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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜First〜】




 世界が朱色に染まる……黄昏時。
 黒と檜皮色の入り混じった髪と銀灰色の瞳を持つ少女――那智三織は、あるものを探して人気のない路地を彷徨っていた。
(それほど時間は経っていないはずなのだが…)
 心中で呟く。
 三織が探しているのはネックレスだった。最後にそれの存在を確認してから失くしたと気づくまでの間はあまりなかったから、その間に通った道を逆戻りして探しているのだが。
(誰かに拾われてしまったのだろうか)
 そう思いながらふと視線を遣った先に、見慣れた銀の輝きを見つける。
(あった)
 ほっと息を吐き、そちらへと足を向ける三織。
 …と。
 誰かがネックレスを拾い上げた。それを目にして、三織は咄嗟に声をあげる。
「すいません、それ私のなんです!」
 ネックレスを手にした人物――夕日に映える見事な金髪の青年は、軽く目を見開いて駆け寄る三織を見た。
 しかしその少しばかり驚いた表情は、すぐに不敵な笑みに摩り替えられる。
「これ?」
 そう言ってネックレスを掲げる。三織が頷くと、すっと目を細めた。
「……本当に?」
「え、」
 予想外の言葉に焦る。
 所有者ではないと思われたのか。しかしどうすれば信じてもらえるのかが三織にはわからない。当たり前だが名前などを書いているわけが無い。
「っく…ははっ」
 必死で考えを巡らせる三織をじっと見ていた青年は、不意に口元に手を当てて笑い出した。
 一体何なんだと見上げた視線が、深い碧の瞳とぶつかる。
 笑い声はおさめたが、未だ表情は笑ったままの青年が口を開いた。
「ごめん、冗談。ちょっとからかうだけのつもりだったんだけど、そんな顔すると思わなくて」
(なっ……)
 自分は必死だったのに、「冗談」などと言われて一瞬頭に血がのぼる。
 この男、性質が悪い。一見人の好い笑みを浮かべてはいるが、絶対に性格悪い。
 ……ついでに、『そんな顔』とは一体どんな顔だろう。笑われるような顔だったと言うのか。だとしたらとんでもなく失礼だ。
 そんなことを考えている三織を余所に、青年は空に視線を遣り――沈みゆく夕日を見て、呟いた。
 浮かぶ笑みは、どこか空虚で――。
「ああ、時間か」
(時間?)
 声無く復唱する。太陽を見て時間の判断とは、一体何時の人間だ。
「何…」
 何が、と訊こうとした瞬間、信じられないことが起こった。
 青年の輪郭が、揺らぐ。色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
 そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
 揺らいだ輪郭は、先ほどよりも柔らかなフォルムで、しかしはっきりと。
 褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
 そして先ほどまで青年が立っていたそこには――…1人の女性。
 雪のように白い肌、肩を滑る白銀の髪。
 穏やかに細められた瞳は、紅玉の赤。
 年の頃は三織と同じか少し上くらいに見える。ただその落ち着いた雰囲気が、判断を難しくしている。
 どこか儚げなその女性は、三織に目を留めると、苦笑した。
「驚かせてしまってごめんなさい。大丈夫?」
 訊ねる穏やかな声に、はっと我に返る。
「ちょっと驚きましたけど…大丈夫、です」
 驚いたことは確かだが、自分の師だって『過去』の人間だ。ちょっと探せば異能者がごろごろしているこの都市、姿が変わる者が居たっておかしくは無い。
「そう。…ルツが――ああ、さっきまでいた金髪の人のことだけど――悪ふざけをしたようで、代わりに謝っておくわ。ごめんなさい。何て言うか、他人の反応を見るのが好きらしいの。悪気はなかったと思うから、許してあげて」
 言って、手にしていたネックレスを三織に差し出す。半ば反射的に出した手のひらに、丁寧にそれが降ろされた。
「朱星…よかった」
 手元に戻ってきた安心感から小さく呟けば、女性は柔らかに笑む。
「それがその子の名前なの。いい名前ね」
 静かに紡がれた言葉に三織は頷く。
「もう落としちゃ駄目よ。その子が寂しがるから……」
 瞬間、血色の瞳が翳りを帯びた気がしたが、それを確かめる前に女性は踵を返した。
「あ、あの!」
 言葉が口をついて出た。
 先ほどの青年――ルツ、と言うらしいが――は性格が悪そうだったが、この女性はそうでもないようだし、ネックレスも返してくれた。このまま別れるのはなんだか……勿体無い、気がする。
「次、会ったらお礼させてください!」
 勢いのまま口にした言葉に、女性は振り返ることなくただ緩く手を振って応えた。
 それが了承の証だと――何故かわかった。
 スッと、見えていた後姿が道の途中で掻き消える。
 それを見届けて、三織もまた帰路に着く。
(どんなお礼ならば喜んでくれるだろうか)
 今日初めて会ったばかり…しかもたった数分の邂逅だったというのに、不思議と心が弾む。
 そんな自分に少しばかり戸惑いつつ、三織は家路へと向かうのだった。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4315/那智・三織(なち・みおり)/女性/18歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、那智様。ライターの遊月と申します。
 「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございました。

 ルツと謎のアルビノ女性(名前が…)、如何でしたでしょうか。
 夜メインなのに会話少ない上名前明かしてないという体たらく。
 ルツは『性格悪い』認定を受けてしまいました。人間観察とか好きそうです。
 夜NPCはちょっとミステリアスっぽく。これから少しずつくだけていくかと。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。