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<東京怪談・PCゲームノベル>


子供なお話2


「何時になれば戻れることやら……。」
 ふう、とため息をついている大鎌の・翁。
 身なりは、ロープライスブランドのTシャツにデニム半パンツ。スニーカーという出で立ちだった。口さえ違っていれば五歳児そのままである。
 長谷神社の縁側、そこで小さな足をぱたぱたと振りながら、考えていた。
 彼はいつの間にか5歳児ぐらいに小さくなり、特別な力すら発動出来なくなった。過度の疲労なのかそれとも何かは全くわからない。自分の“能力”が枯渇しているのか? 色々考えて、早数週間。結局元に戻らず、長谷神社に厄介になっていた。
 それを見に来ていた、何名かは爆笑する者もいれば、手がかりを探しに手伝うという心優しい者までと様々だった。翁にとっては、それはプライドを傷つけられたかもしれない。

 そして、翁は別のことを決意した。
「このまま、ただ飯を食らっているわけにはいかん。儂にも何か手伝わせてくれ。」
 夕食時。
 翁はそう言った。
 長谷親子がお互い翁を見て「?」の様な顔をする。
「いや、いくら何でも想念集合の超越存在に、そんな雑用はさせるわけには行かぬのう。翁様はゆっくりすればいいと思うのじゃが。」
 長谷平八郎は、困ったかをするわけで。
「えらいねー。翁ちゃんにはできるのかなー? お手伝い。」
 長谷茜は、翁を子供扱いしている。
「な! 出来るぞ! こんな出で立ちになろうとも!」
「こら、茜! 客人を!」
「えー、手伝うって言っているなら、いいじゃない。ねー翁ちゃん。」
 にやりと笑う、茜に平八郎は、むっとしていた。
 そこで、しばらく静観していた、静香がふわふわ飛んできて、平八郎の隣に座り、
「翁様の意志を優先する方がよいかと思われます。平八郎。」
 と、家族会議(?)で、決定されたのであった。
 ――昨今の父親の立場って弱いかのう?


 と、とある彼の一日を見てみる。
 早朝5時半。
 板張りの廊下がキシギシとうるさい。それでも翁は起きなかった。
 長谷家の朝は早いのである。
 神社の朝の瞑想もあるが、朝食の支度に弁当の支度もあるのだ。
「翁様、朝でございます。」
「う、もう、そんな。って、まだ5時……ねかせて……。」
「いけません。朝の瞑想をすませないと……。」
「う、儂は……。」
「ダメ!」
 布団を引っぺがすは、静香ではなく、すでに巫女服の長谷茜だった。
 軽い翁は、布団を握っていたために、そのまま布団からずり落ちる。
「な、なんじゃぁ!」
「はい! 怠けてたらご飯抜き! 早く起きて顔を洗って! 瞑想時間!」
「うぅ。わかった。」
 翁は、まだ半分寝ぼけており、とぼとぼと服を着替えて、洗面所に向かうが、眠すぎるために柱におでこをぶつけて、その場でうずくまった。これで完全に目が覚めた。
 茜がわははと大声で笑う。
「うう。わらうなぁ!」
 恥ずかしさのあまりに大声で怒鳴る翁であったが、力関係では茜の方が上になっていたので、刃向かっても止められた。
 瞑想も済み、朝食も食べて、しばらくは掃除にいそしむ。
 翁は小さな宮司姿になって、竹箒で枯れ葉を集めている。そのそばには、静香が宙に浮いている。
「ここの神社の広さはどれぐらいなのじゃ?」
「どれぐらいといっても、狭いと思います。あやかし荘に比べれば。」
「もしかして、この広大な神社を茜が一人でやっているとか?」
「神社と家自体、それほど敷地はないです。しかし、林などはたくさんありますね。」
「未開のようなものか?」
「そう言うことではありません。林などの人が住んでいない地域は業者様にお願いして手入れをしてもらっております。“わたくし”以外ですが。」
「そうか。」
 と、長谷神社の大きさを何となくだが知った。
 五歳児の姿に慣れはしたものの、さすがに箒をうごかすのは重労働。すぐにへばる。
「む、こまったものだ。」
「あ、翁ちゃんはこれで良いよ。ありがと。」
「こら! アタマをなでるな!」
 巫女服姿の茜に頭をなでられ、じたばたと抵抗する翁であった。
 そうでなくても、参拝客から子供扱いされ、実際の歳は何世紀も超える存在。何となくだが、プライドが傷つけられる。
「おりこうだね〜。」
 一応、このしばらくは、翁のことは長谷家の遠縁という方向でやりとりが出来ているが、事情を理解していない、この翁の宿主の事を知っている人からすれば……。
「え?あっちと遠縁だった?」
 言うことになり長谷茜があたふたと。
「他人のそら似だよ! うん。そう。」
 とか、言いくるめておいた。
「噂が広まるのも時間の問題じゃな。」
「たぶんね。」
 宿主にだけには“翁”の存在を知られるわけにはいかないのである。
 信用できる人には、一応これは云々と、正直に話そうと思う。影斬あたりはすぐに理解できるわけなのだから(というか嘘はつけないわけで)。

