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<東京怪談・PCゲームノベル>


一日限りの異邦人 〜 爆発

〜 砂漠での出会い 〜

「まあ上出来、というところね」
 目の前に広がる一面の砂漠を眺めながら、 藤田あやこ(ふじた・あやこ)は満足そうに頷いた。
 野球場一つ分ほどの広さのその砂漠は、ちょうどその部分だけがどこか別の場所から持ってこられたかのように、周囲との調和を全く欠いている。
 それもそのはず、この「プチ東京砂漠」は、次元の歪みを利用して本当の砂漠を切り取って持ってきたというシロモノなのである。
 これも最新科学の賜物であり、あやこ曰く「ご家庭で手軽に遭難が楽しめるお座敷砂漠」なのだが、それにどれほどの需要があるのかは定かでない。
 とはいえ、熱帯雨林やら南の海やらを持ってくるのはまだまだ支障が大きいことを考えると、とりあえず持ってきてもさほど影響が出なさそうなのは砂漠くらいであることもまた事実。
「とりあえず基礎となる技術のテストにはこれで十分であろう」と考えて、あやこはさっそくその砂漠の中に足を踏み入れた。

 砂の感触、乾いた空気、そして照りつける太陽。
 どれをとっても、完璧な砂漠である。
「我ながら完璧ね」
 いろいろな感触を確認しながらさらに歩みを進めていくと、ちょうどその砂漠の真ん中あたりに人影があるのに気がついた。
 もしかすると、この砂漠を切り取った際に巻き込んでしまったのだろうか?
 だとしたら、どうにかしなくてはならない。
 そう考えて、あやこはその人影の方へと向かうことにした。

 ところが。
 その人物に近づき、徐々にその姿がハッキリと見えてくるにつれて、あやこの「目的」は徐々に違う方向へとかわっていった。
 その理由は、大きく分ければ二つほどある。
 一つは、その人物が砂漠のど真ん中には似つかわしくないような身なりをしていたこと。
 そしてもう一つは、彼が――その人物は、少なくとも外見から判断する限り男性のようである――あやこの好みのタイプだったことである。

 歳は、おそらく二十代の半ばほど。
 その整った顔立ちと引き締まった長身は、まるで海外の映画俳優のようでさえある。

 砂漠にいた人間のようには思えないが、かといって学内の人間にも――いや、ひょっとしたらあやこが知らないだけで、最近来た留学生か何かなのかもしれない。
 そう考えて、あやこはさっそく彼に声をかけてみることにした。
「どうしたの? こんなところで」
 水着の胸元を少し強調するようにしながら、男の隣に立つ。
 しかし、返ってきたのはどこか微妙にずれた答え。
「いや……何もないところだな、と思ってね」

 その不思議な応答の理由は、その後すぐにわかった。
「私は藤田あやこっていうんだけど、あなたは?」
「僕は……『旅人』だから、名前は持っていないんだ」

「旅人」の噂は、あやこも聞いたことがある。
 彼がこの世界にとどまれるのは、長くても僅か一日。
 だからこそ、彼は突然こんな場所に放り出されたことに動揺もせず――ただ、こんな何もない場所に出たことを悲しんでいたのだろう。

 ともあれ、それならこんな砂漠のど真ん中より、学内に戻り、そしてその外に出れば面白い場所はいくらでもある。
「それなら、こんな何もないところよりもっと面白いところがあるわ。私と一緒に来て」
 そう言いながら、さりげなく男の手を取って砂漠の外へと向かうあやこ。

 ところが。
 そんな二人の頭上を、一瞬何やら稲妻のようなものが走った。
「……今のは?」
「あ……なんだか嫌な予感」
 不思議そうな顔をする「旅人」に、あやこはぽつりと一言そう答え。

 ……「出口」が別のところにつながっていることに気づいたのは、その直後のことだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 天災アーティスト 〜

「参ったわね……こんな時に限って誤作動?」
 予期せぬ事態に、あやこは頭を抱えた。
 どうやら、装置に何らかのトラブルがあり、全然違うところとつながったらしい。
「どうかしたんですか?」
「ん、ちょっとね」

 とりあえず、ここがどこか把握できないことには手の打ちようもない。
 そんなことを考えていると、どこかから誰かの言い争う声が聞こえてきた。

「比嘉先生、またあなたの仕業ですか!」
「いやはや面目ない。ちょっと珍しい蝶がいたもので」

 言い争っていたのは――というより、正確には女の方が一方的に文句を言っているのを、男が受け流しているだけのようだが――一組の男女だった。
 女の方は、おそらくあやこよりやや年上。
 白衣を着ているところを見ると、女医か、あるいは研究者か、といったところだろう。
 そしてもう一人、比嘉と呼ばれた男の方は、ぱっと見は冴えない三十男といったところである。
 しかし、その手に持ったスケッチブックと、比嘉という名前には、あやこは微かに聞き覚えがあった。

「その絵のどこが蝶ですか!? どう見たって混沌そのものじゃないですか!」
「違いますよ最上先生。見たままを描くだけが絵ではありません。これが芸術というものです」

 相変わらず不毛な会話を続ける二人に、意を決して声をかけてみる。

「あの……ひょっとして、東郷大学の比嘉惣太郎さん、ですか?」
「ええ、確かに私が比嘉惣太郎ですが」

 幸か不幸か、相手はどうやらあやこの思った通りの人物であったらしい。

 奇人変人あふれる東郷大学。
 その中でも、絵筆一本で次元をざくざく切り裂く混沌のアーティストにして美術教師・比嘉惣太郎の名はそれなりに有名である。
 二人の会話の内容を聞く限りでは、この二人も彼の絵のせいで生じた次元の歪みを通ってここに吹っ飛んできた可能性が高い。

