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<東京怪談・PCゲームノベル>


東京魔殲陣 / 模倣魔

◆ 模倣魔 ◆
それは、なんとも形容し難い、一種異様とも言うべき雰囲気だった。
「……なんだ、おまえは」
長刀子を構えた強面の男が、いま己の前に立つ面妖極まる一人の女に向かって、そう呟く。
「んっふっふ……。なんだ、とはご挨拶ね。トーゼン、あなたを倒しに来たのよッ!」
しかし、ずびしぃ、と音がしそうなほど勢いよく人差し指を突きつけて言い放つ女は、男の戸惑いなどまったく意に介さない。
いや、単純に見えていないだけかもしれないが……。
「おまえ、自分がなにを言っているのか、分かっているのか?」
あなたを倒す。女は確かにそう言った。
実を言うと、この男は人間ではない。外見は人間とまったく区別がつかないが、その本質は狂信的なテロ組織『虚無の境界』によって生み出された兵鬼。他者の霊力を糧にして、その姿や形、思考パターンや能力を模倣する、通称『模倣魔』と呼ばれる兵鬼。
そして今、彼が模倣している存在は、『虚無の境界』とは敵対関係にある組織『IO2』のエージェント。トロールの遺伝子を有し、尋常ならざる再生力と怪力を宿した存在。有体に言うならバケモノ、である。
「分かってないワケないでしょ。あなたは今日、わたしのこのスーパーな装備の前に比較的アッサリと敗れ去るのよ!」
そう言って、女はまるでモデルのようにバシッとポーズを決めて、「さぁ見なさい!」とばかりに己の衣装を見せ付ける。
だが、その身に纏った衣装こそが、この場に立ち込める異様な雰囲気の、男が向ける不審の眼差しの元凶なのだと、果たして女は気付いているのだろうか。
対弾・防弾性能に特化したスクール水着に、縁に特殊な加工を施し異常なまでに鋭い斬撃性能を付与したウサ耳ヘアバンド。特殊鋼を繊維状に加工し編んだ網タイツは並みの砲弾など寄せ付けもしない。
その格好は、傍から見ればバニーガールそのものである。
戦場に何故バニーガールがいるのか。百歩譲ってそれには眼を瞑ったとしよう。だが、女の衣装はそんなものではない。
バニーガール装束の上には新陳代謝を活性化させることにより瞬間的な治癒能力を付与する特殊ナース服。スカートは、裾に刃を仕込んだセーラー調の大きなティアードスカート。それらは、見ようによってはメイド服っぽく見えなくもない。
「…………はぁ」
その姿を見た男は、平時であれば決して在り得ないほど深い深い溜息を吐く。
スクール水着にバニーガール。ナース服にセーラー服にメイド服。
昨今は萌えなどとも称される、所謂フェティズムを刺激するような衣装を集めてみました的なそれらの組み合わせは、ハッキリ言ってちぐはぐも良い所。辛口批評で知られる某セクシャル・マイノリティの評論家がこの姿を見たらいったい何と言うだろうか。
だが、外見などは彼女にとってどうでも良い。問題はその性能だ。
無論、作成の際、多分に趣味的要素をつぎ込んだ為にこのようなスタイルになった訳だが、個々の衣装が有するポテンシャルは、かなりのものだという自負がある。
「な、なによ、その溜息は! もしかしなくても、いま私のこと馬鹿にしたでしょ!」
故に、その男の態度は、衣装の作成者である彼女、藤田・あやこにとって不愉快極まるものであった。
……こうなったら、目に物見せてやる。
やる気なさげに長刀子を構える男を、あやこはキッと睨みつけ、太腿部に括り付けたガンベルトから愛用のナイフを抜き、構えた。
こうして、遂に戦いの幕は……、ヤクザvsウサ耳セーラーメイドという、世にも珍妙な戦いの幕は、切って落とされたのだった。

◆ 異常再生 ◆
「……セイッ!」
目にも留まらぬ速さで繰り出されるあやこのナイフ捌が、男の身体を確と捉える。
腕、脇腹、首筋。この三点を狙った刺突と斬撃が、男の身体に赤い点を滲ませる。
「はっ、どうした? そんなものか?」
だけど、それだけ。
男はそのナイフによって穿たれた傷に痛みを感じるどころか気にすることさえない。何故なら、その傷を自覚した次の瞬間に、その傷はトロールの異常再生力によって塞がれ跡形もなく消えてしまうのだから。
(なによそれ? あんなの反則じゃない!)
特殊服によって与えられた機動力を以って男の攻撃を躱しながら、あやこは心の内でそう愚痴る。
戦端を開いてからおよそ10分。
あやこが男の身体に打ち込んだ攻撃の数はゆうに百を超える。だが、男の身体には傷跡ひとつ残っていない。
ナイフによる刺突・斬撃は言うに及ばず。スカートの仕込み刃も、そこから発生する鎌鼬も、人間程度なら骨ごと斬り飛ばせる切れ味のウサ耳も、あやこが用意した手段は悉く、男の身体に傷を残すことは出来なかった。
一撃として致命打にならない、のではない。一撃として、ダメージにすらならないのだ。
ウサ耳で左腕を斬り飛ばしてやったにも関わらず、一秒後にはその腕が再生しているのだから、もはや呆れる他ない。
マトモにやりあっても、あやこに勝ちの目はない。
(それなら、こっちだって……やらせてもらうわよ)
定法で勝てない相手ならば致し方なし。あやこは右手に持ったナイフで男を牽制しながら、左手でポケットに忍ばせた小さなボールをそっと手の内に握る。
それは目標物に投げつけることで超高温を発生するギミック・ボールと、拘束用の折りたたみ式ポンポン。
事前に得た情報に拠れば、男の再生能力は傷の種類は問わず、当然火傷にも有効とのコト。だが、その装備した物品はそうはいかないハズ。
隙を見て、と言うか、あやこの攻撃が自身に傷を負わせられなかったことで、完全に油断している男の動きをポンポンで封じ、超高温ボールで男の武器を破壊する。
現状であやこが勝利するのは難しいかもしれないが、男の武器を破壊すれば男があやこに勝利するのもまた難しくなる。
敵の攻め手を奪い、そこに勝機を衝く。それが、あやこの作戦だった。

