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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


嫉妬の炎 Let's Counter Follow

◆ オープニング ◆
「なんかなぁ……誰かに見張られてるような気がすんだよ」
 悪意のあるものなら、どんなに隠れるのが上手い奴の尾行でも気付く自信がある。
 武彦は、まず最初にそう言い含めて、居並ぶ面々に事の成り行きを説明しはじめた。

―― 自分を見つめるその視線に草間・武彦が気付いたのは、三日ほど前のこと。

 いつものようにタバコを買おうと興信所の外の自動販売機に硬貨を投入しようとして、
 武彦は不意に何者かの視線を感じて、その視線がするほうに振り向いた。
―― サッ……
 電信柱に身を隠す何者かの影……を見たような気がした。
 いったい誰が? 気になって電信柱の影を確認してみるが、既にそこには誰もいない。
……やれやれ、気のせいか。
 こんな稼業をしていると、不意に誰かに見張られているような、そんな不安に襲われる事がある。
 職業性のちょっとした不安障害のようなもの。特に大きな案件の前後などによくある話。
 いま自分が感じたものも、そんな取るに足らない勘違いだと、そう思ったのだが……
「……ん?」
 武彦が自動販売機の前に戻り、さあタバコを買おう、としたそのとき。
 商品取り出し口に見慣れた銘柄のタバコが置かれているのに気がついた。
 先程までには無かった筈だし、自分はスイッチを押す以前に硬貨もまだ入れていない。
 不審に思いはしたのだが……哀しいかなヘビースモーカーの性。
 気がつけば商品取り出し口のそれに自然と手が伸びていた。
 そして、それを手に取った次の瞬間。サーッと、武彦の顔から血の気が引いた。
 見慣れたデザインの見慣れた箱。その裏に貼り付けられた見慣れぬメモ用紙。

「タバコは武彦様のお体に良くありません。どうか程々になさってください」

◆ 嫉妬の炎 ◆
「草間さん……骨は、拾ってあげられるかどうか分かりませんが、往生してください」
「ふん、どうせ女には縁薄いんだ。快く受け入れてやれ、それで解決だ。私には関係ない」
この草間興信所の(一応)主であるところの草間・武彦は、話を降るなり思考時間0.2秒で無責任な返答するその二人、笑顔で合掌する少年、菊坂・静と、黒髪黒瞳が美しい東洋系美人、黒・冥月に向かって、
「おまえらには義理とか人情とか、困っている人を助けようとか、そう言う心意気みたいなモンはないのか!」
古ぼけた事務机をドンと叩き、舞い散る埃とともに心からの抗議の意を示してみせた。
(……お兄さんは、その所為で何時も貧乏籤ばかり引いてるんですけどね)
(はぁ……ホント、難儀な性格よねぇ)
その様子を傍で眺めながら、溜息を吐く二人の女性。
一人は武彦の『妹』、草間・零。もう一人は、この万年閑古鳥の草間興信所で事務を担う奇特な女性、シュライン・エマ。
心でそう思っていても決して口に出さないのは、彼女たちなりの『やさしさ』である。
「いや、だって草間さん。女性関係の揉め事なんて、初めてじゃあないでしょう?」
それに対し、草間・武彦という男の日常を少しでも知っていれば、決して反論できないような真っ当な(?)意見を述べる静。
「ぬぐっ……、いや、それは……そんなことは断じてないっ!」
知らぬは己ばかりなり、と言う訳ではない。武彦自身、己の女運の悪さはまま自覚するところである。
だが、ハードボイルドを旨とする(旨としているだけで実際には程遠いが)武彦にとって、女性に振り回されている、なんてことを認めるわけにはいかないのだ。
「お義兄ちゃ〜ん。せっかく作った熱々のシチュー、早く食べないと冷めちゃうわよぅ」
しかし、現実とは非常なもの。まるで武彦の言葉を否定するために天が遣わしたかのような絶妙のタイミングで、興信所の裏口からメイド姿の女、藤田・あやこが顔を出す。
裏口の扉のすぐ傍で『出』のタイミングを見計らっていたと言うのは内緒である。
「……ふっ、今日も夕陽が、きれいだな」
採光用に開かれたブラインドから差し込む斜陽が、興信所の内を、武彦の横顔を、オレンジ色に染める。
ふんわりと香るシチューのいい香り。あやこが手にした皿の中には、ジャガイモやニンジンなどの見慣れた具材のほかに、何やら歪な容をした緑色の野菜らしきものが見えるが、気にしたら負けだと己に言い聞かせる。
「……草間、目を覚ませ。たぶんそれは現実逃避というものだ」
しかし、哀れ武彦にはその逃避すら許されない。
安革張りのソファーに腰掛けて、零の出してくれた苦い珈琲を片手に寛ぐ少女、ササキビ・クミノの淡々とした言葉が、関西風に言うところの『素が入った』興信所の空気と、直視し難い現実を忘れようとする武彦の耳に、空しく響き渡るのだった。