 平穏ではあるが、翁にとって掃除は辛く、汗のでる仕事であった。
 夕食をすませ、茜がわきわきと、手を動かし、翁を捕まえる。
「いやじゃ! 2〜3日はいらんでも!」
「なーにいってるの! 翁ちゃん! 汗くさいと静香に嫌われるぞ!」
「それでもいやーじゃー!」
 これが毎日続いていることなので、長谷家の母屋はうるさい。
「翁様、ここは穏便にはいってくれんか? 心身共にきれいになる。ことも必要なのでの。」
 とか、平八郎も言い出す。
「だーかーらー!」
「だだっ子はいけませんよ。」
 と、今度は静香。
 結局、静香が彼のお守りをして入る日々が続く。風呂にいたっては特にそうだ。
 静香の非実体と顕現のエーテル状態。これにじたばたもがいてもかなわない。
「おとなしくしてください。服が破けます。」
「服ぐらい自分で脱げる!」
 脱衣室でのやりとりは、どこにでもある親子のような風景だった。
「わたくしの服が濡れては行かないので」
 と、自分の服を脱ぐ静香。
 すでに、女性の裸には免疫がついている翁だが、こうも堂々と脱いでいる、恥ずかしい気もする。
「では、入りましょう。お背中流しますね。」
「……わかった。」
 結局渋々と、静香に従う翁であった。
「ふと思ったが。」
「なんでしょうか?」
「非実体なのだから脱がなくてもいいのではないのか?」
 何となく、思った疑問を投げかける。
「それは、乙女の秘密でなんとかなりませんか?」
 クスリと笑う静香。
「おいおい、その秘密ってなんぞ…… うわっぷ!」
 翁は頭から思いっきりシャワーを浴びせられ、わしゃわしゃと頭を洗われる。
 風呂嫌いの理由は、この辺にあるのかもしれない。とにかく風呂というのは自分の体が束縛されるのがいやかもしれないのだろう……。


 長谷親子はというと、すでに入っていたので、今にてTVをみてまんじゅうを食べていた。
「少し変わった日常になると思いきや。あまり変わってないね。」
「そう劇的な変化はなくて当たり前だろうに。」
 このあとは、家族団らんのように、TVを見ているか、トランプを楽しみ、就寝時間は平時だと11時ぐらいになる。行事の打ち合わせなどあがればもっと遅くなるし、お払い仕事が舞い込めば、そのうちあわせか行動で、出かけるのだが。今のところ行事もないし、影斬化した織田義明の影響かこれといって大きな事件はないのだ。
 色々騒いで疲れ、眠っている翁を、茜が抱っこして、翁の部屋に運ぶ。
「結局、体力そのものは、子供になっているのね〜。」
 布団に寝かして、茜もあくびをし、自分の部屋に戻っていった。
「静香〜おやすみー。」
「はい、お休みなさいませ。」

 翁は温かい感覚を覚える。
 静香が彼を抱きしめ、何か訳せない言語の歌を歌っているのだ。リズム的には、子守歌。母のぬくもり。
 夢の中で翁は何を見ているか。
 ――もし、自分が呪われた存在でなければ……、人であるなら。
 ――こういう、やすらぎとぬくもりを感じていたかった。
 翁は、また想念の渦に、落ちていく。
 次の、朝まで。


 そして、まだ、彼の体は元に戻らない。
 それでも時間は流れていった。


END

■登場人物■
【6877 大鎌の・翁 999 男 世界樹の意識】

【NPC 長谷・茜】
【NPC 静香】
【NPC 長谷・平八郎】
【影斬やら(名前だけでてきた)】

■ライター通信■
こんばんは、滝照直樹です。
 一日は平和でした。子供としての翁の一日はこんな感じで描写してみました。
 いかがでしたでしょうか?
 なにか、まだ続くそうですがどうなるのでしょう?

 では、またどこかで。

滝照直樹
20070611