◆ 誤算 ◆
「それじゃあ、いくわよ!」
準備を整え、頭の中で行動予測を描き、あやこは行動を開始する。
「なんだ、お前の攻撃じゃあ俺に傷ひとつつけられないってのが、まだわからんのか?」
それに対して男は完全に油断した風。手にした刀をだらりと提げ持ち、ゆっくりとあやこに向かって歩を進める。
しかし、それこそが、自身の異常再生能力に慢心し、およそ『防御』と言う考えを持たないその思考パターンこそが、あやこにとって唯一の勝機なのだ。
全身の特殊服に秘められた運動能力補助機能を最大限に加速させ、あやこは縦横無尽に戦場を駆ける。
「ほぅ……」
その様に、男もようやく長刀子を構える。だが、相変わらずその構えは攻撃一辺倒。防御をする気はまったく見られない。
(その油断が……命取り!)
念には念を、フェイントにフェイントを重ね、男の死角からポンポンを投げつける。
―― ぽむっ!
なんとも可愛らしい音を立て男の眼前で弾けたそれは、ロープ状に姿を変え男の身体に雁字搦めに絡みつき、その動きを封じる。
「ぬっ!?」
男が唸り、己が身を縛るそれを引き千切ろうと試みるが、あやこじまんの特殊軍用素材で出来たそれは、そう簡単には千切れない。
「これでも、喰らえッ!」
完全に動きを封じられた男に向かって投げつけられる超高温ボール。あやこが狙うは男の右手、その手に持った長刀子。
―― ごおおおおぅ……ッ!
結果は、見事命中。炸裂点の景色を歪ませるほどの超高熱が男の右手、その長刀子を襲う。
「なん、だと?」
右手に発生した高熱が男の肌と肉を灼く。だが、それ以上に男を驚愕させたのは、まるで真夏のチョコレートか何かのようにぐにゃりと曲がる長刀子。
変形したポンポンの戒めから脱したときには、それは既に修復不可能なほどに曲がり、遂にはその熱量負荷に耐え切れず、刀身の中ほどでぽっきりと折れてしまった。
「なるほど……な」
その意を果たし、まさに「してやったり」と言った感じの表情で男を見るあやこと、己が右手の折れた長刀子を交互に見やり、男はそう呟いた。
このような状態になってしまっては、どんな名刀であろうとも人を斬ることはおろか、大根ひとつ切ることもかなわないだろう。
「……だが、まだまだ甘い」
それが、普通の武器であったなら。

◆ 決着 ◆
「さて、茶番はこれで終わりだ」
頭上から聞こえる男の声に、あやこは信じられないと言った表情でその顔を見上げる。
「…………うそ?」
果たして、そこにあったのは、先ほどあやこが破壊したハズの、確かに破壊してやったハズの、切れ味鋭い男の長刀子。
それが、まったく何事もなかったかのように、元の姿のままそこに在った。
「そんなナリじゃあ、もう戦えんだろう?」

あやこの誤算は、男の武器が現世のものであると思った点、即ち、破壊可能なものであると考えたことである。
男の持つそれは、オリジナルのそれとは多分に異なる。霊鬼兵が持つ基本能力のひとつ、『周囲の怨霊を武器化する』という能力を用いて、怨霊を長刀子の容に形成したもの。
つまり、物理的な方法で破壊することは難しく、仮に破壊されたとしても怨霊を集めれば即座に修復・再製作が可能なのだ。

ボロボロに切り裂かれその機能の大半を失った特殊服の残骸の中で、ぺたりと腰を落とすあやこを見下ろしながら、男は長刀子を鞘に納め、そしてそのままあやこに背を向けた。
まるで、戦えなくなった者に、ただの人間には興味はない、そう言わんばかりの態度。
特殊服が機能停止し、まさに一般人と変わらぬ身体能力・戦闘能力に戻ってしまったあやこは、ただそれを、呆然と見送るしかなかった。


■□■ 登場人物 ■□■

整理番号:7061
 PC名 :藤田・あやこ
 性別 :女性
 年齢 :24歳
 職業 :女子大生

■□■ ライターあとがき ■□■

 藤田さま、おひさしぶりです、こんばんわ。
 この度は、PCゲームノベル『東京魔殲陣 / 模倣魔』へのご参加、誠に有難うございます。担当ライターのウメと申します。

 スーパー素材&機能を備えた色々な特殊服を用意しての参戦でしたが、結果はご覧の通りとなりました。
 今回の敗因を挙げるとすると、超再生力を持つ相手への決定打と対応策の不足、と言ったところでしょうか。
 全開の相手となった餓鬼程度なら、それほど強力な殲滅力は必要としませんが、今回は相手が相手です。
 難易度も★4と言うことで、戦闘判定も若干厳しめになっております。
 今回は残念な結果に終わってしまいましたが、機会があればリベンジなど試してみてください。

 それでは、本日はこの辺で。
 また何時の日かお会いできることを願って、有難う御座いました。