◆ 剃刀レター(&その他)の恐怖 ◆
「で、これが私を含めた興信所に出入りする女性人に送りつけられてきた手紙よ」
呆れたような口調で言い放つシュラインの目の前、安革張りのソファーとセットの安物の応接机の上に山と積まれた紙束は、すべてここ数日の間に草間興信所と関わりのある女性、言い換えれば、武彦と縁のある女性の元に届けられた、所謂『剃刀レター』である。
「わぉ、私に届いた分は早々に焼き捨てちゃったけど、まさかこんなにあるなんて……。ビックリだね、お義兄ちゃん!」
そのあまりの多さに目を丸くするメイド……ではなく、メイド姿のあやこ。
未だ悪ノリを続けるあやこのセリフに対して、事務机に突っ伏した姿勢で「だから、お義兄ちゃん、じゃねぇっつの」と武彦は弱々しく抗議の声を上げる。
「しかし、草間と縁のある女性なら誰も彼もお構いなし。それこそ道端で声を掛けられた中年女性から事務所を訪ねてきた依頼人(クライアント)、私のような、草間と個人的友好関係を持つ者まで。……まったく、大したものだ」
手紙のひとつを手に取り半ば呆れたようにクミノが呟く。
だが、クミノが口にしたその言葉は誰もが思うところ。何しろ付き合いのある武彦本人ですら在所を知らないような人物まで、余すことなく届けられているのだ。執念で後を尾けているのか、はたまた何らかの能力か。どちらにせよ、大した情報収集力だ。
「調べてみたけど、筆跡はすべて同一人物のものだったわ。消印から何か手掛かりが掴めないか、とも思ったんだけど……」
ほぅ、と息を吐いて『お手上げ』のジェスチャーをしてみせるシュライン。
それもそのはず。送られてきた手紙には消印どころか切手すら貼られておらず、第三者の手を介した様子は皆無だったからだ。
「そのくせ何か人間以上の霊的な存在が介入した様子はありません。明らかに普通の人間、若しくはそれに類するものの犯行です」
とは普通の人間に比べて霊的知覚に優れた零の弁。
超常怪奇の類が相手なら、あらゆる意味で無敵を誇る零だったが、普通の人間が相手ではこの程度が限界である。
「まぁ、草間さんの安否はどうでもいいとしても、問題はこの剃刀レターがエスカレートして、女性陣に深刻な被害が出るかもしれないってことの方ですよ」
ワリと本気な意見を述べる静に「オイ」と小さくツッコむ武彦だったが、誰一人としてそれに気づいた様子はない。いや、気付いていて黙殺しているだけかもしれないが。
しかし、静が危惧するその意見は、果たして的を射たものだった。
「エスカレートして、だと? ……そう言えば」
静の言葉に対して、そう言って考え込んでいるのは黒・冥月。
正直、最初に言ったとおり「自分には関係のないことだ」と思い、関わり合いになるつもりはなかったのだが、よくよく思い返してみれば、ここ数日我が身に起きた不可解な出来事が、この事件のとばっちりの様な気がしてきた。
例えば、道を歩いていたら突然植木鉢が落ちてきたり、朝起きたらイキナリ部屋に警察が踏み込んで殺人犯と間違えられたり、急に脇道から飛び出してきた車に轢かれそうになって、調べてみたら無人だったり……である。
「そう言えば……って、おまえにゃ関係ないだろ」
だが、そんな冥月の思案を断ち切ったのは、誰あろう武彦の言葉。
「冥月はパッと見、男にしか見えない。だから大丈夫だと思って呼ん、ぶはぁッ!」
そして、そんな武彦の言葉を中途で断ち切ったのは、誰あろう冥月の拳。
確かに、きりりと筋の通った凛々しい顔立ちをしている冥月は、その淡々とした男性口調も手伝って、ごく稀にではあるが男に間違われる事があった。ここだけの話ではあるが、同姓に口説かれたことも何度かある。
「草間ァ……貴様は、何度言ったら分かるんだ? 私は、お・ん・な・だ。脱ぐと凄いぞ。今度見てみるか? もちろん、見たが最後、その光景を冥土の土産にしてやるがな!」
だからと言って、男呼ばわりされるのが平気という訳ではない。むしろ腹立たしい部類に入る。武彦に言われると尚更に。
「す、すまん! 俺が悪かった! 謝るから、足を踏んで逃げられないようにしてから首を絞めるのは勘弁してくれ!」
泣いて謝り、ようやく開放される武彦。フン、と鼻を鳴らして顔を背ける冥月の頬は、怒りのせいか、朱に染まっていた。
「はいはい、騒ぐのはそれくらいにして、話を本題に戻しましょう」
パンパン、と手を叩いて脇道に逸れそうになる話の流れを戻すシュライン。
その顔が、何故かムッとした、憮然とした表情をしていたのが気になったが、そこにツッコミを入れる者は誰もいなかった。

