舞う、砂煙。
勇輔が、その圧倒的なスピードと突進力で戦場を駆ける様は、さながら弾丸のよう。
その身に宿した白虎の力を使い、足の裏、接地点に大地から吸い上げた気を集め、爆発させるように噴出させる。
その突進を目の当たりにした者は、まるで彼我の間に横たわる大地を縮めたかのように感じることから、その移動術は『縮地』と呼ばれる。
「―― 勢ッ!」
男の斬撃を掻い潜り懐へ潜り込む。それだけでも相当な技量と度胸が必要とされることは言うまでもない。だが、勇輔はそこから更に目にも留まらぬ連撃を繰り出す。
左右の拳打による五連撃から繋ぐ必倒の蹴撃。
たたらを踏み、ガラ空きになった胸を穿つ足刀。
その衝撃に男は大きく後退するが、勇輔はそれすら許さずとばかりに追い縋り、更なる連打・連撃・連掌を放つ。
繰り返される連撃は男の傷が再生するよりも先に、その傷の上に更なる傷を刻む。
だが、それすらも、ほんの少しでも手を休めれば、瞬きの間に癒えてしまう。なんと言う理不尽な再生力。
だが、それも徐々に陰りが見え始めている。攻撃を繰り返すたびに再生のスピードが僅かずつだが遅くなっている気がする。
百連にも及ぼうかと言う勇輔の攻撃は、ようやく実を結ぼうとしていた。
「……ったく、疲れる野郎だぜ」
己の再生力の減衰を自覚して荒い息を吐く男に対して、くわえタバコを軽く噛み、勇輔が呆れたように言い放つ。
確かに男の消耗はかなりのもの。だが、それ以上に勇輔も消耗していた。その身体に刻まれた大小様々な刃の痕がその証拠。それによって既に戦闘行動に支障を来たし始めている。
(……そろそろ、ケリをつける頃合、だな)
幾多の修羅場を潜り抜けることで培ってきた勇輔の勝負勘がそう告げていた。そして、勇輔にその直感を否定する理由はない。
「それじゃあ、コイツはどうだッ!」
気を吐き、叫び、その身に宿る白虎の神威を滾らせて、破邪の風を拳に纏う。『縮地』を用いて一気に彼我の間合いを詰める。
―― ブオゥンッ!
それを迎え撃つように振り下ろされる刃。男も決して馬鹿ではない。『縮地』に対するタイミングは既に覚えている。
男の懐に飛び込んだ勇輔の脳天目掛けて振り下ろされる刃。だが、勇輔は避けようとしない。避けてしまえば敵の懐が遠くなる。
―― ガキンッ!
「……痛く、ねぇッ!!」
故に、真正面からそれを額で受け止める。白虎の神威によって集めた風の気を拳に集めたのと同じ要領で、大地の気を額の一転に集中させ受け止める。
この戦いのうちで幾度も打ち合い、その切れ味を承知しているとは言え、生半な胆力で出来る芸当ではない。
―― パキィィィン!
そして、刀の動きが止まった一瞬の隙を逃さず、両の掌でそれを挟み込み、砕く。
些か不器用な方法ではあったけれども、それは無手にて刀を持った相手を制する技の極みのひとつ、真剣白刃取り。
「……なん、だとぉ!?」
男の顔が驚愕に歪み、それが更なる隙を生む。折れた刃しか持たぬその身に、次なる勇輔の攻撃を防ぐ手立ては、ない。
「白虎の神威……とくと味わえッ!」
そして、残されたすべての力を結集し、拳に込められた風気を叩き込む。
―― 奎(けい)、婁(ろ)、胃(い)、昴(ぼう)、
鎖の如く変形させた風気で相手の腕を釣り上げ、肘を支点に関節を外側から叩き折る奎撃。
纏った風気によって歪められた虚像を囮に、万力の様な力を込めた一撃を叩き込む婁撃。
読んで字の如く。人体急所のひとつ鳩尾を穿ち、内傷を与える胃撃。
七つの強撃を一打と見紛う程の速さで、瞬の間に放ち、打ち込む昴撃。
―― 畢(ひつ)、觜(し)、参(しん)!
昴撃のあとを受け、身体全体で練り上げた気を込めて雄牛の如き突進とともに放つ畢撃。
心の臓を穿つ鳳の嘴の如き鋭さで、男の急所を穿つ嘴撃。
そして最後に、全身全霊の気を込め放たれる渾身の一撃、それはまさに天の狩人の放つ必殺の一矢、参撃。
奎、婁、胃、昴、畢、觜、参。
天道二十八宿のうち、西方白虎が司る七宿の名を冠した必殺の連撃が、男の身体に破壊の意を伝え、全うした瞬間。
そしてそれは、長かった勇輔の戦いに、一応の幕が下ろされた瞬間でもあった。


■□■ 登場人物 ■□■

整理番号:6589
 PC名 :伊葉・勇輔
 性別 :男性
 年齢 :36歳
 職業 :東京都知事・IO2最高戦力通称≪白トラ≫

■□■ ライターあとがき ■□■

 伊葉・勇輔さま、お初にお目に掛かります。
 この度は、PCゲームノベル『東京魔殲陣 / 模倣魔』へのご参加、誠に有難うございます。担当ライターのウメと申します。
 今回は、何とか規定文字数に収める事が出来ましたが、
 その代わり、というか何と言うか……作品の納期がギリギリになってしまいました。ゴメンナサイ。

 強大な再生力を備え、あらゆる傷を瞬時に癒してしまうというトンでもない敵との戦い、如何でしたでしょうか?
 結果は、ノベルをご覧になって頂ければ判るように、満身創痍ではありますが何とか勝利。
 IO2最高戦力の一角と言う肩書きは伊達ではない、といったところですね。

 白虎の力を使うということで、チョッとカッコ良さ気な技を使わせてみました。気に入って頂けましたでしょうか?
 作中の台詞回しも、伊葉さまの持つ「飄々とした感じ」が出せたなら幸いです。

 さて、それでは、本日はこの辺で。
 また何時の日かお会いできることを願って、有難う御座いました。