 あやこが二人にことの次第を話し、協力を要請すると、二人は快くそれを引き受けてくれた。
 もっとも、二人としても帰る方法を探しているところだったので、渡りに船の申し出だったとも言えるのだが。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 芸術かどうかは不明だが大爆発 〜

「それにしても、ここは一体どこなんですか?」
「さあ……我々にもさっぱりです。もう少し歩いてみましょう」

 そんな会話をしながら、四人がとりあえずまっすぐ歩いていくと。
 やがて、前方に何やら大量の飛行機などが見えてきた。

「行ってみるか」

 先ほど「最上先生」と呼ばれていた女性を先頭に――最上京佳という名で、東郷大学の保険医らしい――その飛行機群の方に近づいていく一同。

 そこで四人が見たのは、大量の旧型の軍用機だった。

「これは……」
 それを見て、あやこはここがどこであるかのおおよその見当がついた。
 アメリカはアリゾナ州にあるデビスモンサン空軍基地。
 第一線を退いた旧型の軍用機が、モスボール状態で保管されている場所である。
 ちなみに、モスボール状態というのは一応は再利用を想定して保管しているということであるが、実際に「軍用機として」再配備される例は少なく、大抵はスクラップになるか、実験用の標的機にされるか、といったところである。
 故に、ここを「軍用機の墓場」というのも、当たらずといえども遠からず、といったところであろう。

 あやこのその説明に、比嘉は興味深げに何度か頷いた。
「なるほど、それでこのような処理が施されているんですね。
 なかなか面白いですし、何枚かスケッチしておきましょうか」
「やめてください比嘉先生。これ以上事態をややこしくしないで下さい」
 早速絵筆をとろうとする比嘉を、京佳が慌てて止める。
 そんな二人の会話から、あやこはあることを考えついた。





「……ということです」

 あやこの考えた案は、一言で言うと「ショック療法」である。
 あやこが対戦車ライフルで不要な軍用機を撃ち、その様子を比嘉が描く。
 これによって、再び次元の歪みを作り出せば、あるいは元の場所に帰れるのではなかろうか、という、ある意味とんでもない暴論である。

「唯一の問題点は、これだけ密集しておかれている軍用機をヘタに撃つと、誘爆しかねないことなのですが……」
 あやこが最後にそうつけ足すと、京佳がこともなげにこう言った。
「それなら、私が上空に投げたのを撃てばいいだろう」
 そして、手近にあった軍用機を一機、片手で持ち上げてみせる。

 はっきり言って、人間業ではない。
 人間業ではないが――実際目の前で起こったことは信じないわけにはいかないし、何よりこれは非常にありがたい誤算だ。

「では、それでお願いします。近すぎても遠すぎても厄介なので、だいたいあの上空辺りに投げて下さい」
「わかった。やってみよう」

 京佳の協力を取りつけて、いよいよ三人は作戦を実行に移した。

 転がっている軍用機や戦車などを、京佳が次々と指定ポイント目がけて投げる。
 それを片っ端からあやこが撃墜し、その爆発四散する様子を、比嘉が独特の画風で描き出す。

 そんなことを、どれくらい続けただろうか?

 不意に、辺りに稲妻が走り、何かが砕ける音が聞こえた。
 そちらに目をやると、その部分だけ「景色」が砕け散り、何やら怪しげな空間が口を開けている。

「……これで本当に帰れるのか?」
 ふと我に返った京佳がそんなことを口にするが、ここまで来て「やっぱり見なかったことに」というわけにもいくまい。
「みんな早く! 扉が閉まる前に!」
 あやこの言葉に、四人は一斉にその「次元の扉」へと飛び込んだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 そして 〜

「……ここは?」
 少し予想とは違った景色に、あやこは首をひねった。
 そんな彼女に、比嘉が何やら納得したように言う。
「どうやら、うちの大学に出たようですね」
 ということは、ここは東郷大学のキャンパスのどこかだろう。
「では、どうにか戻ってこられた、ということか」
 ほっと一息つく京佳と、その横にきょとんとした表情で佇む「旅人」の男。
 その男の姿が少しずつ消えかかっていることに気づいて、あやこは息を呑んだ。

「時間が来たのかな……でも、皆さんのおかげで楽しかった。ありがとう」
 自分の身に起こっていることに気づいて、微かな笑みを浮かべる男。
 あやこはそんな彼に駆け寄り、そして――。





 部屋に帰り着いたあやこは、真っ先に手にしていた荷物を開いた。
 中にあったのは――水着姿のあやこと、その隣で微笑むあの「旅人」の男。
 とっさの思いつきで比嘉に描いてもらったその絵は、まるで生きているかのようで。
「元彼……と、呼んでもいいのかな」
 その絵をそっと飾って、あやこは小さく微笑んだのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 おまけ 〜

「それにしても、比嘉先生」
「何です?」
「彼女に渡した絵、ずいぶんと上手に描けていましたね。
 とても普段のわけのわからない絵と同一人物が描いたものとは思えません」
「私も昔はああいった絵を描いていましたから。
 基礎ができているから『自己流』もできる。そういうものでしょう」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24 / 女子大生

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 そして、ノベルの方大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

 さて、あやこさん及びその他の面々の描写の方ですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 どうも東郷の面々が絡むと(そのままではさほど特殊な能力を持たない)「旅人」のキャラが薄くなってしまうのですが、それはまあある意味致し方のないことのような気もします。

 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。