「それじゃあ、武彦さんにはホントに心当たりはないのね? それこそ、なにげな〜く誰かを褒めたり、親切にしたりってこともないのね?」
話を戻したシュラインは、武彦にストーカー相手に心当たりがないかをもう一度確認する。
「おいおい、確かに心当たりは無いって言ったが……そんな細かなところまでは覚えちゃいないさ」
だが、如何に記憶力に優れた人間でも日常の子細すべてを覚えている訳にはいかないもの。
「つまりぃ、自分では無意識のうちに女の子に優しくしちゃって、恋と嵐と勘違いをバラ撒いてるってことね。もぅ、お義兄ちゃんの天然系スケコマシッ☆」
アニメ調の声に『しな』まで作ってボケるあやこだったが、ある意味その言葉は的を得ていると言えなくもなかった。
天然系スケコマシ、との言い様に若干心を痛めたのか、肩を落とし落ち込む武彦の背中を、シュラインがぽむぽむと叩いて慰める。
「つまり……だ。草間には誰かに後を尾けられるような確たる覚えはないし、かといって勘違いと言うわけでもない。その上、実害を被っている人物も出ている、と」
ちらり、と冥月に視線を向けてから、クミノが現在までに判っている情報の整理を試みる。
だが、こうして見ると分かっていることなど無いに等しい。
「なら、私たちに出来ることはひとつしかないな」
そう言って、ぴっと指を立て、ひとつの『作戦』を提示するクミノ。
話に聞き入る女性陣とは裏腹に、不満げな声を上げる男性陣。
喧々囂々紛糾する会議の場。果たして、クミノが提示した『作戦』とは?

◆ Let's Counter Follow ◆
夕暮れの街を談笑しながら親しげに歩く一人の男性と二人の美しい女性。まさに両手に花。
「ねぇ、武彦さん。今日の夕飯は、いったい何が食べたい?」
男性の方は、言わずもがな今回の事件の被害者にして中心人物、草間・武彦。
その武彦の左腕に己の腕を巻きつかせ、猫撫で声で甘えてみせている女性の方はシュライン・エマである。
「いや、夕飯ならウチであやこが作って待ってるはず、痛ッ!」
せっかくシュラインが『いまも武彦の様子を影から窺っているハズの何者か』をワザと刺激するように演技をして見せているというのに、当の武彦はそっけない返事を返すばかり。
「うふふふふ、駄目ですよ、草間さ……じゃなかった、武彦さん。せっかくこんな綺麗な女性、しかも二人、が一緒なんだから、もっと嬉しそうにしなきゃ」
そんな武彦の腕を抓って諌める、武彦の右腕に腕を巻きつける笑顔の女性。
冥月ではなければクミノでも勿論あやこでも零でもないその女性の正体は、誰あろう『もしものときの護衛』という名目で女装させられた菊坂・静。
彼の名誉の為に言っておくが、静は何も自ら望んでこの役を引き受けた訳ではない。むしろ当初は断固拒否の姿勢を示していた。
だが、いかんせん女性が五に男性が二という多勢に無勢、民主主義という名の数の暴力に最終的には屈する他ない。
女装後の静の姿が、半ば無理やりメイクや着付けをした女性陣もハッとするほどの美人だった事が、せめてもの救いである。

「なんだ、草間のヤツ。デレデレと鼻の下伸ばしやがって……」
そんな武彦とシュライン、静の三人の様子を雑居ビルの屋上から見詰める一人の女性。
「はぁ……私には、お兄さんがデレデレしているようには見えませんが……」
その傍らで同じ様に武彦たちの様子を窺う少女、草間・零がぽつりと呟く。
零的には、いったい武彦のどの辺をしてデレデレしていると評するのか、少し問い詰めてみたい気もしたが、とりあえず今は任務を優先しようと考えぐっと言葉を飲み込んだ。
『私も零に同感だな。冥月さん、二人が羨ましいなら羨ましいと最初から言えば良いのに』
『むふふ、冥月さん。ソレってもしかして『じぇらしぃ』ってヤツですか?』
しかし、通信機の向こうに控える二人、興信所に連絡・通信役として残ったクミノとあやこはソレを聞き逃さなかった。
「なっ、何を馬鹿な事を言っている! わ、私はただ、作戦行動中なのだからもっとシャンとしろと言いたかっただけで……」
からかう様な(尤も、あやこの方は本気でからかっているのだが)二人の言葉に、冥月は自分が考えたことを無意識に口にしてしまっていたことにようやく気が付き、赤く染まった顔をブンブンと振って、否定の言葉を口にする。
クミノが立てた『作戦』はこうだ。
 まず、ストーキングの対象となっている武彦に街をうろつかせる。
 次に、ストーカーを刺激し表に引き摺り出す為に、武彦に女性とイチャついているような演技をさせる。つまりは囮である。
ここでストーカーが感情的になり姿を見せたのならしめたもの。そこまではいかなくとも多少周囲に対する警戒が緩むはず。
そこで、ストーカーが尻尾を見せたなら、影からその様子を監視する冥月と零がそれを捕らえる。
実に古典的かつオーソドックスな手法ではあるが、それは、確実性が高く実績のある作戦という何よりの証拠でもあった。

―― 事態が動いたのは、夕陽も半ばまでその姿を没した時だった。
『みんな、注意して。草間の後方、約五十メートル地点に不審な動きをする存在を感知。ゆっくりとだけど、間を詰めてきてる』
全員の耳に装着された通信機に、各種ハイテク機械を駆使して草間の周囲を見張っていたクミノとあやこから一斉連絡が入った。
「……うむ、こちらでも確認した。……だが、アレはなんだ?」
雑居ビルの屋上に立ち、双眼鏡を覗き込む冥月からも確認の報告が入るが……。
「影が……ないぞ? 零、アレは本当に人間なのか?」
「……はい。確かに不可思議な点は多いですが、私の対霊センサーには『生きている人間』として認識されています」
それは、零の言うとおりあまりに不可思議な存在だった。
フードを目深に被ったその姿ゆえに顔は確認できなかったが、肉眼で見る限りその姿は生きている人間のそれ。だが、その足元には影がなく、よく眼を凝らして見ると僅かに背景が透けて見えている。
にも関わらず、零の対霊センサーやクミノたちが使う機械類に感知される霊的反応は『生きている人間』であり、幽霊や妖怪など『人間以上の霊的存在』ではないと言うのだ。いったいどういうことなのか。
「……そっか、なるほど。これでようやく謎が解けたわ」
背後から感じるおどろおどろしい視線に言いようのない怖気を感じつつも、こちらの作戦に気付かれては水の泡と平静を装うシュラインの脳裏に、あるひとつの可能性が浮かび上がった。
「人間だけど人間じゃない。生きているけど生きていない。つまり、相手は生霊・生魑魅(いきすだま)の類ってことよ」
生霊、または生魑魅。それは、強い怨みや嫉妬の感情によって、身体から抜け出てしまった霊魂を指す言葉。
翻訳業や幽霊作家業などに深く関わる仕事をした事のあるシュラインは、古今様々な書でその存在を読んだ事があった。
「なるほど、それなら突然消えたり現れたり、誰も知らないはずの住所に手紙を届けたり、そんな怪奇現象も辻褄が合いますね」
ここにきて、その正体が徐々に明らかになって来た。だが、それは同時に事件解決の困難さも提示している。
『まぁ、祓うにせよ、説得して身体に戻すにせよ、捕まえなければ話が先に進みません』
「しかし、どうやって捕まえるんだ? 影がない上に生霊だなんて……。無理だ、とは言わんが厄介だぞ」
実体のないものをどうやって捕まえるのか。静などは確かに霊的なものを掴む能力を備えているが、近づいた途端に姿を消してしまうのではそれも用を成さない。だが、
「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、私と零ちゃんでソッチ関係の仕込みもちゃんとしときましたから、ね」
頼んだわよ、零ちゃん。通信機越しに呼びかけるシュラインに、分かりました、と答える零。
どうやら準備万端、抜かりなしといった感じのようだった。

◆ エピローグ 〜 記憶喪失の生霊 〜 ◆
「それじゃあなに? あなた自分が何処の誰か判らないって、そう言うわけ?」
零の操る怨霊の罠によって捕らえられ、草間興信所へと連れて来られてその生霊(?)は、その問いにコクリと首を縦に振った。
そのうえ自分の身体が何処にあるのかも分からないから、戻るに戻れないのだと言う。
「待て。それはどうも合点がいかない。何も覚えていないと言うのなら、なんで草間に執着したりしたんだ?」
厳しい視線を向けるクミノに、その生霊の女が「ひっ」と怯えたような声を漏らす。
気を落ち着かせてゆっくり話を聞いてみると、どうやら確たる理由はなく、夕暮れの街で武彦の姿を見た瞬間『この人なら何とかしてくれる』と強く思ったと言うのだ。
しかし、いったい武彦が何をどうしてくれると言うのか、それが彼女自身にも分からず、とりあえず後を尾けてみたらしい。
ちなみに、剃刀レター等に関しては、彼女は素直に己の非を認めた。
なんでも、思い詰めると、こう、周りが見えなくなってしまう性質らしく、武彦が女の人と一緒にいるのを見ると、何故かは分からないが、ついカッとなってやってしまうらしい。
いったい彼女は何者なのか。無論、生霊であることに間違いはないようだが、いったい誰の生霊なのか、身体はいったい何処にあるのか。
そして、彼女はなぜ武彦に執着し、いったい武彦に何を望んでいるのか。謎の事件を解決して残った更なる謎。
流石は怪奇探偵の異名を持つ草間武彦。一難去ってまた一難。たとえ本人が望まなくとも、怪奇の方から寄ってくる。
「どうやらこの人お困りのようだし、義理と人情と心意気を説くお義兄ちゃんとしては放って置けないわよねェ」
「毎度毎度のタダ働き、ご苦労様です……」
生霊の彼女の言い分を聞くほどに、身体から生気が抜けて項垂れてゆく武彦の様子に、あやこはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、静はそっと掌を合わせる。
「やっぱり……そうなるのか……」
ごつん、と額を机に押し付けて、武彦は涙に頬を濡らしながら、そう呟くのだった。


■□■ 登場人物 ■□■

整理番号:0086
 PC名 :シュライン・エマ
 性別 :女性
 年齢 :26歳
 職業 :翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

整理番号:2778
 PC名 :黒・冥月
 性別 :女性
 年齢 :20歳
 職業 :元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

整理番号:1166
 PC名 :ササキビ・クミノ
 性別 :女性
 年齢 :13歳
 職業 :殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。

整理番号:5566
 PC名 :菊坂・静
 性別 :男性
 年齢 :15歳
 職業 :高校生、「気狂い屋」

整理番号:7061
 PC名 :藤田・あやこ
 性別 :女性
 年齢 :24歳
 職業 :女子大生


■□■ ライターあとがき ■□■

 注:この物語はフィクションであり実在する人物、物品、団体、事件等とは一切関係ありません。

 と、言うワケではじめまして、こんばんわ。或いはおはよう御座います、こんにちわ。
 この度は『嫉妬の炎 Let's Counter Follow』への御参加、誠に有難う御座います。担当ライターのウメと申します。

 草間・武彦を着け回す謎の影の正体は……!?
 そんなドコにでもありそうなフレーズがお似合いの事件でしたが、皆様お楽しみ頂けましたでしょうか?
 幽霊? 人間? 妖怪・夜族? はたまた草間の自作自演?
 皆さん色々と推理していただいたようですが、結果はご覧の通りです。

 実はこのシナリオ、『Follow:尾行、後ろを付いてくる』と『Hollow:空虚なもの、不気味なもの』
 このふたつの言葉を掛けていたんですが、書き終えて流石に無理があったかなと自己反省中です。
 シナリオ全体としては皆様のプレイングのおかげで、書いていて楽しく程よく笑える作品になったと思います。
 結末をご覧頂ければ分かる通り、このシナリオまだ少しだけ続きます。
 書きたい事が多すぎて、一本のシナリオにまとめられない自身の技量のなさを悔やみながら、
 せこせこと次のオープニング作成中ですので、もう暫くお付き合い頂ければ幸いです。

 それでは、本日はこの辺で。
 また近いうちにお会いできることを願って、有難う御座いました。